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ことの次第ここでは「エネルギー運動量テンソル」の右下の 3 × 3 の行列部分が、 連続体力学に出てくる応力テンソルと同じ意味になっていることを説明しようと思う。一つ前の記事ではその部分を説明せずに読者任せにしてごまかしている。 必要ないと思っていたからだ。 実際、長い間、その知識を使うことはなかった。 しかしずっと後の方の記事「フリードマン方程式」を書いている途中で そのあたりを詳しく知っておくことが必要だと気付き始めた。 その記事の中に簡単な説明を入れれば済むだろうと初めは思っていたのだが、 書き上がってみると結構な分量になって本文を圧迫することになってしまった。 それでその一部を分離してここに挿入することにしたというわけである。 今この知識が必要なければ、ここは読み飛ばしても大丈夫だ。
ざっとおさらいまずは復習をしておこう。 エネルギー運動量テンソル は次のように定義されるのだった。
ここで
次元が合っていないのではないかと気にする人がいるかも知れないので注意しておくと、
このサイトでは 4 元速度の定義のところで光速度
ところがここで疑問がわく。 連続体は多数の粒子で構成されているので、その粒子の速度も様々であろう。 ということは (1) 式のような「単純な 4 元速度の組み合わせ」としては表せないのではないだろうか。 実はその通りであり、この部分には多数の粒子によって生み出される平均的な値としての圧力や応力が入るのである。 なぜそんなことをしてもいいのだろう? (1) 式のように定義されたテンソルで、「?」の部分が応力テンソルだと言えるのはなぜだろうか。 それをこれから説明しよう。 その前に少し確認しておいた方が良いことがある。 後で困惑しないためだ。 もし多数の粒子が全く同一の速度を持って、互いに力を及ぼし合わないで運動していたとしたらどうだろうか。 そのような状態の粒子群を「ダスト流体」と呼ぶ。 ダスト流体は (1) 式のような形で問題なく表せることになるだろう。 しかしその場合、たとえ「?」の部分に何らかの数値が入ることになったとしても応力テンソルとしての意味は持たない。 ダスト流体の内部には応力が働くはずがないからだ。 それでも「?」の部分に数値が入ることはある。 これをどう考えるべきか? 「?」の部分は必ずしも応力テンソルと同一のものだと解釈できるわけではないということになるだろうか。 そこらへんにも意識しながら次の説明を読んでもらいたい。
圧力では本題に入ろう。 多数の粒子が互いに力を及ぼし合って様々な速度を持つ場合には、 はそれらの多数の粒子についての足し合わせになる。
それがなぜ応力の意味を持つのかを考えてみよう。
まずは からだ。
は次のように変形できる。
相対論での運動量の定義は
この
体積が
さて、運動量が移動するということは、その分だけ運動量が変化するということだ。
物理では単位時間に変化する運動量のことを力と呼んでいるのだった。
今は単位面積当たりの力であるから、
しかしこのような力が一方向だけに働いていると、物体はその力に押されて運動を始めてしまう。
応力テンソルというのは、物体が見かけ上は静止しているような状況での内部の応力を表しているのだった。
物体が静止しているならば内部では反対向きの同じ量の力も働いているはずだ。
要するに ここまで、あたかも互いの間を自由に通り抜けることができるような流体のイメージで話をしているが、 それは状況を分かりやすくとらえるための工夫に過ぎない。 実際には粒子どうしが絶え間なく激しくぶつかり合ってほとんどその場でウロウロしているだけだろう。 ある面を通過する運動量というのも、その面の付近にある粒子が次々と速度を変えながら往復することによって 実現されているのである。
ずれ応力これで一つ片付いた。 次は について考えてみよう。
これは先ほどと同様にして あるいは と変形できる。
どちらに解釈しても良いわけだが、応力テンソルの定義と合うように前者について考えてみよう。
逆に が後者を表していると考えれば良い。
もし と の値が異なることがあれば物体が全体として回転を始めてしまう。
応力テンソルというのは全体としての回転が止まっている視点での量として扱われるのが普通だ。
この
ところがその解釈には無理が生じる。
それを考える前に、もう一つ気になることがある。
ダスト流体の場合にはここに 0 でない値が入ることは普通に起こり得る。 しかし全体としての動きがあるので応力テンソルの意味にはなっていないわけだ。
さて、
ペアはもうひとつある。
なるほど、ある面に働く「ずれ応力」という点で応力テンソルと同じであると言えるわけだ。
これで全ての成分を無事に説明し終えたことになるだろう。
流体の粘性ずれ応力について、斜めに運動する粒子群のイメージで説明したわけだが、 こちらも実際には境界面で激しくぶつかり合う粒子があるだけである。 ほとんどの粒子はその場で往復するだけであろう。 全体として見ても、分かるような移動はしない。 その往復する粒子の平均的な振る舞いが、横ずれさせようとする力を生み出しているのである。さて、固体なら横ずれさせようとする力に対して形を崩さないままで耐えていられると思うのだが、 流体の場合はどうだろうか。 力が掛かれば容易に形を変えてしまう気がする。 いやいや、容易に形が変われるなら、そもそも強い力など掛からないだろう。 強い力が掛かる前に流れてしまえるからだ。 逆に粘性が強ければ、力が強く働くようになるまで流れないままで耐えることになる。
粘性とは、隣の流れと速度が異なるときに、隣を巻き添えにして相手にブレーキを掛けたり、
隣を引っ張って行こうとするような性質である。
例えば、 もし粘性がなければ横ずれの応力は発生しないのである。
完全流体のテンソルついでだから、もう少し先のことまでやっておこう。 今回の話のまとめ代わりに具体例を考えてみる。 実はこれがやりたいがために説明してきたのでもある。「完全流体」あるいは「理想流体」と呼ばれる理論上の流体を考える。 完全流体は粘性を持たない。 現実には完全流体といえば極低温の液体ヘリウムくらいしかないが、 状況によっては粘性を無視して議論できる場合があるのでモデルとして良く使われる。 この流体が流れていないように見える視点に立った場合、エネルギー運動量テンソルは次のように表せる。
目に見えるような運動はしていないが、
内部には分子運動のようなものが存在しており、どの方向にも均等な圧力 この流体を別の慣性系から見た場合にどう表せるかというのはローレンツ変換をしてやればいい。 これはテンソル量なので、2 階の反変テンソルの変換則を当てはめれば、ちゃんと変換できる。 ごちゃごちゃとした感じになるだけなのでここではやらない。 それにしても、行列の形で表現されたものは何をするにもとにかく場所を食う。 もしもシンプルな数式で表しておくことが出来れば便利だろう。 この行列を数式で表現することができるだろうか? 例えば次のようなものではどうだろう?
結論から言えば、間違っている。
しかしこれのいいところは、エネルギー運動量テンソルの定義になるべく沿うように
アイデアはいいのだが、問題点は
ちなみに、
ではどうすれば良いかというと、こんな方法がある。
ミンコフスキー計量
ミンコフスキー計量
今回も、第 3 項でうまく調整している。
これならちゃんと 2 階の反変テンソルとして変換するし、変換後の式の形式も変わらないで済む。
そして
どんな慣性系でもこの形で通用する。 教科書にはいきなり何の説明もなくこの (3) 式が登場したりするが、 以上のような思考手順を経て作られたものである。 この式の中に現象的な意味が直接に表現されているわけではないのだ。 なぜこの形になるのだろうと悩んでこの式を睨み続けてみても、 なかなか納得できる答えにたどり着けるものではない。
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