いんさいど世界
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いんさいど世界(32)
19歳の兵士、イラクに死す……英国人の心ゆさぶる母の怒り・妹の悲しみ


イラクで真夏の戦闘が続いています。オリンピックをよそに、生死の境をくぐり抜ける戦闘が続いています。誰も好きこのんで戦っているわけではありません。「命令」を受けて戦っているのです。英軍兵士にも犠牲者が出ています。戦死者の数、65人。
きょうは、そんな戦死者のひとり、北部の都市・グラスゴーのちかくの、スコットランドの田舎町からイラクに送られた、ゴードン・ジェントルさんという19歳の兵士と、その遺族――お母さんのローズさんと、14歳になる妹のマキシムさんのお話をしたいと思います。

名もない母親の怒り、妹の悲しみがイギリス人の心を揺さぶっています。ジェントルさん一家は母子家庭です。お母さんのローズさんは掃除婦として働いて一家を支えて来ました。そんな母親に少しでも楽をさせようと思ったのでしょうか、ゴードンさんは昨年の秋、グラスゴーの街のハローワークで、軍務を志願し、入隊しました。当時、まだ18歳。いきなり戦地に送られるはずはない……そんな期待をよそに、ゴードンさんは半年の訓練を終えると、すぐさまイラク南部のバスラに送り込まれました。ことし5月のことです。それから1ヵ月後、ことしの6月、輸送任務にあたっていたところ、道路脇に仕掛けられていた爆弾が爆発、その瞬間、若いゴードンさんの命は絶たれてしまいました。
そして、今月(8月)19日――。
雨のロンドン、ダウニング街の英国首相官邸を、母と妹が訪ねました。戦死したゴードンさんの遺影を――笑顔の遺影をプリントした、そろいのTシャツを着て、抗議にしに来たのです。息子の戦死を知らされた2ヵ月前、母親のローズさんは、ブレア首相あてに手紙を書きました。息子の死をどう思っているのか、首相の考えを聞く手紙です。その手紙に、ブレア首相はなかなか返事をくれませんでした。これに怒った母と妹は、直接、ロンドンの首相官邸を訪ね、話を聞くことにしたのです。二人がロンドンに出かける直前、ようやくブレア首相から手紙が届きます。ブレア首相の手紙は、「息子さんたちは、イギリスの安全と安定のために重要な仕事をした」という、素っ気ないものでした。そこで二人は、予定通り、首相官邸へ抗議に向かったのです。

ローズさんとマキシムさんを、プレスコット副首相が応対しました。副首相に向かってローズさんは、息子を戦争で亡くした母親の思いのたけを率直にぶつけたそうです。そして、ブレア首相の手紙をたたき返しした。「こんなもんで済むか」という意思表示でした。妹のマキシムさんは、ブレア首相あての手紙を副首相に託しました。「わたしの兄は19歳で死にました。何のために? 油とカネのための戦争、それで死ななくちゃならなかった。アメリカの戦争なのに、そうしてイギリスは巻き込まれなくちゃならないの? 」「あなたのこどもたちがすやすやベッドで寝ているとき、イラクにいる息子を思って眠れずにいる家族がいることを知ってほしい。イラクからイギリス兵を全員、引き揚げてください」 こんな内容だったそうです。

副首相との会見を終え、官邸から出てきた母親のローズさんは、待ち受けた記者団に、ブレア首相の手紙をその場でたたきかえしたことを明らかにして、こう言ったそうです。「息子が知ったら、きっとこう言うわよ、『Oh,there she goes again.』ってね」
Oh,there she goes again.・・・日本語に訳すと、「さぁ、これからもけっぱるんだよな、さぁ、行け、カアチャン」。あたまに来ると、何やらかすか、わかないんだから……ほんとうにもう……でも、よくやってくれたね、でもカアチャン。これからが本番だよね。人生、これから、さぁ、行け、カアチャン。そんな意味なのでしょう。そう言ってローズさんは「笑った」と、イギリスの新聞は書いています。

ローズさんは息子を戦地に送っているほかの母親たちとともに、イラク戦争反対運動を続けていくそうです。イギリスの反戦肝っ玉母さん……応援したくなりますね。(2004・8・26)                   

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