共変微分の交換
突然だが次のような計算をしてみよう。
これは
を
で共変微分してから
で共変微分するのと、
その逆の順で計算するのとで、違いが出るかどうかを
調べようというのである。
まずは第 1 項から計算しよう。
第 2 項は後から
と
を入れ替えればいい。
これの
と
を入れ替えて差を取れば、
第 1 項、それと 2 行目、3 行目が消える。
結果をまとめれば、
であり、これが 0 にならないという事は、
つまり共変微分というのは演算の順序によって差が出るということである。
これは普通の微分とは大きな違いである。
しかしよく見るとこの右辺にはリーマン曲率テンソルと同じ形が含まれるではないか!
すなわち、
ということだ。
リーマンテンソルの定義としてこのようなやり方を採用する事も出来るのである。
この方がすっきりしている。
しかし「これがリーマンテンソルの定義だ」といきなり言われても
なぜこんなものを考える必要があるのか、と騙されたような気分になる人もいるだろう。
それでイメージが掴み易い説明を予めしておいたのである。
ところで、この式の左辺は 3 階の共変テンソルである。
一方、右辺の
は共変ベクトルだったのであり、
このことからリーマンテンソルは確かにテンソルであると言えることになる。
リーマンテンソルの対称性
上で出てきたリーマンテンソルは混合テンソルなので、対称性が調べにくい。
そこで、
を作用させることで、
純粋な「4 階の共変テンソル」に変換してみることにしよう。
このように変換したところで見通しが良くなるだけのことであり、自由度は変わらない。
これは例えば 3 次元の共変ベクトルを反変ベクトルに変換しても
独立な成分の数は 3 つのままであるのと同じ話で、
新たな情報が加わるわけではないということだ。
さて定義から考えて、次のような関係があることが分かる。
要するに、前 2 つの添え字だけ、あるいは後ろ 2 つの添え字だけを入れ替えると符号が変わり、
前 2 つのペアと後ろ 2 つのペアをごそっと入れ替えたものは同じ値になるということだ。
定義式を眺めているだけでこの関係を見出すのはなかなか難しいだろう。
実はこれを導くためのうまい方法はあるのだが、やはり少々面倒であるから、
少し後の別の記事の中で紹介するつもりである。
今回の記事の目的はリーマンテンソルを概観することにあるので、
あまり細かな事で横道に逸れたくは無い。
4 次元の場合、リーマンテンソルの添え字の組み合わせは 256 通りあることになるが、
そのほとんどは同じ数値か符号が違うだけだという事が上の関係式から分かる。
例えば添え字を入れ替えると符号が変わる場合があるが、
こういうときに添え字を入れ替えた結果が自分自身になる場合などは、
許される数値としては 0 しかありえない。
こんな具合に 0 となってしまう成分もかなり多いということだ。
私はこういうのを数え上げてすっきりまとめるのが好きである。
ここでやってしまおう。
まず、256 通りの成分を次の 5 つの場合に分類する。
| (A) | 添え字が全て同じ場合 | | 4 通り |
| (B) | 添え字が 3 つだけ同じ場合 | 4 × 3 × 4 = | 48 通り |
| (C) | 添え字が同じものが 2 組ある場合 | 4 × 3 × 3 = | 36 通り |
| (D) | 添え字が同じものが 1 組だけある場合 | 4 × 3 × 6 × 2 = | 144 通り |
| (E) | 添え字が全て異なる場合 | 4 × 3 × 2 = | 24 通り |
このうち、(A) (B) (E) は非常に簡単である。
(A) はどこをどう入れ替えても自分自身になる。
よって 0 でなくてはならない。
(B) は前の 2 つ、あるいは後の 2 つが必ず同じ添え字である。
これらを入れ替えたものは自分自身になる。
よってすべて 0。
(E) はどう入れ替えても自分自身にはならない。
よって 0 になってしまう心配はない。
(E) に属するメンバーを一つ持ってきて、
前の 2 つだけを入れ替えたもの、後の 2 つだけを入れ替えたもの、
両方を入れ替えたもの・・・さらに前 2 つペアと後 2 つペアを入れ替えて同じように入れ替えたものを考える。
この操作で 8 通りが作れるが、どれも (E) に属している。
これらは同じ数値か符号が異なるだけである。
つまり 8 で割ることで、3 つのグループに分けられることになる。
こうしてこのグループ内には 3 つの自由度しかないことが分かる。
(C) はもう少し細かく場合分けしなくてはならない。
(C1) 前 2 つが同じ場合。 よって必然的に後 2 つも同じ場合。 ( 12 通り )
(C2) それ以外。 ( 24 通り )
(C1) は簡単である。
前 2 つを入れ替えても自分自身なのだからすべて 0。
(C2) は例えば
のような場合である。
前 2 つのペアと後 2 つのペアを取り替えても自分自身となるだけで、
こういう操作では符号が変わらないのだから何の意味もない。
他の操作で
、
、
という 3 つが作られ、
これら 4 つが似たもの同士であり、
これらはどれも (C2) のメンバーである。
4 で割れば 6 になる。
自由度は 6 である。
残る (D) は最もメンバーが多いが、3 つに場合分けしよう。
(D1) 前 2 つが同じ場合 ( 24 通り )
(D2) 後 2 つが同じ場合 ( 24 通り )
(D3) それ以外 ( 96 通り )
(D1) と (D2) は簡単である。
(D1) は前 2 つを入れ替えたら自分自身になるし、
(D2) は後 2 つを入れ替えたら自分自身になるので、すべて 0。
最後まで残った (D3) は例えば
のような場合である。
(E) と同じように 8 通りの入れ替え方が出来て、この操作で自分自身になるものはない。
よって 8 で割れば、自由度は 12 であると分かる。
結論は、256 個の成分の内 108 個が 0 となり、
0 にならなかった内、独立な数値は 21 通りしかないことになる。
これら生き残った 21 通りの数値であるが、
実は次のようなもう一つの関係式によっても縛られており、
結局自由度は 20 個分しかない。
後ろ 3 つの添え字を巡回的に入れ替えて足し合わせたものが 0 になるという
美しい関係式である。
これを導くやり方も後の方の別の記事で説明しよう。
この式の影響を受けるのは、(E) のグループに属する 3 つの自由度だけである。
(C2) と (D3) に属するメンバーにこの関係を当てはめると、
初めに使った対称関係からすでにこの式が成り立っており、影響がない。
曲がっていそうで曲がっていない
ところで普通の感覚で言えば絶対曲がっているように見えるのに、
リーマン曲率が 0 になってしまうケースがある。
えっ?
初めの方の説明で「不安は解消された」なんて言ったくせに
今さらなんてことを言い出すのだろう。
そういう事態が起こらないかを心配していたのだ。
・・・なんて文句を言われてしまいそうだが、
まぁどんな場合にこのことが起きるか聞いてもらいたい。
例えば円筒の側面。
この上でベクトルを平行移動して一周してもベクトルの方向は変化しない。
当然だ。
円筒の展開図を描けばその側面は平面そのものだ。
この側面でのベクトルの平行移動は、
展開された平らな面上で平行移動したのと全く同じ事だからである。
展開して平面になるような曲面といえば、円錐の側面も同じである。
他にはあまり無いから安心して欲しい。
折り紙を折り曲げないで、くにゃくにゃと曲げただけで作れる曲面と言えば、
円筒的か円錐的かのどちらかくらいしかないだろう。
円筒や円錐の側面上に住んでいる 2 次元人にとって、
世界が筒状に巻かれていようと、平面に伸ばされていようと、
幾何学的に何の違いも感じる事はない。
これではリーマン曲率が 0 になっても仕方ないのではないだろうか。
違いが無いのだから違いを表しようがない。
これで「曲がった面」と呼んでいるものの正体と範囲が
だんだん明らかになって来ただろう。
平面上に曲がった座標を描いただけでは曲がっているとは言えない
というのは初めから言ってきた。
そして平面を曲げただけで実現できるものも曲がっているとは言えない。
頭の中で大混乱が始まっている読者もいるかも知れない。
分かった気がしている自分と、納得の行かない自分との葛藤。
両者の折り合いを付ける為のお手伝いをしようかと思ったが、
じっくり考える楽しみを奪っては申し訳ない。
すでに必要な事は話してあるつもりなので、
後は自分で納得行くまで考えてもらいたい。