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マトリックス

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 コンピュータの中に構築される仮想現実の世界、という設定はもうずいぶんと前からSF小説では使われている。現実の世界と並行して存在する空間として書かれることもあるし、現実の世界とは別個に存在するもう一つの世界として書かれていることもある。この映画のようにその中に人間が住んでいる、ということもある。この映画ではコンピュータが敵だが、人類が自ら選んでコンピュータの中に移住した、という設定の小説もあったと思う。
 この映画の中では、真実を何も知らないままコンピュータによって与えられた仮想現実の中にいることは良くないこととされているが、コンピュータに戦いを挑むレジスタンスの中の一人が途中でコンピュータの側に寝返る。彼はコンピュータのつくり出したエージェントとレストランで交渉する。血のしたたる分厚いステーキを口に運び、
「この味もお前らがつくり出した幻想なんだよなあ」
と言う。そして、それでもいい、と考えて寝返るのである。レジスタンスを潰す代わりに今の記憶を消して金持ちの詠が俳優かなんかにしてくれ、と要求する。
 私は、この映画を見ている間ずっとこのことを疑問に思っていた。コンピュータのつくり出した現実の世界と全く変わらない仮想現実の中に生きていることの何が問題なのだろう、と。この世界では、コンピュータが人間の肉体を栽培し、人間の体温をエネルギー源として利用する。人間は精神がないとあっという間に死んでしまうので仮想現実の中に精神を住まわせている。人間はほとんど違和感のない仮想現実の中で暮らし、体温でコンピュータを動かしている。環境汚染、人口増加、食物問題等が全て解決された世界とはこのことではないのだろうか。
 実際、人類は遺伝子の解析が終わるとかそういうことまで成し遂げようとしている。私のような凡人から言わせてもらえば、人類が世界の仕組みのほとんどを把握するのはそう遠くない未来の事だと思う。そのとき、全てはやっと理論の上に成り立つ。そこは、現実から「偶然」を取り除いた世界だ。過去の過ちの蓄積が飽和しそうな環境と、コンピュータによって格段に加速された時間の流れに人間自らがついていけなくなった結果頻繁に繰り返される過去最高の規模の人為ミスによる事故を解決するには、世界の仕組みを理論的に整理し把握していない要因をなくした上で、その世界を再構築する以外にはないだろう。そう考えると、最良の世界は「マトリックス」の中にある。
 この映画は3部作らしいが、今後どんなふうにストーリーが展開していくのか楽しみである。

(2001/07/02)


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