やさしい呼吸器系疾患(入門編)
2001.9.26 Mitsuyuki Ohno
呼吸器疾患は、循環器、消化器と並ぶメジャーなのに、茫漠としており取っ付きにくいということを耳にしますが、なぜでしょう。そもそも、呼吸器の臨床の特徴は何でしょうか。
第1は、なんといっても呼吸器疾患の種類の多さでしょう。肺感染症、気管支喘息、COPDと慢性気道感染症、間質性肺炎、過敏性肺炎などのアレルギー性肺疾患、膠原病肺、じん肺症、肺循環障害、肺腫瘍と、外因的にも内因的にもきわめて多種多様です。それは、呼吸器系がガス交換臓器であることに由来する宿命ともいえます。肺はヒトの臓器のなかで最も直接に広く外界に曝(さら)されており、そして我々生物が、生命維持に必要欠くべからざる酸素を体内に取り込み、エネルギー代謝によって発生する炭酸ガスを外界に放出するという基本的な役割を担っています。そして、その肺を守るための精緻な防御系は同時に炎症・免疫反応の場でもあります。さらには、心臓と直列の血流配置のために全身の影響を受けやすいといった理由であります。
第2の特徴は、こうした疾患の種類を縦軸とすれば、横軸ともいうべき基盤となる学問領域も、当然のことながら多岐にわたっていることです。病理学、生理学、免疫学、といった病因・病態を理解するための学問だけでなく、診断・治療に直結する画像診断、気管支鏡、呼吸管理、抗生物質や抗癌剤の使い方など、技術面でも学ぶべき分野は実に広いといえます。
呼吸器系疾患について短時間で勉強することはとても無理なことなのですが、本日の勉強会では、その入門編ということで、時間の許す限り、下に示したような項目について、順を追ってレクチャーしたいと思います。
第一部
呼吸器系の構造と機能
■1.肺・胸部の構造と弾性
■2.気管より肺胞までの構造
■3.気管支と肺胞の機能
■4.肺気量分画
■5.肺気量分画の変化
■6.動的肺機能
■7.肺胞気ガス組成
■8.血液中の酸素
■9.酸素の運搬
■10.酸素運搬の異常
■11.低酸素血症に対する生体反応
■12.炭酸ガスの運搬
■13.おまけ:過換気症候群
第二部
呼吸器系疾患の診断
■1.身体所見
■2.形態学的診断
■3.機能的診断
■4.病理、細菌、血液検査
第三部
呼吸器系疾患の病態
■1.急性上気道炎
■2.急性気管支炎
■ CDCと米国小児科学会---新たな小児科診療ガイドライン
■3.肺炎
■4.間質性肺炎
■5.肺線維症
■6.気管支拡張症
■7.慢性肺気腫
■8.慢性気管支炎
第一部
呼吸器系の構造と機能
■1.肺・胸部の構造と弾性
『肺とは形態的にはどの様な臓器でしょうか』という質問に対し、おおかたの人は、『胸の中に左右一個ずつ有り、風船のように膨らんで、ぶよぶよした臓器です』と答えるでしょう。しかし、実際亡くなられた方の解剖などでお目にかかる肺は、くすんだ赤またはピンク色をしており、“たらこ”のような感じの小さな臓器です。
これは、肺が大気圧中におかれると自然にこのような小さな形になろうとし、一方、胸郭内にある場合はこれと違って、胸郭自身が持つ物理的な力によって、大きく膨らむ性質を持っているからです。このように、何らかの力により、長さや形状が変化し、その力を取るとまた元に戻る性質を“弾性”と呼んでいます。すなわち、肺は弾性を有する臓器であり、疾患により弾性が変化することで肺機能に大きな影響が生じることが知られています。
それでは、胸郭と肺との関係について考えてみましょう。
テレビのドキュメンタリーなどでアフリカのサバンナにおいて繰り広げられる弱肉強食のシーンをよく自にします。その中で、哀れにも内臓を食われたシマウマの胸郭(特に肋骨)が、妙に外に向かって広がっているのに気がついた方もいるのではないでしょうか。
胸郭は、束縛する組織や肺がなくなると、自然に外に向かって広がった形で留まる性質があります。すなわち、胸郭にも“弾性”があるのです。
ここで、肺と胸郭との関係を図で説明しましょう。
fig-1 は、胸郭を正中線で解剖した前後の断面模式図です。先に述べたように、肺は取り出すとしぼんで小さくなり、逆に、胸郭は拡大したところで止まり事す。実際の体の中では、これら2つの弾性体が
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fig-2 のように、逆向きの力を釣り合わせたところで止まっているのです。
すなわち、肺は外に出したときよりもずっと大きな体積へと膨らみ(空気で満たされる)、胸郭は内側へ引っ張られた形で止まっているのです。
このようにバランスが取れた状態、すなわち$安静呼気位(私たちが体の力を抜いて息をはいた状態)に、肺内にある空気の量を$機能的残気量と呼び、成人で約2.5〜3リットルあります。
■2.気管より肺胞までの構造
人は前述のような安静呼気位から、呼吸筋の力によって胸郭を拡張し肺内に空気を吸入するわけですが、その空気が通る道筋を気道と呼んでます。
fig-3 に示したとおり、口腔および鼻腔を通過した空気は、気管という直径1〜1.5cmのチューブに入り平均で23分岐したのち肺胞に達します。
16分岐までは、空気を運ぶだけでガス交換を行わないため、$導入気道と呼ばれています。
17分岐目の気管支には、肺胞が芽のように開いており、特別に$呼吸細気管支という名前がつけられています($移行帯)。そして、肺胞でできた管である$肺胞道を過ぎた後、$肺胞嚢で終わります。$呼吸細気管支以後の構造では、ガス交換が行われるため$呼吸帯とも呼ばれています。
さて、口腔及び鼻腔を含め導入気管支の体積は、皆さんが予想するであろう量よりもはるかに少なく、たった150mLしかありません。一方、呼吸帯の体積は、安静呼気位において2500〜3000mLもあります。すなわち、肺は、細いストローの先に大きな風船をつけたような臓器と言えます。
したがって、病変が導入気道に発生した場合の方が、呼吸帯に同じ量の病変がおこった場合よりずっと早くから症状が出やすいとともに、重症となるのも容易に理解できます。
サバンナで繰り広げられるライオンたちの狩りをみても、彼らが、本能的に導入気道を閉塞することにより肺機能を短時間で不能とし、獲物を死に至らしめているのも道理にかなったことと言えましょう。
■3.気管支と肺胞の機能
さてここで、気管支と肺胞の構造をもう少し細かく見てみましょう。気管から始まる中枢気管支は、
fig-4 のように、内腔が気管支上皮で覆われていますが、それを構成する細胞は主として、線毛細胞(線毛運動によって異物を咽頭へ運ぶ役目をする)、杯細胞(粘液を分泌し気道表面の潤滑と異物除去に役立つ)、基底細胞(他の上皮細胞が失われたときの予備細胞)より成り立っています。
その下方に、粘膜固有層を隔てて気管支平滑筋が周囲を取り巻いています。平滑筋は、その収縮により気管支内腔断面積を変化させ、空気の出入りの調節を行っています。この調節機構に破綻を来し、過剰な収縮を起こしたりする病気の一つに気管支喘息があります。
(ここで、質問です。どうして、気管支に平滑筋があるのでしょう?気管支を収縮させて空気の出入りを抑制しなければならないのは、生理的にどういう時なのでしょうか???動脈には血圧を維持する為に、平滑筋が備わっていて、これは、合目的なのだが・・・)
その下方には粘膜下支持組織があり、気管支腺が存在します。ここで分泌された粘液は、気道腔内に開口し異物の除去や細菌防御に役立ちます。その下方は気管支軟骨が取り囲んでおり、気管支がつぶれるのを防ぐ役目をしています。気管支が分岐を繰り返すとともに徐々に気管支軟骨と気管支腺が失われ、末梢気管支、特に膜様気管支と呼ばれるところでば、完全に腺や軟骨が消失し、直接肺胞で囲まれ、肺胞の拡張度が気管支内腔の開口度に大きな影響を与えています。
肺胞は、
fig-5 に示したように、肺胞上皮と毛細血管が組み合わさった構造をしており、特に肺胞T型細胞は、非常に薄い細胞質をもって肺毛細血管と接し(肺胞腔内と血管腔内の距離は平均1.5ミクロン)、酸素と炭酸ガスの交換を効率的に行っています。一方、肺胞U型細胞は、$サーファクタントという界面活性物質を産生し、肺胞が虚脱するのを防ぐのに役立っています。
■4.肺気量分画
ここまでは、呼吸器系の構造とそれに基づく機能に関して説明しました。ここからは、その機能を更に深く解説します。
『機能的残気量』というのは、肺と胸郭の弾性力が釣り合った状態の時、肺内にある空気の量の事でしたね。安静で息を吐いた時、すなわち筋肉の収縮がまったくなくなった状態、または、臨終の方が最後に息を引き取った状態がこれに当たります。さて、我々はこの状態から呼吸筋といわれる筋肉を収縮させて、外気を吸ったり吐いたりするわけです。
まず、吸気(息を吸う事)から説明しましょう。
吸気には、吸気筋と呼ばれる3つの筋群(@頚部の筋、A外肋間筋、B横隔膜)の収縮が必要となります。頚部の筋肉収縮(主として深吸気の時に働く)は胸郭を上方に持ち上げ、外肋間筋(肋骨と肋骨の間にある筋)の収縮によって胸郭は外方に拡張し、さらに横隔膜が下方に変位することで肺内に空気が流入します。
それでば、どこまで空気が流入すると吸気が止まるのでしょうか。
fig-6 の下図で示したように、いっぱいに空気を吸うと、肺が元に戻ろうとする力は機能的残気量の時よりずっと大きくなります(内向きの太い矢印)。これは、風船を大きく膨らました時、より一層元へ戻ろうとする力が大きくなるのと同じです。胸郭のほうは、自然な形を通り越して拡がるので、かえって縮まろうとする方向に力が働きます(内向きの細い矢印)。それを支えるのが筋力(外向きの太い破線の矢印)です。したがって、肺と胸郭をあわせた弾性力と吸気筋力が釣り合ったところで吸気は止まります。この時に、肺内にあるガスの量を$総肺気量と呼びます。総肺気量は、体の大きさによって異なるのみでなく、年齢とともに増加してゆきますが、若い人では約6リットルぐらいあります。
さて、今度は息をいっぱいに吐いた時のことを考えてみましょう。この時は呼気筋(@腹直筋、A内肋間筋)が収縮します。腹直筋が収縮すると、横隔膜より下の腹腔(肝臓、膵臓、大及び小腸などが入っている腔のこと)の圧が高くなり、横隔膜を上方へ押し上げ肺を収縮させます。また、内肋間筋(肋骨と肋骨の間にある筋肉ですが、外肋間筋と筋肉の走行が異なる)が収縮することで、胸郭が内側へ押し縮められて肺が収縮します。すなわち、これら2つの筋群の収縮で空気が体外へ排出されるのです。
fig-7 の下図で示したように、機能的残気量に比して、胸郭が広がろうとする弾性力(外向きの太い矢印)ば著明に増加します。肺は充分に小さくなり、大気中での自然な大きさに近くなるため、弾性力をほとんど発揮しません。したがって、呼気筋力(内向きの破線の矢印)と胸郭弾性力(外向きの実線矢印)が釣り合ったところで呼気ば終了するのです。
この時、肺の中にあるガスの量を$残気量と呼び、総肺気量の約25〜30%を占めます。機能的残気量は総肺気量の約40〜50%ぐらいです。
総肺気量と残気量との差が、皆さんもよくご存知の“肺活量”です。オリンピック体操選手の体格は平均的日本人と大きくは変わりません。しかし、彼らは非常に大きな肺活量を持っています。この理由の多くは、彼らが人並みはずれた筋力により、肺及び胸郭を大きく拡張及び収縮できるからです。このようにして、二つの弾性体と呼吸筋(吸気筋と呼気筋)との相互作用で、肺内外に空気が出入するわけです。
■5.肺気量分画の変化
肺気量分画は一種のポンプ装置である肺においてガスの量的分布(分画)の指標として主に換気されるガスや肺内に残存するガスの分布を表現するために用いられています。呼吸器系ではこの量的分布を表現するために標準基準委が設定され肺気量分画の基本となっています。
肺気量分画の各指標は換気機能障害を理解するうえで欠くことのできない基本概念であり、同時に障害の性質や程度も表現することができる指標として重要です。
fig-8 に肺機能測定結果を示します。最も左が健康人の安静呼吸、深吸気、および深呼気時のトレーシングです。安静時には、機能的残気量から約400〜500mL吸ったり吐いたりを繰り返しています(小さい波)。ここで、深呼吸をします。一気に吸い上げ、あるところまで行くと吸気が終了します(上向きの大きな波)。ここが総肺気量で、肺胸郭の弾性力と吸気筋力が釣り合ったところでしたね。
そこから一気に空気を吐き出すと、やはりあるところまで行くとそれ以上吐けなくなります(下向きの大きな波)。ここが残気量で、胸郭の弾性力と呼気筋力が釣り合ったところです。
次に肺の弾性が変化する典型的な疾患として、肺気腫と肺線維症を例に出し、肺気量がいかにして変化するかを見てみましょう。
肺気腫は、肺胞が煙草により破壊されることで、肺自身が柔らかくなる病気です。風船で言えば、ゴムがだんだん伸びてきてフニャフニャになった状態を想像していただければよいでしょう。fig-6 の上図(じょうず)を見てください。肺の弾力が失われるために、内側へ向いた欠印が小さくなったと想像してください。すると、胸郭が外へ広がろうとする矢印の方が大きいため、肺は外側へ引っ張られ、新しく釣り合ったところでは、風船の容量すなわち機能的残気量は増加します(fig-8 の中央)。
次に、いっぱいに吸った時はどうでしょうか?フニャフニャ風船ですから、いっぱいに吸った時、すなわち総肺気量も増加します(fig-8 の中央、上向きの大きた波)。また、息を吐いた時はどうでしょう。肺気腫患者さんは、肺のみでなく細気管支にも病変があり、正常人より細くなっているため、息を吐いていくうちにこれらの気管支が閉塞してしまい、それ以上息を吐き出すことができなくなります。すたわち、残気量が著明に上昇するのが特徴的です(fig-8 の中央、下向きの大きい波)。
次に、肺線維症の肺気量に関して説明しましょう。肺線維症は肺間質(肺胞細胞を支えている組織)に線維が沈着して硬くなってくる病気です。
風船で例えれば、ゴムが厚く、また、硬くなった状態と考えればよいでしょう。また、fig-6 の上図(じょうず)を見てみましょう。肺の弾性が上昇して、内側へ向く矢印が大きくなったと想像してください。内側へ向く矢印が外側へ向く矢印より大きくなるから、新しく釣り合ったところでの風船の容量、すなわち機能的残気量は著明に減少します。
同様に、総肺気量も著明に減少します。(fig-8 の右図)。残気量も正常より小さくなる傾向にありますが、機能的残気量や総肺気量の減少に比べると、その変化は小量に留まります(fig-8 の右図)。
■6.動的肺機能
さて、ここまでは機能的残気量、総肺気量、残気量という肺気量分画に関して説明しましたが、これらは安静呼気、最大吸気、最大呼気での肺内のガス量を問題にしているわけです(静的肺機能)。
次に、総肺気量まで吸った息がどのくらいの流量で体外ヘ呼出されるかという問題(動的肺機能)に関して説明しましょう。これも風船を想像するとよく分かります。
fig-9 は、正常、肺気腫、肺線維症を例にとってあります。正常では、いっぱいに空気を吸った総肺気量から一気に吐き出した場合、1秒間に呼出される空気の量($1秒量FEV1)は、肺活量の80%以上に達します(肺活量が4000mLなら、1秒量は3200mL以上)。
しかし、肺気腫では風船に弾力がなく(fig-9 の中央)、さらに流出する気道に狭い部分が存在するため、1秒量は肺活量の80%以下になり、重症患者さんにおいては30%にまで低下します。すなわち、このような患者さんでは呼出(息を吐くこと)に問題があり、強い息切れが生じます。
一方、肺線維症患者さんでは、風船の弾力が上昇するため、空気の流出はすばやく、1秒量は肺活量の80%以上になります。しかしゴムが硬いため、肺活量自体が正常人よりずっと小さく、1秒量そのものは正常人に比べずっと小さい値となります。特に重症な患者さんでは吸気(息を吸い込むこと)に問題があり、肺を十分に拡張できず、浅い呼吸を強いられることが常で、やはり強い息切れを自覚します。
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ピークフローメーターとは?
ピークフローメーターとはピークフロー値(最大呼気流量)を測定する簡便な呼吸機能検査器具です。ピークフロー値とは、吐く息の勢いが一番強い所の空気の流量で、気管支が狭くなるほど低下します。
喘息発作時には気管支が細くなり、空気の流れが悪くなっています。(気流制限)従来、気流制限の程度を知るために、呼吸機能、特に1秒量(1秒間に吐ける空気の量)を測定していましたが、医療機関でしか測れませんでした。
最近、わが国でもピークフローメーターが普及し、家庭や職場で気流制限の程度を簡単に測定できるようになりました。ピークフロー値(最大呼気流量)は1秒量と良い相関関係をもっているため、発作の程度や喘息のコントロール状態を、数値として客観的につかむことができます。糖尿病の血糖値、高血圧の血圧に相当するのが喘息のピークフロー値です。
測り方ですが、できるだけ深く息を吸いこみ、ピークフローメーターのマウスピースを口にくわえます。息がもれないように注意して、できるだけ勢いよく吐き出します。ピークフロー値を示す目盛を読みとります。これを3回くりかえし、最高値を記録していきます。吐く息の勢いが強いと目盛がより上がるようになっています。喘息の状態が悪く気流制限があると、吐く息の勢いが減るのでピークフロー値は上がりません。
ピークフローメーターは主に、患者自らが喘息の状態を客観的にモニターするために使います。症状がない正常時のピークフロー値と比較すると、気流制限の程度と喘息のコントロール状態が分かります。朝と夜のピークフロー値の変動が大きい場合は、喘息のコントロールが良くないと言えます。また発作の時には、症状が出る前に数値が落ちてくるので、より早く対処できます。医師と前もって決めておけば、数値の落ち方の程度によって対処内容を変える事もできます。他に、診断に使われたり外来で喘息をモニターするためにも使われます。
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■7.肺胞気ガス組成
ここまでは、肺気量(静的肺機能)及び一秒量(動的肺機能)について説明しました。ここからは、外気が呼吸によって体内に入った時、どのようにして肺胞さらには血液に到達するかを見てみましょう。
外気中には、大まかに酸素(O2)が21%と窒素(N2)79%が含まれています。また、大気圧は1気圧の時760mmHgを示します。この外気には、鼻、口腔を通過する際に水蒸気が加わり、その時の飽和水蒸気圧は47mmHgです(fig-10)。
(fig-10)
気管に入った空気自体の圧は外気と変わらず760mmHgです。また、酸素と窒素との割合(21:79)も変わりませんから、吸入気(気管に入った空気)のうち$酸素分圧(大気圧のうち、どのくらいが酸素で占められているか)は、(760−47)×0.21=150mmHgとなります。さらにこのガスが肺胞へ到達すると、そこでは酸素が血液側へ拡散し、炭酸ガス(CO2)が肺胞側へと拡散する動的平衡状態にあります。正常では、250mLの酸素が血液に流入するのに対し、200mLの炭酸ガスが肺胞へ流出します(1:0.8)。したがって、肺胞では酸素の分圧が、炭酸ガスの分圧を引いだ以上に(実際は肺胞気炭酸ガス分圧を先ほどの0.8で割った値)下がります。炭酸ガスは酸素に比べ拡散能力が20倍も高いために、肺胞中と動脈血の炭酸ガス分圧は同じです(正常で40mmHg)。したがって、肺胞気の酸素分圧は(150−40)/0.8=100mmHgになります。
一方、炭酸ガスと違って、酸素分子が肺胞から動脈側へ移行するには抵抗があり、実際動脈血中の酸素分圧(PaO2)は90〜95mmHgとなります。したがって、肺胞と動脈血との間には酸素分圧差が正常でも5〜10mmHg存在します。この差のことを$肺胞気動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)といい、後に述べる$シャント、$換気血流比の不均等、$拡散障害などの肺障害において増加します。
■8.血液中の酸素
酸素は毛細血管へ拡散した後に、一部は血漿に直接溶けますが(PaO2を95mmHgとした時、100mLの血液に直接溶けている酸素の量=0.003x95=0.29mL)、あとの大部分はヘモグロビンという赤血球中の蛋白質に結合します[100mLの血液中ヘモグロビンに結合する酸素量=1.34xHb mL(Hb;ヘモグロビン量、15g/dL)]。
赤血球が肺胞と接触している時間は約0.75秒といわれていますが、ヘモグロビンは fig-11
(fig-11)
で見られるように、約O.25秒で飽和度75%(静脈血の酸素飽和度)から飽和度100%(動脈血の酸素飽和度)へ変化します。すなわち動脈では1.34x15x1.0=20.1mLの酸素が100mL血液中のヘモグロビンに結合して移動するのです。
(もう少し詳しく知りたい人は、ホームページ Lecture ★血液ガスの基礎知識 を参照のこと)
■9.酸素の運搬
さて、ヘモグロビンに酸素が結合したとしても、それを運ぶ交通手段がなければ酸素を組織まで運ぶ事はできません。この役目を担うのが心臓です。心臓というポンプで血液は組織へ運ばれるのですが、運ばれる血液量は、“一回拍出量(心臓が一回収縮した時に流出する血液量)X心拍数”となります。
簡単な図を使ってこの関係を説明してみましょう(fig-12)。
(fig-12)
波止場で船よりの積み下ろしが換気に相当します。トラックの運行に相当するのが血流です。そして積み込まれた荷物にあたるのが、酸素の総量です。図中のHbはヘモグロビン量を示しますが、これは酸素を収納するコンテナと考えた方がわかりやすいかもしれません。
SaO2は酸素飽和度を示し、コンテナが何%荷物を積載しているかを示します。PaO2は酸素分圧を示します。また、心臓の一回拍出量にあたるのがトラックの荷台の大きさ、心拍数にあたるのがトラックの便数と考えることができます。
我々が日常生活を送っている状態、この図でいうと組織という工場が正常に稼動している状態において、工場は積み荷のすべてを使いきるわけではなく、コンテナに約75%の積み荷を残したまま波止場へ戻ってくるのです(fig-11、fig-13参照)。
■10.酸素運搬の異常
配達される酸素(積み荷)が少なくなる状態には、大きく分けて2つあります。
1つ目は、ヘモグロビン(コンテナ)が少なくなる状態で、貧血といいます。いくらすべてのコンテナが荷物(酸素)でいっぱいとなっても、コンテナ数が少なければ運搬される積み荷(酸素)の総量は増えません。
2つ目は、肺でヘモグロビンを充分酸素化できない状態、すなわちコンテナに十分な荷物が積み込めない状態です(低酸素血症)。それには、次の3つの病態があげられます。
◎第1番目はシャントです。これは、肺胞換気が欠如した領域に血流が存在すること、すなわち静脈血が肺で酸素化されないまま動脈血に混合することで発生します。fig-13 を見てください。
(fig-13)
工場で積み荷(酸素)を下ろしたトラックが、復路を波止場へ向かって走っていますが、波止場の手前にバイパスがあり、積み荷の少ないトラックCが往路へ流入したと考えたらよいでしょう。トラックAは、正常に換気されている肺胞からやってきているため十分に酸素を積んでいます。トラックAとCが混合するので、運ばれる酸素の総量は正常よりずっと少なくなります。このような事態を補正する目的で、酸素吸入を行った場合(波止場での積み荷を増加させた状態)、どうなるのでしょうか。
いくら積み荷が増えても、一台に積める荷物に制限があるためトラックAの積載量に変わりはありませんし、トラックCにも変化がないので、低酸素血症を補正することばできません。
シャントは重症肺炎や多臓器不全などに伴う呼吸窮迫症侯群などで見られます。
◎第2番目が換気血流不均等という状態です(fig-14 参照)。
(fig-14)
これは、換気に対して血流が多い状態、すなわちトラックの台数に比して船が小さいため、波止場におろされる荷物が少ない状態を示します。トラックは少ない荷物を積んだ状態で出発するのです(低酸素血症)。しかしこの場合は、酸素吸入で波止場に多くの積み荷(酸素)がおろされれば、トラックの積み荷も増える、すなわち低酸素血症が改善されるのが特徴的です。換気血流不均等は肺炎や細気管支炎などの時によく見られます。
◎第3番目は払散障害です。この状態は、肺胞から血流への酸素拡散に障害があることによって、低酸素血症を来す状態です。これは fig-15 のように、
(fig-15)
波止場からトラックまでの運搬距離が長いため積み込みに時間がかかり、また、トラックの停車時間が制限されているため(fig-11、血流と肺胞の接触時間はO.75秒)、充分積み込まないうちに発車してしまう状態と考えればよいでしょう。この場合でも、酸素吸入で船からの積み下ろしを多くすると、荷役人(にやくにん:沖中士)さんたちが一回に多くの荷物を運んでくれるため、トラックは満載され出発できるので低酸素血症は改善されます。拡散障害は間質性肺臓炎や肺線維症で特徴的です。
■11.低酸素血症に対する生体反応
さて、トラックの荷物が少ない場合、どのように体は対処するのでしょうか。工場の方は休むわけにはいきません(死んじゃう)。そこで、トラックの荷台を大きくしたり(一回拍出量を増加させる)、便数をあげること(心拍数を上昇する)でこれに対処します。実際、貧血や低酸素血症で、胸がドキドキするのはこれが原因です。また、いよいよ積み荷が少なくなると、帰りの便に残す積み荷を減らすことで、これに対処することもできます。酸素が足りなくなるから嫌気性代謝によって乳酸アシドーシスになり、酸素解離曲線が右側にシフトするアレです。Lecture 血液ガスの基礎知識を見た人は、おわかりですね。(静脈血酸素飽和度の低下)。(だから、代謝性アシドーシスにβブロッカーが使えない理由がわかりますね。)
ところが、運送会杜がストライキを起こす、すなわち心臓の働きが悪くなると、貧血や低酸素血症がなくても、工場はたちまち酸素不足に陥って体自身が動かなくなってしまいます。これが心不全といわれる状態です。酸素の運搬は肺だけの営みではなく、心臓との協力によって運営されていることが理解されたことと思います。
■12.炭酸ガスの運搬
一方、炭酸ガスについてはどうでしょうか。炭酸ガスば、ヘモグロビンに結合して運ばれるのが5%、血漿に溶けているのが5%、後の大部分が重炭酸イオンとして血中に存在します。
炭酸ガスと重炭酸の平衡は下の式のようになっています。
CO2 + H2O ⇔ H2CO3 ⇔ HCO3- + H+
組織で発生した炭酸ガス(C02)は水と結合して炭酸となりますが(右へ進む)、赤血球中では炭酸脱水酵素により、この反応は瞬時に行われます。そして、この炭酸が重炭酸イオンと水素イオンに別れて静脈血中に存在します。静脈血と肺胞の炭酸ガス分圧は、正常ではそれぞれ45mmHgと40mmHgのため、上の式は今度は左向きに進み、分圧差で炭酸ガスは肺胞へ排出されます。炭酸ガスは拡散能力が非常に高いので、血管から肺胞への移行は肺疾患でも末期にならないとほとんど低下しません。したがって、肺胞気の炭酸ガス分圧を規定するのは換気なのです。実際、動脈血炭酸ガス分圧は肺胞換気量に反比例します。すなわち、一回換気量が2分の1になり、呼吸数が変わらない場合は、動脈血炭酸ガス分圧は約2倍になります。
重症の肺気腫患者さんでは、呼気障害が強く、呼吸数が少なくなるだけでなく一回換気量も減ってくるため、動脈血炭酸ガス(HCO3-)が非常に高くなり、呼吸性アシドーシスという状態になります。一方、コンサートなどで興奮し、ハアハアして一回換気量が増えるだけでなく呼吸数も増加した場合は、動脈血炭酸ガスが急激に低下し、呼吸性アルカローシスという状態になり、ひどい時には失神してしまいます。
■13.過換気症候群
過換気症候群
概論
過換気症候群は、不随意的に起こる過呼吸発作(呼吸数および1回換気量の増大)により、体内での二酸化炭素(炭酸ガス、CO2)生産量を超えて二酸化炭素(炭酸ガス、CO2)が過剰に排出されるために、血中の二酸化炭素(炭酸ガス、CO2)が減少し、さらに血液がアルカリ性へと傾く状態(呼吸性アルカローシス)となる。それにより全身の様々な臓器に多彩な症状を呈する。一般的に過換気症候群は心理的、情緒的不安定性(家庭や仕事でのストレス、人間関係の不均衡など)が原因となる。若い女性に多く、25歳以下が70%以上を占める。
病態生理
過換気症候群の発症には、運動、疲労、入浴後、暖かい部屋、発熱、飲酒、注射、手術などの身体的要因や、興奮、怒り、沸泣、不満、恐怖、失望、悲観などの心理的要因などが契機となることが多い。この状態では呼吸促進やため息が起こりやすく、それらは本来は心的緊張から自らを救う手段となるが、習慣化すると過剰反応としての過換気発作が自然に形成される結果となる。発作が起きると過剰な呼吸により動脈血炭酸ガス(CO2)分圧が低下する。さらにこれにより血液中では次の反応 Hイオン+HCO3イオン→H2CO3→H2O+CO2 が起こり、低下した炭酸ガス(CO2)の量を戻そうとする。このときに水素イオン(Hイオン)が使われ、それにより血液はアルカリ性へと傾き呼吸性アルカローシスとなる。これらによって以下に述べるような生体の様々な反応が生じる。
(1)中枢神経系:動脈血炭酸ガス分圧の低下は脳血管収縮作用をもつので、脳血流は減少し、さらに反射性に脳動脈の攣縮が起きて脳虚血となる。また、アルカローシスにより血液から脳の細胞組織中への酸素の移行が悪化する。この結果、意識水準の低下、失神などの中枢神経症状が生じる。
(2)循環器系:胸部痛、心電図変化が起こる。胸部痛の機序は低炭酸ガス血症に起因する肋間筋(肋骨の間の筋、呼吸するときに使われる筋)の痙攣、胃内に飲み込まれた空気による横隔膜(胸部と腹部を隔てる筋、息を吸うときに使われる筋)圧迫などとされている。
(3)筋肉症状:アルカローシスにより筋肉内のKイオンやCaイオンが低下し、筋硬直、テタニー症状が誘発される。
(4)末梢神経症状:アルカローシスによる全身および部分的な痺れや違和感を訴える。
臨床症状
(1)発作時:
呼吸器系、循環器系、消化器系、神経系症状と多種多彩な症状を呈する。発作性の過喚気に伴い、吸気性呼吸困難(息を吸うのが困難になる)、空気飢餓感、胸内苦悶感を訴える。呼吸性アルカローシスのため血清Ca値が低下し、四肢、口周囲のしびれ感、テタニー型全身性筋硬直などの知覚異常を認め、また意識障害、失神、けいれんが起こることもある。これらの症状がさらに不安、恐怖感を増強させ過喚気を促進させる。持続時間は30分から1時間と長く、症状が身体所見や臨床検査所見と一致しないことが多い。
(2)寛解期(発作が出ていないとき):
めまい、頭重感、胸痛、心悸亢進、全身倦怠感、腹痛、あくび等の不定愁訴が多く、これらの症状が憎悪、寛解したりして持続するが、特別な器質的疾患がみられないのが特徴である。
呼吸器系:呼吸困難、あくび、ため息
循環器系:動悸、頻脈、不整脈
消化器系:吐き気、嘔吐、腹痛、口腔内乾燥
神経系:めまい、頭痛、耳鳴り、手足の痺れ、視力障害、失神
筋肉系:振戦、テタニー、けいれん
精神症状:不安感、不穏状態
全身症状:疲労感、不眠
診断
(1)随意的にコントロール不可能な過喚気発作があり、呼吸性アルカローシスを呈する。
(2)呼吸性アルカローシスに関連した諸症状(テタニー型硬直性痙攣、めまい、意識障害など)がみられる。
(3)努力性過喚気(意識して呼吸をたくさんすること)により同様の症状が誘発できる。
(4)息こらえや紙袋を用いての再呼吸法(paper bag rebreathing)または5%CO2ガスの吸入によって症状が急速に改善する。
(5)多彩な臨床症状と関連する原因となるべき器質的疾患がない。
治療
(1)発作時:
呼吸困難感や呼吸性アルカローシスによる様々な症状に対し、心配のないことを説明して安心させ、ゆっくりとした呼吸をさせるようにすることが大切である。次に袋を用いた呼気再呼吸法(paper bag rebreathing)や5%CO2吸入により呼吸性アルカローシスの改善をはかる。また、ジアゼパムなどの精神安定剤が有効なことも多い。なおこれらの治療に際しては、低酸素血症に十分注意しなければならない。
(2)寛解期(発作が出ていないとき):
過換気症候群の中には発作を繰り返す症例や慢性化している症例もあり、これらの症例に対しては心身医学的見地から患者の不安や恐怖を除去できるようよく本症候群を説明し、発作時には慌てることなく、(a)呼吸を意識的に浅く遅くすること、(b)ペーパーバッグ法を試みることなどを指導し、過換気や呼吸困難感を患者自身がコントロールできる自信をつけさせることが重要である。また、深呼吸や呼吸数の多い呼吸を行わない呼吸法を習得することが有効であるとの報告や、ヨガによる呼吸訓練で炭酸ガス換気応答が改善したとの報告もある。
薬物療法としては、不安の強い症例に対してジアゼパムなどの精神安定剤が有効なことも多く、また交感神経症状が強い症例ではβ遮断剤の投与が有効との報告があるが、β遮断剤は気管支喘息では禁忌な薬剤であるため、使用に際しては十分な配慮が必要である。
おまけ。。。
「アシドーシス」という状態について、説明してみましょう
正常な人においては動脈血のpHは、7.36〜7.44の間に保たれるように調整されています。これが病的に酸性側に傾いてしまう(pHが低くなる)のがアシドーシスで、逆にアルカリ性側に傾いてしまうのをアルカローシスと呼んでいます。これらはさらに「呼吸性」と「代謝性」の二つに分類されますが、呼吸性アシドーシスというのは呼吸の障害などによって、炭酸ガス(二酸化炭素)の呼出が不十分となり、血液中の炭酸ガス濃度が上昇してしまったような状態を指し、もう一方の代謝性アシドーシスについては糖代謝系の障害などによって起こるもので、糖尿病性のケトアシドーシスや乳酸アシドーシスが含まれます。代謝性と呼吸性はアニオンギャップによって区別することが可能です。
また、近位尿細管における重炭酸イオンの再吸収障害による腎性アシドーシスもあります。たとえば Fanconi症候群 では腎臓の近位尿細管不全によって、重炭酸イオンの再吸収障害による腎性アシドーシスを呈します。
腎性アシドーシスの場合の検査所見は、特徴があり、代謝性アシドーシスでありながらアニオンギャップは正常であることが上げられます。そして、高Cl性アシドーシスです。(医学部の定期試験や医師国試などで、よく出題される。)
高カロリー輸液療法中のアシドーシスについては、代謝性のアシドーシスにあたるのですが、カロリーの多くを糖質として補給するような場合にはビタミンB1の需要が増大することが知られており、これが不十分だと糖質代謝が円滑に進まずに、アシドーシスを引き起こしてしまいます。もう少し詳しく説明すると、糖(グルコース)が代謝される経路として、まず解糖と呼ばれる代謝経路によって、最終的にピルビン酸を生成する流れと、さらにそれに引き続いてクエン酸回路(TCAサイクル)と呼ばれる代謝経路があります(そういえば高校の授業で習った、習ったなんて方も多いのでは?)。
この両者の経路によって、糖質1gは約4Kcalのエネルギーを得ることができます。この一連の代謝系において、ビタミンB1は後者のTCA回路で非常に重要な働きを持っている事が知られており、ビタミンB1が相対的に欠乏すると、後者のTCA回路が円滑に進まなくなってきます。ところが前者の解糖系からはどんどんグルコースが代謝されてくるため、結果としてピルビン酸が蓄積してしまいます。ピルビン酸は乳酸へと変化する経路もあり、結果としてアシドーシスを引き起こしてしまうというわけですね。
話は少しそれますが、これとよく似た状況として運動した後に体が酸性になって、筋肉痛を起こしてしまうというケースを思い浮かべて下さい。「スポーツの後にアルカリスポーツ飲料!」なんてCMをよく見ますが、これも同じように糖質代謝と無関係ではありません。先に書いた解糖系というのは、その過程において酸素を必要としません(嫌気的)。
ところがTCA回路は、酸素が必要な(好気的)代謝系なのです。激しい運動をする際には、多量の酸素とエネルギーを必要としますが、その需要に基づいてグルコースは、解糖系ではどんどん代謝されるものの、ハアハアゼイゼイの呼吸をしても、酸素は相対的に不足して、TCA回路は一時的についていけない状態が生まれます。すると先ほどのケースと同様にピルビン酸と乳酸が蓄積する状態が起こって一時的に酸性側に傾き、筋肉痛も起こるというわけです。「肉体疲労時のビタミンB1補給に○○○!」なんてCMも、TCA回路を円滑に進めるためにビタミンB1が必要という根拠から、宣伝されているかと思います(本当にそれだけのビタミンB1が必要な人は、それほど多くないとは思うけれど…)。
第二部
呼吸器系疾患の診断
呼吸系疾患の診断には、次の4つがその柱となります。
■1.身体所見
■2.形態学的診断
■3.機能的診断
■4.病理、細菌、血液検査
ここでは、これらの方法について重要な点のみを解説します。
■1.身体所見
(1)視診
患者さんの体型も診断の大きなポイントになります。肺気腫では、やせて顔が赤く、胸だけが膨らんだ体型であったり、慢性気管支炎で重症な患者さんは浮腫が著明で青黒い顔色をしているとか、肺線維症の患者さんの指先が太鼓の撥(ばち)のように膨らんでいるなど、それぞれ疾患に特有な体型で、初診時からおおよそ診断が予想されてしまう場合もあります。
低酸素血症の指標となるチアノーゼ(口びるや爪が紫色となること)も重要な所見ですが、実際、チアノーゼが見られるのば還元ヘモグロビン(酸化されていないヘモグロビンのこと)が5g/dL以上にならないと目で見てわかりません。
また、貧血によってヘモグロビンが少ない場合には、たとえ低酸素血症があったとしても、ヘモグロビン自体が少ないのでチアノーゼは出現しにくいし、逆に多血症といってヘモグロビンが多い状態では、わずかに低酸素血症が起こっても還元ヘモグロビン量が5g/dLを超えるため、チアノーゼが出現します。
(2)聴診
聴診は、集音性の高い聴診器で行われます。呼吸音は、チューブを空気が通る時に発する音(気管支呼吸音)と肺胞が充満する時に発する音(肺胞呼吸音)に別れます。
気管支呼吸音は高調で吸気より呼気に大きく聞かれ、肺胞呼吸音は低調で吸気のみに聞かれます。
これらの正常呼吸音以外に、さまざまな呼吸器疾患で出現する音のことを副雑音といいます。気管支が細くなる疾患、その代表といえる気管支喘息では、チューブの一部が細くなるため、笛の原理でヒューヒューという狭窄音(乾性ラ音)が主として呼気に聞こえます。
肺炎では、吸気において、細気管支に空気が流入する時、浸出物がはじけパチパチといった音(湿性ラ音)が聴取されます。
■2.形態学的診断
(1)放射線を用いた診断
a)胸部単純X線撮影
肺疾患でもっとも頻繁に行われるのが、胸部単純X線写真です。胸郭・肺を通過する放射線が、組織の厚さ、密度や組織を構成する物質の原子番号に従って、透過性が変化する性質を利用して写真としたものです。空気が充満している為に組織密度の低い肺は透過性
が更進し黒く、密度と原子番号が高い骨は透過性が非常に低下するために白く、血液で充満し厚い筋肉で覆われた心臓も中央に白く写ります。
しかし、単純X線写真は、いろいろな臓器を放射線が通った時の総合として成り立つため、それら臓器の重なりあいを医師が解読しなければなりません。実際、正面写真では、肺の約30%が心臓や横隔膜に隠され見えないか、見にくくなります。
b)胸部CT検査
放射線の束を体の周囲に一周させ、透過した放射線をコンピュータで数値化し、体の輪切り像(2次元写真)を作製する方法です。この方法だと、2次元写真を胸郭の上方から下方まで撮影することにより、臓器の3次元構造を正確に知ることができるだけでなく、それらを再構築することにより立体画像を得ることも可能です。
(2)磁気を用いた方法
体に強力な磁気を与えて体内中の分子の方向をそろえた後、磁気を停止すると、分子はそれぞれ固有の方向へ固有の時間経過で戻ります。この原理を利用して、臓器の画像を作製するのが核磁気共鳴法(MRI)です。得られたデータはコンピュータ処理され、異なった断面での人体の輪切り像が得られるのが特徴的です。
この方法でば、X線を用いないため、放射線障害がないという利点がありますが、体内に金属を持っている患者さん(心臓ペースメーカー装着患者さんなど)では使用できません。
(3)放射性同位元素
a)RIアンギオグラフィー
放射性同位元素をアルブミンの塊に結合させ静脈注射することで、肺血管の詰まりを検索する事ができます。肺塞栓の検索に有用です。
b)Ga及び骨シンチグラフィー
Ga(ガリウム)が腫瘍に取り込まれることを利用して行う検査です。また、腫瘍が骨に転移したことを検索する目的で骨シンチグラフィーがよく使用されます。
(4)気管支鏡検査
気管支鏡はグラスファイバーの束や小型カメラを細い管で包み、両端にレンズを備えた構造をしています。接眼レンズ近くにある操作レバーにより、先端の角度を変えることができるため、枝分かれした気管支内腔を自由に観察できます。そして気管支にある炎症性病変、腫瘍性病変を肉眼的に観察できるため、病変診断に大いに役立ちます。
このほか、付属する側孔より細いワイヤーを挿入し、その先についた生検鉗子(組織をむしりとる道具)により気道粘膜や腫瘍病変を採取し、後に述べる病理学的検索を行います。
■3.機能的診断
(1)肺機能検査
既に第一部で肺気量分画、一秒量に関しては書いてますので、ここではサラっと行きましょう。
a)肺気量分画測定
@)総肺気量、機能的残気量
肺の弾性を診断するのに有用で、肺気腫で低下、肺線維症で増加します。
A)残気量
息をはききった時の肺気量で、肺気腫で増加します。
b)一秒量、一秒率測定
最大吸気より一秒間にはきだす空気の量を一秒量と呼び、肺活量に対する比率を一秒率と呼びます。一秒率は努力肺活量の何%を1秒間に呼出することができたかを表すのですが、これが70%を下回ると、気道が狭くて息が吐きにくくなっているということがうかがえます。1秒率はピークフローとは違って被検者の呼吸筋力にはあまり依存しません。強制呼出を頑張れば頑張るほど気管支の炎症を刺激してしまい、吐くのが辛くなるので、1秒率は悪くなります。
これらの検査は、気道の閉塞状態を知るのに有用で、気管支喘息、肺気腫などで著明に低下します。
また、気管支拡張剤や気管支収縮剤などを用いて、その使用前後の一秒量の変化より、気管支収縮の可逆性や気道過敏性を知ることができます。
★★余談ですが★★★
アセチルコリン、ヒスタミン吸入誘発試験 ---気道過敏性試験---
方法 ・・・日本では「アレルギー学会吸入試験標準化研究会」、「文部省吸入試験標準化に関する研究班」によって標準法が定められておりその指針に沿って試験は行われます。
これは、アレルゲン吸入誘発試験と同様です。
標準法に基づいてアセチルコリン、ヒスタミン、メサコリン、プロスタグランディンF2αなどを吸入します。
その前後で1秒量の変化を測定します。
その変化が、基準の1秒量から20%低下する時の薬物濃度を閾値(いきち)として求め、これを気道性過敏の程度を示す数値とします。
健常者の場合、この値は10,000μg/ml以上、喘息患者の場合93%の人は1,000μg/ml以下です。
つまり、健常者の方が、より多くの吸入に耐えられます。
★★★★★
C)拡散能検査
肺胞から毛細血管までの拡散能力を、一酸化炭素を用いて測定する方法で、酸素拡散能力の指標となります。肺線維症では、間質の線維化(肺胞と血管の距離の増加)により低下し、肺気腫では肺胞および毛細血管の破壊で低下します。
d)動脈血ガス分析
動脈血から血液を採取することにより、pH、PaO2(動脈血酸素分圧)、PaCO2(動脈血炭酸ガス分圧)を測定します。
低酸素血症の重症度の指標としてA-aDO2(肺胞動脈血酸素分圧較差)を計算し、酸素投与計画を立てるのに役立ちます。また、計算式より HCO3- を求めることで、酸塩基平衡の異常を検出することができるため、病態生理の理解及び治療方針の決定に欠かせない検査といえましょう。
(2)心電図、心エコー検査
肺が原因で、心臓、特に右心負荷を検索するため用います。慢性閉塞性肺疾患の進行に伴い、右心負荷が生じているかどうかの診断に有用です。
■4.病理、細菌、血液検査
これらはすべて患者さんより検体を採取して、検査室で行われる検査です。
(1)病理検査
喀痰、気管支鏡を用いて得られた組織及び細胞などを顕徴鏡下に検索し、病変の性質を決定する重要な検査です。特に悪性疾患が疑われる場合には、この検査の結果が確定診断のみならず、その後の治療方針を決める鍵となります。
(2)細菌学的検査
臨床の現場では、喀痰を用いた細菌検査がもっとも頻繁に行われます。喀痰をスライドグラスに薄く伸ばし染色して顕微鏡下に細菌を観察したり、特殊な培地(細菌を培養する寒天や液体のことで、一般細菌、真菌、結核菌で異なったものを用いる)の上に喀痰を塗って、成育した細菌の菌種を確認したり抗生物質の感受性を試したりします。
(3)血液学的検査
いずれも静脈血を採取することで検査をおこないます。
白血球の増加や炎症性蛋白の測定は、肺・気管支病変が炎症によるものかどうか判断したり、経過観察の指標になります。また、免疫グロブリン、特にIgEの上昇はアトピー状態といわれ、気管支喘息の診断に有用です。
ウイルス、クラミジア、マイコプラズマなどに対する抗体価は、これら病原体の感染後で上昇することが知られており、診断の決め手となります。また、肺癌のうち、異なったタイプの癌ではそれぞれ特有な物質の上昇が見られ、型別の診断に有用です。
以上で呼吸器系の構造と機能をざぁーと見て来ました。構造と機能を理解することにより、その診断の為の検査の意義も、すこし理解出来たことと思います。
せっかくここまで来たのですから、以上にで出てきた疾患をもう少し、掘り下げて理解を深めていきたいと思います。こうすることで、更に、薬物治療の理解も深まることでしょう。そうなれば、患者さんに“服薬の意義”も指導、アドバイス出来るようになるものと思っています。
第三部
呼吸器系疾患の病態
『疾患を、少し掘り下げて』と書いてしまいましたが、時間の限りもありますので、実は、簡単に説明していきます。ここでは、喘息の説明は省略します。喘息は、清水美奈子氏の資料を読み返してください。よくまとまってる資料ですので、今回の勉強会の後で、もう一度清水さんの資料を読み返せば、より、理解が深まるものと思います。
今回、せっかく、呼吸器系の機能と構造も勉強しているので、喘息に関して1つだけお話しておきます。治療に用いるβ刺激剤の副作用として、心臓への影響がまず第一に心配されますが、実は、病態によっては、低酸素血症という本末転倒な副作用も起きる可能性があるのです。
血管を拡張するため、肺毛細管を一律に拡張させて、低換気血流比の部分への血流を増大させるため、低酸素血症を招くという考え方です。頭の片隅にでも留めて置いてください。fig-30参照
(fig-30)
上気道とは、鼻腔・口腔・咽頭・喉頭を指します。そして声門より末梢、すなわち気管・気管支を下気道といいます。一般に、上気道には常在細菌といって百種を超える細菌が常に住んでいて、これらが互いに影響しあって安定した環境(いわゆる健康な状態)を形成しています。それに対し、下気道は正常では無菌状態といわれてます。
上気道に炎症が起こった場合を上気道炎、下気道に炎症が起こった場合を気管支炎と呼んでいますが、ここでいう、臨床的な炎症とはどのような状態を言うのでしょうか。
(好中球、好酸球、リンパ球、ケモカインなどの単語が出てくる生理学的な炎症とは違います。)
炎症とは次に述べる5つの症状を持つ状態の呼称です。
1.発赤(赤くなった状態)
2.熱感(熱がある状態)
3.腫脹(腫れている状態)
4.疼痛(痛い状態)
5.機能障害(該当する組織や器官がうまく働かない状態)
原因のいかんに関わらず上記の症状があれば炎症といいます。
■1.急性上気道炎
(1)概念
上気道に急性炎症が起こった状態を総称して言います。
一般に、風邪と称されるものの大部分がこれにあたります。炎症が上気道の中でも限局した場所に特に強く生じている場合は、その部位の名称を使い、鼻炎、副鼻腔炎、咽頭炎、扁桃炎、喉頭炎などと坪びます。
(2)原因
上気道炎でもっとも多いのは、やはりウィルス・・・・この辺は、省略しましょう。
診断、治療法も、省略します。
■2.急性気管支炎
(1)概念
下気道、主として気管・気管支に炎症が生じている状態を指します。細気管支に急性炎症が発生する病態は、主として小児に見られ症状も重症です。
(2)原因
急性上気道炎の原因と一緒で、ウィルス感染がもっとも多いといわれています。細菌感染では、マイコプラズマ、肺炎球菌、ぶどう状球菌、インフルエンザ菌、モラクセラカタラーリスなどが多く検出されます。
(3)診断
上気道と違って、下気道は直接観察することが不可能なため、その診断の第一歩は患者さんの示す症状を聞くことにあります。
下気道感染で特徴的な症状は、何といっても咳嗽と喀痰です。特に細菌感染性の急性気管支炎では、細菌と白血球と気道分泌物が混ざり合って生じた膿性痰が咳嗽とともに喀出されるのが特徴です。
ウィルス性気管支炎やマイコプラズマ気管支炎の場合は、必ずしも膿性痰が見られませんが、これらの病原徴生物は気道上皮の線毛細胞を破壊するために上皮が剥がれ落ち、それらが回復するまで、3週間以上にもわたって乾性咳嗽が続くことも珍しくはありません。
インフルエンザウイルスやマイコプラズマによる急性気管支炎の診断には、血清抗体価測定が有用です。細菌性の急性気管支炎においては、喀痰検査によって起因菌を同定することが診断および治療に役立ちます。また、胸部聴診では、肺炎と異なって湿性ラ音が聴取されることは少なく、胸部X線検査で肺炎像が見られないことも急性気管支炎診断の傍証となります。
(4)治療
一般的には、急性上気道炎の場合と同じで対症療法が主体となります。また、細菌性気管支炎が疑われる時は、細菌が下気道に進入し増殖しており、これら細菌を肺胞まで吸引した場合、肺炎の併発にもつながる可能性もあるため、細菌学的確定診断を待たず、早期より抗生剤を使用することが一般的です。
さらに、これら抗生剤に加え去痰剤が一般的に併用されます。非常に膿性痰が多く喀出が困難な場合は、気道分泌を促進させたり膿性痰の線維※を切断するような薬剤、例えばブロムヘキシンやアセチルシステイン(吸入しかないはず?アセトアミノフェンの解毒薬としても使える)などを、また、炎症によって変化した気道分泌液の性状を正常化する目的ではカルボシステインを、気道に潤滑(サーファクタント)を与えて膿性喀痰の喀出を計るためにはアンブロキソールなどを使用します。
(※ご存知でしょうか?一般的には、fiber=繊維 と書くのだが、医学用語としては、この繊維の意味で“線維”と書くのだ。理由は知りませんけどね。筋線維、神経線維を“繊維”と書いたら笑われますので注意しましょう。)
また、膿性痰の喀出障害に対し、ブロムヘキシンと生理的食塩水の混合液をネブライザーで吸入することも効果的だといわれています。
咳嗽に対してはリン酸コデイン、デキストロメトルファンといった麻薬性、非麻薬性鎮咳剤が併用されることも多いですが、咳嗽が本来異物除去を目的とした生体防御機構であることを考える時、その使用は極力控えることが望ましいと考えられています。特に高齢者では、咳反射が大幅に低下しており、それが原因で誤嚥性肺炎(口腔内の分泌物や食物を、下気道に誤って吸引することにより生じる肺炎)の頻度が上昇することが知られており、鎮咳剤の使用には特別の注意が必要です。一般には、強い咳漱のために夜間睡眠が妨げられるような場合や喀痰などの喀出が少ない咳嗽(乾性咳漱)を除いて、使用しない方が賢明でしょう。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪一休み?♪♪♪♪♪♪♪
CDCと米国小児科学会---新たな小児科診療ガイドライン
抗菌薬耐性に照準
〔ニューヨーク〕 米疾病管理センター(CDC、ジョージア州アトランタ)と米国小児科学会は『Pediatrics』(101:163-184)に、小児上気道感染に関する新しいガイドラインを発表した。
不要な抗菌薬処方の大幅減目指す
新ガイドラインの編集に当たったCDC呼吸器部門の疫学者Scott F. Dowell博士は、医師がこの新しいガイドラインに従えば、米国内で年間5,100万件にのぼる不要な抗菌薬の処方を大幅に減少でき、それにより薬剤耐性菌の発生管理に“大きな進歩”をもたらすとしている。
同博士は「正しい抗菌薬使用によって耐性菌の蔓延を抑制するのは、患者個人および地域にとって好ましいことであり、また実行可能なことである」と述べ、さらに「呼吸器感染菌の薬剤耐性は、よく見られる臨床問題で、その管理は日常診療の一部となっている」と指摘している。
同博士は「今回のガイドラインの個個の項目は、そのほとんどが特に目新しい内容ではない。ただし、それらすべてが 1 つのガイドラインにまとめられたのは初めてだ。医師からの反応は好意的だ」と述べた。「医師は、彼らが実行しようと努めてきたことが公的なガイドラインによって支持されたことを喜んでいる」という。
慎重な抗菌薬処方が急務
ピッツバーグ大学(ペンシルベニア州ピッツバーグ)で小児感染症を専門とするEllen R. Wald教授は、現在の状況を「公衆衛生の危機だ」と指摘する。
Wald教授によると、医師が抗菌薬を処方するのは、医学的根拠からよりも患児の親のプレッシャーによることが多い。さらに、医師は抗菌薬がなぜ不要かを患者や親に説明するより、処方せんを書くほうが都合が良いと考えることが多い。また、すべてを押さえておいたほうが安全だと考えるのかもしれない。
同教授は「ただし、ここ数年、抗菌薬の使い過ぎに伴う危険を取り上げた報道が増えたことで、大衆はかなり教育されてきた。医師は慎重な薬剤処方を行うべきだとの方向に流れは向かっている」と語った。
投薬不要な疾患の識別を重視
今回のガイドラインは中耳炎、咽頭炎、急性副鼻腔炎、咳嗽性疾患・気管支炎およびかぜの治療における抗菌薬の正しい使い方が取り上げられており、Dowell博士は新ガイドラインの主目的を、「抗菌薬治療が明らかに不要な疾患を、医師に“排除させる”こと」と説明した。
同博士によると、急性中耳炎(AO M)を滲出性中耳炎(OME)と区別することが最も重要な勧告の 1 つになっている。米国で中耳炎と診断・治療される患者の約30%を占めるOMEに対しては、抗菌薬投与は初期治療とされていない。しかし、CDCの資料によると、医師はOMEをAOMと鑑別しないことが多く、これが米国に年間700万件もの不要な抗菌薬処方せんを生む結果を招いている。
同ガイドラインの著者らは、全OMEの65%は抗菌薬を投与しなくても 3 か月以内に治癒することが研究で示されているとしている。
またガイドラインは、合併症を伴わない 2 歳以上のAOM患者への抗菌薬投与は、従来の10日でなく 5 〜 7 日でよいだろうとも指摘している。ただし、それより年少の小児については、5 〜 7 日投与が有効だとのデータはない。
AOMとOMEを区別するためには鼓膜を慎重に診査する必要があるが、Wald教授によると、これは困難かつ時間のかかる作業で、多くの医師、特に年輩の医師には無理である。
さらにガイドラインは、抗菌薬の予防投与は再発性AOM治療に限定するよう強調している。再発性AOMの定義は、6 か月間に 3 回以上の明らかで確実な症状の発現、または 1 年間に 4 回以上の症状の発現である。
かぜへの処方は不要
このほかに、かぜに対しては抗菌薬を処方すべきでないと断定していることも、同ガイドラインの重要なポイントだ。さらに、ウイルス性副鼻腔炎の自然経過の一部である粘液膿性鼻炎に対しても、病状が改善せずに10〜14日間持続しない限り、抗菌薬を使用すべきではない。
またA群連鎖球菌(GAS)咽頭炎に対する抗菌薬投与は、臨床検査で確認された場合に限定するようにと呼びかけている。GAS咽頭炎治療にはペニシリンを使用すればよい。
ウイルス性副鼻腔炎か細菌性かの選別を
さらに急性副鼻腔炎の項では、ウイルス性副鼻腔炎が、細菌性副鼻腔炎の20〜200倍の頻度で見られると述べ、このため医師は、細菌性の患者を選別したうえで、抗菌薬を投与すべきで、これが650万通の抗菌薬処方せんの低減につながる、としている。
小児の細菌性副鼻腔炎は、副鼻腔炎と咳の上気道徴候・症状が改善しないまま10〜14日間持続するか、39℃以上の発熱、顔面腫脹、顔面痛などさらに重篤な上気道徴候・症状が認められるのが特徴だ。
急性副鼻腔炎に対する初期治療では、病原菌と思われる肺炎連鎖球菌、インフルエンザ菌、モラクセラカタラーリスに有効な、スペクトルの最も狭い薬剤から始めるべきだと勧告している。
非特異的な咳嗽性疾患・気管支炎は発症期間に関係なく、抗菌薬治療が必要になることはほとんどない。しかし、まれに 5 歳以上の小児で10日間以上咳が続くような場合には、抗菌薬治療の適応となることもある。8 歳以上の小児にはマクロライド系またはテトラサイクリン系薬剤を使用してよい。他の点では健康な 5 歳以下の小児には抗菌薬を使用すべきではない。
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■3.肺炎
(1)概念と特徴
上気道炎のところで、炎症とはどのような病態であるかを説明いたしました。その炎症が肺実質に起こった場合を肺炎と呼びます。
肺は fig-31 で示すように、肺胞上皮細胞よりなる肺実質と肺毛細血管、結合組織などで構成される肺間質に分れます。一般的に、肺炎は肺実質に炎症が起こったものを指し、肺間質に生じた炎症は病態が異なるため間質性肺炎または間質性肺臓炎と呼んで区別します。
上気道炎と違い、肺炎の原因は圧倒的に細菌が占めますが、日常生活を送っている人に発生する肺炎(市中肺炎)と、他の疾患で入院中の人に発生する肺炎(院内肺炎)とでは、原因となる菌種が異なります。
市中肺炎は、グラム陽性菌(グラム染色で染まる菌)である肺炎球菌、ブドウ状球菌のほか、マイコプラズマ、クラミジア、インフルエンザ桿菌、モラクセラカタラーリスなどが起因菌の主体をなします。
fig-31
肺胞の構造。
肺胞上皮を構成するT型細胞とU型細胞が肺実質です。
ここに炎症が生じると、細菌を攻撃するために、白血球が肺胞腔に浸潤し浸出物とともに内腔を埋めます。このために、シャントや換気血流の不均等が生じ低酸素血症を来します。これらの浸出物は、咳漱とともに喀痰となって肺外に喀出されます。
これらの菌がいったん口腔、咽頭などで増殖し、これを吸引することで肺胞に沈着し炎症を発現するものと考えられています。また、数は少ないですが、市中肺炎はインフルエンザウイルス、アデノウイルス、麻疹ウイルス、水痘ウイルスなどによっても発症することがあります。特に、高齢者に発生したインフルエンザ肺炎は、しばしば重篤になるために恐れられています。
それに対し院内肺炎は、何らかの疾患で体力が低下した患者さんに発生する肺炎であり、市中肺炎の原因菌以外に、グラム陰性桿菌の代表である緑膿菌やセラチア、メチシリン耐性黄色ブドウ状球菌(MRSA)などの感染が増えます。その他の原因として挙げられるのが真菌感染です(カビによる肺炎)。カンジダ、アスペルギルス、クリプトコッカスなどが起因菌としてもっとも多いのですが、一般には非常に体カが落ちた患者さんや、免疫に障害を有するような病状の患者さんに二次的に発生することがほとんどです。
(2)診断
臨床病状としては、湿性または乾性咳嗽、発熱、呼吸数の上昇、呼吸困難などを示します。胸部X線検査では、一般細菌(マイコプラズマ、クラミジアを除く)に起因する肺炎の場合は、肺葉または肺区域に限局した浸潤陰影(雲のような淡い陰影)を認めます。一方、マイコプラズマ、クラミジア、ウイルスなどによる肺炎は、一般細菌性の肺炎と異なって、肺野にいくつもの肺炎像を作ったり、粒状影や線状・網状影といった間質性肺炎に見られるような陰影を示すことがあるため、異型肺炎とも呼ばれています。
一般細菌による肺炎の確定診断は、喀痰の塗沫・培養検査により起因菌を同定することによります。マイコプラズマ、クラミジア、ウイルスなどによる肺炎の場合は、血清抗体価の上昇が診断の決め手になります。
(3)治療
市中肺炎に罹患していても、合併症がなく外来通院が可能な患者さんの場合は、マクロライド系やテトラサイクリン系抗生剤が第一選択として使用されます。次に、合併症がある患者さん、または60歳以上の患者さんの場合は、第2世代のセファロスポリン系抗生剤や、耐性ブドウ状球菌の感染も考慮に入れて、アンピシリンに加えスルバクタムやクロクサシリン、オキサシリンなどを加えた合剤が投与されます。
さらに、入院が必要な患者さんの場合は、まず第2世代セファロスポリン系抗生剤を、また、院内感染においてグラム陰性桿菌による重症肺炎などの場合は、第3世代のセファロスポリン系抗生剤やカルバペネム系抗生剤が投与されます。
真菌性肺炎にはミコナゾールやフルコナゾールなどの抗真菌剤を、MRSA肺炎に対してはバンコマイシンの投与がなされています。
しかし、抗生剤の使用量に一致して耐性菌が増加することが報告されており、安易な使用は厳に慎まなければなりません。
■4.間質性肺炎(薬の副作用で良く死亡例が出るのがコレです)
間質性肺炎と肺線維症とは、厳密な意味では、同時に混在することがほとんどです。しかし、間質性肺炎は比較的急性に経過するのに対し、肺線維症は間質性肺炎に引き続き亜急性または慢性に肺に線維化が発生するか、あるいは、間質性肺炎の時期が明確でなく非常に慢性的に肺線維症に至るかのいずれかです。つまり、最終的には肺が硬くなり、肺線維症という予後不良の状態になります。
間質性肺炎の診断には系統的アプローチが必要であり、病歴として職業歴が重要です。診断のための検査には胸部X線写真、胸部CT、気管支鏡検査、呼吸機能検査、血液検査などがあります。そして治療は、成因別に考えることが重要であり、原因が明らかな場合は、まずそれを改善する必要があります。薬物治療の適応がある場合は、一般的にステロイド剤を用い、更に免疫抑制剤を併用することもあります。しかし十分な効果を期待できない場合もあります。
(1)概念
肺実質に炎症が生じた病態を肺炎と言うのに対し、肺間質に炎症が生じた病態を間質性肺炎と言います。
fig-32 を見てください。(A)は正常肺胞を示します。間質に炎症が発生すると(B)、血管の透過性が充進し血漿成分が漏出して浮腫を形成するのみでなく、好中球、単球、リンパ球などの炎症性細胞が間質に浸潤して、ケミカルメディエーターやサイトカインが分泌されるため炎症が増強されます。炎症が激烈であると、肺実質細胞であるT、U型細胞は障害されたり剥奪することもあり、内腔は血漿成分を主体とする硝子膜で覆われます。
気腔と毛細血管との距離が増加するために、拡散障害が発生するほか、肺胞が縮小したり虚脱することにより、換気血流比の不均等やシャントなどが形成され低酸素血症を生じます。
fig-32:間質性肺炎の病理組織像
(A)正常肺胞構造
(B)間質性肺炎像:炎症によって血漿成分が血管より漏出したり、炎症細胞浸潤が生じる。重症になると気道上皮が剥奪し硝子膜を形成する。
(2)病型
・原因の明らかなもの 薬剤性間質性肺炎、過敏性肺臓炎、放射線肺臓炎,じん肺、粟粒結核(結核菌が血行性に全身播種したもの)など
・原因不明のもの 特発性間質性肺炎(狭義の間質性肺炎)
・全身性疾患の肺病変 慢性関節リウマチに伴う間質性肺炎,サルコイドーシスなど
・その他 アミロイドーシスなど
a)薬剤性間質性肺炎
発生機序としては大別して、薬剤の細胞毒性によるものと、アレルギー反応によるものの2種類があります。
前者としては抗癌剤や免疫抑制剤があげられ、BCNU(carmustine)、ブレオマイシン、ペプロマイシン、シクロホスファミド、ブスルファン、マイトマイシンC、ヘキサメトニウムなどが代表的で、一般に予一後不良です。
後者としては、抗生物質の他PAS(パラアミノサリチル酸カルシウム)、INH(イソニアジド)、金製剤、ジフェニルヒダントイン、小柴胡湯などが挙げられます。
b)過敏性肺臓炎
V型アレルギーによって引き起こされる疾患です。原因となる抗原としては真菌(カビ)が最も多く、日本人の場合、トリコスポロンクタネウムによる夏型過敏性肺臓炎(夏季に多いため、そう呼ばれている)がその主体をなします。農夫、サトウキビ労働者、きのこ栽培業者に発生する過敏性肺臓炎は、好熱性放線菌(サーモアクチノマイセスヴルガーリス、マイクロポリスポーラーフェニー、カビの一種)によって引き起こされることが解っています。最近問題となったのは、これらの好熱性放線菌が空調設備や加湿器などに増殖し、これらを使用した時のみに発生する過敏性肺臓炎が報告されていることです。
C)微生物による間質性肺炎
インフルエンザウイルス、サイトメガロウイルス、ニューモシスティスカリニ、真菌などの感染時に発生することがあります。いずれも、肺実質の炎症も強いことがほとんどのため、重症化することが多いです。
d)膠原病に伴う間質性肺炎
慢性関節リウマチ、強皮症、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、皮膚筋炎などに多く見られます。全身疾患の一部分症として、間質性肺炎が発生します。
e)劇薬による間質性肺炎
パラコート(農薬)を自殺目的で飲んだ時は、激烈な間質性肺炎を来し、急激に線維化が起こります。また、塩素ガスを吸引した場合も同様に急速な間質性肺炎を来しますが、急性期を過ぎると線維化を残さず治癒することが多いです。
g)特発性間質性肺炎
本症は原因不明の間質性肺炎であり、病理学的には、炎症は主として肺胞隔壁に起こり、肺胞隔壁の肥厚、結合織の増加とともに蜂巣肺をきたし、肺構築の改変と縮小をきたします。
臨床的には、慢性型が多く、息切れと乾性咳嗽を認め、聴診上捻髪音(fine crackle)を聴取します。胸部X線上、小粒状・網状より次第に輪状(蜂巣肺)に変化し、多くは肺野の縮小を呈します。呼吸機能上、低酸素血症を伴う拘束性換気障害、拡散障害を認め、次第に呼吸不全にいたります。多くは緩徐に進行しますが、急性憎悪をきたすこともあります。死の転帰をとることが多い疾患です。
(3)診断
胸部X線検査においては、びまん性(肺全体に広がる)の粒状影、線状影、網状影、すりガラス陰影などを特徴的とします。胸部CT検査では、肺小葉に一致しない陰影の広がりをみせ、白い陰影の中に肺胞中の空気が黒く抜けたような陰影(air a1veo1ogram)が見られます。肺機能検査では、拡散能の低下が特微的で、病態が慢性化するとともに総肺気量や機能的残気量の低下も見られます。
薬剤性間質性肺炎の場合は、使用している薬剤をまず疑ってみることが診断の第一歩です。また、疑われる薬剤を中止して、病状が改善することも診断根拠になります。
過敏性肺臓炎は、原因となる抗原の血清抗体価の上昇や、経気管支鏡肺生検(気管支鏡下に肺実質を採取すること)で得られた組織中に肉芽腫を含む病変が見られること、また、気管支肺胞洗浄(気管支鏡より生理的食塩水を注入、採取した細胞の種類により診断の助けとする)でTリンパ球数の増加、特に、CD8細胞(細胞障害性リンパ球)の増加などで診断されます。また、抗原からの回避にて速やかに症状の改善が見られることも診断の助けになります。
微生物が原因の場合は、その微生物を検出することが診断の助けになります。また、ウイルス感染による場合は血清抗体価の上昇が見られます。
組織所見では、サイトメガロウイルス感染の場合の封入体( fig-33 )など特殊な場合を除いて、診断価値は低いです。
fig-33
核内に目のような紫色の封入体があるのがわかると思います。サイトメガロウイルスによる封入体です。侵される臓器としては、肺が最も多いですが、全身性に起きます。
膠原病が原因の場合には、気管支肺胞洗浄中の細胞分画が治療方針に影響を与えるので、これがしばしば行われます。疾患特異性はありませんが、リンパ球が増加しているタイプはステロイドホルモン治療に反応性が良いと言われています。
(4)治療
1)薬剤性間質性肺炎
原因薬剤の投与中止が基本となります。一般には、これのみで肺臓炎の軽快が見られ治癒に至りますが、炎症が重症な場合には副腎皮質ホルモンの投与が行われることもあります。
2)過敏性肺臓炎
抗原よりの隔離を行うと、症状は急速に改善します。アレルギー反応が病因であるので、抗生剤の投与は無効です。間質性肺炎が重症で酸素投与が行われることもありますが、そのような場合は副腎皮質ホルモンの投与が行われ著効を示します。
3)微生物による間質性肺炎
インフルエンザウイルスに対してはアマンタジンやザナミビルが著効を示しますが、サイトメガロウイルス、その他のウイルスによる肺臓炎では特効薬がなく、酸素投与や呼吸管理などが行われるのみです。ニューモシスティスカリニにはスルファメトキサゾール・トリメトプリムやペンタミジンを、真菌にはミコナゾールやフルコナゾールなどの抗真菌剤を用います。
4)膠原病に伴う間質性肺炎
原病の治療が主体となります。しかし、間質性肺炎のみが急激に悪化するような場合は、ステロイドの短期大量投与(パルス療法)が用いられる事が多いです。
5)劇薬による間質性肺炎
特に、パラコートによる間質性肺炎は進行を阻止することはほとんど不可能なため、低酸素に対しては酸素療法や人工呼吸器療法を行うのみです。
6)特発性間質性肺炎
根治療法が存在せず、対症療法が中心となります。慢性に緩徐に進行する場合にはとくに治療は行ないませんが、急性型や急性憎悪時にはステロイド療法が行われ、時に免疫抑制剤の併用を行う場合もあります。進行すると低酸素血症が必発ですので、患者さんのQOLを高めるために、酸素療法(在宅酸素療法を含む)が必要となります。同時に、心不全に対する治療も必要となります。また、高頻度に合併する肺癌を早期に発見し治療することが必要です。その他、急性憎悪を予防するために日常生活管理指導が重要です。将来的には、肺移植による根治治療が期待されています。
■5.肺線維症
(1)概念
間質性肺炎が遷延する過程で、fig-34 の(B)に見られるように、間質に線維化が生じ肺胞腔は徐々に狭窄してきます。
fig-34 肺線維症
(A)正常肺胞構造
(B)肺線維症像:炎症が消退したのち間質に線維化が生じ、上皮と血管との距離が増加する。また、肺胞の弾性が上昇するため肺胞自身は縮小する。
肺線維症とは、それらのうち慢性的に進行するものを言い、原因不明ではあるもののある一定の病態を示す、びまん性間質性肺炎・肺線維症(Usua1 Interstitia1 Pneumonitis:UIP)、また、UIPには当てはまらないが臨床的および組織学上ある特徴を持つタイプの肺線維症(Nonspecific Interstitia1 Pneumonitis、NSIP)、原因が推定できるタイプ、さらには、これらのどれにも当てはまらないタイプなどがあります。
1)UIP
厚生省の難病にも挙げられている疾患で、患者さんは労作時呼吸困難、咳漱を主訴として医療機関を受診することが多いです。患者さんの手指の先端は太鼓の撥状に膨れていることが多く、胸部聴診では背下部に乾性ラ音(マジックバンドをはがす時のバリバリした音)を聴取します。症状が進むと、労作時にチアノーゼを見ることもしばしばあります。
胸部X線やCT写真では、びまん性に線状、粒状影が特に中下肺野にみられ、横隔膜上の肺野には蜂窩状(ほうかじょう)の陰影(蜂の巣のような輸状の陰影)が見られるのが特徴的です。
肺機能検査では、総肺気量、機能的残気量や肺活量の低下など拘束性障害が見られます(fig-8 を参照)。また、拡散能は病気の進行とともに低下を示します。
気管支肺胞洗浄では、好中球が有意に上昇している例が多く、肺生検組織標本は間質性肺炎より線維化が著明な部分までが混在します。
2)NSIP
UIPのような決まったパターンの進行、または胸部X線像をとらない一群の肺線維症を呼びます。病理所見では、比較的障害が時間的に均一であるという特微を持っています。これらの疾患も原因が明確ではありませんが、膠原病に伴う肺線維症の一部などもこれに含まれるものと考えられています。
診断は、UIP同様、胸部画像診断と肺組織検査によりますが、治療の反応性がUIPと少し違うと言われています。
3)原因がある程度明確な肺線維症
炭鉱労働者や採掘労働者などに見られる塵肺症は、肺線維症の原因となります。また、膠原病の中では硬皮症や慢性関節リウマチも肺線維症を合併することがあります。
サルコイドーシスも、間質性肺炎を経た後、肺線維症を来すことが知られています。胸部X線やCT写真でも特徴的所見はなく、組織学的検査も非特異的線維化所見しか得られません。しかし、原病の経過から診断は比較的容易です。
4)その他の肺線維症
上記3タイプの分類もあくまで画像または病理学的診断であり、今後、原因が明確になるにつれ分類法も変化していくものと思われます。現在のところ、これらのいずれにも属さず、徐々に肺に線維化が起こる肺線維症もあり、胸部X線検査で発見されます。
(2)治療
1)UIP
現在のところ、線維化を防止する薬剤はありません。このため、低酸素血症に対しては在宅酸素療法が行われたり、感染時には抗生剤が投与されるぐらいです。最近、息切れに対し、COPDと同様にリハビリテーションが効果を有するという徹告がなされています。
2)NSIP
UIPに比して、NSIPの一部には副腎皮質ホルモンが効果を示す例が見られ、どのようなタイプが効果を示すか現在、組織学的および生化学的検索がなされています。
3)原因が明確である肺線維症
塵肺による肺線維症の場合は、粉塵曝露以後何年も経ってから徐々に進行することが多く、治療法もありません。気管支炎に対しては去痰療法や抗生物質を、また、低酸素血症に対しては酸素療法を行う程度です。
膠原病で肺線維症に至った場合も根本的には治療法がないために、間質性肺炎の時期にステロイド剤の増量や免疫抑制剤の使用が行われ、線維化を少しでも軽減しようと試みられます。しかし、効果は必ずしも目覚しいものではありません。
サルコイドーシスの場合は、ステロイド剤で線維化がかなり抑制される例が見られますので、間質性肺炎早期から使用されます。
■6.気管支拡張症
(1)概念と特徴
気管支、特に4〜9次の比較的太い気管支の壁が脆弱化して、こんぼう状や嚢状に膨らんでしまった状態を言います( fig-35 )。そして、これら拡張した気管支は、本来持っている異物除去作用(異物を粘液で捕らえて線毛運動によって口腔の方向に輸送する働きで、粘液線毛輸送と呼ばれている)が低下するために、分泌物の貯留が起こり、しばしば感染をきたしてきます。
気管支拡張症の発生機序としては、胎生期に気管支の発達が障害され片肺全体に生じるものや、小児期のウイルス感染、細菌感染によって続発性に起こるもの、さらには、成人になって結核や肺化膿症に罹患した後、それが治癒する過程で肺の引きつれとともに生じるものなどがあります。
( fig-35 )
(2)診断
自覚症状としては、膿性痰を伴う咳嗽がもっとも多く、感染が加わった場合には、痰の増加のみならず発熱を来したり血痰や喀血を見ることもあります。慢性炎症をきたした気管支では、気管支動脈が非常に発達するために出血しやすくなるのです。
確定診断には、気管支造影検査といって、気管支内に造影剤を注入してX線写真を撮った時代もありましたが、現在はCTによる診断に取って代わられています。
膿性痰中にはしばしば細菌が見られ、ブドウ状球菌、インフルエンザ桿菌などがその主体をなします。しかし、感染が長引いたり、患者さんの免疫力が落ちたり、不用意な抗生剤の投与などにより病状が進行すると、グラム陰性桿菌とくに緑膿菌が常在してしまい、治療に困難を極めることもあります。
(3)治療
a)外科的治療
気管支拡張症が一肺葉に限局している場合で、喀血をしばしば繰り返したり、膿性痰を伴う咳嗽が強い時は、肺葉摘出術が適応となり根治的といえます。しかし、この基準に当てはまる症例はそう多くはありません。
b)保存的療法
拡張した気管支が元に戻ることはありません。したがって内科的治療の主眼は、気道分泌物の貯留を防ぐために体位ドレナージ(気管支の中枢部が下にくるような体位をとり、分泌物が口腔へ向かって出て行きやすくすること。この時、胸郭をたたいたり振動させたりして、より一層貯留物の排出を促したりする)を行ったり、強制的に咳嗽を促したりします。
また、感染により炎症所見の増強が見られる場合には、喀痰検査によって起因菌を同定した上、効果のある抗生剤を使用します。最近、このような患者さんにおいて、長期間マクロライド系抗生剤を少量使用すると喀痰量が減少するという報告があり、1日量にしてエリスロマイシン400〜600mg、ロキシスロマイシン150mg、クラリスロマイシン200mgなどが用いられることもあります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)というのは、なじみの少ない病名だと思いますが、これに含まれる病気の名前を聞くと、「それなら知っている」と思われるかも知れません。慢性閉塞性肺疾患は、慢性肺気腫と慢性気管支炎(びまん性汎細気管支炎を含める場合もある)のうち、気流閉塞症状を持つ病態(一秒量が予測値の70%以下、第二部■3.機能的診断を参照)と定義されています。
fig-36 を参照してください。肺気腫と慢性気管支炎そして気管支喘息は図のようにしばしば合併し合います。COPD はそのうち3、4、5、6、7、8を総称しているわけです。
(fig-36)
気管支喘息は、定義上、気道閉塞の可逆性があり、発作以外の時は気流閉塞がほとんどないものと説明されますが( 清水美奈子さんの資料を参照 )、患者さんの一部は、気管支喘息がこれから述べる慢性肺気腫や慢性気管支炎に合併し、常に気流閉塞が見られる場合があり COPD に含まれます。
COPD を知るために、まず慢性肺気腫と慢性気管支炎を別個に説明していきます。
■7.慢性肺気腫
(1)概念
呼吸細気管支以下(17分岐以降)の気道および肺胞が破壊され、気腔となった状態を肺気腫と呼びます。
本来、病理学的に名づけられた疾患で、亡くなられた患者さんの病理解剖を行って初めて確定診断がつく疾患でありました。しかし、胸部CT検査により肺の構造が詳しくわかるようになった結果、生前より正確に診断がつくようになりました。
(2)病型
fig-37 に示したように、肺胞の壊れ方は一般に2つの型に分けられています。
小葉中心性肺気腫は、呼吸細気管支が破壊されて気腔が拡大したもので、肺胞の破壊が少ないものを呼びます。しばしば炭粉沈着が認められ、肺尖(はいせん)から上葉の背部および下葉の上部に好発します。
(fig-37)
汎小葉性肺気腫は、肺胞、肺胞道、呼吸細気管支全体の破壊がおこり、大きな気腔を作るものを呼びます。肺全体に均等に発生するびまん型と、一つの肺区域のみに起こる眼局型が存在します。
小葉中心性肺気腫でも肺胞破壊が進行すると、汎小葉性肺気腫との区別がつかなくなります。また、小葉中心性肺気腫や汎小葉性肺気腫に含まれず、何らかの肺疾患による瘢痕の周囲に二次的に不規則な気腔の広がりを示したり、胸膜や小葉壁に沿って限局性に気腔の拡大を見ることがあり、これは巣状型肺気腫と呼ばれています。しかし、これらは進行もほとんどなく、気胸や気腔内感染を来さない限り臨床的には問題となることはありません。
(3)原因
日本人の肺気腫の大部分は小葉中心性肺気腫で、その原因は喫煙と考えられています。大気汚染もその増悪因子として寄与している可能性があります。
汎小葉性肺気腫は、α1アンチトリプシンを遺伝的に欠損している人に発生します。外界からの異物を処理するために白血球はエラスターゼという酵素を分泌していますが、この酢素は肺胞や気道の弾性線維も破壊します。α1アンチトリプシンは肝臓で産生され、このエラスターゼをバランス良く低下させる働きを持っており、人は通常では肺気腫を発生しません。α1アンチトリプシン欠損症または産生が低下している人は、容易に肺気腫を発病するのみでなく、これらの人が喫煙をすると若年より肺気腫が発生します。
(4)診断
日本人は欧米人と異なって、α1アンチトリプシン欠損症の患者さんがほとんどいません。したがって、私たちが遭遇する大部分の慢性肺気腫は小葉中心性肺気腫です。
発生年齢は喫煙歴にもよりますが、60歳以後のことがほとんどです。一般に、肺胞破壊が発生したとしても、その程度が軽いうちはほとんど症状を示しません。ある程度進行すると、労作時の息切れ、口すぼめ呼吸、痩せなどが目立ちます。次に述べる慢性気管支炎を合併していない場合には、喀痰は少ないのが特徴です。これらの症状をすべて持つ人の特徴を一言で言い表すために、Pink Puffer(顔が赤くて喘いでいる人という意味)という言葉がよく用いられます。
胸部聴診においては、胸郭内の空気の量が増えるために気管支呼吸音が聴収しにくくなり、呼気の延長が著明になります。胸部単純X線検査では肺の過膨張所見、胸部CT検査では小葉の中心にボコボコとした穴が空いた像が認められます。肺機能検査は、病気の進行とともに気流閉塞の指標となる一秒量の低下が見られ、さらに総肺気量、機能的残気量、残気量の著明な増加、肺血管の破壊に某づく拡散能の低下が特微的です(第一部■4.肺気量分画、■5.肺気量分画の変化、■6.動的肺機能を思い出してね)。血液ガス分析では、病気の進行とともに炭酸ガス分圧の上昇がみられますが、低酸素血症は末期にならないと見られません。
(5)治療
治療の重要なポイントは禁煙です。しかし、いったん発生した気腔の拡大が禁煙で改善することはないため、あくまで病気の進行を軽減する目的でしかありません。
薬物療法では、抗コリン製剤の吸入が第一選択とされ、β刺激剤の吸入や内服、キサンチン製剤の内服なども行われますが、労作時の息切れ改善にはそれほど目覚しいものとは言えません。
低酸素血症が進行し心不全を来すような症例には、白宅でも酸素吸入が必要となり、これによりQOL(日常生活の質)が上昇することが認められています。また、呼吸リハビリテーションによって少しずつ負荷をかけることにより、呼吸困難への適応を図ることも有効です。
肺気腫患者は重症となると、一般細菌、真菌(カビ)、抗酸菌などの合併感染が有意に増加し、急速に呼吸不全を来すため定期的な医療機関の受診が必要となります。次に述べる、慢性気管支炎を合併した場合は、軽症の時より喀痰量の増加が見られるため、去痰剤の投与が行われます。また、気管支喘息合併例では、副腎皮質ホルモンの吸人剤が効果があり、急性増悪時には副腎皮質ホルモン剤やアミノフィリンの点滴静注も行われます。
■8.慢性気管支炎
(1)概念
慢性肺気腫が病理的診断名であったのに対し、慢性気管支炎は症状名といってもよいでしょう。
『過去2年以上にわたって、少なくとも年3ヵ月以上(特に冬季)連日咳および痰を有する状態』を慢性気管支炎と呼びます。
かなりの人が『おやっ』と思うでしょう。特に喫煙する人の多くは、この症状に当てはまると思います。
(2)原因
慢性気管支炎は、粘液腺肥大により、過剰の分泌液(喀痰となる)が産生されるのが病態であり、喫煙、大気汚染物質、有毒ガスの継続した吸引などがその原因の中心をなします。結核、塵肺などの肺疾患の後遺症、それに加わる気道感染などによっても発生しますが数は多くありません。
気道内の粘液貯留が多く長くなると粘液塞栓を生じますが、その代表的な病気が気管支喘息です。気管支喘息の喀痰には小さな粘液塞栓が見出されるのが特徴であり、喘息の剖検肺には広範な粘液塞栓が見られ、それが木の枝のようになっています。しかし、同程度の気道過分泌および気道内粘液貯留の見られる慢性気管支炎では喘息のような固く広範な粘液塞栓は見られません。慢性気管支炎は好中球が、喘息では好酸球が気道に浸潤しているのが特徴なのでその違いが反映されているのかもしれません。
★★余談ですが★★
ちなみに、気管支喘息の発作時には喀痰が見られ、また痰が多量に喀出するとともに喘息発作が消失する事が臨床的に経験されます。気管支喘息例の剖検肺では多量の気道内粘液貯留と広範な粘液塞栓が見られ、気道攣縮とともに気道過分泌がその死因に関与している事が考えられ、これらは気管支喘息の病態として平滑筋の収縮以外に気道過分泌も重要である事を示しています。しかし、気道過分泌の機序解明および、それに対する治療法の開発が遅れているのが現状でしょう。すなわち、強力な気管支拡張薬や抗炎症薬の開発やその臨床応用にもかかわらず、気管支喘息患者に、今尚、死亡する例が見られるのはこの事に起因する可能性が、考えられるワケです。
(日本の喘息死は毎日16〜17人。年間6,000〜7,000人)
ステロイドが気管支喘息に頻用されていますが、これは臨床的に喘息発作を押さえるとともに気道過分泌を著明に抑制していることも考えられます。ステロイドの気道分泌抑制効果は、抗炎症作用を介しての間接作用以外に、気道分泌細胞に対する直接作用があり、細胞内のムチン産生には有意な変化はもたらさず、細胞外への放出過程を抑制します。また、気道上皮を介して水分分泌を抑制します。
★★★★★
(3)診断
診断は問診によって、よく自覚症状を聞き取ることにあります。
初期の慢性気管支炎では、検査所見での異常はほとんど見られません。胸部聴診では、気道に溜まった喀痰がはじけるパチパチとした断続性の音が聞こえることがあります。気道内腔に喀痰が増加すると、徐々に気流閉塞が生じ一秒量の低下を来してきます。しかし、慢性肺気腫と違い、肺実質の破壊がないため肺弾性の低下が起こることはなく、肺過膨張の程度は強くありません。
症状が増悪すると、気道が喀痰によって閉塞することにより、換気血流比が低下して低酸素血症を来します(第一部■10.酸素運搬の異常 fig-14 を参照)。低酸素血症による酸素運搬量の低下を防ぐために、初期には心拍出量を増やすことで代償します。しかし、この状態が長く続くと心不全を来し、全身のむくみが生じるようになります。低酸素によるチアノーゼと、このむくみが組み合わさった状態を Blue Bloater (顔色が青黒く、むくみを持っている人という意味)と表現し、Pink Puffer と対比させます。
(4)治療
何よりも大切なことは、禁煙および劣悪な大気環境からの回避です。
気道の過剰分泌を抑制する薬剤は現在のところありません。したがって、喀痰をいかにして上手に喀出させるかという点が治療の中心となります。
分泌物の粘度が強い場合には、ネブライザーによる加湿やブロムヘキシンなどの去痰剤が用いられます。また、喀痰の粘度を正常化するカルボシステインや、喀痰の潤滑度を亢進させるアンブロキソールなどの投与も行われます。
しかし、これらの薬剤の効果はそれほど目覚しいものではありません。重症となり喀痰が増加するような場合には、強制的に咳嗽を促したり、体位ドレナージを行うことも喀痰排出には効果があります。
症状が進行し、低酸素血症に起因する心不全が生じた場合は、家庭においても酸素吸入が必要となり、利尿剤も投与されます。さらに、慢性気管支炎患者さんは細菌の合併感染を容易に引き起こし、それが急性増悪の原因になることが多いため、細菌検査を行った上で適切な抗生剤を用いることが必要になります。また、肺気腫同様に、抗コリン剤やβ刺激剤の吸人を行うこともあり、喘息を合併している例に対してはステロイド剤の吸入なども行われます。最近、このような喀痰の過剰分泌状態を有する重症な患者さんに、マクロライド系抗生物貫を少量長期投与する方法が用いられ、一部の患者さんでは著明な効果を示します。
COPD は、慢性肺気腫と慢性気管支炎のうち気流閉塞が生じている病態を示し、その原因として最も重要な因子が喫煙であることを、説明してきました。しかし、喫煙者側から考えた時、COPD に罹患する確率は全喫煙者の15%に過ぎません。現在のところ、何故ある人のみが COPD に罹患するのかに関しては不明です。
♪♪♪♪♪♪♪補足♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
びまん性汎細気管支炎(DPB)に対するマクロライド少量長期投与
びまん性汎細気管支炎(Diffuse Panbronchiolitis: DPB)は、炎症が気管支末端の呼吸細気管支全層に広がり、呼吸細気管支のむくみ、分泌物の増加により気道が狭められ、呼吸困難、喘鳴(ぜんめい)、せき、たんなど気管支喘息と同様な症状がでる病気で、患者の80%が慢性副鼻腔炎を合併しているのが特徴です。
この病気は欧米ではほとんどみられず日本人に多く、遺伝的な体質によるものと考えられています。非常に難治性の呼吸器疾患に数えられ、5年生存率はわずか38%という報告もあるほどでしたが、近年マクロライドの少量長期投与の有効性が明らかになってきました。
通常、エリスロマイシン 400〜800 mg/日が用いられますが、無効例にはクラリスロマイシン 200 mg/日、ロキシスロマイシン 150 mg/日なども投与されます。大体服用開始3ヶ月以内に効果がでてきます。6ヶ月服用し著明に症状が改善した場合は服用を中止します。それ以降もある程度症状改善のあるうちは投与を続け、2年程度投与し3ヶ月以上症状が不変の場合は一旦服用を中止します。いずれも服用中止後再増悪する場合は再投与を行います。
マクロライドの投与により気道液中の細菌が消失しなくても治癒すること、エリスロマイシンに全く感受性を持たない緑膿菌症例でも有効であることなどから、マクロライドの DPB に対する作用として抗菌作用以外のメカニズムが考えられています。マクロライドの作用としてこれまでに、気道の過剰分泌抑制、好中球性炎症の抑制(遊走能抑制、IL-8 産生抑制、活性酸素放出抑制など)、リンパ球への作用(気管支肺胞洗浄液中の活性化 CD8 リンパ球数の減少など)が明らかになっており、マクロライドはこれらの多くの作用点を持ち、全体として気道の炎症病態を抑制する方向に作用しているものと考えられています。また、このような作用をもつのはマクロライドの中でも14員環構造をもつ薬剤に限られています。
最近では、DPB だけでなく慢性気管支炎、気管支拡張症、副鼻腔炎や滲出性中耳炎などにもマクロライドの少量長期投与が行われています。
実はもう一つ、エリスロマイシンには意外な作用が知られています。それは「モチリン様作用」と呼ばれる消化管運動亢進作用です。ヒトの消化管においては、空腹時に1〜2時間ごとに胃から始まって回腸末端(盲腸の前)まで移動していく、周期的な強い収縮運動が生じていることが知られており、これを空腹期肛側伝播性強収縮帯(IMC)と呼んでいます。このIMCを制御しているのが「モチリン」と呼ばれる消化管ホルモンです。エリスロマイシンはモチリン受容体に作用し、消化管運動を亢進させるという報告があります。この場合も、抗菌作用が期待できない少量投与で効果を発現するとされています。
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以上、呼吸器系の構造と機能から、その診断法と主だった疾患の病態を解説してきたのですが、まだまだ、やり残しているところもあります。
肺循環障害
肺性心 cor pulmonale
慢性肺性心 chronic cor pulmonale
肺高血圧症 pulmonary hypertension
肺梗塞症
肺水腫 pulmonary edema
心臓性肺水腫 cardiogenic pulmonary edema
急性呼吸促進症候群 acute respiratory distress syndrome, ARDS
肺動静脈瘻 pulmonary arteriovenous fistula
呼吸器系の解剖学
肺血管系と神経支配
呼吸の制御
化学受容器反射 chemoreceptor reflex
今後のテーマとして、機会があればやりたいと思います。