imatinib(グリベック)とその周辺
〜作用機序をより良く理解する為に〜

2001.5.23 Mitsuyuki Ohno

はじめに!!

白血病とは何ぞや!

白血病は血液のがんです。血液は赤血球、白血球と血小板の3種の血球と、これらが浮遊している液体である血漿より成っています。血球は骨の中にある骨髄の中で作られます。白血病は正確には血液のがんではなく、血球のがんです。血球を作る細胞すなわち造血幹細胞が骨髄の中でがん化して無制限に自律性の増殖をする病気です。 

19世紀後半にウイルヒョウというドイツの有名な病理学者がこの病気を初めて見つけました。この時代には治療法もなく、白血病細胞がどんどん増え続けて血液が白くなるために、白い血の病気すなわち白血病と命名されたのです。傷口が化膿したとき白色の膿が出ますね。あれは白血球の塊であり、元々白色なのです。しかし、白血病は現在では『骨髄中での造血幹細胞のがん』と定義されており、がん細胞の末梢血液中への出現の有無に関係ありません。早期に診断されますと、白血球数が正常であったり、あるいは、むしろ減少していることが普通です。 

白血病細胞は正常の造血細胞よりも早く分裂増殖すると思われているかも知れませんが、実際はそうでなく、細胞分裂してから次の細胞分裂までの世代時間は、正常造血細胞よりも2〜3倍も長いことが判っています。他のがん細胞も同様です。実は、我々の正常細胞は成熟分化すると、計画細胞死(アポトーシスとも言います)という機構により死ぬ運命にプログラムされているのです。ところが、がん細胞ではこのアポトーシスがおこらず、そのために細胞が増え続けてがん組織になるのです。別の言い方をすれば、アポトーシスがおこらなくなった細胞が、がん細胞なのです。 


白血病の原因って?

他のがんと同様に、白血病の原因と発生機序はハッキリ判っている訳ではありません。しかし、最近の遺伝子を中心とする研究の進歩により、がんは多段階的の遺伝子異常を経て発生していると理解されています。簡単に言えば、がん細胞とは遺伝子に傷がつき、その結果、死ににくくなっている細胞を言います。しかし、遺伝子に傷がついたら直ちにがんになる訳ではなく、いくつかの遺伝異常が重なって白血病になるのです。遺伝子に傷をつけるものは、我々の廻りにけっこう沢山あります。レトロウイルスを代表とするウイルスや健康診断の時に浴びる放射線さらに自然界にも存在する発がん性を持つ物質や薬物などです。これらにより遺伝子異常が発現し、次いで相互転座を中心とする染色体の異常がおこり、その結果、がん遺伝子が活性化されて細胞の異常増殖が見られたり、相互転座の結果つくられた異常融合遺伝子のために成熟細胞への分化ができなくなったりしてがん化します。 
がん関連遺伝子には、がん化を促進する働きをするがん遺伝子と、がん化を抑える働きをするがん抑制遺伝子がありますが、一般のがんの場合と違い血液系のがんでは、がん抑制遺伝子の不活化は末期にならないと見られません。 

そして、多段階の遺伝子異常が起きた後に、生体の免疫防御機構をかいくぐって生き延びたがん細胞が白血病として発症してくるものと考えられています。 

白血病では、患者さんからがん細胞(白血病細胞)を容易に得ることができますので、遺伝子異常を始めとする研究はヒトのがんの中では最も進んでいます。なかでも、急性前骨髄球性白血病という白血病にみつかる染色体相互転座t(15;17)に関する解析は最も進んでいます。すなわち、通常ヒトでは24組ある染色体の内、この白血病では、第15番染色体と第17番染色体の一部が切断されて互いに入れ代わる相互転座ということがおこっています。その際、第17番染色体にあるレチノイン酸受容体α遺伝子(RARα)が第15番染色体にあるPML遺伝子の下流部に転座し、PML/RARα融合遺伝子が作られます。この融合遺伝子によって作られる異常蛋白は、RARα遺伝子とPML遺伝子から作られる蛋白が本来持っている白血球の成熟分化作用を阻止します。その結果、急性前骨髄球性白血病では、前骨髄球の段階で細胞の成熟分化が停止し、前骨髄球よりなる白血病が発症しているものと理解されています。 


レチノイン酸とは活性型ビタミンAのことです。急性前骨髄球性白血病では異常な融合遺伝子ができることによりビタミンAの受容体の作用が抑えられ、細胞が分化・成熟できなくなっています。大量のビタミンAを使うと、白血病細胞を無理やり分化・成熟させ、アポトーシスを起こさせて殺します。急性前骨髄球性白血病にレチノイン酸が著効を示すのは、このためです。 

白血病に罹ると、大抵、一般の人は、なぜ白血病になったのか、遺伝するのか、あるいは伝染するのかを医師に聞くといいます。一般の白血病は遺伝病ではありませんし、伝染もしません。では、なぜ白血病になるのかというと、どうも全くの偶然によるものらしいのです。すなわち、我々の身体の中では、上に書いた色々の誘発原因により、がん細胞は常時発生しているようですが、初期のがん細胞の多くはまもなく死に絶えるようなのです。そのまま増殖し続けて本物のがんになるか、あるいは死に絶えるかは、全くの偶然に左右されるようです。

南九州や五島列島に風土病的に存在する成人T細胞白血病・リンパ腫はHTLV-Iというレトロウイルスによるものです。広島・長崎の原爆後やチェルノブイリの原発事故後に白血病が多発しました。また、タバコを喫う人は肺癌になりやすく、焼魚をよく食べる人は胃癌になりやすいことなどは確かですので、ある程度の原因はあります。しかし、これらは、最初の第一段階のがん化を引き起こしはしますが、その後に、がんが病気として発生するかどうかは、全くの偶然に左右されると考えていいと思います。



白血病の病態と分類 

白血病細胞が骨髄を占拠し、正常造血機能を抑制するために、正常血液細胞の産生が低下し、赤血球減少による貧血症状や、白血球、特に好中球減少による感染症状や、血小板減少による出血症状が現われます。次いで病状が進行すると、脾臓、肝臓およびリンパ節への白血病細胞浸潤による腫大がみられるようになります。 
がん化は造血幹細胞レベルでおこり、血液細胞の分化・成熟のある一定の段階で分化が停止し、それより上流の未分化な芽球細胞が増殖して腫瘍を構成している場合と、生体の調節能を逸脱し自律性増殖を示すものの、一応分化・成熟する能力を保持している場合があります。前者は急性白血病、後者は慢性白血病や骨髄異形成症候群です。 

急性白血病は急性に経過し、未治療なら数ヵ月内に死の転帰をとりますが、慢性白血病は未治療でも数年の慢性経過をとります。前者と後者のがん化機構は全く違っていますので、急性の病気が慢性化するというようなものとは違います。がん化している細胞系列により、骨髄性とリンパ性に分け、類縁疾患も含め次のように分類しています。 





急性骨髄性白血病(acute myeloid Leukemia,AML)
  FAB分類: M0, M1, M2, M3, M4, M5, M6, M7 
急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia,ALL)
  FAB分類: L1, L2, L3 
慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia,CML)
慢性リンパ性白血病群
  慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia.CLL)
  前リンパ球性白血病(prolymphocytic leukemia,PLL)
  毛様細胞白血病(hairly cell leukemia,HCL)
  大顆粒りんぱ球性白血病(Large granular lymphocytic leukemia,LGLL)
慢性骨髄増殖性疾患群(myeloproliferative didorders,MPD)
  真性赤血球増多症(polycythemia vera,PV)
  本態性血小板血症(essential thrombocythemia,ET)
  慢性好中球性白血病(chronic neutrophilic leukemia,CNL)
  骨髄線維症(myelofibrosis)
成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma,ATLL)
骨髄異形成症候群(myelo dysplastic symdromes,MDS)
  不応性貧血(refractry anemia,RA)
  環状鉄芽球を伴うRA
  芽球増加を伴うRA
  白血病移行期RAEB
  慢性骨髄単球性白血病(chronic myelomonocytic leukemia,CMMoL)
その他の白血病
  混合系統白血病(mixed lineage leukemia,MLL)
  低形成白血病(hypoplastic leukemia)




骨髄穿刺液液の塗抹標本をメイ・ギムザ色素で染色後に顕微鏡で検査し、FAB(French-American-British)分類により分類します。この分類法は、それまで主観的に行われていた分類法に、ペルオキシダーゼ染色陽性率や細胞の形態分類の数量化を取り入れた分類法で、より客観的となり、国際比較が可能になりました。 

白血病芽球が骨髄細胞中で30%以上を占めるものを急性白血病とし、30%未満の骨髄異形成症候群と区別します。そして、ペルオキシダーゼ染色陽性芽球が3%以上なら急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)、3%未満なら急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia, ALL)と分類します。AMLはM0からM7までの8型に、ALLはL1からL3までの3型に分類します。M3は急性前骨髄球性白血病で、先に述べた15番染色体と17番染色体の相互転座が認められます。M5は急性単球性白血病。M6は赤血球系の白血病すなわち急性赤白血病。M7は血小板をつくる細胞の白血病すなわち急性巨核芽球性白血病です。 


白血病の(気になる)発生率

わが国の白血病発生率は年々増加傾向にあり、1995年では年間人口10万人当り4.9人(男6.0、女3.9)で、年間約6,100名が死亡しています。男性の方が多いのは他のがんと同様です。白血病は小児から高齢者までまんべんなく発生しますが、高齢者では発生率はより高くなり、70歳代では年間人口10万人当り男21.8、女10.3になります。ただし、多くは骨髄異形成症候群関連の白血病です。 
小児から青年層においては、白血病は最も発生頻度の高いがんです。子供や若い人や働き盛りの壮年にも発生しますので、社会的には影響のある病気です。そのため、実数はそれほど多くはないのですが、高齢者の病気である他のがんよりも、より注目されることになります。青年層の死因としては、事故死に次いで第二位を占めています。 

かっては、洋の東西を問わず、メロドラマや悲劇の若きヒロイン達は結核に罹って死んでいったものですが、昨今は結核の代わりに白血病が広く用いられています。また、実話を題材にした小説や映画などにも白血病が良く登場するのは、若者が罹るがんの中で最も頻度が高いという理由があるからです。 

急性白血病と慢性白血病の比は約4:1です。急性白血病の内、骨髄性とリンパ性の比は、成人では約4:1、小児では逆に約1:4です。わが国の年間白血病発生率が欧米の10万人当り7〜8人に比較して低いのは、慢性リンパ性白血病が極端に少ないためです。

この白血病は欧米においては最も頻度の高い白血病に属し、全白血病の30%を占めていますが、わが国では極めて稀であり、約2%を占めるにすぎません。欧米では、慢性リンパ性白血病と慢性骨髄性白血病の比は約8:1ですが、わが国では全く逆で約1:9です。一方、成人T細胞白血病・リンパ腫はわが国に特徴的にみられる疾患です。 



簡単でしたが、以上で白血病のアウトラインを終わりにします。大体のところはつかんでもらえたでしょうか?

ここからは、もう少しだけ、詳しく白血病を見ていきましょう。
大きく分けると“急性”と“慢性”がありますので、それから・・・

■急性白血病

◎臨床所見 

最近では白血病も早期に診断される傾向にあり、早期発見すれば当然症状も軽度であり、治療効果もより高くなります。息切れ、動悸、倦怠感、顔面蒼白などの貧血症状や発熱や出血症状をみます。これらの症状は急性骨髄性白血病の方が急性リンパ性白血病よりも著明です。出血症状は初期は血小板減少による点状出血斑が主体ですが、播種性血管内凝固症(DIC)が重なると著明な出血をみるようになります。DICは急性前骨髄球性白血病に高率に合併し、白血病細胞中の粗大顆粒中にある組織因子により凝固が亢進して、消耗性凝固障害が起こると共に、白血病細胞内にある線溶活性物質により強い線溶亢進を伴い、重症の出血症状を呈します。化学療法を施行すると細胞崩壊により、DICがさらに悪化するという悪循環になります。 
診断までの期間が遅れるほど、白血球数は増加し、脾腫、肝腫、リンパ節腫大等の臓器浸潤をみます。皮膚浸潤や歯肉腫脹や痔核(肛門部の浸潤)なども見られます。白血病細胞が脳髄膜に浸潤して、頭痛などの髄膜刺激症状を呈することもあります。急性リンパ性白血病に多く、完全寛解に到達したら、この中枢神経系白血病の発症予防対策が絶対必要です。 


◎検査所見 

発病から診断までの期間が長ければ長いほど白血球は増加しますが、初期ではむしろ減少しています。骨髄は過形成で白血病芽球で占められ、また、白血病細胞の崩壊により尿酸やLDHが増加し、単球系白血病では血清・尿中のリゾチームが増加します。 

◎診断 

骨髄所見で診断します。白血病細胞が1個でもみつかれば白血病と診断できますが、白血病芽球と正常芽球とを形態学的に鑑別することは容易でありませんので、芽球が5%以上の時を白血病芽球としています。FAB分類では分類できない白血病として、骨髄系とリンパ系の鑑別と2系統の細胞形質をもつ混合系統白血病があり治療抵抗性です。骨髄が低形成である低形成白血病は高齢者に多く、治療にはよく反応します。 

◎治療

T治療理念 

白血病はtotal cell killの治療理念に基づき、治癒を目指して治療されます。すなわち、マウスの白血病では白血病細胞を1個残らず殺さない限り治癒が得られないことが確かめられていますので、ヒト白血病でも白血病細胞をゼロにするまで徹底的に叩く必要があるとする治療理念です。これまでの白血病化学療法の歴史はこの考えが正しいことを証明しています。しかし、急性前骨髄球性白血病に対するレチノイン酸による分化誘導療法の驚くべき有効性は、強力療法のみが治癒をもたらすものではないことを教えています。副作用が少なく医療費を節減する分化誘導療法は、今後目指すべき方向を示していると言えます。 
治癒を得るための急性白血病の薬物療法は以下の二相よりなっています。 

1.完全寛解導入療法 

まず化学療法による寛解導入療法を行います。診断時には患者さん体内には10^12個の白血病細胞がありますが、化学療法により10^9個以下に減少しますと、正常の白血球、赤血球、血小板が回復してきます。血球が正常値になり、骨髄中の芽球も5%未満になり、他の臓器浸潤も消失すると完全寛解(complete remission, CR)とよびます。治った(治癒 )と言わないのは、完全寛解になっても患者さん体内には10^9個以下の白血病細胞が残存しており、放っておけば必ず再発してくるためです。白血病では完全寛解状態が3年以上続けば、まず再発しませんので、完全寛解が5年以上続けば治癒したとみなしています。 


2.寛解後療法 

完全寛解になり正常の血液細胞が回復しても、患者さんの体内には、白血病細胞が残っているため、治癒を得るためにはさらに治療が必要です。寛解後療法には、導入療法と同じ程度の強さの治療をする地固め療法と、退院後外来通院中に行う維持・強化療法の二つがあります。治癒を得るためには、地固め療法と1〜2年の維持・強化療法が必須であることが経験的に判っています。白血病に特徴的な遺伝子をRT-PCR法という方法で増幅することにより、患者さんの体内に残存する微量の残存白血病細胞を10^6個レベルまで検出することができます。その結果、寛解後1年半頃まで10^6個レベル以上残存している白血病細胞が維持・強化療法により検出限界以下にまで減少することが判り、経験的に必要とされていた寛解後療法に科学的根拠が与えられました。治癒を得るには、形態学的完全寛解では不十分であり、異常遺伝子の見つからない分子生物学的完全寛解が必要です。なお、骨髄移植療法は最強力の寛解後療法と言えます。

 

U治療薬

多種の抗白血病剤を組み合わせて使う併用療法は、互いの抗白血病作用を相乗的に増強することに加え、個々の薬剤が持つ副作用を分散させることが出来ますので、現行の抗白血病化学療法のほとんどは併用療法で行われています。 

急性白血病治療に用いられる薬物の各論は、各自、専門書や教科書、又は星子、土田、山口、3氏によるガン3部作の資料を参照してください。

ここでは、主なものの解説にとどめます。


シタラビン(Ara-C)は急性骨髄性白血病には必須の第一次選択薬です。副作用は骨髄抑制や嘔気・嘔吐などです。急性骨髄性白血病の地固め療法としてAra-C大量療法を行うことが一般的になりました。エノシタビン(behenoyl Ara-C, BHAC)は、わが国で開発された Ara-C誘導体で、Ara-Cを不活化する分解酵素に抵抗性を示し、血中半減期が長く嘔気・嘔吐などの副作用が少ない薬です。6-メルカプトプリン(6MP)は急性骨髄性白血病の寛解導入療法薬として重要であり、急性リンパ性白血病においても必須の維持療法薬です。副作用は骨髄抑制や肝障害などです。葉酸拮抗薬メソトレキセート(MTX)は急性リンパ性白血病において、中等量〜大量を地固め療法期に、少量を維持療法期に必須の薬剤として用います。副作用は骨髄抑制や粘膜障害などです。本剤の毒性はテトラヒドロ葉酸により中和できるため、大量を使用したあとテトラヒドロ葉酸によりレスキューができるという特徴があります。 

抗がん抗生物質であるダウノルビシン(ダウノマイシン)は急性骨髄性白血病の第一次選択薬であり、急性リンパ性白血病にも第一次選択薬として使用されることが多い薬です。副作用は骨髄抑制、心筋障害や脱毛などです。イダルビシンはダウノルビシンよりも強い抗腫瘍活性を示し、骨髄抑制以外の副作用が少なく、Ara-Cとの併用による無作為比較研究により、急性骨髄性白血病に対しダウノルビシンより優れた寛解導入効果があることが報告されました。したがって、急性骨髄性白血病における第一次選択薬となりましたが、骨髄抑制作用がダウノルビシンより強いため、感染症などの合併症がおきやすく、注意が必要です。 

アルキル化薬に属するシクロフォスファミドはリンパ系腫瘍の第一次選択薬として用いられ、急性リンパ性白血病においても重要な薬です。副作用は骨髄抑制、脱毛や出血性膀胱炎などがあります。その強力な骨髄抑制を利用して、大量のシクロフォスファミドやブスルファンは骨髄移植の前処理法の主要薬剤として用いられます。。 

ビンクリスンは植物から抽出するアルカロイドであり急性リンパ性白血病の第一次選択薬として用いられ、急性骨髄性白血病にも第二次選択薬として使用されます。副作用は末梢神経障害や麻痺性イレウスなどです。エトポシドは急性骨髄性・リンパ性白血病に対し共に有効で、第二次選択薬として使用されます。副作用は骨髄抑制や脱毛などです。 

副腎皮質ホルモンは、急性リンパ性白血病の第一次選択薬としてよく用いられています。リンパ球やリンパ系腫瘍細胞に対し、アポトーシスを誘導し、細胞融解作用を示します。副作用は糖尿病やクッシング症候群や免疫不全症などです。 

その他の抗白血病薬として、ミトザントロンがあり、急性骨髄性白血病の第二次選択薬として使用されます。副作用は骨髄抑制などです。また、アスパラギナーゼはリンパ系細胞がその増殖に必要な必須アミノ酸であるアスパラギンを分解することにより抗腫瘍性を発揮し、急性リンパ性白血病の寛解導入期の第一次選択剤です。副作用は出血性膵炎、低フィブリノ−ゲン血症、肝障害などです。活性型ビタミンAである全トランス型レチノイン酸は急性前骨髄球性白血病に対し分化誘導療法剤として著効を示し、この型の白血病の第一次選択薬です。副作用は皮膚・口唇の乾燥や肝障害やレチノイン酸症候群などですが、他の抗がん薬にくらべれば無きに等しいと言えます。テミバロン(Am80)はレチノイン酸より約10倍効力の強いレチノイドです。レチノイン酸に難反応性となった急性前骨髄球性白血病には亜砒酸が有効です。白血病細胞をアポトーシス死させたり、レチノイン酸と同じ様に分化誘導して細胞死をもたらします。副作用は心臓毒性や末梢神経毒性などです。ハイドロキシユレアは慢性骨髄性白血病の第一次選択薬でしたが、現在ではインターフェロンが第一次選択薬となっており、補助的に使用されるだけになりました。副作用は骨髄抑制や皮膚の色素沈着などです。インターフェロンは慢性骨髄性白血病の第一次選択薬です。副作用は鬱病や肝障害などです。



以上で、ざぁーっと大雑把にどんな治療薬があるのか見てきましたが、ここから、白血病の具体的な治療法を見てみましょう。

急性骨髄性白血病の化学療法の場合・・・

本白血病の化学療法はシタラビン(ないしはBHAC)とイダルビシンやダウノルビシンを中心に、6MPなどを加えた併用化学療法によって、まず完全寛解導入を目指します。現在の強力化学療法により70〜80%が完全寛解に到達しますが、年齢が若いほど寛解率は高くなります。その後、これらの薬剤やミトザントロン、アクラルビシン、ビンクリスチンなどの寛解導入に用いた薬とは交差耐性のない薬剤を併用して地固め療法を3コース、さらに、維持・強化療法を6コース約1年施行します。最近ではAra-C大量療法が地固め療法期に使われるようになりました。米国の比較研究の結果では、Ara-C大量療法は骨髄移植療法と同じ程度の効果を示すことが報告されています。完全寛解になった成人急性骨髄性白血病の内、50歳未満の患者の約50%近くが治るようになっていますが、50歳以上となると治癒率はぐっと低くなります。


急性リンパ性白血病の化学療法の場合・・・

本白血病の化学療法は副腎皮質ホルモン、ビンクリスチン、ダウノルビシン、シクロフォスファミド、アスパラギナーゼを中心とする併用療法により完全寛解導入を目指します。小児急性リンパ性白血病の95%、成人急性リンパ性白血病の70〜80%がが完全寛解に到達します。その後、メソトレキセート脊髄腔内注射や頭蓋放射線照射による中枢神経白血病予防を行います。そして、導入療法と同じ薬剤やこれらとは交差耐性のない薬剤を併用して地固め療法を3コース行い、さらに6MPとメソトレキセートを中心とする維持療法を約2年間行います。小児では標準リスク群の80%以上、高リスク群の60%以上を治癒できるようになりましたが、成人では化学療法に難反応性のフィラデルフィア(Ph)染色体陽性も多いこともあって、完全寛解例の30%以下にしか治癒が得られません。ただし、年齢30 歳未満、初診時の白血球数3,000/μL未満でPh染色体を持たない予後良好群では50%以上が治癒可能です。成人のPh染色体陽性の急性リンパ性白血病は骨髄移植療法を行っても治癒させることは困難です。しかし、最近、後で慢性骨髄性白血病の所で書きますが、Ph染色体陽性白血病の原因となっている異常融合遺伝子BCR/ABLが作るチロシン・キナーゼ活性を特異的に阻害する経口薬が開発されましたので、Ph染色体陽性白血病の治療成績が大いに向上するかも知れません。 


さて次は、T治療理念、U治療薬ときて・・・

 

V分化誘導療法 

急性前骨髄球性白血病にはレチノイン酸による分化誘導療法が著効を呈し、90%以上が完全寛解に到達します。分化誘導された白血病細胞はアポトーシスの機序により死滅し、約1ヵ月で正常血球が回復してきます。寛解後は他の急性骨髄性白血病と同様に併用化学療法による寛解後療法を行いますが、レチノイン酸と化学療法薬とは互いに交差耐性がありませんので、化学療法がよく効きます。そのため、完全寛解になった患者さんの60%以上が治ることが期待されています。若年の患者さんの完全寛解率はより高く、30歳未満では発病した患者さんの70%以上が治るようになってきました。 
レチノイン酸は活性型ビタミンAですから、他の抗白血病薬のような強い毒性もなく、そのため感染症や血小板減少による出血などの合併症や患者さんに与える苦痛も少なく、結果として医療費も少なくなるという利点もあります。これまでは、治癒率の上がる治療法や新薬は必ず医療費も高くなるという図式でしたが、この分化誘導療法は極めて例外的に医療費が安くなる治療法です。 

今のところ、分化誘導療法が効くのは、この型の白血病だけですが、医学的にも医療経済面からも、今後、是非、研究開発していかなければならないがん治療法です。 



W骨髄移植療法 

骨髄移植療法(bone marrow transplantation, BMT)とは、致死量の抗がん剤を投与したり全身放射線照射を行うことにより白血病細胞を殺した後に、強力治療によって回復しなくなる骨髄中の造血細胞を、他人の骨髄を移植することにより、血球を回復させる治療法です。必要なのは骨髄中にあって血液細胞をつくる基になる造血幹細胞です。最近、この造血幹細胞が末梢血中や臍帯血の中にもあり、これらを用いる末梢血幹細胞移植や臍帯血幹細胞移植も骨髄移植と同じ程度に有効であることが判りましたので、最近では造血幹細胞移植療法と一括されるようになりました。造血幹細胞移植療法により薬物療法ではほとんど治癒の期待できない難反応例や再発症例においても治癒が期待できます。大量のサイクロフォスファミドやブサルファンなどの抗がん剤や全身放射線照射を始めとする移植前の前治療が、現存の抗白血病治療法の中で最も強力であるという事実に加え、移植片対白血病効果すなわち移植したドナーのリンパ球が白血病細胞を免疫学的に攻撃するという現象があるためです。 
単純に考えると大変結構な治療法なのですが、HLA適合ドナー(家族ないしは非血縁者 )がいることが第一条件です。また、移植前の治療が強力であることより、これに耐えることができる全身状態が良好であり、年齢が50才以下の患者さんのみに施行できるという制限があります。HLAとはヒトの組織適合抗原のことで、両親から一つづつもらう組織型は4組の組み合わせが出来ますが、兄弟・姉妹間で適合する確率は4分の1です。子供のすくない日本人ではなかなか適合ドナーを見つけることができません。そのため、骨髄バンクや臍帯血バンクが作られて、非血縁者ドナーによる移植も行われます。 HLAは最も主要な組織適合抗原型ですが、赤血球にAB型以外の血液型が沢山あるように、組織適合抗原型も幾つかあり、それらの全てが合う訳ではありませんので、組織適合抗原型の違いによる免疫病が出てきます。すなわち、ドナーのリンパ球が患者組織を免疫学的に攻撃する移植片対宿主病(graft-versus-host disease, GVHD)です。非血縁者ドナー間では、その差がより大きいため、GVHDがより強く出ます。 

重症型のGVHDは致死的となりますので、この医原病は造血幹細胞移植療法において、解決しなければならない最も重大な問題です。この免疫反応をシクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制薬で抑えることはできますが、これらの薬は正常の免疫反応も抑制しますので、今度は免疫不全症が現われて、間質性肺炎などの合併症が多くなってきたり、移植片対白血病効果も抑えられるために再発が起こりやすくなりますので、なかなか対応の難しい合併症です。 

特に、非血縁者ドナー移植では、GVHDでの発生頻度も重症度も高くなり、GVHDで亡くなる患者さんもかなりの割合で出現します。幸い臍帯血幹細胞移植の場合は、例え非血縁者ドナーでも、このGVHDが軽症であると言われています。家族間移植でも、長期的に見ると、移植関連合併症により約30%が死亡し、また白血病再発も約20%にみられます。ただし、移植直後の移植関連死は、最近の治療の進歩により大幅に減っており、移植そのものはかなり安全に行われるようになりました。 

薬物療法の成績が向上してきたため、初回の寛解期から造血幹細胞移植療法、特に、非血縁者ドナー移植を行うか否かは議論のあるところです。欧米での大規模な前方向比較研究やJapan Adult Leukemia Study Group(JALSG)の前方向研究の結果は、成人の急性骨髄性白血病と急性リンパ性白血病では造血幹細胞移植療法が明らかに良いというエビデンス(証拠)はあまりありません。したがって、ハッキリした予後不良因子を持った白血病の場合は別として、初回の寛解期にGVHDが強く出る非血縁者ドナー移植は行わない方がよいと思われます。完全寛解になった時に、自分の骨髄や末梢血中の幹細胞を保存しておき、強力治療後にこれを移植する自家造血幹細胞移植療法に関しても、明らかに良いというエビデンスはほとんどありません。 


X支持療法 

白血病は化学療法や骨髄移植療法により治癒可能となっていますが、治療は強力であればあるほどより高率の治癒率が得られることが、これまでの治療の歴史が教えています。 
骨髄移植療法は最も強力な寛解後療法でありますが、最近の化学療法もこれに匹敵するほど強力となっています。強力療法を施行すれば、それに伴う合併症、特に白血球減少に伴う感染症と血小板減少時の出血は避けることができないので、これらに対する支持療法は、治癒につながる強力治療を成功させるための鍵となります。日本では日赤血液センターの充実により、アフェレーシス血小板が十分供給され、血小板減少のためだけの致死的出血は減少しており、致死的出血がみられる場合のほとんどは、敗血症ないしは播種性血管内凝固症(DIC)を併発している症例です。したがって、治癒をもたらすための強力治療の成功は感染症対策につきるといってよく、感染症対策の良し悪しは治療成績に直接影響します。 

感染症の起炎菌としては、近年グラム陽性球菌の検出率が増加しています。最近開発された抗菌剤の多くが、グラム陰性桿菌に向けられたものであったためと、最近は、白血病治療においてはほぼ全例で経静脈高カロリー輸液が行われているため、静脈カテーテルの汚染による表皮ブドウ球菌等が多くなっていることにもよります。また、真菌感染症も増加し、特にアスペルギルス症の増加が著しく、その対策が急務です。


余談ですが・・・・・・
白血病に対して強力治療が始まった1980年代の初め頃、アスペルギルス症の多発に泣かされたある大学病院では、原因究明のため色々検査をした折り、血液内科病室の空調の吹き出し口に付いている埃を培養した所、アスペルギルス・ニガーという真菌が一杯いたのに驚かされたそうです。この真菌は一般的には黒かびと呼ばれ、台所などのじめじめした所によく見かける黒っぽいかびです。アスペルギルス・フミガーツスと共にアスペルギルス症をおこす病原性をもつ真菌です。最初は血液内科病棟のみの院内感染症かと思い、念のため、精神科の病室の空調吹き出し口の埃も培養した所、ここもアスペルギルス・ニガーが一杯いました。 

ご存知のように、日本酒を作る時には、まず麹を用いて米の炭水化物を糖化してブトウ糖をつくり、このブトウ糖から酵母がアルコールを作ります。この麹菌も真菌で、学名はアスペルギルス・オリゼーと言います。湿度の高い日本の環境はどうもアスペルギルスの成育に好適のようであり、日本酒作りにもこれが応用されて来たのでしょう。したがって、日本において、白血病の強力治療を遂行するには、アスペルギルス症対策は非常に重要です。コスト・パフォーマンスを重視する欧米では、骨髄移植は普通個室ないしは簡易無菌室で施行されるのが一般的ですが、日本では絶対無理です。たちまち、アスペルギルス症にやられます。
・・・・・・



また、遺伝子工学的手法で作られた顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)は、骨髄移植後や化学療法後に減少した好中球の回復を8日〜12日前後短縮します。したがって、G-CSF使用により好中球の早期回復が可能であり、白血病における感染症の発症頻度減少や重症度の軽減に貢献しています。 

G-CSFは試験管内において、明らかに骨髄性白血病細胞を増殖・刺激しますので、骨髄性白血病患者におけるG-CSFの使用には問題点もあります。しかし、わが国を中心とする幾つかの比較臨床研究の結果では、化学療法や骨髄移植後の好中球高度減少時に使用された場合においては、G-CSF投与により患者体内の骨髄性白血病が明らかに増殖するとの結果は得られていません。重症感染症においては、G-CSFの持つ好中球回復促進効果のメリットは、G-CSFが示す可能性のある白血病細胞増殖というデメリットを凌駕するものと思われます。しかし、骨髄性白血病を刺激することも確実であることより、最少必要量を最少必要期間投与するなどの慎重な使用法が必要です。

◎経過と予後 

無治療のまま経過をみると急性白血病患者は2〜3ヵ月で死亡します。現時点の最良の化学療法を行った時、小児急性リンパ性白血病では、95%以上が完全寛解となり、標準リスク群の80%、高リスク群(年齢10歳以上、初診時白血球数3,000/μL以上、B細胞性白血病、Ph陽性白血病など)の60%以上が治癒するものと期待されてます。成人急性リンパ性白血病では、約80%が完全寛解となりますが、寛解例の30%以下にしか治癒は期待できません。 
急性前骨髄球性白血病では、今や約95%が完全寛解になり7割前後が治癒するものと期待されています。 

60歳未満の急性骨髄性白血病では約80%が完全寛解となり、寛解例の35%以上が治癒するものと期待されています。60歳以上は急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病ともに完全寛解率は60%台で治癒はほとんど期待できません。最近G-CSFを使用することにより感染症対策が十分出来るようになりましたので、予後成績も向上すると思われます。 

70才以上では治癒を得るのは困難ですので、患者さんのquality of life (QOL)を考慮した弱い治療が行われています。骨髄異形成症候群由来の急性白血病は高齢者に多く、治療抵抗性です。 




ここからは、“慢性”・・・

■慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia, CML) 

◎臨床所見 

発症は緩やかであり、進行しないと症状は現われません。脾臓が腫大することによる左上腹部の不快感、微熱、夜間盗汗(とうかん)、倦怠感などを主訴として医師を訪れ、検査の結果診断されることが多い病気です。ただし、最近では、定期健康診断や他の病気の検査時に偶然発見されることの方が多くなっています。理学所見では脾腫が最も多く、進行例では貧血所見もみられます。 





◎検査所見 

白血球増加が著明であり、好中球が主体をなしていますが、好塩基球や好酸球の絶対数も増加しています。芽球から成熟好中球までの各段階の好中球がみられます。好中球アルカリホスファターゼスコアーが著明に減少しているのが特徴的です。血小板は増加している場合が多く、赤血球は初期にはやや増加し、進行すると貧血となります。通常診断後約4年で治療抵抗性となり、脾腫が縮小せず、好塩基球が増加し、血小板減少や貧血が現われたり、原因不明の発熱などを示す移行期を経て、末梢血ならびに骨髄に芽球が増加する急性転化期にいたります。 
急性転化を起こすと急性白血病と鑑別が困難なことが多く、約3/4が骨髄性、1/4がリンパ性の形質を示します。フィラデルフィア(Ph)染色体は陽性のままであり、Ph染色体が2個になったり、その他の付加染色体異常が現われることが多く見られます。 

骨髄は過形成で芽球から分葉好中球までの一連の好中球系細胞が主ですが、好塩基球や好酸球も増加し、巨核球も増加しています。染色体検査で小型のPh染色体がみられ、22番染色体の長腕の一部が切れ、9番染色体の長腕の一部と互いに入れ代わる相互転座t(9;22 )が認められます。Ph染色体は赤芽球や巨核球にも認められます。9番染色体の長腕にある癌遺伝子c-ablが、22番染色体のBCR遺伝子部に転座し、BCR/ABL融合遺伝子が作られ、この遺伝子が作るP210蛋白は強いチロシン・キナーゼ活性を示し、細胞をアポトーシスより護り、CMLの直接病因となっていると思われます。急性リンパ性白血病の時にみられるBCR/ABLはP190蛋白をつくり、慢性骨髄性白血病の場合はメジャー、急性リンパ性白血病の場合はマイナーと呼んで区別しています。 

その他、増加している白血球に由来するビタミンB12結合蛋白増加のために血中ビタミンB12値が増加したり、破壊された白血球由来の尿酸値も上昇しています。 



◎診断 

末梢血で幼若細胞から成熟好中球までの各段階の好中球増加をみとめたら、好中球アルカリホスファターゼ染色スコアーの低下を確認し、骨髄でPh染色体およびBCR/ABL融合遺伝子を確認することにより確定診断がつきます。染色体検査は煩雑ですので、最近は遺伝子診断が優先されます。

慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia = CML)は、白血病の中でも比較的診断しやすい疾患のひとつと言われてます。臨床検査所見に特徴があるからなのですが、上に書いた臨床所見を一通り読んでも、ピンと来ないでしょうから、具体例を挙げて解説してみたいと思います。(持ち時間は、大丈夫だろうか???)


ex)検査所見(CMLの典型例)

血球計算
WBC 360 x10^3/mm^3
RBC 359 x10^3/mm^3
HBG 11.4 g/dl
HCT 32.9 %
MCV 91.6 μm^3
MCH 31.8 pg
MCHC 34.7 0/00
PLT 466 x10^3/mm^3

白血球分類
blast 10 %
Pro 14 %
Mye 18 %
Met 10 %
Neut 36 %
Baso 8 %
Eos 3 %
Lym 1 %

生化学所見
LDH 1,260 IU/L
UA 8.2 mg/dl


血液検査所見から白血球(WBC)の増多、貧血(anemia)、血小板(PLT)の増多を認めます。とくにWBCが36万/mm3と 著しく増加しており、この所見だけからでも白血病であると考えることができます。また、PLTも増加していることから 造血幹細胞レベルの腫瘍性疾患を疑うことができます。
 白血球分類では、まず芽球(blast)および各段階の幼若系細胞(Pro〜Met)の出現を認めます。 この所見はCMLの大きな特徴のひとつです。さらにあとで理由を詳しく述べますが、 好塩基球(Baso)の増多は特筆すべき所見となります。逆の言い方をすれば、Basoの増多(3%以上)を認めたら、 CMLを疑ってみる必要があると言うことです。


このようにWBCの増多が見られるときは好中球アルカリフォスファターゼ(NAP)染色をしてみます。
NAPは青い顆粒として染め出されますが、CMLではNAP陰性の好中球が多数見られるようになります。
当然NAP陽性率は低く、NAPスコアも2桁と極端に低値になります。


CMLから取り出したNAP活性の低下した細胞を培養すると、NAP活性を取り戻すことが分かっています。 また、G-CSF(顆粒球増殖因子)を加えることにより、好中球のNAP活性が復活することも分かっています。

このことから次のように考えることができます。
CMLはG-CSFによらず好中球が増殖する疾患で、末梢血には余分な好中球があるためネガティブ・フィードバックにより、 G-CSFの分泌が抑えられます。G-CSFに依存しているNAPもまた活性が低下しているというわけです。
すなわち、身体が要求していないのに好中球を増加させている状態がCMLと考えることができます。


CMLは、骨髄増殖性疾患のひとつで、中年以降に多く、末梢血におけるBasoの増多を 特徴とします。これは血液検査所見上とくに異常がなくても、白血球分類でBasoの増加が認められたら、 とりあえずCMLを疑ってみる必要がある、というくらい特徴的な所見となります。

CMLの症例のうち95%以上に、Ph(Philadelphia)染色体の異常を認めると言われておりますが、 100%に認められない理由としては、まれに染色体転座の再構築が起こり、 遺伝子レベルで転座による異常が認められるにも関わらず、染色体上の異常を認めない例がある事が報告され、あとはCMMoL(慢性骨髄単球性白血病)やCNL(慢性好中球性白血病)のような疾患を CMLと(誤診?)した症例が含まれいるのではないかと考えられます。


血液細胞は造血幹細胞から分化して作られます。CMLは急性白血病と違い、細胞の形態異常はなく分化は正常に進みます。 このことは各成熟段階の細胞が認められるというCMLの特徴となっています。 違うのは、造血幹細胞の増殖が正常より盛んなことで、そのためそれ以降の分化した細胞も増加してきます。
つまりCMLの造血幹細胞は身体の要求に関わらず増殖し、それぞれの造血幹細胞はそのまま分化の過程に入っていく 状態と考えることができます。


造血幹細胞が増殖する疾患群にはCMLの他に、
真性赤血球増多症(polycythemia vera=PV)
原発性骨髄線維症 (primary myelofibrosis=PM)
原発性血小板血症(essential thrombocythemia=ET)
があります。

白血球系の分化が進めばCML、赤血球系に進めばPV、血小板系に進めばETという具合に考えれば 覚えやすいのではないでしょうか。


CMLは、臨床経過にも特徴があります。

発症についてはまだ詳しいことが分かっていませんが、発症してPh染色体が出現します。
そしてまずBasoが増加します。Basoの増多が真っ先にくることが重要です。血液検査やその他の検査所見にとくに異常がなくても、Basoの増多を認めたら、とりあえずCMLを疑ってみるというのは、こういう理由からです。
続いてNAP活性の低下、白血球(顆粒球)の増加が起こります。ここまでくればはっきりした異常となって顕れ、診断がつきます。
白血球の増大と同時に崩壊の度合いも増えて、溶出したビタミンB12が血清中に増加します。崩壊した血球を処理するため脾臓が腫大します。
このような経過は慢性的に進行しますが、やがてさらなる染色体異常が加わり、急性転化をきたすと考えられています。


ここで、これまでに話の随所に出てきた染色体異常ですが、簡単におさらいしておきましょう。
ヒトの染色体は22対(つい)の常染色体と2本の性染色体の合計46本あります。もうご承知のことと思いますが、性染色体にX染色体とY染色体があって、その組み合わせで性別が決まります。男性はXY、女性はXXです。(本当は、染色体で決まるわけじゃないんだけど、ここでは、こうしておきます。)

染色体検査では、正常な染色体は 46,XY (男性) と表記します。 46 は、染色体の総数、 XY は、 性染色体を表しています。「染色体の数」と「性染色体」で表記すると分かればOKです。


各染色体には必ず「着糸点(接合部)」があり、ここより短い方を「短腕」といい 「p(ぴー)」で表します。 長い方は「長腕」といい「q(きゅー)」で表します。
染色体をギムザ染色で染めると、濃淡の縞模様が現れます。これをGバンドと言います。
この縞模様を基に大まかな番地と縞模様ごとに細かい番地が付けられています。番地は着糸点から数えられるように付けられ、「p25(ぴー、にい、ご)」のように表した場合は、「短腕の大まかな番地が“2”、細かい番地が“5”」というわけです。

これは個々の染色体のどの部位に異常があるかを表すのに使われます。


それでは実際にある染色体異常例を2、3例を挙げて説明してみましょう。

まず、染色体の表記は、「47,XY,+8」の場合。
これは染色体自体には異常がなく数に異常がある例です。第8番染色体(Ch8)が 正常より1本多く3本あるもので「トリソミー(trisome)」といいます。
染色体が1本多いので、総数は「47」となります。 この例では男性ですので性染色体は「47,XY」。これだけでは数に異常があることは 分かりますが、どの染色体が増えたのか分かりません。この場合ではCh8が1本多いので、 「47,XY,+8」として表します。

次は、色体表記法では 「46,XY,del(17)(p13)」の場合。
染色体の一部が抜けてなくなる異常で「欠失(deletion)」と呼ばれる例です。
「染色体総数は46本、男性で、Ch17のp13で deletion(欠失)が起こっている。」 という解釈になります。

今度は、染色体表記法では「46,XY,inv(16)(p13q22)」の場合。
染色体の頭と尻尾が入れ替わる異常で「逆位(inversion)」といいます。
この場合は第16番染色体(Ch16)の短腕(p13)と長腕(q22)の位置で入れ替わってしまっている例です。


さて、問題のCMLの場合ですが、第9番染色体(Ch9)の長腕(q34)と、 第22番染色体(Ch22)の長腕(q11)が入れ替わっています。このような異常を 「転座(translocation)」といいます。
このようにふたつの染色体にまたがる場合は、「;(セミコロン)」で区切って、 ふたつの染色体を表わし「46,XY,t(9;22)(q34;q11)」のように表します。

Ch9のq34には「ABL(エーブル)」という遺伝子があります。一方、Ch22のq11には「BCR(ビーシーアール)」と遺伝子があり、 転座によって、Ch22上で「BCR/ABL遺伝子」を作ります。このBCR/ABL遺伝子によって異常蛋白が合成され、造血幹細胞の異常増殖を引き起こしてCMLという病態を作っています。


CMLの診断はまず「各成熟段階の白血球が著明に増加していること」、さらに「Basoの増多」は強い根拠となります。「PLTの増多」は白血球の増多が激しいときは 逆に減少することもありますので、一概に言えませんが、PLT増多はCMLを疑う強い根拠になります。
「末梢血のNAP活性低下」を確認すれば、ほぼCMLと診断がつきます。
確定診断には「Ph染色体を証明すること」が重要ですが、PCR(遺伝子検査法)が発達した現在では「BCR/ABL遺伝子」を証明することが さらに重要になってきます。
「ビタミンB12の上昇」は血球が崩壊している所見として参考になるでしょう。


CMLは比較的診断しやすい疾患とはいえ、それでも鑑別すべき類縁疾患はあります。

まず骨髄増殖性疾患群の「真性赤血球増多症(PV)」、「慢性骨髄線維症(MF)」「原発性血小板血症(ET)」は、造血幹細胞の増殖異常によるものという点で似ています。これらではNAP活性の低下を認めないことから鑑別できます。また反応性に白血球の増加が著しい 類白血病反応ではNAP活性は上昇していることから鑑別できます。
CMLと似た疾患として「慢性好中球性白血病(CNL)」があります。同じ顆粒球系の増殖異常をきたす点で 非常に似ていますが、CNLではPh染色体を認めない点で鑑別が可能です。
「急性リンパ性白血病(ALL)」の中にPh染色体陽性のものがあります。
ABL遺伝子の切断部位の違いによるもので、ALLのPh染色体の場合は、M-BCR遺伝子と呼ばれています。従って遺伝子レベルでの鑑別が必要になります。



ふぅー、
やっと、“慢性”の治療まで来ました。グリベックの出番です。

◎治療

T慢性期の治療
慢性期には脾腫や白血球増多によるいろいろの症状がみられるものの、生命を脅かすほどのものではなく、ハイドロキシウレアかブサルファンで治療することにより、白血球を正常範囲にコントロール可能であり、患者さんは診断後4年前後は全く正常の日常生活が送れます。大規模の比較研究の結果、ハイドロキシウレアの方が予後がよいことが判り、専らこちらが使われますが、急性転化の阻止はできません。血小板のコントロールがうまく行かない症例には、ニトロソ尿素系のラニムスンやナイムスチンが用いられます。 
インターフェロン(IFN)も有効で、約75%で血液学的寛解が、約50%でPh染色体陽性細胞すなわち腫瘍細胞の減少を認めます。Ph染色体の減少例の予後は良く、約20%にみられる完全消失例の8年生存率は90%近いと報告され、IFNは慢性期の第一選択薬になりました。IFNの長所は抗がん剤と違って、薬剤を中止すれば白血球等が直ぐ回復する点にあり、したがって、薬剤を十分効かせることが出来る所にあると思われます。IFN療法が生存期間延長にどの程度寄与するかは、今後も観察が必要ですが、有効例には長期間続けた方が良いようです。 

骨髄移植療法は現時点では治癒をもたらす第一選択の治療法です。40歳以下あるいは合併症などがなければ50歳以下でHLAの一致する家族ドナーがいれば、絶対適応となります。50歳以下の慢性期の慢性骨髄性白血病に同胞からの移植を施行する事により、50%〜60 %の長期生存が得られます。しかし、一方では移植後に起こるGVHDや間質性肺炎等による移植関連死が約30%あり、場合によっては、命を短くします。最近では、短期の移植関連死は少なくなっていますので、家族ドナーがいれば早めに施行すべきでしょう。 

50歳以上の患者さんや50歳以下で家族ドナーのいない場合、まずハイドロキシウレアで白血球を減らした後、IFNを中心とする薬物療法を行い、IFNが無効の場合や一時効いた IFNが効かなくなった場合には、骨髄移植療法を行います。非血縁ドナー移植は家族ドナーからの移植に比べGVHD等の合併症や移植関連死も多いことより、どの時期に行うべきかは議論のあるところですが、一般的にはIFN無効例に行うべきでしょう。 

最近、慢性骨髄性白血病の原因となっている異常融合遺伝子BCR/ABLが作るチロシン・キナーゼ活性を特異的に阻害する経口薬が開発され期待されています。活性化されているチロシン・キナーゼのために死ににくくなっていた白血病細胞が、この薬の作用でアポトーシスを起こして死んでゆくのです。日本でも、平成12年の春より厚生省の認可を求めての治験が開始されます。(2001/04/27 日本で承認申請が出されました。05/11プレスリリース)副作用もほとんどなく、Ph染色体陽性細胞も減少し、異常遺伝子に向けられた極めて有望ながんの分子標的治療薬(この言葉覚えてね)です。慢性骨髄性白血病に対する治療法を根本から変えるかもしれないというほどに期待されています。そして、アメリカでは、5月10日にFDAより、異例の早さで承認されたことは、ホームページのトピックスでお知らせしたとおりです。

現在のところ、移行期の慢性骨髄性白血病には骨髄移植療法しか治癒の得られる治療はありません。急性転化した場合は典型的な急性白血病と異なり薬物療法には抵抗性であり、骨髄移植もほとんど期待できません。 
したがって、慢性骨髄性白血病では急性転化させないよう治療を続けることが必要です。


◎経過と予後 

化学療法のみでは通常診断後約4年で移行期を経て急性転化し死亡します。家族ドナーからの骨髄移植療法により50%以上は長期生存します。IFNが奏効してPhが減少する症例の予後は骨髄移植療法に匹敵しています。 




慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia, CLL) 

理由は不明ですが、CLLは欧米に比し日本では1/10程度の発症率しかない稀な白血病です。高齢者に多く、発症は緩やかであり、進行しないと症状は現れません。微熱、夜間盗汗、倦怠感、リンパ節腫大等を主訴として医師を訪れ、検査の結果診断されることが多いのですが、最近では、定期健康診断や他の病気の検査時に、白血球増加が見つかり、偶然発見されることの方が多くなっています。全身のリンパ節腫大、扁桃腫大、肝・脾腫がみられ、進行例では貧血や血小板減少をみます。治療は日本では市販されていない、クロラムブシルを使いますが、最近、それよりもよく効くフルダラビンが作られ、平成11年末より日本でも市販されました。 


成人T細胞白血病・リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma, ATLL)

慢性リンパ性白血病とは逆に我が国に特徴的に多く、レトロウイルスHTLV-1により発症し、母乳による母子間、夫から妻への夫婦間や輸血で感染します。流行地の九州南部、沖縄、五島列島などの長崎県西部、南四国では地域によっては25%近い感染率を示し、これらの地域の出身者を中心にわが国の大都市でも0.7%程度の感染率があります。ウイルス感染者がすべて発病する訳ではなく、先に述べたごとく、発がんのきっかけになっている訳です。感染者千数百人より年間一人の割で発病しています。末梢血中に白血病細胞が10万 /μL以上に増加していても、骨髄生検では骨髄中に白血病細胞の見られない症例もあり、最初の定義で述べた白血病とは異なります。そのため、骨髄外原発の悪性リンパ腫が白血化したものと理解するのが妥当であり、そのため成人T細胞白血病・リンパ腫と呼ばれるようになっています。 

4型に分類され、急性型は定型的なATLLで、末梢血中に核にクローバ様の分葉や切れ込みのある特徴的な細胞が出現し、リンパ節腫大、皮疹、肝・脾腫、高カルシウム血症や免疫能低下による感染症を伴い、予後は不良で通常1年以内に死亡します。慢性型は急性型へ転化しないかぎり予後は良好です。くすぶり型では白血球数は正常ですが、異常細胞は見つかります。悪性度は低く長期の経過をたどります。リンパ腫型は悪性リンパ腫であり、急性型へ移行しやすく急性型についで予後不良です。HTLV-1抗体陽性、特徴あるリンパ球の出現、出身地などにより診断は容易です。 

ATLLは薬物治療に抵抗性であり、スタンダードな治療法はありません。悪性リンパ腫と同様に治療しますが、免疫不全状態がより強いために合併症が多発するため、強力治療が行えません。中・高年者に発症することから骨髄移植療法もほとんどできません。ソブゾキサンやペントスタチンが有効な症例も一部あります。 


骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS) 

骨髄異形成症候群は、骨髄では造血細胞は十分生産されているにもかかわらず、末梢血液中ではむしろ赤血球・白血球・血小板が減っている病気です。骨髄中の血液細胞は形態学的に異形成すなわち出来損ないのような形をしていますので、骨髄異形成症候群という難しい名前が付けられています。若年者や小児にも見られるものの、高齢者に多い病気です。
しばしば急性白血病に移行することより、その本態は幹細胞レベルでのがん化によるものと考えられています。したがって、前白血病状態とも説明されます。がんであるとの根拠はMDSの半数以上に染色体異常があることと、白血病のように一個の細胞から増えているというクローン性が証明されているためです。 

末梢血や骨髄の芽球比率や骨髄中の環状鉄芽球比率により、白血病の分類のところで示したように5種類に分類します。芽球が5%未満と比較的少ないものを不応性貧血(RA)と環状鉄芽球を伴う不応性貧血(RARS)に分けます。つぎに芽球が5%以上となったものを芽球増加を伴う不応性貧血 (RAEB)とし、さらに芽球が20%以上になるとRAEB in transformation(RAEB-t)とします。また、単球増加を伴うものを慢性骨髄単球性白血病(CMMoL)とよびます。 

MDSはすべて急性白血病に移行する訳でなく、移行率は10〜20%と言わています。しかし、血球減少症のための感染症や出血などによる死亡される患者さんもあります。生存期間は中央値で3〜5年程度ですが、10年以上の長期生存例もみられます。一般的にRA,RARSの段階で留まるならば予後は比較的良好ですが、芽球の増加するRAEB,RAEB-T やCMMoLは現在は治療には難反応性であり予後は不良です。 



以上で、本日はおしまいです。久々の大型商品で、まさに“特効薬”と呼んでも良い白血病治療薬が登場しましたので、ForPclubで取り上げないわけにはいかなくなりましたので、急遽、十分な準備もなくやってしまいました。

白血病に関して、たったの2時間程ですべてを網羅することは不可能です。今回は表面をサササァーッと流したに過ぎません。ポイントは押さえたつもりでいますが、大事なところが抜けている可能性もあります。

これを機会に、深く勉強したくなった人は、遠慮なく声をかけてください。山のような資料を差し上げます。