タワ逝く
 かつて、こんなに涙を流したことがあったであろうか。
 自然に溢れてきて、止め処もなく涙がながれていく。
 フロントガラスの向こうは涙でくすみ、トンネル内の橙灯も濡れて蝋燭の炎のように揺れていた。

 荼毘に付している間、八景の海を見ていて、今日の天気がこんなに良かったなんて、やっと気がついた。

 平成15年1月25日 タワが逝ってしまった。

 ごめんな。タワ。
 父さん馬鹿だったよ。
 できるだけ自由に育てたいなんて思っていたから、気が緩んでいたんだ。きっと。
 対面の歩道にも犬が散歩していることに気づかないなんて。
 タワは友達が大好きだから、一緒に遊ぼうとして車道を横切ってしまったんだよね。

 土、日の朝はできるだけ海岸周辺で散歩するようにしていた。
 この日もそうであった。
 歩道沿いの植木の周りを1,2回廻り、片足を上げながら用を足す。そんないつもの仕草に、後始末をしようと気を取られてしまっていた。

 その隙にタワは車道に飛び出し、通りかかった車にはねられてしまった。一瞬の間の出来事であった。

 全身の血が引き、おろおろするだけの自分が口惜しい。
 辛うじて妻に電話し、病院に運ぶことにする。
 ピクリともしないタワを抱きかかえ、ただひたすら車に向かうことしかできなかった。

 心臓は既に停止しているとのこと。
 苦しまずに逝ったことだけが唯一の慰めになるなんて。

 仕事から帰ると、尻尾どころか全身を振って飛びついてきたタワ。
 遊びたくてひよこのおもちゃを押し付けてくるタワ。
 朝起きるとぺろぺろ攻撃をしてくるタワ。

 父さんの中にはそんなタワはいつまでも居るから。
 たった2年7ヶ月だったけど、一杯思い出があるから。