
東京で一番最初の桜が咲いた朝、僕は美華と出会った。
肩まで伸びた長い髪
朝日に透ける茶色い瞳
新宿駅にすべり込んで来た電車に殺到する人の中で、なぜか彼女の姿が
浮かび上がって見えた。
その時はもちろん、視界に彼女の姿が飛び込んできた理由なんか分からなかった。
2001年 オフィシャルサイト公開初稿より
メールマガジン登録
初稿から2年
お待たせしました。
全世界で、のべ6万人の人に触れられながら、完結を迎えることなく突然公開を中止した
あの長編小説「桜の舞う空の下で」が、メルマガの形でついに公開となります。
Qストーリー大賞入選後、初の長編小説の公開となります。
ぜひ登録して、毎週の配信をお楽しみください。
メールマガジンタイトル 「桜の舞う空の下で」
まぐまぐマガジンID 0000113314
◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆ 桜の舞う空の下で 第1回 2003年7月1日発行(毎週1回発行)(2003年7月1日創刊) 松沢直樹オフィシャルサイト 「イプシロンカフェへようこそ」 http://homepage2.nifty.com/epsilon-cafe/ ◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆*◇*◆
午前一時を過ぎると、客足はめっきり減った。 ここでバイトを始めてからずっとこういう調子だ。最近は別に驚きもしない。 昨日、本部の人が来て、店長に夜間の売上がどうのこうのとか言ってたけど、 今日び、コンビニなんて、どこもこんなもんじゃないだろうか。 まあ、どのみち俺が口を挟むことじゃない。 客の入りを考えるのは店長の仕事だ。俺達バイトの大学生が考える事じゃない。 以前は、殊勝に「売上を上げなくてバイト代をもらっていいのか?」なんてことを 考えた時期もあった。でも、最近、そんなことは全然気にもしなくなった。 「やれやれ…かったりー」そんな感じだ。 客がいないのに、ボーっとレジに突っ立ってるのは、ほんとにばかばかしい。 以前はこの時間になると、バイトのみんなと裏の事務室に隠れて休憩していた。 けど、ヒステリックなおばさんからのしつこいクレームのせいで、 それができなくなってしまった。どこの誰かは知らないけど、本部に毎日しつこく クレームの電話をかけてきた人がいたらしい。 まったく迷惑な話だ。もっともそんなヒステリックな話し方をする人の話を 真に受ける本部の人もどうかしてると思うけどね。 まあ、きついお達しがあったとはいえ、本当に客がいなければ、休憩するんだけど、 残念ながら、深夜のこの時間でも、客足が途絶えることはない。 ここは新宿区と渋谷区の境にある住宅街だ。 昔はもっとのんびりしてたらしいけど、新宿に都庁が移転してから、ちまちました ビルやマンションが急速に建ち並び、街は夜が無くなってしまったらしい。 おまけに駅前ということもあって、深夜でも緩やかな人の流れがあって、このコンビニは、 決して客足が途絶えることがない。休憩しようかと思ったら、流れを切らずに ぽつりぽつりといった感じで、客がやってくる。 「ロン、お客さんを待たせちゃだめじゃない。ちゃんとレジに立ってなきゃ」 「うるせーな。賞味期限切れのサンドイッチと弁当を整理してたんだよ」 雑誌を持って周囲を見回している女性を見つけると、美華は、慌ててレジに立った。 そして、客が店の外へ出たのを見計らうと、不服そうな顔をして、俺に詰め寄ってきた。 「ロン、何でレジやってくれないの? 賞味期限の切れたお弁当の整理も大事だけど お客様優先でしょ? 昨日も店長に注意されたじゃない」 「うるせーな、ほんとに気付かなかったんだから、仕方ねえだろ。もし気付いてたら、 お前より先にレジやってるよ。だいたい接客のことをやかましく言うんだったら 、俺のこと、客の前で「ロン」って言うのやめろよ。柳井さんって呼べ」 「だって…柳井さんって、言いにくいんだもん」 そう言ったきり、美華は下を向いて、口ごもってしまった。 別に意地悪をするつもりはなかった。それに、俺のことを 「ロン」って呼んでいいって約束したことを忘れたわけでもない。 美華に問いつめられると、まるでお袋に小言を言われてるみたいな気分になる。 そのせいでつい、俺も辛く当たってしまう。 「悪かったよ……」 気まずい雰囲気に耐えかねて、そう言ったけど、美華は顔を上げてくれなかった。 「おやおや、ロン、女の子をいじめるのは感心せんな」 「からかわないで下さいよ、タカさん。奥にいたんなら、出てきて レジやってくれればいいじゃないですか。俺たち、そのせいで揉めてるんですから」 「そうか、悪い悪い。いやな、新曲のスコア書いてたもんだからさ。 夢中になって全然気付かなかった。わりいな」 俺と美華は目線を合わせて、小さく笑った。 タカさんは、ここのコンビニのバイトで一番年上の人だ。 もっとも、年上の人といっても、何歳なのか、みんな知らない。 多分結構いってる年だと思うんだけど、茶髪にピアスつけまくりのファッションのせいで、 よく分からない。実は、バイト以外の時に何をしてるのかもよく分からない。 本人は、プロミュージシャンだって言ってるけど、プロとして活動してるという話は どこからも聞こえてこない。まあ、そのことを突っ込むつもりはないから別にいいんだけど、 もう少ししっかりしてほしいのは確かだ。 まあ、今日みたいに、そのずぼらな部分に助けられて、 俺達はひどくこじれずにすんでるんだから、何も言えないんだけど。 「そうだ。そろそろ二時だな。ロン、新しい商品の搬入のトラックが来たら、 荷物を下ろすのを手伝ってくれ。陳列は俺がやるから、お前らは帰っていいぞ」 「そんな……タカさん。陳列くらい手伝いますよ」 タカさんの言葉を聞いて、美華は申し訳なさそうな声を出した。 ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■ 『桜の舞う空の下で』編集発行人:松沢直樹 http://homepage2.nifty.com/epsilon-cafe/ ★オフィシャルサイトへのご訪問もお待ちしています。 ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■ ●メールマガジンの配信システムは まぐまぐ[ID:] 0000113314 ●購読の変更・解除は、こちらからどうぞ。 http://homepage2.nifty.com/epsilon-cafe/matsuml2.htm ■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━■ 全てのコンテンツの無断転載を禁止します。 (C)2003 Naoki Matsuzawa all lights reserved