本の森通信 2008年4月号
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4月28日
大学の先輩で、出版界の先輩で、本の先輩でもあるTさんより、Tさんが勤務する版元さんの新刊本が届いた。Tさんは民俗学に造詣が深く、宮本常一氏の著作などを愛読されている。それゆえ、佐々木徳夫先生の著作ができると一冊献本していた。「いつも佐々木先生の本をいただいているので・・・」と、お返しのように本を頂いてしまった。Tさん、どうもありがとうございました!
一冊は『日本の刑罰は重いか軽いか』(王雲海 集英社新書)。集英社新書は最近面白い本が目白押しだが、特に法律系のテーマは評価が高い。その中でのこの一冊、やはり先日の光市母子殺害事件の差し戻し控訴審・死刑判決を思い出す。あの判決について様々なことを考えた人には、ビビッとくるタイトルと言えるだろう。同作は海外(米・中)の事例を交えながら、何を持って刑罰を「重い・軽い」と考えるかに焦点が絞られているようだ。
もう一冊は『奇想の江戸挿絵』(辻惟雄 集英社新書ヴィジュアル版)。いまから二百年前、江戸期に作られた様々な印刷物に残るインパクト大の挿絵を、迫力ある見開き等で100点掲載している。絵だけを眺めてページを進めるのも面白いが、史料として読むうえで必要な解説は十分にあるので勉強にもなる。また、注目したいのは「人間や自然や妖怪を、徹底した『運動の相のもとに』とらえ、表現しようとしている読本挿絵が、現代のマンガ・劇画さらにアニメにつながる太いパイプであることを指摘しておきたい。(本文より)」(オビ文から)という視点だ。現代のアニメとの関係を探るとなれば、日本を代表する文化の原点が、近世文化の中にあったということになる。となると、マンガ好き・アニメ好きの人にもオススメの一冊だろう。
天気予報によると今年のゴールデンウィークは晴天の日が多いらしく、市内の書店さんは少々苦戦しているようだ。これが雨続きの予報だと、売れ数がだいぶ違うと言う。まる一日読書にあてられるとなれば、新書の一冊や二冊はかるく読了できるという人もいるだろうから、「年末年始に読む本」のように「ゴールデンウィークに読む本」という言い方もあるのかもしれない。今日届いた『日本の刑罰は重いか軽いか』などは、まさにこのゴールデンウィークに読んで身につけるに相応しい一冊と言えるだろう。読書にはタイミングも重要なので、この一冊だけは今週中に読み終えようと思う。
この連休中、どれだけの本が読めるだろうか。天気がよければ外に出たくなるだろうし、普段出来ないことをこなすことで終わってしまうこともあるだろう。でも、最低でも一冊は本を読むことにしてみてはいかがだろうか? たとえば、今年の本屋大賞を受賞した『ゴールデンスランバー』(伊坂幸太郎 新潮社)は500ページ以上の長編小説だが、読み始めればあっという間、途中で切ることなどできすに読み続けてしまうという人も多いはず。徹夜をしてもいい連休には、ある意味で相応しい本だと言えるだろう。(小)
4月25日
昨日のこの欄に書いたことと同じようなことを、大学の先輩で、出版界の先輩で、本の先輩でもあるヒロクマ氏がご自身のブログ「神保町日記」で書かれていた。事前に「今日はあれについて書こう!」などと打ち合わせしたわけではないし、もちろん「今日はこのネタを相手が書くだろうから・・・」などとインサイダー的な情報を得たわけでもない。こういうことは重なるものなんだなと、偶然の中にある濃い必然に少し驚いた。
午後に書店へ。仙台駅ビルのエスパル内の「ブックスみやぎ」さんで、在仙出版社・北燈社刊行の雑誌「仙台っこ」のフェアが来月開催される。それに便乗させてもらい、小社の商品も出品することになっている。その点数・冊数や詳細を決めるために店長のSさんを訪ねた。商談成立後、最近の売れ線を訊く。多方面で話題になっている、血液型の本がかなり売れているようだ。先行本がたくさんあるのに、なぜこの二冊(今のところA型とB型の二点のみのよう)が売れるのか。少し立ち読みさせてもらうと、短文が並ぶ構成がリズムを作っており、ついつい先に目を進めてしまう。自分の血液型の特徴を、「そうそう、そうなんだよなぁ・・・」などと苦笑いしながら読むのは面白いかもしれない。
他の書店に移動して、いま担当している原稿の装丁デザインのイメージを膨らます。こんなことをしている出版関係者は、東京の大型書店なら必ず一人や二人はいるのではないだろうか。動きがどうしても怪しく(棚から抜いては、中身を開かずにドンドン棚に戻していく)なるので、潔白さのアピールを含めて知り合いの書店員さんに声をかける。最近特に話題になっている、「どこどこの新しいビルに、○○書店が出店する?」というウワサ話を二人で勝手にまとめた。蓋を開けてみたいとわからないことだが、こういう情報交換も書店廻りの大切な目的の一つだったりする。
上記ブックフェアは、5月16日(金)から6月30日(月)まで一ヵ月半にわたって催される。店長さんは「地元の版元さんを応援したいから」と言って、ここ数年この時期に何らかの地元本フェアを企画してくれている。その気持ちに応えるには、やはり魅力的な商品を出品して一冊でも多く売ることが何よりだ。小社でも、リクエストを受けた民話本や苗字本は、著者のサイン本を用意しようと思っている。また、フェア期間中に新刊が出るようなら、その告知等も積極的にやっていきたいところだ。「ブックスみやぎ」さんからと北燈社さんからの二つのご厚意に感謝し、フェアでは大いに目立っていこうと思っている。(小)
4月24日
書店廻りから戻ってネットを開いたら、「本の万引き、年間40億円…小学生も犯行、とがめぬ親も」という読売新聞の記事が目に飛び込んできた(詳細)。大手書店14社643店舗の試算というのだから、日本中の書店全部を合わせた数字となると、果たしてどこまで膨れるのだろうか・・・。
そもそも「万引き」という犯罪が、他の商品を扱う店でどのくらい起こっているのか。CDショップの入口には万引き防止のセンサーがあり、あれが機能しているのだろうなとは思う。書店でもあのシステムを導入すれば大きな効果が得られると思うが、その費用をどこ(版元・取次・書店)が負担するのかなどが問題になる。また、万引きされた本の行方として新古書店などがあり、そこで比較的簡単に現金化されてしまうという構図も厄介だ。万引きするだけで大きな大きな罪であり処罰の対象となるが、それを読まずにお金にしてしまうという狡さにも腹が立つ。その本を苦労して書いた著者や、携わった多くの人のことを思うと本当に胸が痛む。断っておくが、決して「万引きしたら読んでから売れ」と言いたいのではない。想像力のかけらもない、安易で卑怯な行為を心から憎んでいるのだ。
このほか書店では、いわゆる「デジタル万引き」などと言われる行為にも頭を悩ませている。携帯電話のカメラ機能を利用して、書店に並んでいる商品の内容を撮影してしまうというものだ。この「デジタル万引き」は取り締まる法律がまだ無いようで、利用者のマナーに頼っているのが現状だ。実は先日、市内の書店にいるときに、携帯電話のカメラ機能を使ったときの「チャリーン」という音が鳴った。3メートルほど離れた男性客が、雑誌の記事か何かを撮影したようだ。すぐに振り返ると、顔見知りの書店員さんもその音を聞いたようで目が合った。「あの人ですか?」「ええ、たぶん」と目で合図すると、すぐにその男性客のもとへ行き「お客様おやめ下さい」と声をかけていた。聞こえた範囲でのやり取りだと、どうやらその客はその行為が悪いことだという認識すらないようだった。
それにしても、本当に困った話である。デジタル万引きについては、「立ち読みして記憶していくのとどう違うんだ」などと言う人もいるらしいが、そういう議論が本質になることではない問題だと思う。本は紙とインクで出来ているものだが、その紙とインクで表現しているものが商品なのであり、売る側はそこに値段をつけている。たかが紙とインクと言うなかれ。それに込められた想いがいかに大きいことか。出版社に勤めて一冊本の大切さを骨の髄まで知るようになれば、本の万引きなどとてもできないと思うのだが・・・。(小)
4月23日
昨日、在仙の出版社・印刷会社・関係団体等でつくる「宮城出版人の会」の三年ぶりの会合があった。多忙な業種柄ながら、加盟16会員中9会員15名参加の盛況であった。懸案事項になっていた同会ウェブサイト運営のことや会長の選任(全会一致で現会長の留任が決定)などの議事を話し合い、その後は美味しいお酒を囲んでの和やかな一席になった。合同ブックフェアの企画等で各会員(つまり同業他社)を個人で廻ることは多いが、普段お世話になっている先輩方が一堂に会することは本当に珍しい。その顔ぶれを末席から見ると、あらためて壮観だった。
世間話がほとんどだが、やはり業務の話にもなる。これが貴重な情報交換になるのだ。客観的に見ても、かなりオープンに話ができていると思う。そもそも、同じ街の出版関係者というだけでこれだけ横のつながりがある例も全国的に珍しいと思うのだが、本当に有効な関係が出来上がっていると思う。一次会のあとには二次会にも誘っていただき、そこでは某社代表取締役の貴重な貴重な歌声まで拝聴する機会に恵まれた。
しかし、ちょっと不安に思っていることもある。8年前に初めて合同ブックフェアをやった時以来、自分が最年少のままであることだ。他社に自分より若い社員さんがいるのは予想できるが、できれば昨日のような場所にもぜひ来てもらいたいなと思う。宮城出版人の会が発展し続いていくのは素晴らしいことだが、それを受け継いでくれる層もそろそろ欲しいものである。若輩者の立場でこんな心配をするのが、生意気であることは百も承知。でも、これまでの同会に長い変遷の歴史があるように、これからも歴史が続いていくような準備を今のうちからしておきたいと思ってしまう。
「来たれ、新世代!」と言うのは簡単だが、こちらでその枠を用意できるわけではない。でも、一人でも多くの若者に「地元・宮城で出版に携わりたい」と思ってもらえるような、魅力的な業界でいられるように努力することはこちらの責務だ。宮城出版人の会は同業者の親睦団体だが、その願いは地元出版界の発展ということで共通していると思う。今後もより密に連絡を取り合って、良い関係・良い業界づくりをしていければ嬉しい。(小)
4月21日
午前中、今月刊行予定の二点(うち一つは既に完成)の告知チラシを持って、街中から少し離れた書店さんへ。こちらの書店さんは、昨年地元出版社のブックフェアを開催してくれた。今年も展開をお願いしようと思って店長さんを狙ったが、あいにく今日はお休み。店長代理の方に告知チラシでウリコミをする。一つ(既に完成)は、仙台で不登校・ひきこもりなどの子どもたちの居場所「フリースペースわたげ」を開いている秋田敦子さんの『わたげ・希望の種』。「わたげ」での支援の内容やこれまでのあゆみ、そして新聞連載や会報に寄せたエッセイ等を一冊にまとめたものだ。活動には10年間の歴史があり、教育界では有名な存在。地元紙に記事掲載でもあれば、効果があるだろうとどの書店さんからも言われる。もう一冊はいわゆるスピリチュアル系の本。『それでも宇宙は笑っている』(末松とも子著)は、以前小社から『宇宙のリズムが人生を変える』『魔法の小石を探して』の二冊を出版している葉瀬中とも子さんの作品だ。前述の『宇宙のリズム〜』を加筆・修正し、タイトルと装丁デザインを一新したものである。書店さんによると、スピリチュアル系(と言っても、馴染みが薄い人も多いだろう。書店の分類では「宗教」あるいは「オカルト」に近いものとしているらしい)の本は、“著者に読者がつく”という売れ方の典型的な例で、「この人の本なら、新しいのが出れば何でも買う」「この人が書く本なら、どんなものでも読む」という固定客が多いという。何人かの売れっ子著者の本を見せてもらったが、たしかに複数冊刊行している人が多い。末松さんは、かつて仙台でヨガ教室を開いていらっしゃった。その教室の生徒さんたちにうまく見つけてもらえれば、手にとってもらえるかもしれない。
その帰りに「メディアデザイン」の事務所に、フリーライターのOさんを訪ねる。大いに歓迎していただいて、楽天イーグルスの話などは一切せずに真面目な仕事の話をした。以前メディアデザインさんにお願いした仕事が、明日節目を迎えることになりそうで、その報告を兼ねての訪問だった。Oさんも各種原稿の仕事がお忙しいようで、奥様の手も借りたいほどだとか。また一緒に何か仕事が出来ればいいと思っている。
書店を廻って帰社し、14時過ぎに遅い昼食をとり、その後日販東北支店へ納品に行く。河北新報出版サービスさんの新刊が積んであったので、ちょっと読んでみた。河北さんにはめずらしい詩集だ。その中の一つ、「空」というタイトルの詩は、「空」というタイトル以外に見開きの中に文字がない。一瞬、落丁なのかと思ったが、白紙の見開きが「空」という作品なのではないかと気づき、なるほどと思った。一旦帰社してそれからまた書店へ。途中、絵本の店「ポラン」に立ち寄ると、普段からお世話になっている学芸員さんがいた。今日は職場が休みで、街を歩いていたと言う。その学芸員さんの職場で、「ポラン」の増田家次子さんを講師に招いて読み聞かせのワークショップを行なう。絵本はもちろん、紙芝居や手遊びも家次子さんのお得意分野だ。その選び方から子どもの心の惹きつけ方まで、かなり濃い内容のものになりそうである。最後はその学芸員さんから「告知に協力して」とチラシを渡されて店を出た。
ジュンク堂書店ロフト店へ行き、営業の後、注文していた雑誌を購入する。一部でかなり話題になっている『monkey business』(柴田元幸責任編集 ヴィレッジ・ブックス)の創刊号(「野球号」と謳っている)がそれ。どんな雑誌かと説明するのは難しそうなのだが、ジャンルは文芸誌で、柴田氏翻訳の作品が二本(現代と古典)、古典作品を漫画家するページ、毎回読みきりの連載などで構成されている。面白そうな雰囲気いっぱいの新雑誌なので、これから進む方向がたいへん楽しみである。
もう一つ情報を。仙台文学館が「街に出る文学」として展開する「LIVE文学館」という催しがある。第一弾は伊坂幸太郎著の『死神の精度』を、在仙俳優とアナウンサーがリーディングした。次回5月16日は元NHKアナウンサーの山根基世さんが、漱石の「夢十夜」を朗読する。そのプレビュー的なインタヴュー記事が、「アルセン」(仙台市市民文化事業団情報誌)の5月号に掲載されている。インタヴュアーは仙台市内で演出や舞台監督助手などで活躍するいとうみやさん。面白い記事なので、ご興味のある方はぜひご覧あれ。(小)
4月18日
仙台はひどい雨である。午後から書店廻りをしたのだが、知らぬうちに背負っていたリュックがびしょ濡れになっていた。リュックのポケットには、いつも文庫本を入れている。「もしかして・・・」と思って確かめると、不幸にもシナシナになった本が出てきた。著者はじめ担当編集者等、関係各位に申し訳ないことをした。ごめんなさい。
ジュンク堂仙台ロフト店で、ハヤカワ文庫のミステリフェア2008が開かれている。最近、ミステリーの分野の本を多く読むようになった。数年前は書店の棚も素通りしていたのだが、いろいろなきっかけから多く手にするようになり、海外物も抵抗なく読むようになっている。それだけに見逃せない企画で、数日前にご担当の書店員さんに教えていただき、しばし雑談で盛り上がった。その隣には黒いオビを巻いた新潮文庫のフェア棚があり、ちょっと惹かれた一冊を購入。それが今日、シナシナになってしまった一冊なので、あえてここでは紹介するのを避けさせていただく。
ちなみに同店では、今春大学に入学した新入生を対象としたフェアを企画中らしい。「東北で欠かせない大学関係者の本って、何か思いつきますか?」と普段お世話になっている書店員さんに訊かれ、真っ先に小社の西澤潤一著作シリーズの中から『日本人よロマンを』を挙げた。ほかに仙台出身の梅原猛先生の本(「授業」の二冊は本当に面白かった。文庫にもなっているので、未読の方はぜひ!)や、地元の同業仲間・東北大学出版会さんの本などを提案。その書店員さんと共通の知人である船渡佳子さんの『キュリアス・マインド ぼくらが科学者になったわけ』は、すでにリストアップされていた。
4月になると、新入学生はもちろん、「この春から何か始めよう」「今年度中に何かを成し遂げよう」と向学心を持つ人が多く、本がよく売れると聞く。実際の売上データがどのようになっているかまでは知らないが、その「向学心を持つ」「向上心に燃える」というのは何となくわかる気がする。読書の秋には半年遅れで半年先走りだが、春の夜の読書もなかなかいいものだ。特にこんなに雨が降る一日は、花見を一年先延ばしにして本を読むに限る。でも、決してシナシナにならないように気をつけて。(小)
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