本の森通信 6月号

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6月29日(水)
一ヶ月にわたって仙台駅ビル内書店「ブックスみやぎ」開催された「在仙出版社合同 杜の都のブックフェア」が、明日最終日を迎える。片付け等のこともあり、今日の午前中に同店店長のSさんを訪ね、一時間ほど打ち合わせをしてきた。今回のフェアには地元版元に加えて福島県の版元3社も初参加され、商品のラインナップも目新しいものになった。それが功を奏してか、または開催期間を長めに取っていただいたおかげか、前年の同フェアよりも良い成績をおさめられそうだという。同店のフェアとして、及第点に達するようだ。これには本当に安心した。
書店側の好意にオンブにダッコでは、こちらとしても申し訳ないし、長続きも難しくなる。版元側もいろいろと販促の工夫をしたようで、多くの参加社が週に一度は顔を出して欠品チェックをしたり、POPを貼ったり、自ら他社本を買ったりしていた(他社本を買うというのは決してサクラ的なことではなく、同業他社の、ひいては仙台圏の書籍ニーズの研究という意味がある。その意味でも他社本を一度に見られるこの機会は良い意味で貴重だった)。小社としては、残り10日間で「著者サイン本投入」という策を講じた。売れ行きのいい苗字本の著者・鈴木常夫さんや、昔話集の佐々木徳夫さんにお願いして自著にサインをいただき、それをフェアの棚に並べた。「有名な作家さん以外のサイン本といっても・・・」という不安が書店さんにもあったようだが、あけてびっくり上々の売れ行きで完売本も出た。何とかラストスパートもできた、一ヶ月の長丁場。最終的な結果が出るのは来週になる。

同店で、『死神の精度』『エソラvol.2』を購入。どちらも楽しみにしていた一冊だ。古典やベテラン作家作品を好む自分にとって、新刊が出たらすぐに買うという現役作家さんというのは少ない。伊坂幸太郎氏はその一人で、最近は既読本を読み直したりして楽しんでいた。『死神の精度』は文芸誌連載中にちょくちょくと読んでいたので、概要はなんとなく掴んでいる。単行本のボリュームにまとめられたとはいえ、一晩で読みきってしまうのは間違いないだろう。『エソラ』は昨年刊行のvol.1に掲載された「魔王」がすごく面白かったので、今回の「呼吸」にも大いに期待している。同誌は掲載の小説・漫画がすべて読み切りで、前号でファンになった五十嵐大介氏の「鰐」や真鍋昌平氏の「ブログ」も楽しみである。また枕元に未読本を積むことになってしまうが、そんなささやかな贅沢を梅雨の夜に味わおうと思っている。(小)
6月27日(月)
絵本作家の長新太さんが、25日に他界した。享年77歳。今年の初めに市内の絵本専門店のご主人より「ずっと体調を崩している」と聞いていたが、いざ訃報を受けるとショックが大きい。故人の冥福を心より祈りたい。

先週の金曜日に友人と書店に行き、絵本の棚でしばし遊んだ。小さい頃に持っていた絵本や、目新しい最近の絵本などの話をしながら、やはり目では長新太さんの作品を探してしまっていた。実は小さい頃に長作品を読んだ記憶はなく、名前を知ったのも絵を見たのも大学に入ってからのことである。振り返ってみれば当時すでに「晩期」を迎えていた「話の特集」という雑誌に、見開き2ページで連載漫画が掲載されていた。なんだか不思議なストーリーで、頭の中に「?」が三つも四つも浮かぶような漫画だった。でも、ふと気がつくととんでもなく怖いことや、心温まるようなエピソードにも読みとれるような作品で、どんどんその魅力に引き込まれていった。

金曜日に立ち読みしていたときも、「長新太の作品の魅力は何か」「自分は長作品のどこが好きなのか」ということについて、友人にうまく説明できなかった。どの作品も、「かわいい」「泣ける」など、多くの絵本が持つ魅力とはちょっと離れている。それでも、奇想天外な物語や鋭い文章は、長新太さんの作品でしか味わえない独特のものであることは確かだと思う。その価値は絵本という舞台に止まらず、広く芸術作品として愛されてきた。それを考えても、本当に残念なことだ。

昨日・今日から、日本中の多くの書店や図書館で長新太さんのコーナーができるだろう。懐かしく思う人も多いだろうし、これをきっかけに長作品の面白さを知る人もたくさんいるだろう。中途半端なファンの一人ではあるが、これからは長新太さんが残してくれた作品を一つ一つじっくりと味わっていきたいと思う。(小)
6月23日(木)
ここ一ヶ月ほど在庫切れの状態が続いていた『北海道に渡った仙台藩士たち』だが、週明けには第二刷が完成し、取次店へもすぐに納品できる準備が整った。先々月から先月にかけて注文が殺到し、こちらの予想よりもはるかに早く初版が捌けてしまう嬉しい誤算。それを受けて急いで増刷することになったのだ。その後の注文は「第二刷予約」というかたちで受けており、まずは真っ先にその方々に発送しようと思っている。時事性を扱ったテーマではないので、この本も長く売れ続けてくれればと願う。

先日著者の鈴木常夫さんが編集部にいらして、すでに準備を進めているという次回作のことを聞いた。テーマは苗字研究家ならではの発想のもので、これまた幅広く関心を集めそうな内容だ。なんでも、鈴木さんは調査のために県内の主要墓地にクルマで通う、「墓参り」ならぬ「墓廻り」をしているという。怪しまれていないことを祈るだけだが、その成果が原稿になるのが今から楽しみである。今年後半にかけて、また一つ面白い仕事が増えた。

今年後半の出版物といえば、16日付のこの欄でも触れたが『東北ふるさとの昔話』を出版したばかりの佐々木徳夫さんの本も出す予定である。こちらも生原稿段階では8割を終えているというので、早ければ真夏に編集作業をして秋以降に完成というスケジュールにもなる。こちらは『東北ふるさと〜』よりもより地域密着型のテーマで、理想の一つと考えている“地刊地読”(その地域で刊行された書物を、その地域の住む人が読んで楽しむ。“地産地消”の出版バージョン)を実現できるものになりそうだ。

あと一週間で今年も折り返しを迎える。上半期の奮闘を下半期にもしっかりと継続できるよう、この一週間で進行を再確認しようと思う。読んで面白い本を一冊でも多く皆さんにお届けするために、ただ仕事を続けるだけである。(小)

※今日は大学時代の恩師の一周忌(詳細は一年前の6月26日付で)。この場を借りてご冥福を祈る。合掌。
6月22日(水)
『Coyote NO.6』が、「植村直己 冒険の前に」という特集を組んでいる。植村氏の講演録や冒険出発10日前の妻との会話テープなど、ファンにとっては興味深いものが並んでいる。中でも妻・公子さんのインタヴューとエッセイは読み応えがあった。絵に描いたような「内助の功」のエピソードではないが、植村氏が公子さんに本当に心を開いていたことがわかる。植村直己特集と言うより、植村夫妻特集と言う方がふさわしいかもしれない。

植村氏は気になる存在だ。最初にその存在を知ったのは、たぶん消息を絶ったニュースだろう。そしてその後、母が『遥かなるマッキンリー』という本を買ってきてくれ、それを読んだ。中身はほとんど覚えていないが、自分の名前と同じ一字を使うその冒険家に、なんとなく親しみを感じたのだけは覚えている。次に出会ったのは高校のときで、進路指導の先生がよく言っていたジョークがあった。進路は大学名ではなく学部で選べというのがその先生の持論で、その中で「冒険家の植村直己は、『君はどこの学部だ』と訊かれると『はい、山岳部です』と答えていたらしい」という持ちネタを何度も得意げに話していた。「まぁ、彼のいた山岳部は、東大の山岳部より偏差値は低いが、登る山は高い」などと付け加えることもあった。

その数年後には何かの縁で植村氏の出た大学に入り、4月のオリエンテーション時に、廊下に落ちていた一枚のチラシを拾った。それはまさに山岳部の勧誘チラシで、そこには「あの部室の重いドアを開いた時が、すべての始まりだった」というような意味の植村氏の言葉が記されていた(これはかなりあやふやな記憶ので、細部に間違いもあると思う)。あの時もし入部していたら、自分の人生も今とはずいぶん変わったものになったかもしれない。おそらく、自分が植村氏に一番近づいた瞬間が、あのチラシを手にしたときだろう。それ以降は冒険とはまるで縁遠い生活を歩み、植村氏との距離など考えることもなかった。

そんな中で突然植村氏の存在を思い出させてくれたのは、前の会社を辞めるときにもらった寄せ書きの一文だった。お世話になった総務部の年配の女性が「あなたの先輩のように、いつまでも冒険野郎でいてください」と書いてくれたのだ。編集部には大学の先輩が数人おり、私が最も可愛がってもらった人のことかと尋ねてみたら「俺のことじゃないだろう。たぶん、植村直己のことじゃないか?」と言われた。当人に確かめることもなく今までいるが、もし植村氏のことだったのなら、また自分の人生の岐路で図らずも氏と遭遇したことになる。退社するときには社外の方からも様々なはなむけの言葉を頂戴したが、「冒険野郎でいてください」というのは忘れられない一つだ。

薄いのか厚いのかわからない植村氏との縁だが、その著作のすべてを読んでいるわけでもなく、その業績のすべてを正しく認識できる力もないながら、彼に強い憧れを持っていることだけは確かである。昨年読んだ読んだ『植村直己 挑戦を語る』は面白く読んだし、今回の『Coyote NO.6』も実に興味深かった。特にある一枚の写真、これは同号のポスターにもなっている一枚で、気の利いた書店なら近くに貼っていると思う。この一枚から感じる“冒険の前”は、たまらない雰囲気が感じ取れる。そしても二十年以上も前に『遥かなるマッキンリー』を読んだ後にふと感じたことをまた思い出すのだ。「この人は、まだ生きている。まだ冒険は続いている」と。(小)
6月20日(月)
先週土曜日の産経新聞の宮城版に、『東北ふるさとの昔話』の紹介記事が大きく掲載された。「美しい言葉伝承を」という見出し文に並んで、著者の佐々木徳夫さんの写真がある。肩肘をついて思考に耽るポーズなのが、ちょっと可笑しみがあって笑える。毎週のように顔を合わせている者としては「佐々木さん、カッコつけたなぁ〜 (苦笑)」という印象が、失礼ながらどうしても拭えないのだ。先日お伺いした際には「畑の小松菜が食べごろだから、一緒に採ってくれや」と言われて革靴・ネクタイで畑に入り(もちろん、お裾分けを持たせてくれた)、「歯が欠けた」と一本だけになった前歯を見せられてから数ヶ月になるが、一向に入る気配はない(新聞の写真では、上手い具合に歯が隠れている)。そんな佐々木さんの姿を知っているが故の印象なのだが、ちょっと面白く、また大いに嬉しく記事を読んだ。

この本の挿絵を描いてくださった伊澤清さんは、同書のもう一人の生みの親である。仕事の傍ら長年にわたり絵を描き続けるベテランで、数多くの賞にも輝いた実績もお持ちだ。仙台市内の方にとっては、野草園等で販売された「野の花 山の花」という絵葉書の作者として馴染みがあるかもしれない。ニッコウキスゲ・ヤマブドウ・アジサイなど、まさに身近な山野の花が対象で、見事な色彩で描かれている。この絵葉書は郵便番号が5桁時代のものなのだが、私は大事に取っており、ここぞというときには利用している。先日伊澤さん宅に本を届けると、絵が生きている本になったと大変喜んでくださった。前二作が「カット」であったのに対し、今回はすべて昔話の一場面を描いた「挿画」である。そういう意味で、伊澤さんも思い入れのある一冊になるとおっしゃっていた。

佐々木さんと伊澤さんのお付き合いは古く、これまで何度かコンビを組んで本を作ってきているという。その中でも大ヒットしたのが、『民話みちのく艶笑譚』(ひかり書房 絶版)だ。これは今や超貴重本と言えるもので、私も佐々木さん宅で一度見せてもらった以外は見たことがない。佐々木さんはこの本を「得意の艶笑譚だけを一冊にまとめたもので、忘れられない作品」と言う。どうしても欲しくなってネットで探してみたら、民俗学系の古書を扱うネット書店で取り扱いがあるだけだった。できれば自分の手で見つけて入手したいと願っていたのだが、なんと思わぬところから譲り受けることになった。伊澤清さんである。先日この本のことが話題になったときに「なんだ、あの本を持ってないのすか? だったら私のをあげましょう」と、著者分として2セット(1集と2集がある)保存していたうちの1セットを頂戴した。あまりの感激に言葉も出ず、「よろしいんですか? 本当によろしいんですか?」と、クイズ番組の司会のような台詞を何度も繰り返してしまった。

読んでみると確かにオール艶笑譚で、結構きわどい内容のものも多い。それにまして圧倒されるのが、オール版画という伊澤氏の作品だ。時に面白く、時に艶かしく、昔話の中に生きる男女の仲を描いている。伊澤さんご自身が「とにかく楽しくて、夢中になって彫った」というだけあり、どの作品にも力がある。思いもがけない幸運に際し、もう少し欲張りをして、同書に伊澤さんの直筆サインも頂いた。その翌日に佐々木さん宅へ行って本を見せ、その顛末を話すと、「いやぁ、それは幸運だ」と言って伊澤さんの隣にサインをしてくれた。

先日入手した「のらくろ」本といい、なんだか貴重本に縁がある嬉しい流れがある。「モノ」としてのコレクションではなく、あくまで「ヨミモノ」として楽しむことを主眼において、これからも面白い本を探していきたいものだ。(小)
6月16日(木)
新刊書籍の『東北ふるさとの昔話』が、一昨日完成した。包み紙を開き、一冊取り出してページを開く喜びは、他にたとえようのないものがある。この喜びを味わえるのは版元・取次・書店(一部)くらいで、一般の方々はなかなか経験できないことだろう。もし望まれるようであれば、出版業界で働くか、あるいは著者になるしかない。自分の著作が本になる喜びも加わり、いっそうの感動を味わえるだろう。

佐々木徳夫さんの昔話集はこれで3冊目だが、前2作とは違うところがいくつかある。まずは本のサイズ。前2作では200話強の昔話を一冊に収録するため、中身を二段組にして少し大きめのサイズで出版した。しかし、ちょっと持ちにくいという声もあり、今回はひと回り小さいコンパクトなものにした。また、中身を一段組にして本文の文字サイズを大きくし、主力の読者層である年配の方々にも読みやすいものとした。本を小さくして文字を大きくするということで、仕上がりが若干不安だったのだが、さほど違和感はない。ルビの文字もきちんと読めるので、この試みはよい選択だったと思っている。

取次納品も一昨日に済んでいるので、昨日・今日あたりから書店でご覧いただけるはずだ。また、前2作の購入者に発売告知のDMを送付したところ、早くも30冊ほどの注文があった。佐々木さんの昔話には根強いファンが多く、今回も「次に本を出すときにも知らせてください」という人が少なくない。本は、読みたがっている方に読んでいただくのが大切である。今回新たに購入いただいた方もリストに加え、年内刊行予定の第4作目(ここで緊急発表!)のDMをお送りしようと思っている。

友人にも何冊か送ったのだが、尊敬する本の先輩であるヒロクマ氏が、ご自身のブログ「神保町日記で取り上げてくれている。そこで紹介されているとおり、佐々木氏の昔話は短いものが多く、拾い読みするのも楽しいものだ。さらに今回は佐々木さんの解説もついているので、プラスαの“昔話ネタ”も得られる。そういう意味では、前2作よりもより広く、初心者の方にもお楽しみいただける内容だと思う。
ちなみに、今なら佐々木さんのサイン本が何冊かある。ご希望の方は通常の注文メールに「サイン本希望」と書き添えていただければありがたい。数に限りがあるので、どうぞお早めに。(小)


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