咳と痰 笠井耳鼻咽喉科クリニック
表1 3〜4週間持続する咳と痰の注意点
・咳と痰は日中に多いか、夜に強いか?
・痰は膿性で切れにくいか?
・症状はだんだん増悪しているか?
・発熱、食欲低下、体重減少など全身症状を伴うか?
・食事のときにむせないか?

表2 咳と痰が持続する疾患
症状が2週間以上
 かぜ症候群(急性気管支炎)
症状が3〜4週間以上継続
 COPD(慢性気管支炎、肺気腫)
 気管支拡張症
 後鼻漏
 気管支喘息
 うっ血性心不全
 胃食道逆流症
 誤嚥性気管支炎
 薬剤副作用(ACE阻害剤、βブロッカーなど)

 1〜2週間以内の経過をとる場合には急性と考えられ、上気道炎、急性気管支炎がここに含まれる。まとめてカゼ症候群と呼ばれることもある。9割はウイルス感染で、時にマイコプラズマ、クラミジアの感染がある。マイコプラズマの感染では、マイコプラズマ感染後の気道過敏症として、カラ咳がひっきりなしに出るという特徴がある。通常は3週目安とし、これを超えて咳が続く、痰が続く場合には本格的に調べた方がよいということになる。
 夜間、特に夜明けに咳がある、あるいは痰がでにくいという場合、気管支喘息を疑う。発作性に症状が出るという特徴がある。
 慢性気管支炎、肺気腫をまとめて最近は慢性閉塞性肺疾患、COPDと呼ぶが、これは昼間、体動時に症状が増悪することが特徴。
 細菌性の感染がある場合に、痰は膿性となり、量が増え、粘稠で切れにくいことが特徴となる。

表3 慢性の咳と痰を呈する疾患の症状と治療
後鼻漏
 慢性副鼻腔炎があり、寝ると気道に粘液がたれてくる。咳あり。
 マクロライド系抗生物質
胃食道逆流症
 胸やけ。就寝時の咳、痰。遅い時間の夕食。食事:刺激物、脂っこいものが好き。
 プロトンポンプ阻害剤
COPD
 症状は主として起床後、日中に症状が強い。息切れがある。安静で改善。喫煙歴や粉塵暴露歴あり。
 気管支拡張症の吸入
気管支喘息
 夜明けに咳、痰。発作性。
 気管支拡張薬の吸入。吸入ステロイド。テオフィリン製剤。抗ロイコトリエン薬。
うっ血性心不全
 就寝時、咳と痰。痰は白色。下肢の浮腫など。
 利尿薬

 COPDの方の95%以上はスモーカー。スモーカーの約15%がCOPDになる。喫煙歴があるかどうかは気管支喘息との鑑別点にはなる。COPDの初期症状として咳あるいは痰のみということがある。
 気管支喘息は、病歴で、以前に同様な症状があった、夜明けに非常に強くなる、夜明けに発作を起こす、寛解期がある、発作を起こしていないときには症状が殆ど無いことが特徴。
 うっ血性心不全は就寝後まもなく咳と痰が続くという訴えになる。これも高齢者に多い病気だが、うっ血性心不全を起こすような基礎疾患があるということになる。具体的には高血圧、陳旧性の心筋梗塞などで心機能が低下している様な場合。COPDでは夜中に咳、痰が強くなることはあまり多くない。
 気管支喘息やCOPDの合併症として胃食道逆流症が起こっていることが多い。その結果、病態が非常に複雑になる。特に気管支拡張剤薬による副作用で食道の下端の筋肉が弛緩しやすくなり、逆流性の食道炎が起こり易い。その場合、胸やけとか、あるいは朝、口の中が苦いというような訴えになる。実際は胃カメラをやってもなかなか鑑別がつかないこともある為、対応が難しい。
 高齢者の場合、誤嚥あるいは誤飲によって、食事が誤って気管に入るというものが多い。脳血管障害後遺症が原因になることが約6割ですが、慢性的な誤嚥により、気管支炎を起こして、それが咳と痰の持続を起こして来るというがある。
 気管支拡張症は常に咳と痰が出るわけではないが、感染が加わると症状が増悪することがある。
 間質性肺炎、肺繊維症は基本的には乾いた咳が出て、軽い感染があると痰が出ることがある。
 高齢者に多いのが薬の副作用による咳。一番多いのがACE阻害薬、あるいはβ-ブロッカー、時にはβ-ブロッカーの点眼薬でも起こることがある。緑内障があって、β-ブロッカーの点眼薬を使っている場合に喘息症状が非常に悪化することがある。

 2週間以内の咳と痰であれば、対症療法として治療する。膿性痰があれば抗生物質を投与する。これで症状がだんだん軽くなっている場合にはプライマリーケアとしては特に検査は不要。
 2週間を超えて膿性痰であるとか感染症状が続く場合には、白血球数あるいはCRP、それから循環器系の疾患を除外する為に心電図、胸部のX線写真を撮ることになる。
 かぜ症候群の場合には対症療法でよいが、気管支喘息の場合には吸入ステロイドを使うということと、気管支拡張剤を必ず使うことが必要。咳が出るという場合に、咳止めだけを使うと痰を伴う場合には痰がかえって肺の中に貯まって呼吸困難が強くなる。去痰剤については、非常に賛否両論があって、非常に個人差がある。

咳嗽の治療薬
中枢性鎮咳剤(非特異的) 麻薬性  リン酸コデイン
             非麻薬性 アスベリン、メジコン、トクレス
気管支拡張薬 テオフィリン薬 テオドール、テオロング、ユニフィル、ユニコン
(咳喘息)  β2刺激剤   メプチン、スピロベント、サルタノール、ホクナリンテープ、セレベント
       吸入抗コリン薬 アトロベント、フルブロン、テルシガン
ステロイド薬 プレドニン、リンデロン、フルタイド、テルシガン (喘息、アトピー咳嗽)
抗菌薬 レスピラトリーキノロン オゼックス、スパラ、高用量クラビット、ガチフロ、ケトライド ケテック
     (マイコプラズマ、クラミジア感染症)
    14,15員環マクロライド系抗菌薬 エリスロシン、アイロシン、クラリス、クラリシッド、ルリッド、
     (副鼻腔気管支症候群)
    ジスロマック
    その他の抗菌薬
去痰剤(各種湿性咳嗽) ビソルボン(粘液溶解薬)、ムコダイン(粘液修復薬)、ムコソルバン(粘液潤滑薬)、
            クリアナール、スペリア(分泌細胞正常化薬)
漢方薬 ツムラ麦門冬湯 (非特異的)
抗アレルギー薬
 ヒスタミンH1受容体拮抗薬  アゼプチン、アレロック、ジルテック、セルテクト、アレジオン、アレグラ、
  (アトピー咳嗽)     クラリチン、エバステル 
 ロイコトリエン受容体拮抗薬 オノン、アレコート、シングレア、キプレス
 トロンボキサン阻害薬    ドメナン、ベガ、ブロニカ
 Th2サイトカイン阻害薬   アイピーディー 
  (咳喘息)
消化性潰瘍治療薬(胃液逆流による咳嗽)
 ヒスタミンH2受容体拮抗薬  ガスター、ザンタック、タガメット
 プロトンポンプ阻害薬    タケプロン、オメプラール、オメプラゾン、パリエット

咳喘息について
 今まで特に「喘息」などの病気がなくても、かぜをひいた後などに、咳だけの症状が長引く場合があります。発熱や痰の症状がなく、咳だけが一向におさまらないで、むしろ日増しに咳がひどくなるといった症状が3週間以上続く場合は、「咳喘息」が疑われます。
 喘息では、ご存じのようにゼーゼー、ヒューヒューといった喘鳴や呼吸困難を伴うことが多いのが特徴です。一方、「咳喘息」は、喘鳴や呼吸困難がなく、慢性的に咳だけが続く病気です。しかし、「咳喘息」は時に、気管支喘息になることもあるといわれていますので、早めに治療を受けることが大切です。
 咳は、気道に異物や刺激が加わったり、炎症が起きて分泌物が溜まってきたりした場合にそれらを外に出そうとするためにおこる、いわゆる生体の防御機構のひとつです。
 咳には、湿性の咳と乾性の咳(空咳)があります。湿性の咳は過剰に生じた痰をだすための咳であり、主に気道の炎症が原因です。 「咳喘息」では、ふつう痰を伴わない乾性の咳が認められます。通常のかぜ薬や咳止めや抗生物質などはあまり効果がありません。もちろん、胸部レントゲン検査や呼吸機能検査には異常は認められません。
 治療は、気管支喘息と同様に気管支拡張剤や吸入ステロイド剤が有効です。吸入のステロイド薬は、局所に使用するため、経口ステロイド剤に比べて副作用は少ないといわれています。治療は数ヶ月続ける必要があります。
 「急性(咳症状が3週間以内)」の咳は主に、ウイルス感染などによる上気道感染によるかぜによるものが多く、一方「遷延性(3週間以上)」「慢性(8週間以上)」の咳症状は、「咳喘息」「アトピー咳嗽」、「副鼻腔気管支症候群」があげられます。
アトピー咳嗽は「咳喘息」と区別が困難なことがありますが、気管支拡張薬が無効で、抗アレルギー剤や吸入ステロイド剤が有効です。「副鼻腔気管支症候群」は、副鼻腔炎(蓄膿症)によって、鼻汁が気管支に流れて気管に入って気管支炎が起こり痰を伴った咳が出ます。
 その他、長く続く咳症状として、「咳喘息」と鑑別しなくてはいけない病気として、肺結核、肺がん、間質性肺炎、慢性心不全、逆流性食道炎、高血圧の薬(ACE阻害薬)の使用などがあげられます。
 「咳喘息」の治療において、日常生活の注意点をあげてみます。
@かぜやインフルエンザに注意。特に流行期は、うがい、手洗いを徹底し、マスクを使用しましょう。
Aたばこに注意。本人の禁煙は当然のこととして、他人からのたばこの煙も悪化させる要因となります。家庭や職場など、周囲のひとにも注意してもらいましょう。
B飲酒を控える。アルコールを飲むと、体の中に気道を収縮させるアセトアルデヒドができて咳を起こしやすくします。
C咳を誘発させる原因となる、ハウスダスト、ダニ、かび、ペットの毛、花粉などの刺激を避ける。こまめに室内をきれいにしましょう。
D過労を避け、ストレスをためない。睡眠と休養を十分にとりましょう。
E咳は体力を消耗します。栄養のバランスを考え、消化のよい食事をこころがけましょう。また、食べ過ぎにも注意が必要です。
F気温の変化に注意。急激な気温の変化は、「咳喘息」の発作を誘発します。外出時の服装に注意して室内外の温度差を大きくしないようにしましょう。
G加湿器などによって湿度を保つ。乾燥すると気道の粘膜が刺激されて、咳が出やすくなります。風邪が治っても、咳だけが続く場合は、「咳喘息」かもしれません。速やかに受診することが大切です。
【咳喘息と気管支喘息の症状】
類似点
・長引く咳、時に激しく咳込む
・さまざまなアレルゲン、たばこの煙、寒暖の差などが誘因に
・市販のかぜ薬、 咳止めではよくならない
異なる点
・ゼイゼィ、ヒユーヒューという「喘鳴」はない
・呼吸困難は少ない
・痰はあまりからまない
【咳喘息の特徴】
・咳が3週間以上続く
・発熱や痰を伴わない
・ゼーゼ一、ヒューヒュ一、呼吸困難はない
・かぜ薬や咳止め、抗生物質は効かない
・吸入ステロイド薬が効果的
【咳喘息の治療】
・気管支拡張剤、吸入ステロイド薬が有効(局所に使用するため経口ステロイド剤より副作用は少ない)
治療は数カ月続ける必要がある
【日常生活での注意】
かぜに注意・禁煙
飲酒は控える。ハウスダスト、かび、ペットの毛などの刺激を避ける
・気温の変化に注意

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