良くある質問自分から見て右手方向と左手方向に 2 基のロケットが それぞれ光速の 90 %で飛び去ったとする。 自分から見て、2 基のロケットの相対速度は光速の 180 %である。 これは相対論に反する事実なのではないかという質問をたびたび受けるのだが、 これは相対論的には何の問題もない。相対論が問題にしている相対速度というのは、 一方のロケットの視点に立った時の、もう一方のロケットの速度のことである。 これは 180 %にはならない。 自分を基準にしたとき、宇宙には光速以上で移動する物体は 一切無いらしいということがローレンツ変換から導かれるのである。 簡単なのでやって見せよう。 ただし、最近では宇宙自体が膨張しているらしいことが分かってきたので、 その場合には相対速度が光の速さを超えることもあり得る。 これは特殊相対論が間違っていたわけではなくて議論の適用範囲外の現象が 加わっているのだと考えてほしい。
光速以上に加速は不可能まずは場面をしっかり設定しておこう。 O さんから見て、2 基のロケット A, B がそれぞれ vA, vB という速度で 互いに反対方向へ進んでいるものとする。 もう少し具体的に、ロケット A が x 軸上をマイナスの方向へ、 ロケット B がプラスの方向へ向かっているものとしよう。 これは O さんの視点ではロケット B が、T 秒の間に、vB T だけ移動するという事である。 しかしこれは O さんの使っている ( x, t ) という座標系を使った視点での表現だ。 t = 0 の時に三者が同じ位置に重なっていたと考えると計算しやすくて、 O さんから見た T 秒後のロケット B の位置は次のように表せる。
これをローレンツ変換でロケット A の視点 ( x', t' ) に移してやればいいのである。 ローレンツ変換は次のように表せる。
前に求めたローレンツ変換とは少し符号が違うが、 これはロケット A が O さんから見て -vA で飛んでいるから、 O さんの視点から A の視点への変換を計算するために v に -vA を代入したのである。 これを使って変換してやるとロケット B の位置は次のようになる。
ロケット A の視点では、ロケット B は t' 秒の間に x' だけ移動した事になるのだから、 この結果を使って x'/t' を計算してやれば、それが A から見たロケット B の速度である。
この結果は「速度の合成則」と呼ばれる有名なものだ。 vA, vB が共に光速 c に比べて小さい場合には分母は 1 となり、 普通の足し算と変わらないものになる。 日常ではその状態を体験していて、それが当たり前だと疑いもなく信じてしまっているわけだ。 この式を初めて見る人は色々いじって楽しんで欲しい。 光速以下の速度を幾ら足し合わせても光速を越えることがないことが分かるだろう。 以上の話から、物体をどうしても光速以上に加速できない理由も分かってもらえるだろうか。 同じ事なのだ。 我々は物体を加速しようとすれば、力を加えて徐々に速度を上げて行くしかない。 ロケット A から x 方向にミサイルを発射して、速度 vA にまで加速したとする。 そのミサイルは O さんにとっては止まって見えるだろう。 そのミサイルの中にはさらに強力な加速装置が仕組んであって、 そこからさらに vB を加える素晴らしい加速をしたとしよう。 それでも A から見れば、これは決して光速を越えることがないのだ。
超光速の存在自分が物体を光速以上に加速させるのは不可能。 誰かが代わりに加速させたとしてもやはり同じことなので不可能。 しかし、だからと言って、 光速以上の物体がこの世に絶対に存在しないとまで言えるだろうか。 誰かが徐々に加速したわけではなくて、 最初から光速を越えているような物体があったらどうだろう? それは物体ではなくて光のようなものかも知れないが、 実は相対論はそのような存在を否定できないのである。否定できない以上はそういう粒子がひょっとするとあるかも知れないと言うので、 すでに「タキオン」という名前だけは付けられている。 これはギリシャ語を元にした造語であって「速い粒子」くらいの意味である。 残念ながらこれまで見つかった事はないし、存在する証拠も無い。 もしそういうものがあって制御できるようなものであったなら、 工夫次第で過去に信号を送れることも分かっている。 それでは因果律が成り立たなくなるので、 そのようなものは無いだろうと考える人の方が多い。
虚数の質量タキオンが存在しないだろうと考える人が多いもう一つの理由は、 その質量が虚数になることが導かれてしまうからだ。 その理屈はすぐに示せる。 前回の記事で、E = γ mc² という式を導いて、 運動する物体のエネルギーは静止時の γ 倍になることを説明した。 この式の γ の部分を左辺に移動させて両辺を 2 乗すれば説明の準備は完了だ。
ここで、もし v > c ならば左辺は負となる。 そのために右辺にある m は虚数でないといけないわけだ。 ちなみに、m > 0 ならば、必ず v < c でなければいけないし、 もし m = 0 であるならば、 光に限らず v = c でなければならないというのもこの式で説明できてしまう。 現在の素粒子論によると、光以外にも m = 0 の粒子が幾つかあることになっている。 ニュートリノだってごく最近までは質量が 0 かも知れないと言われていた。 さあ、虚数の質量とは何だろうか? そんなものに果たして意味があるのだろうか。 科学者たちは一般の人が考えるよりも遥かにロマンチストであり、 可能性のあるものはどんなに「在り得なさそう」であっても徹底的に探し求めるのである。 そしてすでに散々努力を払ってきているので、 素人が安易な考えで「こうしてみたらどうか」などと提案しようものなら、 「そんな事くらいはとっくに考えてみた」と苛立ちたくもなるのである。 そのせいでリアリストのように思われてしまっているのだろう。
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