遺伝子ターゲッティングベクターの構築


(1)ゲノムDNAのクローニング
 ラムダファージライブラリーを最低100万プラークスクリーニングする。角型プレートで20枚以上。使用するプローブは 500 bp 程度がよい。この時、同じプローブを用いてゲノムDNAをサザンブロットし、エキソンを含む制限断片の大きさを調べる。
 ライブラリーは優秀なものが市販されている。特にλファージにloxP配列を組み込んだ物などを使用すれば、ファージDNAを取り扱う必要性がなくなるので非常に便利。また、P1ライブラリーはスクリーニング依頼できるので、これも非常に便利。上手く取れれば、かなり長い領域を含むクローンが得られる。


(2)制限地図の作製とエキソンの同定
1)クローン化されたファージよりDNAを調製し、主な制限酵素で切断後、サザンブロットし、クローン化に用いたプローブでエキソン領域を決定する。また、制限地図を作製する。
2)エキソン領域がしぼりこまれたら、その領域をサブクローニングし、シークエンスする。
3)同時にクローン全領域をカバーできるように適当な制限酵素断片をサブクローニングする。


(3)ターゲテイングベクターの構築
1)改変するエキソン内の適当な制限サイトを Xho I サイトに変える。
適当な制限酵素で切った後、平滑化し、Xho I linker を導入する。LacZをつなげる時は、フレームが合うように linker の長さを調節する。予想通りに改変できたか、シークエンスして確認する。
2)ターゲティングに使用する領域のゲノムDNAをつなげてサブクローニングする。この時プラスミドのクローニングサイトを利用して、両端が Sal I サイトになるようにする。Sal I で抜き出すため、内部に Sal I サイトがあるときは、つぶしておく。また Xho I サイトもつぶしておく。
3)DTAを Xho I で消化し、脱リン酸化する。その後、消化したフラグメントをゲルで抜く。そのサイトに Sal I で抜き出したゲノムを入れる。効率の悪いときはコロニーハイブリで拾う。
4)DTA-ゲノム を Xho I で消化し、脱リン酸化したのち、Sal I-Xho I で抜き出した LacZ-Neo もしくは Neo を入れる。Neo 内のプローブでコロニーハイブリする。非常に長いフラグメント同士の結合であるので、効率の悪いときはコロニーハイブリを行う。


(4)サザンの条件の検討:(3)と同時進行。相同組換え体を検出するためのスクリーニング方法としてはサザンブロットとPCRがあるが、この場では迷わずサザンブロットをお奨めする。その理由はたくさんあるが、1)PCRスクリーニングを敢行するためには、余分なコントロールベクターを構築する必要がある。またこのコントロールベクターは非常にくせ者で、ほんのわずかでも水やバッファーにコンタミしたものなら、何をやってもPCRのバンドが出てしまう。2)PCR用のターゲッティングベクター自身、相同組換えを起こす効率が悪いことが知られている。すなわち、PCR用のベクターはどうしても片側のアームを短くする必要があり(通常1kb程度)、このアームの短さは相同組換えの効率を下げてしまう要因になる。3)PCRスクリーニングは失敗した場合、すなわち、相同組換え体がとれなかった場合、得られる情報があまりにも少ない、というより無いに等しい。例えば、neo遺伝子はちゃんとどこかに挿入されているのか、どのくらいの確率で相同組換えが生じているのか、相同組換えしていなくてもヘテロにはなっているのか、複数遺伝子座にneo遺伝子が入っている場合どのくらいはいっているのか等である。これらの情報は成功してもしなくても初めて行う実験としては非常に重要な情報源である。
 そこで、相同組換え体を同定するためのサザンの条件を検討する。組換え体と非組換え体を区別できる制限酵素を選び、そのときにでるDNA断片を特異的に検出できるプローブをゲノムから調製する。プローブはターゲッティングベクター内に一つと、ターゲッティングベクター外に一つ用意する。特にベクター外のベクターは必須。内側のプローブはネオかネオに近い領域で選ぶ。プローブの長さは0.3から1.0kbくらいで、シークエンスから繰り返し配列などがないところを選び、S/N比のいいプローブを選ぶ。このプローブ選択が実験全体の精度を左右するので、プローブで妥協は厳禁である。また、検出するバンドの大きさは20kbから1kbくらいで、相同組み換えが生じたときにバンドが下がるようにベクターを設計する。すなわち、スクリーニング用に制限酵素サイトを導入しておく。相同組み換えのバンドの判定基準は、1)外プローブで予定の位置にバンドが検出できること。2)そのバンドはワイルドのバンドより濃いか同じ濃さかのどちらかであること。3)ワイルドのバンドが、他のクローンのワイルドのバンドより確実に薄くなっていること。4)内プローブでも予定の位置にバンドが検出できること。この4条件が満たされていれば、そのクローンはほぼ間違いなく相同組換え体である。また、内プローブで余分なバンドが検出されることがあるが、そのようなクローンは出来れば使用を避ける。どうしても他に取れないときにのみ使用する。


(5)トラブルシューティング
 ターゲッティングベクターの出来不出来が実験の期間を大きく左右する。1回のエレクトロポレーションで相同組換え体が取れてしまえば1、2カ月で終了してしまうような行程で、年単位を消費してしまうこともある。500クローンくらいをスクリーニングしても1クローンも相同組換え体がでないときは、ターゲッティングベクターの変更を考えるべきである。その際の注意点をいくつか挙げておく。
1)ターゲットとする遺伝子部位自身に問題がある場合がある。例えば、近傍に強力なサイレンサーなどがある場合などは、ネオマイシン耐性遺伝子の発現が抑制されてしまう。このようなときは、違うエクソンに変更する必要性がある。あるいは、ネオマイシン耐性遺伝子の向きを反転させたベクターを使用することで解決するときもある。あるいはその付近を大きく削り取ることで解決することもある。ベクター上にサイレンサーが存在しているときの症状としてはエレクトロポレーション後の薬剤耐性コロニーの数が極端に少ないので判定できる。ベクター上にサイレンサーが存在していないときでも、ES細胞で発現しない遺伝子はこの様なことが起こりやすい。簡単な対応法としては常にネオマイシンの方向は正逆両方用意しておき、同時にエレクトロポレーションに使用することであろう。
2)ベクターの相同領域を出来る限り長くする。短くても効率よく取れる場合もあるが、やはり長いほうが効率がいいのは確かである。相同領域が5’、3’側ともに5キロ以上あればこれ以上は望めないであろう。これ以上長くすると、今度はスクリーニング用の制限酵素切断サイトがなくなってしまう。片側が極端に短いと妙なことが起こりやすいので、出来るだけ均等に配置する。
3)ネガティブ選択用の遺伝子は実際にはあまり効いていないので(最大でも2倍程度)、ここをいじる必要はさほどないと考えられる。短い側のアーム側につけるほうがいいが、長い側でも問題はない。また、なくてもさほど大きな問題ではない。ましてや両側につけるような労力はいらない。
4)挿入する遺伝子の長さ分は抜き落としたほうが相同組換え効率が良いと言われているが、これは必須事項ではではない。エクソン内に好都合なサイトが存在している場合は、これを利用し、無理に抜き落とす必要はない。


(6)トラブルシューティング2

以下は、遺伝子ターゲッティングベクターの構築に限った話ではありませんが、大きなフラグメントを扱う場合、トラブルはよくおこります。特に全長が20kbを越えるとかなり難しくなってきます。参考までに。

●ライゲーションのステップを10度オーバーナイト、もしくは4度オーバーナイトにする。

●ライゲーション後、プレート上での大腸菌の培養を室温にする。この場合、その後の培養は液体中の培養であっても室温にする。

●大腸菌の種類を変更する。大きなベクターが入りやすいDH5αなど。

●大量にライゲーションをおこなって、コロニーハイブリをする。

●構築手順の変更をおこなう。ポイントは大きいバックボーンへ小さなフラグメントを入れる手順のほうがいいと思われる。

●フラグメントのゲルからの抽出法の検討をする。5kbを越えるとビーズによる抽出は避けた方がいいと思われる。対処としては、フィルター濾過法(細胞培養培地などを滅菌するために使用するフィルター孔径0.4ミクロンを使用。ディスポの注射器を使って、ゲルをフィルターする。ゲルの大きさによってフィルターの直径は選択する。回収量を増やすためにさらに200マイクロLのTEを通す。その後エタチン。ただし10kbの大きさまで。)やエレクトロエリューションなど。