「あ…私…」
光が収まり、目が慣れてくる。
そんな彼女の視界に真っ先に飛び込んできたのは自身の放ったテクニックで重傷を負い倒れている従兄弟の姿だった。
「クレッグお義兄ちゃん…!」
センカは考えるよりも速く体を動かす。
急いでメディカルセンターへ搬送してあげないと、と。
が、センカが数歩前に出た所で自身の歩みが後ろからの力に止められる。
「ミスト、何…」
「貴女が何を考えているのかは分かってる、だから私はセンカをこれ以上前に進める訳にはいかないの」
そんな事を言ってる場合じゃないとセンカが口にするよりも早くミストは彼女の手を強く引き、わざと尻餅をつかせる。
直後、テクニックによる雷撃がセンカの頭上を掠め、何事かと出所を見れば上半身を起こしたクレッグが次のテクニック詠唱を行っていた。
「甘ちゃんが命拾いしやがって。 クソッ、うぜー、うぜー、うぜぇ…」
小柄なアンドロイドが自分に怒りを抱きながら向かって来るのが見える。
テクニック一発でチェックメイトかよと心の中で毒づく。
そして同時に、認めたくない感情が自分の中に生まれている事も彼の自虐を促進させた。
自分を助けに走ろうとしたセンカの瞳に嘘は無く、ミストが止めなければ恐らく彼女は応急処置を施した上でメディカルセンターへと移送していただろう。
それこそセンカ自身やフィエナに何をしたかなど考えずに。
アレは平気で自己を犠牲に出来る目で。
その目にクレッグの心は何故か惹き付けられた。
テクニックの光の中で彼の血が何かを感じてしまった。
事もあろうか、自分がレインハート本家…いや、"彼女"を認めかけてしまった。
彼女と自分との、どうしようもない決定的な差を。
あの一瞬で自身に培われた憎しみが流される等考えれる訳が無い。
"アレ"は自分達の敵の筈なのに。
憎悪に染まっている筈の心が痛い。
このままでは自分の存在そのものを自身で否定してしまいそうで
「うぜぇ…うぜぇ、うぜぇ…! 認めねぇ、認めるかセンカ・レインハート!! 俺は、絶対に…認めてたまるか!!」
ミストの刃が彼を捉えるよりも早く。
彼は自身で自身の喉を掻っ切った。
新約 PHANTASY STAR ONLINE Episode1
-15- 「心眼の剣 狂気と凶器」
「無駄 無駄 無駄ァ!! そこそこやるようだがその程度じゃ無駄だぜぇ、王子様!」
ヴェルの放つ弾丸の悉くを掻き消し、避けて、距離を取ろうとする彼に肉薄する。
クローの切っ先が掠める度に、背筋が寒くなり。
そして、遊ばれていると実感する。
悔しいがコレには今の自分は敵わない。
フィエナはと言えば戦闘から少し離れた場所で祈るように手を握っている。
どうにかして彼女を逃がしてやらないとという思い。
そしてその想いが隙を生む。
「少なくともここにいるハンターらとならタイマンしても負けねーだろーが。 おっと、他所に気を飛ばす余裕なんかあるのか、ね!」
「っ…ぐぁっ!!」
いつの間に背後に回りこんだのか、ジグの肘がヴェルの背を弾き飛ばす。
武器でなく、わざわざ殴り飛ばすとはいよいよ馬鹿にされている。
直ぐに体勢を立て直し、ジグの隙を伺うが愉快そうに直立している相手に対して隙が見えない。
どこから攻めても受け流される事は目に見えていて。
無理矢理にでも隙を作らないとどうにも手詰まりで。
そんな様子を見ながら、フィエナはごくりと唾を飲む。
あのナイフでは、一人では何も出来なかった。
今はこうやって助けられ、それでも尚危機は迫っていて。
あの男の人が"普通"でない事は肌で感じられる。
体の震えが止まらない、でも止まらない中で。
"何か…何かしなきゃ。 私だって…何か…私は…出来るんだから"
そう、自分は助けになれる力を持っている。
姉も、ミストも、自分の父親も、亡くなった母親も知らない彼女の力。
彼女は元より知っていた、本家と分家の確執を。
センカと母が違う故に知っていた、彼女もいわば分家の一つと言ってもいい。
その上で彼女は知らない振りを装った、考える事が怖いから。
実際、恐怖で体は動かない、事実に耐えられる強さを少女は持っていない。
でも、今自分が出来る事をしないでどうするんだと意を決する。
冷や汗が溢れてくる中で震える唇で。
「はっはー。 そろそろ大技こいよ。 ソレを打ち破って完膚なきまでに叩きのめして息の根止めてやんよ、王子様」
「馬鹿にしやがって。 つっても…それしかねぇか」
クルクルと銃を回し、気を溜める。
折角の申し出だ、最大限にデカイ一撃を見舞ってやるとばかりに練りこむ。
銃は撃ち出すという行為の媒介に過ぎず。
「リミットオーバー…ブレードローカス」
ヴェルの周囲に幾つかの紅い光が浮かび上がる。
光は彼が練りこんだ気の分だけ増えていき、その数は十はくだらない。
「穿て!!」
力強い声と引鉄を引く行為と共に紅い光点が伸び、細いレーザーとなって其々の軌跡を描く。
今の彼の限界ギリギリの出力で合計12本。
意思を持っているかの如くうねる光にジグはくつくつと笑い。
「おもしれー事すんじゃねぇの。 つってもな、まだまだスキマ多いよな、少年!」
襲い来る光を紙一重で避け、次の光も合間を潜る
間を縫うようにヴェルが銃撃を行うも、ジグのクローがソレを掻き消す。
「にゃろ…全然余裕かよ」
「カッ、そうでもねーぜ? 明らかに確実に鮮明に俺はさっきより力を発揮してるぜ。 さっきまでのままだと蜂の巣っつっても過言じゃねぇ。 大した王子様だよ!」
「俺にはアンタが底なしでしかないとしか見えないけどね」
「ソレが実力差って奴だろう、王子様!! ほら、最後の一本も抜けてもう後は切り裂くだけだぜぇ? チェックメイトか!?」
突き出されたクローを咄嗟に身を捻って避け、大きく距離を取る。
そもそも速度で負けてる以上取った距離など一瞬で詰められるのだが。
今だけは例外が起きる、少女の介入で。
「刃となり、我に仇なす…敵を、討て。 レインハート術式、異界…門」
小声で、震える声で長い長い詠唱を終える。
未だ幼い彼女に必要な長い詠唱は一般のハンター達が用いるテクニックとは違い。
放たれるその力はテクニックとは同種でありながら全く異質。
フォースの名門、レインハート家に伝わるその源流。
フィエナの手から光が迸り、まだ力も足りない彼女から放たれるのは一瞬の光。
しかしその光はジグの足を止めるには十分で。
あらぬ場所から危険を察知したジグはヴェルとは逆方向へ退避する。
瞬間、爆音と共に床が弾け飛びこの戦闘で一番大きな破壊を為した。
術式を放ったフィエナの精神力は既に尽き、全身から噴出す汗を拭う力もなくうな垂れて。
そして自身の体を冷たい感覚が覆った。
「お姫様にも一撃があるたぁ予想外。 なんだ…俺は王子様もお姫様も殺していいわけだ? 何せ敵だもんな、殺人鬼らしく二人仲良く殺してやっか」
反転したジグがフィエナへと跳び、それを庇う様にヴェルが奔る。
何とか凶刃よりも先にフィエナの手を引くが、その小さい体からはおよそ力強さを感じられず、今の一撃で全てを使い果たしたのだと理解する。
今の一瞬は助かったが果たしてどうしたものかとヴェルは背後から迫る殺気に身構える。
だが彼の背に痛みが走るよりも早く、自身のすぐ側を誰かが通り過ぎるのを感じた。
「まーた乱入者っつか侵入者かい? んとに警備がザルだよな!」
「そう言ってやるなよ、頑張って仕事はしてると思うがな、俺は。 相手が悪いってだけじゃねーの、お前と戦ってたこの馬鹿みたいにな」
ジグのクローを受け止めたのは漆黒。
両剣の紫がかったフォトンが軌跡を描いて凶刃を押し返す。
「っ…ハルバー!!」
「おめー、保護してから見つかってんじゃねーっつの。 見つかんならソロん時に見つかってぶっ飛ばされとけ」
保護しなきゃいけないか弱い女の子を衰弱させやがってと付け加えてヴェルの頭を殴る。
手加減してない為に非常に痛い。
「んじゃま、選手交代って事で一つ」
「オーケーオーケー。 物足りないって思ってたトコでさ、何ならまとめてでもいいぜぇ?」
「そんな余裕かましてていいのかね?」
こう言葉を交わしている間にも両剣とクローのフォトンが幾度も交差する。
両剣の斬撃と体術による連撃が、今までヴェルの攻撃で退く事を知らなかったジグを後退させる。
が、すぐさま押し返すように反撃に転じ、戦闘開始時と同じ場所まで押し戻す。
「へっ、そこそこやんじゃねぇか」
「姑息な真似ってのは嫌いなんでね、殺人鬼たるもの清く正しく堂々と殺傷するべきだ」
人体の急所を狙ってくるジグの一突きに避け、カウンターの拳を彼の腹部に見舞う。
手応えは浅く、追撃を控えたハルバーは僅かに下がって両剣に裂帛の気を乗せる。
それに応えるようにジグは全身を捻り、クローのフォトンを両剣のソレにぶつけた。
火花が散り、次の一撃は同時に繰り出される拳。
「清く正しい殺人鬼とか聞いたことねーよ!」
「そうかい? 清く正しい殺人鬼はむやみやたらに殺生はしねーんだぜ? お前は殺したいけどな?」
相手が強いとゾクゾクすんだよと続け、一度、また一度と武器を交える。
こんな派手にやり合っていて誰も気付かない訳もなく。
騒ぎを聞きつけたハンター達が数人姿を現した。
「っ…侵入者!? 直ぐに…」
「死ねばいいと思うぜ?」
援護に出ようとしたハンターの背後に回りこんだジグはその背を切り裂き、一撃の下に絶命させる。
フィエナが気を失っているのが幸いだとヴェルは抱えている少女に目を落とす。
味方と思っていた雇われハンターに不意の一撃を見舞われて他のハンター達がどよめく。
「邪魔すんじゃねーっての! 折角楽しんでんだ、他にも侵入者いそうなんだしそっち回ってろ、馬鹿」
「おいおいおいおいおい、清く正しい殺人鬼は無闇な殺生しねーんじゃなかったっけ?」
「邪魔されたら俺も怒っちゃうよ、いやいやマジで。 どうせ他の連中じゃお前は元よりそっちの王子様にも勝てないだろうし、無駄だ無駄。 つかその時点でここの防衛とか無理っぽくね? 人材不足だよなぁ」
ヤレヤレと肩を竦めたジグが他のハンターを一瞥してハルバーに向き直る。
「ま、雇い主には特に義理があるわけでもねーし、どーだっていいけどな。 ちっとばかりギア上げさせてもらうか」
「ったく、何かめんどくせー奴に当たっちまったな」
呆れた様にハルバーは武器を構える。
自ら殺人鬼と言うぐらいなのだから実際今までに数え切れない程の人間を殺してきたのだろう。
だがそれ以上に彼からは"戦闘が好き"という思いが強く伝わってくる。
だからこそ面倒くさい。
ジグのクローが掠め、ハルバーの蹴りがその腕を弾く。
ギアを上げるとの言葉通りに先程よりも動きにキレが増し、合わせる様にハルバーも少しばかり力を上げる。
相手の命を奪う事を至上とした攻撃を受け流し、もう立つなとばかりに殴り飛ばすもやはり浅い。
此方の力を図るような戦いに内心毒づきながら押し切られない様にセーブしている力を少しずつ解放していく。
そんな攻防が続く中、ソレに水を差すように遠くの方で爆発音が聞こえた。
「んあ? 何だ、お仲間の到着か」
冷めたように言うジグは大きく距離を取り、何かを探るように周囲を見回す。
「こりゃダメかね、無理に義理通す必要性もないわな。 王子様は無事にお姫様を救出できました、めでたしめでたし」
返事を待つ間もなくジグは姿を消し、ハルバーは舌打ちしヴェルはほっと安堵する。
これ以上自身の欲望に忠実であっても彼が損をするだけ。
引き際をこれ以上ないぐらい早く見定めた。
「ちっ、とりあえずはめでたしだが…あーいうのはしつこく縁が繋がるから好きじゃねぇ」
吐き捨てるようにそう言った。
「ん? あれ?」
グレイの第一声はそれだった。
鉢合わせた"彼ら"は見覚えのないハンターに身構えて。
通路の真中を堂々と歩いていた侵入者の視線は、拘束されて連れられている少女に向けられていて。
確かフィエナっていう子を助けに来たと思うのだけれど、どうしてこんな所で知り合いがこんな事になっているのか一瞬考えて。
「っ…まだ侵入者が…があっ!!」
先頭を歩いていたハンターが突如倒れる。
かと思えば拘束されていたタマモを引いているミカヅキの腕に激痛が走り、思わず力が緩む。
「っ…貴様も化物の仲間か!!」
「お前が言う化物の定義に入るなら誰でもそうなるんじゃねぇ?」
直後ミカヅキの顎が跳ね上がり、次いで床に叩き伏せられる。
「ミカヅキ…! ジュン、援護しろ!!」
ゲンゲツがそう叱咤するも、彼の長年の経験は格の違いを感じ取っていた。
先ほどのアンドロイドといい、雇われたアリスという少女といいその全てが荷が重い。
決して自分達の力が並以下というわけではなく。
相手が強すぎるという、ただそれだけ。
ここまで連続して遥か高みに位置する相手と遭遇する事は不運としか言い様がない。
類は友を呼ぶ、化物じみたスペックの上で生み出された者の周囲には自然とソレについていけるものが集まるということか。
少なくとも彼の雇い主が"こういうこと"に手を出してからというもの、こういった者と相手取る機会が増えた。
「立ち上がった…案外根性あるもんだ」
「クソッ…こんな実験体の軽い命の為にご苦労な事だな!!」
ぐるぐると回る視界の中で立ち上がったミカヅキは既に昏倒させられたジュンの横を駆け、よろめきながらも武器を振るう。
ミカヅキは感じられず、だがゲンゲツは侵入者が帯びた冷たい気に戦慄する。
「命の重さは同じだ。 どんなに澄んだ命でもどんなに穢れた命でも。 わかんねー奴は寝てろ」
振るわれる剣をあっさりと避けたグレイはミカヅキの足をかけて転ばせると後頭部に踵を見舞う。
結局、グレイに剣を抜かせることもなく彼らは殲滅されて。
「あんたがリーダーみたいだけど部下の教育は公正に生きれる様にしといて欲しいね」
懐に飛び込まれ、ゲンゲツの反応が一瞬遅れる。
そしてその一瞬は視界が反転するのには十分で。
「意識は残ってるだろ。 でも起き上がんなよ?」
邪魔するなと釘を刺され、ゲンゲツは静かに目を閉じる。
どこの誰だか知らないが、このレベルのハンターとやり合うならもっと人が必要だ。
どう足掻こうとこれでは勝てない…勝つ可能性のある駒は居るにはいるが。
「グレイさん…!」
「何か災難ごとに巻き込まれてたみたいだな。 ま、ここで会えたって事はまだ幸運だったってこった」
ここで初めて腰のセイバーに手を掛けたグレイはタマモを拘束している機器にフォトンを走らせる。
見事なまでに拘束衣のみを焼ききり、彼女の肌には熱の欠片も伝わらなかった事に感嘆の声を上げた。
「あ…有難う御座います! 私だけじゃどうしようもなくて…先ほど、葛丸さんも私を助けに来て下さって…」
「ん…? 葛丸が?」
じゃあ何で今ここでこの様な形で遭遇したのかと質問を返すよりも早くガラスの割れる音が聞こえる。
伝わってくる戦闘の気配にグレイは成程と納得する。
タマモを連行していたこのハンター達に葛丸が遅れを取るとは思えない。
ならば彼の足止めをしたのはまた別の者。
「ここは先にタマモを逃がしたほうがいいか。 体、動かせる?」
「私はまだまだやれるかな」
声がしたのはタマモからではなく、別の方向。
そしてそれはガラスが割れた方向と同じ。
一本のナイフが空を切り、だがグレイのセイバーによって弾き落とされた。
現れたのは目隠しをした金髪。
「っ…葛丸さんは…」
「お侍さんなら負けを認めたからとりあえずおしまい。 で、終わってみればまた大きい獲物がいるじゃない。 ねぇ?」
言いながらグレイへと顔を向け、手に持った三本のナイフを順次撃ち出す。
その全てを難なく弾くが、金髪…アリスは一気に距離を詰めて弾かれたナイフを空中で手に取って一閃する。
乾いた音と共に再度ナイフが弾き飛ばされるも、ソレを見計らったように逆の手に持っていたナイフを床へと投げつける。
ナイフは床を跳ね、グレイへと真っ直ぐに刃を向けた。
「面白い芸当だけど…それじゃ」
「大道芸だって? あはっ、お侍さんもそう言ってたけどね。 でもまぁ」
跳ねたナイフを避け、セイバーを振るうもソレを紙一重で回避したアリスは床に転がったナイフへ新しいソレをぶつける。
意思を持ったように音を奏でながら浮き上がる数本のナイフにグレイの追撃の手が止まり、その止まった瞬間に空中に浮かんだナイフを全て手に収めると大仰に後退して一礼する。
「大道芸でやり合うにはこいつはちょっと失礼だよね。 というか、私が"こっち"でちょいとやってみたいかな」
ナイフを全て仕舞いこんだアリスは背に収まった剣を肩から下ろす。
白い装飾の入った鞘と柄はソレがフォトン製ではなく、実体を持つ剣だと言う事を表して。
「あー…"そっち"の類か」
「そういう事。 こっちでやりたいと思ったのは久しぶりなんだ。 雇い主に尽くす義理もないし、あのお侍さん相手でもうお金の分は十分働いたから撤収するつもりだったんだけど…付き合ってくれるかな? 『天剣』」
「あんまりそっちの通り名で呼ばれるのは好きじゃないんだけどな」
グレイはセイバーのフォトンを切って腰に下げていた剣へ手を伸ばす。
鞘を抜けば白い刀身が姿を現し、アリスもそれに倣うように剣を抜き放つ。
「姉妹さん、ちょこっとだけ離れてた方がいいよ。 大丈夫、そこに転がってる人達にはもう手出せないし、この時点で貴女は元の生活に戻れる可能性は極めて高い」
「姉妹? タマモに姉妹とかいたのか」
「厳密には違うよ。 私は彼女と同じ、生み出された命。 聞いたことあるでしょう、作品集…オストアンソロジー。 私の番号は26」
不敵に笑い、その笑う姿はタマモにとって衝撃で。
自分と同じ造られた命、今自分が内に眠る力を…自身が何なのかを認識し始めた段階なのに対して。
彼女は確立した自己と共にそこに居た。
「真名はアマリリス…『心眼』のアマリリス。 本当はもう一個通り名あるんだけど、そっちはまだ内緒。 あなたほど有名じゃなくてごめんね」
「名前で強さが決まるなら苦労しないよな」
「全くもってその通りだよね、あは」
瞬間、二人の距離は詰まり、剣撃の音が響く。
フォトン同士のぶつかり合いでは聞くことの出来ない音が奏でられた。
かろうじて剣の軌跡を追う事は出来たが、彼女の体に染みこんでいる技術がフル稼働してもそれが限界。
実際にやり合えばついていける自信はない。
躍るようにくるり、くるりとステップしアリスの剣がグレイのソレを叩き、グレイの剣がアリスのソレを弾き返す。
アリスの目隠しは依然そのままで、普通に考えれば彼女の視界はゼロの筈。
だが、彼女は剣の軌跡を正確に読み取って、相手の動きを読み取って対応する。
「あはっ、やっぱりいいね! こうやって自分の剣を受けきる相手っていうのはさ」
「本気じゃない癖によく言うね、ホント」
グレイが反撃に転じればアリスはその悉くを受け流し、その隙をついてアリスが剣を振るう。
舞踏と呼んでもいいぐらいの剣捌きにタマモは息を呑み、見惚れてしまう。
「本気なんて滅多な事で出すもんじゃないよ。 だって本気出して負けたら本当に後がないじゃない?」
くすくすと笑いながら剣を打ち合い、先にアリスが一歩後退する。
打ち合わせていた行為から身を引く形のアリスにグレイが踏み込むと背筋に冷たいものが走った。
アリスは真っ直ぐにグレイを見、彼目掛けて剣を真っ直ぐに突き出す姿勢を取る。
が、次いで放たれた剣閃はグレイの足下を薙ぐように繰り出され。
自分だったら足を切り裂かれていたとタマモは思う。
グレイはアリスの剣が放たれる瞬間にソレに気付き、足下に振るわれた剣をかろうじて受け止めた。
「お見事」
「油断も隙もねぇな。 ここまで生粋の"剣士"とやり合うのも久々だ」
「お互い様みたいだねぇ、それは」
何故この相手が初手に大道芸じみた真似を披露して戦いを始めたのかが何となくわかった。
意識的に手加減をしているだけ、自分の剣を振るえる相手がいないから。
それでも十二分に戦えるというのだから不思議なものだ。
思わず周囲の状況など忘れ、"剣士"として戦っている自分がいる。
そんな二人の意識はそう時間も経たぬままに引き戻された。
建物が小さく揺れ、爆発音が響く。
「っと。 どうやらここが潮時みたいだね。 短かったけど満足満足」
大きく距離を取ったアリスは転がっている鞘を拾い上げて剣を納める。
グレイもそれに追撃するような真似はせず、肩を竦めて戦いの余韻を肌で感じた。
「流石に捕まったりするのはごめんだからね。 私は無関係です、本当に有難う御座いました。 ってことで撤収させてもらうよ。 あぁ、そうだ"タマモちゃん"」
剣を再び肩に背負い踵を返すアリスだが思い出したようにタマモへと顔を向ける。
ビクっと肩を震わせるタマモだったが、アリスからは殺気も怒気も感じられずどこか暖かい感じがした。
「私は貴女を助ける気もなかったし助ける立場でもなかったけど…体をいじくられない内に助かってよかったね。 同族優待で縁があれば貴女からの依頼を一度だけ無償で聞いてあげる。 それとグレイ。 楽しかったから是非今度またやり合いたいな」
「疲れるから全力で拒否させてもらう」
またまた照れ隠ししちゃってー、と笑いながらアリスは襲撃の始まった施設内より退避し始める。
そんな彼女の後姿を見送る事もなく、グレイがタマモに手を差し伸べる。
「…あの、ごめんなさい。 実は麻酔であまり自由が効かなくって…」
ふらふらと手を差し出すタマモに苦笑してグレイは彼女を抱え上げる。
「要はこうして欲しいって事?」
「あ、いや…そういうつもりでも…!」
思わず顔を真っ赤にするが暴れるだけの自由も効かず。
何だか助けられてばかりの自分がいて恥ずかしい。
「んじゃ、先にタマモを安全なとこまで運んでやらないとな。 …一応葛丸見に行くか、アリスの口ぶりじゃ大丈夫だろうけど一人で逃げられねぇ状況だと洒落になんねぇし」
こいつらは…無視でいいやと他のハンターを一瞥して息をつく。
幾らなんでもこの建物が倒壊するぐらいまで破壊しないだろ、と思いつつ。
(…そういやヴェルの方はちゃんとできてんのかな…フィエナって子に俺、かすりもしなかったけど)
疲労の為かグレイに抱えられたまま意識を手放したタマモに目を落とし、先ずは葛丸の安否を確認に向かう。
この暫く後、ハンターズギルドに登録すらされていないこの違法施設は完全に制圧された。
新約 PHANTASY STAR ONLINE Episode1 -15- 終
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