本の森通信2008年5月号
[Back Number]
[Home]
5月29日(木)
来月刊行予定の歴史小説『勇族の挽歌 奥州平安の動乱』の著者であるTさんが、昨日小社にいらした。青森県との県境にある秋田県八峰町から、能代経由で午前中いっぱいをかけての長時間移動だ。電話では何度もやり取りをしていたものの、直接お会いするのは昨日が初めて。それでも気さくなお人柄に助けられ、スムーズに話し合いが進んだ。
昨日のメインは、装丁デザインの意見交換。デザイナーのOさんにも同席してもらい、三案を提示してもらった。どれもシンプルなものだが、Oさんによる筆文字のタイトルが勇壮に躍っているカッコイイものだ。小説の舞台は平安期の東北で、前九年合戦・後三年合戦をとりあげている(数日前のこの欄で触れた)。それゆえ、写真も使えなければイラストも難しい。なかなか難しいオーダーだったと思うが、Oさんの「私、筆文字書きますよ」という一言で一気に視界が開けた。まだ案の段階ではあるが、予想以上にその筆文字が良く、Tさんにも喜んでもらえたようだった。本日秋田に帰ったTさんからの連絡で、どのパターンで行くのかが決まる。さて、どんな決断が下されるのか?
今日は『勇族の挽歌』の追加原稿の整理と校正作業を行なう。参考文献一覧を見ると、「新人物往来社」や「吉川弘文館」といった、史学科の学生だったころを思い出す出版社名があった。当時、神田神保町の三省堂や東京堂書店の歴史書の棚には、学生の心を躍らせ焦らせるタイトルの背表紙がずらりと並んでいたものだ。結局はその本の一部しか読まずに、今では信じられないくらい時間があった学生時代を終えてしまった。今も歴史書の棚を見たり、その分野で著名な著者の本を手にすると、その本を買って読まないと学生時代から続いている宿題が終わらないような不思議な気持ちになる。大学時代の専攻科目については、多くの人が同じような思いを胸に秘めているのではないだろうか。
学生時代に故・林健太郎先生のご自宅でお話しさせていただく機会があり、その時に不躾も生意気も承知である質問をさせてもらった。それに対する答えは、林先生にしか言えず、また林先生だからこそ重みを持つ一言だった。林先生の声のトーンでその一言を思い出しながら、明日も上記作の編集作業に取り組もう。(小)
5月22日(木)
今朝、いつものようにノルディック・ウォークで通勤していると、すれ違った方に「あれ、それってノルディック・ウォークですか?」と声をかけられた。パッと見た目では何かスポーツをやっていそうな(サイクルウェアのようなシャツを着て、スニーカーを履いていた)女性で、もちろん初めてお話しする人だ。「ええ、そうですよ」と答え、しばしノルディック・ウォーク談義。以前から興味を持っていたそうで、ポールの入手先や講習会等について、知っている範囲で情報提供した。
ノルディックウォークをしていると、通勤あるいは帰宅途中に声をかけらることが多い。「仙台でポールを持って歩いている人に会うなんて、フィンランドに住んでいたころを思い出すわ」など言われたり、「朝によくお見かけするので、仙台でもポールを売っているところがあるんだろうと探しているんです」と、どのケースもなぜか嬉しそうに声をかけてくれる。なので、こちらも自然と明るく返事をすることになる。声をかけられるのはたいてい住宅街を歩いている時で、人通りが多くなる中心部で話しかけられることはまずない。まぁ、奇観と言えなくもないので、当たり前かもしれない。むしろ朝の住宅街のほうが、健康のために散歩やジョギングをしている人が多いので、仲間意識から声をかけられるのかもしれない。
慣れてしまうと、ポールなしで歩くのが億劫になるくらい便利なもので、その魅力にどっぷりとはまっている。感覚で言えば、移動手段の順序付けとして「自動車→自転車→走る→ノルディック・ウォーク→歩く」というくらい確固たるポジションにある。膝や腰などの関節にかかる負担が軽減され、脂肪燃焼効率も20〜30%アップするというのが売り文句になっているが、実際に歩いてみればもっともっとたくさんの魅力を見つけられるはずだ。梅雨前のわずなかこの時季は、一年を通してノルディック・ウォークが一番楽しい時季である。ぜひ、始めてみてはいかがか。
と、こんなことを書いていたら、嬉しい電話が一本入った。ここ数年がかりでたいへん面白い内容の大原稿を書き上げた著者から、「半年かけて書き直しました。また読んでみてください」とのことだった。実は前回は大長編で、実際に本にするとなると現実ではなかった。それを踏まえてスリム化してくれたそうだ。「書き直してみて、『これもいいなぁ』と思っているんです」というのも頼もしい。週明けにはデータを送ってくれるそうだ。来週の大きな楽しみが出来た。(小)
5月20日(火)
朝から久々の暴風雨、昼前にはさらにひどくなったと思ったら、14時頃にはカラリと晴れて心地よい風が吹くようになった。今回は低気圧と台風の相互作用らしいが、5月の仙台は一日くらい嵐のようになる日がある(お祭りに重なることが多い)。でも、それが過ぎれば見事な五月晴れが広がる。今週後半は晴れの日が多くなるようだ。
午前中、来月刊行予定の本の著者と、電話で打ち合わせをする。平安期の東北で起きた「前九年の役」「後三年の役」を題材としたものなのだが、章タイトル等を決める際、「役」の字が問題となった。いわゆる紛争を指す歴史用語には「乱」「戦い」「合戦」「戦争」などがあるが、この「役」に関しては様々な見解・意見がある。かつて学校で「西南の役」と習った人も「西南戦争」と習った人もいるだろう。「役」の明確な語義や使い分けは、専門家ではないので軽率なことは言えないが、この一字に忸怩たる思いを持つ人も多いはずだ。言い換えれば、「前九年の役」と言うか「前九年の合戦」と言うかで、その人の立ち位置がわかるということもある。
「役」を避けて「合戦」にしたいというのが著者の意向。しかし、「絶対に譲らない」というほど強い気持ちではないと言う。こちらとしてはまず私見を押さえ、「前九年の役」と「前九年の合戦」の認知度の違いや、活字にして目にした時の印象の違い、さらには使い分けのされ方などを加味して判断しなければならない。結果的には「前九年の合戦」「後三年の合戦」でいくことにした。この史実については「前九年」「後三年」の三文字で十分浸透しており、他と間違いようもないこと、本のタイトルやサブタイトルではなく章タイトルに沿えるので、アイキャッチ効果を重視しなくてもよいこと、そして著者の意向があり、その意向について大いに同意できることなどが判断の理由だ。つまり、忸怩たる思いを持つ一人でもあるということである。
午後にはデザイナーさんに装丁デザインを発注したのだが、タイトル、サブタイトル、さらにオビ文も良いものが出来たと思っている。はじめのデザイン案が出てくる一週間後には、著者も同席して検討することになる。新しい本が出来上がっていくこのプロセスが、まるで紙とインクが命を持つようで、何度やってもワクワクする。完成に向けて、また気持ちを引き締めて取り組みたい。(小)
[ページトップ]