
いんさいど世界(24)
ワイルド・イーストで荒稼ぎ アメリカン・カウボーイ 東京で荒稼ぎ
「ワイルド・イースト」……聞いたこと、あります? 「ワイルド・ウェスト」なら?――そう、その通り、あの西部劇の舞台のワイルド・ウェストなら、ご存知ですよね。ゴールド・ラッシュにわく、なんでもありの無法地帯。一攫千金を夢見る命しらずのあらくれ者が決闘とかしまくる、あのウェスタンの舞台です。そういう「ワイルド・ウェスト(西)」ならぬ、「ワイルド・イースト(東)」……どこのことだと思います?これがなんと、日本の東京のことなのですね。TOKYO――それがいま西部劇ならぬ「東部劇」のメーンステージになっている。ゴールド・ラッシュにわく、荒稼ぎの舞台になっているだそうです。だれにとっての、荒稼ぎの場か? 現代のカウボーイ……アメリカ人を中心とする外人トレーダーたちにとっての……。一攫千金、濡れ手に粟で大もうけした、にわかビリオネーヤ(億万長者)が続出しているんだそうです。
うわさは聞いていましたが、くわしくは知りませんでした。最近、アメリカでベストセラーになった、『Ugly Americans(醜いアメリカ人)』という本を読むまでは。ベン・メツリックという人が書いた本で、実在のスーパー・トレーダーのサクセス・ストーリーです。このベン・メツリックって人、もともとは推理小説の作家ですが、その後、ノンフィクションに転向、マサチューセッツ工科大学の若者6人組が絶対負けない勝利の方程式を編み出し、ラスベガスに乗り込んでぼろもうけした実話(『カジノを破産させる(仮訳)』、映画化されます)を書いたりしている人。ハーバード大学を優等で出た若手のベストセラー作家です。実話ものとしては、この『醜いアメリカ人』が2作目。これが読んでビックリの凄い本。ヘェー、この日本でこんなことが起きているんだ、って驚かされました。
この実話の主人公は、マルコム(仮名)という、アメリカのアイビーリーグ(超名門大学)出の若者。貧しい育ちの出ですが、高校時代、アメフトのスタープレーヤーだったこともあって、基本的に金持ちしか行けないアイビーリーグの大学に進学することができ、アメフトをしながら経済学を学ぶんですね。同級生たちが皆、ウオールストリートを目指すなか、このマルコムさんは日本にやってくる。学生時代、「アイビーリーグ・オールスターズ」の一員として来日したとき、東京の六本木で知り合った外人トレーダーのボスに、「こっちに来ないか」ってスカウトされるのですね。経済学専攻といっても、デリバティブのデの字も知らない、その世界ではズブの素人。結果がすべて、それも利益を出さないと生きていけない、生き馬の目を抜くような過酷な世界で、悪戦苦闘しながら、次第に頭角を現していくのです。そして、まず香港のトラッカーファンドをめぐるチャンスをものにする。ほかのトレーダーが皆、ある銘柄の株価が急上昇すると読んでいるとき、下がるのを見越して勝負に出る。それで大もうけして、東京にマルコムありって、有名になったんだそうです。
次の大勝負は、日経インデックス株価の対象銘柄の入れ替えの際。事前に動きを察知し、たった1日で5億ドル(520億円)も儲けちゃったんだそうです。そのとき、マルコムさんは、弱冠27歳。この大勝負に勝った彼は、ヤクザを父親に持つ日本人女性(仮名でサヨさん)と結婚して独立、自らヘッジファンドを立ち上げ、現在、バミューダの豪邸で暮らしながら、取引を指揮しいているんだそうです。フェラーリを乗り回したりしてね。マルコムさんのことを書いたこの本、『醜いアメリカ人』には、日本のヤクザがヘッジ・ファンドに投資していることや、東京・新宿の歌舞伎町の裏側など、日本の闇社会の実態も出てきます。マネー・暴力・セックス……「ワイルド・イースト」の姿が赤裸々に描き出されている。そのワイルド・イーストを舞台に外人トレーダーたちが、マネーゲームでぼろ儲けをたくらみ、実際、利益を懐にしている。その実態を明るみに出したのは、たぶんこの『醜いアメリカ人』が最初じゃないでしょうか。
この本のなかに、気になる記述がいくつかあります。日本人は金儲けの仕方をしらない、とか、日本の経済紙のジャーナリストはマネー市場がどういうものか、ほんとうはなにも知っちゃいない、とか。「ワイルド・イースト」に乗り込んできた外人トレーダーの目からすれば、日本なんてチョロイということなんでしょうか。『醜いアメリカ人』……たぶん邦訳はこの題名になるでしょう。ひょっとしたら映画化も――邦訳が出るのが楽しみです。(2004・6・17)