ニホンザルの研究

 

 

 ニホンザルJapanese macaquesは霊長類のマカクの仲間です。全国の野猿公園や動物園でごらんになった方も多いかと思います。
 ニホンザルは国内外の多くの研究者によって1950年代から、飼育群、餌付け野生群、野生群を対象にさまざまな研究がされてきました。このため、
動物行動学のなかでも、比較的多くのことがわかっている種といえます。

 1997年から2000年までの間、長野県志賀高原、地獄谷野猿公苑によって長期研究がされている餌付けニホンザル群(志賀A1群)において、社会行動を観察しました。具体的な研究テーマは、以下の三点です。

 

 


テレビでも有名な温泉につかるニホンザルたち
観察していると凍えてくるが、そんな苦労を彼らは知らない

 

 

メス間の順位関係と母系順位継承の法則について Kutsukake, 2000

 

 多くの動物に置いて、個体間には明確な順位関係がみとめられ、高順位個体が優先的に資源(例:餌)にアクセスすることができます。餌付けニホンザル群においては、オトナメス間の順位関係は母系の血縁関係によって決まります。つまり、家族間に順位 関係があり、家系Aの全個体は、家系Bの全個体よりも優位になる、といった具合です。また、家族の中では、お母さんが娘より優位で、妹が姉よりも優位、という関係がみられます。このルールのために、体の大きさと順位 関係がかならずしも一致しません。
 志賀A1群の69頭のオトナメス間でも、これらのルールが認められました。しかし、低順位 のオトナメスほど、ルールに従わない順位関係がみられました。たとえば、低順位だと姉が妹よりも優位だったりします。これらは、低順位においては血縁集団内の結束がよわく、順位 獲得の際に、血縁個体がお互いを支援しないからだと考えられます。

 

 

オトナメス間の「つきあい」は毛づくろいをすること
血縁個体間だと、顔もなんとなく似ている


 

αオスの交代:オス間の連合形成とオスメス間の友達関係 Kutsukake & Hasegawa, 2005

 

 霊長類の社会の中で、αオス(ボスとはいいません)の交代ほど、社会に与える影響が大きい、ドラマティックな出来事はありません。しかし、現在までにαオスの交代と、それが社会に与える影響を体系的に観察した研究はほとんどありませんでした。
 1998年11月9日、志賀A1群のαオスであるトリカブトと、βオスのトラシチが直接対決をして、順位 が入れ替わりました。その後、2日間、新しくαオスになったトラシチはトリカブトを執拗にいじめるわ、別の高順位オスが連合を形成してお互いに喧嘩を始めるわ、トリカブトにべったりくっついていた(友達関係を形成していた)オトナメス達はどこかへ雲隠れしてしまうわ、関係ないオトナメスが一斉に発情しはじめるわで、群れ中が大騒ぎになりました。この事例を通じて、ニホンザル社会におけるパワーダイナミクスをかいま見ることができました。

 

 

 
ニホンザルの社会を複雑にしている連合による攻撃
写真では、トリカブトとその友達メスが(青の二頭)がオトナオスを威嚇している(赤)

 

 

 

攻撃後の葛藤解決行動:仲直り行動とストレスの関係 Kutsukake & Castles, 2001

 

 多くの霊長類において、攻撃後に、攻撃した個体とやられた個体が毛づくろいなどの親和行動を行うことがあります。この行動は「仲直り行動」(または和解行動)とよばれています。なぜ、ニホンザルが仲直りをするのか、を主に社会関係の調整と、ストレスへの対処、という観点から研究しました。

 自己指向性転位行動(自分の体をカキカキする行動)を指標として、攻撃後のストレスを測定した結果 、やられた個体のストレスレベルが、攻撃直後に高い値を示すことがわかりました。また、仲直りが起きた場合、ストレスレベルは急激に下がったことから、仲直りが成立したあとには当事者個体はリラックスしているといえます。また、非血縁個体から攻撃されたあとと比べて、血縁個体に攻撃されたあとほど、やられた個体のストレスレベルは高く、また、攻撃後に高頻度で仲直りをして、関係の修復に努めていました。これらのことから、仲直り行動によって、攻撃後の個体間の「気まずい雰囲気」を回復させ、ストレスを低減させていることがわかりました。

 

 

ニホンザルは春に出産するが、捨て子をするメスがたまにいる
この個体は、自分の子を産んだが(初産だった)、なぜか捨て子を養子にした
しかし、結局、二頭とも育たずに死んでしまった

 

 

 

 ニホンザルの社会は血縁関係と順位関係が基本的な骨組みとして、その枠組みのなかで、個体が社会交渉をもちいて、自己の利益を最大化しようとしている、またそのような社会関係を形成しようとしている場である、という印象をもちました。しかし、社会行動に関しても、まだまだわかっていないことが多く、今後の研究が不可欠です。

 

 

 


コドモが花のにおいをかいでいた