若き副社長の悩み
はぁ。
だだっ広い副社長室に響くため息。その人らしからぬ空ろな表情で頬杖をついているのは、神羅カンパニーの御曹司、ルーファウス副社長。そんな彼をドアの影から見守る影が三つ。
言わずと知れた、タークスの面々である。
「さっきから、坊ちゃんため息ばっかりなんだぞ、と。」
「どうしたというのでしょう?心配です…。」
「……悩み事、か?」
赤毛、ホクロ、ハゲの順で口々に言う。彼らの心配をよそに、ルーファウスはまたしても「はぁ」と、深いため息をついた。一体これはどうしたことか。タークス面々は、原因調査に乗り出したのだった。
容疑者1:レノ
「おいおいおい。俺は坊ちゃん困らせるようなこと何もしてないんだぞ、っと!」
レノが両手を振って無実を訴える。すると、ツォンは目をキラリと光らせてレノを睨んだ。
「そうか?昨日、重要書類を家に忘れて副社長を困らせていたではないか。」
「そ、そんなのいつものことだろ!?」
必死で否定するレノに、ツォンは一歩も引かない。
「毎日の疲れが積もり積もって…ということもある。」
存外真面目な上司の言葉に、ルードが深く頷く。レノは不満げに眉を寄せたが、先輩でもあるツォンに「謝りに行け」と言われてしまっては逆らいようもない。無精無精、副社長室に赴いた。
「…坊ちゃん。」
「あぁ、レノか、何だ?」
オフィスを訪ねてきたレノに、ルーファウスはびくりとしながら顔を上げる。
「あー、昨日書類忘れてきたの、俺が悪かったよ、と…。」
頭をぼりぼりと掻きながら目線を合わせず言うレノ。照れ混じりの謝罪。しかし、それを聞いたルーファウスは書類を書く手を止めてぽかんとした。
「…何を言っているんだ。そんなのいつものことじゃないか。」
逆に、わざわざ謝りに来るなんて熱でもあるんじゃないか、などと心配され、レノは無意味な笑いを浮かべながら副社長室を後にしたのだった。
容疑者2:ルード
「ほら、やっぱり俺じゃなかった!」
勝ち誇ったように言うレノに、ツォンはふむ、と顎に手を当てた。
「では、原因はルードだな。」
「……はい?」
突然白羽の矢を立てられ、流石のルードも大慌てで否定する。
「お、俺じゃないですよ…。」
「そうか?」
再びキラリと目を光らせるツォン。
「お前は副社長の前に出るときでもサングラスをかけているだろう!礼儀にかなっていないとは思わないか?ルーファウス様は、自分はルードに上司として見られていないのではないかといたく悩んでいらっしゃったぞ!」
かなり強引な気はするが、人の良いルードのこと。大真面目にうなだれた。広い背中が痛々しい。
「気付きませんでした、…すみません。」
ツォンにやりこめられ、ルードも副社長室に向かうこととなった。相変わらず、ぼんやりとため息をつくルーファウス。ルードは静かに歩み寄ると、決死の覚悟で彼に声をかけた。
「副社長。あの…、」
「…っ!今度はルードか。何だ?」
心なしか怯えているようにも見える。こんなにも自分はルーファウスを傷つけていたのかと、ルードは深く後悔する。歯を食い縛ったルードが、ついにトレードマークでもあるサングラスに手を掛けた。
「……副社長、俺、サングラス外します!」
「……は?」
数秒後、神羅ビルにルーファウスの絶叫が響き渡る……。
とりあえず、一時の間硬直したルーファウス。しかしまた暗い表情に戻ると、「妙なパフォーマンスはしなくていい」と言い、ルードをつまみ出してしまった。
容疑者3:ツォン
「ていうか、そういうツォンさんが一番怪しいんだぞ、と!」
「何!?私がルーファウス様を傷つけるような真似するはずがないだろう!」
決死の覚悟をパフォーマンス呼ばわりされたルードは部屋の隅でいじけている。
「ほんとにそんなこと言えるのかな?大体ツォンさんは精力的すぎるんだぞ、っと。」
「!?」
「週に5日、一夜につき6回はヤりすぎだと思うぜ?」
「な、何故そんなことをお前が知っている!」
ツォンの悲痛な叫びも無視し、レノは首を横に振る。
「あぁ、可哀想な坊ちゃん。体力の塊みたいなツォンさんと違って、坊ちゃんの体は細いしデリケートなんだぞ、と。そりゃあ、疲れも溜まるわな。」
思い当たる節でもあったのか、ツォンがぐっと詰まる。レノのひどいコールに背中を押され、ついにツォンが渋々副社長室へ入る。
「ルーファウス様…。」
「ツォン?」
がくりとうなだれているツォンに、ルーファウスはあからさまに怯える態度を見せた。その様子が、ツォンの「ヤりすぎ」疑惑に拍車をかける。
「申し訳ありません。あなたのお体のことも考えず、毎夜毎夜ヤりたい放題…。今後は自制します!」
言い切ったツォンに、ルーファウスは一瞬頬を赤らめたが、すぐに目を伏せて首を横に振った。
「いや、そんなことを今言われても困る。すまないが、放っておいてくれないか?一人で考えたいんだ。」
いよいよ重症だ。理由も分からず俯き合う三人だったが、意外なところで真相を知ることとなる。それは、タークス本部の外を通った社員二人の会話であった。
「副社長、どうするつもりなんだろうな?」
「あぁ、あれだろ?通勤中にタークスの連中のボーナス落としたってやつ。ま、俺らには関係ないけどな。」
ははは…と、虚しく通り過ぎていく笑い声。三人が一斉に硬直する。その直後、副社長室からはけたたましい怒鳴り声が聞こえたとか聞こえないとか…。
《おわれ》
