いんさいど世界
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いんさいど世界(17)
「国境なき言葉たち」を知っていますか?


「国境なき言葉たち」――ご存知でしょうか? ご存知ない方でも「国境なき医師団」っていうのは知っているはず。地震などの被災地に、国境を超えて飛んでいく、医師や看護婦さんによる、国際的な医療救援組織ですね。本部はフランスのパリ。日本人の医師らも参加して、各地で活躍しています。それから、この番組でも以前、お伝えしましたが、アメリカのシアトルに本部のある「国境なき教師団」というのもあります。発展途上国の教育を支援する、国際的な教育支援グループです。それでは「国境なき言葉たち」というのは、どういう組織なのか? オフィスはアメリカのニューヨークにはありますが、実はインターネット上の存在なのです。サイバースペース(そこには、もちろん「国境」なんてものはありません)に存在しているものなのです。サイバースペースにおけるアドレス(つまり「住所」ですね)は、www.wordswithoutborders.org 。ここにアクセスすると、そこに現れるのが、ワード(言葉)・ウィズアウト(なき)・ボーダーズ(国境)、すなわち「国境なき言葉たち」の世界です。これって、どんな世界なのか?

ネットへのデビューは、昨年の7月ですから、まだ生後9ヵ月。できたてほやほやのウェブ・サイトです。これをつくったのは、ニューヨークで活動する女性編集者たち。つまり出版社で本づくりをしている人たちなのですね。彼女たちが、ニューヨーク市内のオフィスを拠点に、ネット上にどんなコンテンツを立ち上げているかというと、アメリカの外、すなわち、知られざる海外の文学作品なんです。アメリカ人って実は文学的にも独りよがりでして、外国の文学作品にあんまり興味を示さないんです。ある調査によれば、外国文学(の翻訳)は、アメリカ国内で出版される文学の3%に過ぎません。ヨーロッパだと、40%にもなるのに、このありさま。つまり、アメリカ人って文学的にみても、世界を知らな過ぎるわけです。だから、たとえばブッシュ大統領が、イランとか北朝鮮を名指しして「悪の枢軸」なんて呼んだりする。けっこう、レベルが低いんですね。それで、こんなことじゃだめ、わたしたちアメリカ人はもっともっと、文学を通じて世界を知らなくちゃならない、とくに「悪の枢軸」とレッテルをはられている国々の文学を知ることは、わたしたちの緊急課題じゃない?!――と、「国境なき言葉たち」サイトを開設したわけです。

「悪の枢軸」といわれている国にも、人々は生きているわけです。いろんな思いを抱きながら、懸命に生きている。そういう人々の心を知る、おそらくは唯一の窓――それがその国の文学なんですね。だから、その国の文学を知ることは、その国の人々の心につながることでもあるわけなんです。ニューヨークの女性編集者グループは、そんな気持ちで「国境なき言葉たち」サイトを開いたわけです。アメリカのサイトなので、仕方のないことですが、使用言語は英語。世界各地の知られざる文学が、現地語から英語に翻訳されて、このサイトにアップされています。でも、大丈夫。辞書を使って英語を読み進めさえすれば、わたしたち日本人でも、国境を超えて現実空間をひとっ飛びし、北朝鮮なら北朝鮮の言葉の世界に入ることができるわけです。その北朝鮮の文学者の作品では、たとえばハン・ウングビンさんの「幸運への願い」という短編がアップされています。都会の工場の管理者が、奥さん方の姪御さんの結婚話をまとめるため、奥さんの故郷の村を訪ねる話です。途中、にわか雨に遭ってずぶぬれになるなど、やや自虐的で、とっても愉快な物語。これを読むと、なぁんだ、北朝鮮の人で、悪の枢軸の人間じゃないじゃん、ユーモアにあふれたいい人間じゃん、って納得することができます。ぬかるんだ道をずぶぬれになって歩いているとき、カラスに出会い、カアー・カアーと馬鹿にされるところなど、とてもよく書けています。いま、カアー・カアーといいましたが、北朝鮮のカラスは、Gaw Gawって鳴くんです。そう北朝鮮の人たちには聞こえる。こんなことまでわかって、なかなか勉強になる短編です。結局、北朝鮮の人たちって、わたしたちと変わらないフツーの人たちなんですね。これはイランの人たちにしても然り。そういうことが、この「国境なき言葉たち」のサイトにアクセスすると、よくわかるです。 日本にも日本語で読めるこういうサイトがほしいところですね。

わたしも「本の森」という出版社にいる編集者の端くれとして、「国境なき言葉たち」を立ち上げたニューヨークの女性編集者たちに、最敬礼のエールを贈りたいところですね。みなさんも、一度、彼女たちのサイトにアクセスしてみてくだい。(2004・4・8)

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