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位相空間ここに来ていきなり抽象的な議論に突入することを許してもらいたい。 いや、そんなに難しい話にはならない。ここまでの話はまだ基礎論であり、ここからが本当の統計力学という感じになってくる。 その為に、その土台となる重要な仮定を置く必要がある。 その仮定が正しいかどうかは証明されてはいないのだが、 今回の話を知っておけば、その仮定を少しは受け入れ易くなるであろう。
今回のような多粒子の位相空間を「Γ (ガンマ)空間」と呼び、 1 粒子のみの位相空間を「μ(ミュー)空間」と呼ぶことがある。 この Γ 空間の中の一点を指定すれば、全粒子の運動状態が完全に定まることになる。 この点の事を「代表点」と呼ぶことにしよう。 しかし我々が容器の中を見て、 今のその内部状態が Γ 空間の中のどの点に相当するかを知る事なんか現実的には出来やしない。 粒子の数があまりに多すぎるからだ。 それでも想像で話をしよう。 この空間の中に代表点を一つ置くと、その点はニュートン力学に従って、 この空間内を移動して行くだろう。 それは時々刻々と粒子群の内部状態が変化して行く事を意味している。 ここで読者に向けて幾つかの問い掛けをしてみたい。
等エネルギー面この Γ 空間の原点付近というのは、全ての粒子がほぼ静止しているという意味になる。 外部とのエネルギーのやり取りがない孤立系を考えると、 今まで活発に動いていた粒子の全てが勝手に止まってしまうということは起こらないだろう。 そうなる為にはエネルギーを外部へと放り出す必要があるからだ。 このように、場合によっては代表点が決して近寄ろうとしない領域というのが あるということだけは容易に分かる。
今話したような全エネルギーの値に制限がある系では、
代表点は制限された領域のみを通るのである。
その移動の自由度は ならば今度はこう問い直そう。 系の全エネルギーが一定だという条件があるとき、 この等エネルギー面上の全ての点は平等だと言えるだろうか? ここで「平等」と言っている言葉の内容を正しく伝えるのは難しい。 なぜなら、私もまだ漠然とした意味でそれを使っているからだ。 しかし例えば、次のような事を考えてみたら、 その漠然とした考えの一部を明確な形で表し直すことが出来ると思う。 この Γ 空間の全体に、一様な密度で多数の代表点をばら撒いてやる。 それぞれの代表点は初期条件に従ってそれぞれの動きを始めるだろう。 ある程度時間が経った後、これらの代表点の存在密度はどのように変わっているだろうか。 濃い部分、すなわち代表点が集まっている部分があれば、その状態になり易いという意味であり、 薄い部分が出来ていれば、その状態は実現しにくいという事を意味している。 実はこのようなことをした場合、 密度はどこも常に一定のまま、少しも変化しないという事が示せるのである。 これは等エネルギー面内に限らず、全体として成り立っている。 これを「リウビユの定理」と呼ぶ。
以下では解析力学を使ってこの定理を示す事にする。
定理の証明我々がこれから示そうとしている式は、 Γ 空間内の代表点の密度を だとすると、
というものである。
よって、(1) 式は次のように書く事も出来る。
最終的にこれを示す事が出来ればいいわけだ。
その為に何をしたら良いだろうか。
我々のような凡人は、
これは、電磁気学でも出てきた電荷の保存則と同じ形式のものであり、
すなわち、代表点の数が保存することを表したものである。
密度
だと表せるだろう。
以上が ここで解析力学の知識を使う。 次のような方程式が成り立っている事を思い出すか、 受け入れるかして欲しい。
系の内部に摩擦力などがなくて、保存力だけの場合には、
ハミルトニアン
さあ、これでもう作戦は完了したぞ。 何だかあっけないな。 学生時分はこんな単純なものに悩まされていたのか。
集団の占める体積は変化しない今導いた定理についてもう少し説明しておこう。 導かれたのは (1) 式、あるいは (2) 式である。 これらは、「時間の経過に従って代表点の位置座標
は変化するけれども、
それに付き従って行けば、付いて行った先での密度 は変化しない」という意味になっている。
今回のこの定理の話は「もし代表点を一様にばら撒いたとしたら」という話から始まったのだが、 この定理そのものにはそのような条件は含まれておらず、 密度に濃淡のある状態から始めた場合にはこのようなことしか言えないのである。 代表点を一様にばら撒くというのは、式で書くと次のように表される。
これを (2) 式に代入することで、ようやく次の式が得られるのである。
偏微分は他の変数を固定して変化させるという意味である。 つまりこれは、場所を移動せずに見ていても、密度は時間的な変化をしないという意味になる。 これが最初に話した内容だ。 一様にばら撒かれた代表点の集団はバラバラに移動するけれども密度がどこでも変化しないという事は、 まるで非圧縮性流体のように振舞っているということを意味している。 Γ 空間内のある部分的な領域を考えると、 その内部に含まれる代表点の集団はまるで雲か霧のように、 形を変えながら引き伸ばされながら移動して行く事になる。 それでもそれらが占める領域の合計の体積はずっと変化しないのである。 この知識はこれから先の計算をするのにちょろっと使う事になるだろう。
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