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60セカンズ

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 私が初めてニコラス・ケイジを観たのは、飛行機のエコノミークラスでのことだった。窮屈な座席に閉じ込められた状態での唯一に近い娯楽として機内映画にすがりついたのだが、そのときの映画が「ハネムーン・イン・ベガス」だったのである。ストーリーなどはすっかり忘れてしまったが、そんなに面白くない映画だったと記憶している。にもかかわらず、何故ニコラス・ケイジを覚えているかというと、
「なんで、この頭の薄いバカっぽい顔の男が二枚目の主役を演じているのだろう」
という強烈な違和感と、ニコラス・ケイジの強烈な顔のおかげである。
 というわけで、私の中でニコラス・ケイジは勘違いしている二枚目気取りの二流役者、という地位に長いこといたわけだが、人が油断している間に「リービング・ラスベガス」でアカデミー受賞俳優なんかになってしまったのである。新聞記事でニコラス・ケイジがアカデミー主演男優賞に輝いたのを知った時は本当に驚いたのである。あいつ、勘違いした二枚目気取りの二流俳優じゃなかったのか。
 その後のニコラス・ケイジの活躍は誰もが知るところである。「フェイス・オフ」でアクションをやっても面白かったし、「救命士」では立派に重く暗い演技をし、勘違いしていると思った二枚目役も「シティ・オブ・エンジェル」で、妻に「あの澄みきった目が素敵」と言わせたりするのである。頭のてっぺんのところの毛を絶妙なウェーブでふくらませているのに。
 ここまで幅広い役柄(しかも主役)を違和感なくをこなせる人ってあんましいないんじゃないでしょうか。人が油断している間にかっさらったと思っていたアカデミー賞は、ひょっとしてもらって当然のものだったのか。
 こなしている役柄が多種であることと、ひとなつっこい顔つきから、好青年のようなイメージを受けるのだが、それでは面白くないのである。奴はきっと一癖も二癖もあるに違いない。
 「60セカンズ」のあるシーンを観て、唐突に奴の本性を思い出した。
 60秒で一台の車を消す、と言われた伝説の自動車泥棒が復活する瞬間。現役の時、必ず着ていた革のジャケットに袖を通し、ラジカセでロックを流す。目を閉じ、天を仰ぎ、集中力を高め、身体を震わせる。
 このシーンを観た妻は、
「なにこれ。なんか変じゃない」
と言っていたが、これこそがニコラス・ケイジそのものである。
 砂漠のまん中をオープンカーでぶっ飛ばし、魂のヘビ革のジャケットを身にまとい、ロックンロールに身をゆだねカラテパンチで踊り狂う、「ワイルド・アット・ハート」のニコラス・ケイジがきっと本物だ。
 「60セカンズ」を見て、私がそのことを確信したのと同時期に、ニコラス・ケイジがフェラーリから身を乗り出して「フィーバー!」と叫ぶパチンコ屋のCMがテレビに流れ(このCMを知っている人がこのコラムを読む確率はかなり低いでしょうね)、私生活ではエルビス・プレスリーの孫だかなんだかと結婚して3ヶ月で離婚したりしているのである。
 勘違いした二枚目気取りの二流役者、という私の認識は間違っていたが、一癖も二癖もあるに違いない、と睨んだ私の目に狂いはなかったのである。

(2001/07/02)


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