「この先に逃げたのは間違いないみたいねぇ。 セントラルドームのこんなに近くまで根を張ってるとか案外馬鹿にできないものよね」
健康的な褐色の肌のニューマンは報告に上げられたデータを見てため息をつく。
木々が生い茂る中でふと後ろを振り返って見上げれば巨大なセントラルドームが視界に収まる。
パイオニア1の移民開拓の要所であり、本来ならばパイオニア2はこの付近に着陸し第二のドームとして再建設される予定であった。
遅々として進まないパイオニア2の開拓も、先日の大火事から飛躍的に調査が捗りセントラルドームのすぐ近くまでこぎつける事ができた。
明らかな違法行為がここまで進捗を進めるのだから侮れないものだ。
最も、その"犯人"が正しくギルドや総督府にデータを提出していればもっと捗っていたかもしれないけれど。
「でも結構逃げ続けれるものねぇ。 こっちだって慎重に進まざるを得ないのは確かだけど、温室育ちとしか思えないお偉いさんがいや、立派立派」
「スゥ、感心してないで次はどうするのよ? この先ちょっと見てきたけど相変わらず森が広がってるだけで手がかりらしきものはないわ。 怪しすぎる建物はすぐ近くにあるけど」
フォックスが長い髪を揺らしながらスゥと共にセントラルドームを見上げる。
こんなに近くまで来て通信を飛ばしてもやはりセントラルドームからは何のリアクションもない。
遠目から見れば所々がボロボロになってはいるが、元々大きすぎる建物であるので建造物としては何ら問題のないレベルには見える。
問題はあの中身なのだが、連絡を試みても反応の一つも帰ってこない事からある意味絶望的と考えられる。
嘘か真か、グランスコール号を撃墜した巨大な竜の棲家になっているとの噂もある。
「んー。 そろそろセントラルドームの内部調査も考えた方がいいわねぇ。 まだそんな許可下りないんだけどさ」
「いつになく慎重よね。 いつもならあたしや猟犬辺りが先陣切って調査させられるのに」
やれやれと肩を竦めるフォックスにスゥは苦笑し、開いていたデータを閉じる。
「そりゃ慎重にもなるわよ、フォックス。 コーラルとラグオルじゃ勝手が違いすぎるもの。 第一、貴女や猟犬を事故で失う事があればもう替えが効かない」
「ま、基本的に人員補充がないものね」
パイオニア2の移民船団にコーラルからの支援は基本ないものと考えていい。
元々大きな問題も無くパイオニア2はラグオルへ降下する予定であったし、その予定だったからこそ政府管轄の軍もその数が圧倒的に少ないのだから。
簡単に戦力の補強が出来ない以上、扱いにも慎重になるというもの。
「でもコーラルで貴女や猟犬が先陣切らされるのはデータもほぼ整っているし何より貴方たちの力が信頼できるから、よ?」
「あたし以上のなんて唸るほどいるでしょうよ、そんなに持ち上げないでよ」
苦笑し合う二人に、部下からの一報が届く。
セントラルドーム付近にて最近のものと思われる血痕とハンターの死体が見つかったとの事だった。




新約 PHANTASY STAR ONLINE Episode1
-18- 「間奏 変わらぬ日常」




「よう、相変わらず時間にゃきっちりしてるねぇ」
「先に待ち合わせ場所で寛いでる人に言われたくはないね」
あらかじめとっておいた料亭の部屋へ入るやいなや、既に当たり前の様にそこにいた殺人鬼に青年は苦笑する。
昼間っから豪勢にいってもいいのかねぇ、と口にしながら机の上にはメニューを広げてくつくつと笑う。
「そういえばあの二人も来ているんじゃなかったのかい? こちらもそのつもりで用意はしてたんだけど」
「あー、"仲悪く"ご不浄いってるぜ。 あと、これはそっちの判断に任せっけどもう一人、お前とあいつらに紹介だけしとこうと思ってる奴がいてね。 その内来ると思うわ」
「それって前にソフィが言っていた作品集の人かい?」
青年の言葉に殺人鬼はメニューから顔を上げて意外そうな顔をしたと思えば、ほんとあいつと仲いいねぇと苦笑しながら頷いた。
「"アイツ"の都合が良い日とおたくに会う日が合致してね。 ついでだしクレスのお眼鏡に適うなら雇い入れてもいいんじゃね?と思ったってわけ」
連れ二人に会わせるのが第一の目的だけどなと付け加え、グラスに入った水を飲み干す。
丁度その時、彼らが寛いでいる部屋の戸が開けられて赤髪の少女が二人顔を出す。
双子と思える様に瓜二つな少女らは片方は仏頂面のまま、もう片方はニコニコと笑いながらクレスに礼をする。
「やあ、ルイにソフィ。 こうして実際に顔を会わすのは久々だね」
「おひさしー! 元気そうで安心したよー。 勿論あたしも元気だよ!」
「……久しぶりね」
ソフィはクレスの手を握り無邪気に笑い、ルイは特に興味もなさそうに一瞥すると殺人鬼の隣に腰掛ける。
二人の様子の違いに苦笑するクレスをよそにソフィは彼の隣に腰掛けてメニューに目を通し始めた。
先に注文を済ませて一息つくと、殺人鬼から本題を切り出す。
「んで? 俺に頼みたいことは"コレ"かい? ま、当たらずとも遠からずってか」
自分の首を手でトントンと叩いたと思えばクレスの返答を待たずに二の句を告ぐ。
「全くジグの言うとおりに当たらずとも遠からず、かな。 基本は"ソレ"じゃないんだ。 僕たちと一緒にラグオルの調査を進めて欲しいのが一つ。 もう一つは"彼女たち"を取り巻く環境を出来る限り調べておいて欲しいという所かな」
「けーっ、本格的な首ちょんぱは暫くなさそうじゃねぇの。 因みに聞くが"彼女たち"ってーのは愛しの愛しのオメーと同じ姓をもつお姫様方かね?」
にやにやと笑い数日前に出会った少女の顔を思い浮かべる。
「そうだね。 既に従兄弟がやられてるんでね、どう転ぶにしても準備は万端にしておきたいんだ」
「従兄弟のやられっぷりで様子見してた癖によく言うねぇ。 只やっちまうだけなら居場所が分かった時にすぐやっちまえばよかったのにな」
「まぁ、彼は威勢は良かったけど内面は臆病だったからね。 既にいない人の事を話していてもどうにもならないけど。 で、返答はどうかな?」
顔色一つ変えず、そう問うクレスに殺人鬼−ジグは腕組みをして天井を見上げる。
ルイとソフィもその"考えた振りをしている"殺人鬼をじっと見つめている。
「承った。 俺ら三人まとめてオメーの指揮下についてやんよ。 つってもめんどくせーから基本この二人使ってくれや」
「僕はそれでもいいけど二人はそれで納得できるのかい?」
やれやれと肩を竦めるクレスはルイとソフィの顔を交互に見る。
片方は今までと同じくにこにこ顔でもう片方はさっきよりも不機嫌になったように見える。
「あたしは全然へーきだよ。 いったでしょ、最近退屈してたって」
「…小間使いみたいに使われるのは不本意よ。 アタシはクローンのソフィと違って作品集の一人なんだからそれを念頭に置いて欲しいわ」
「相変わらずプライド高いねぇ。 タイマンで俺への勝率が五割に達してから一人前だぜ?」
からかう様に言う殺人鬼にルイは小さく舌打ちしそっぽを向く。
いつも通りの光景ではあるのだが、ルイもソフィも今日は何処と無く緊張している風がある。
クレスに会うからという理由ではなく、作品集の一人と会うからという理由から。
運ばれてきた料理にルイは口もつけず、ソフィもそわそわしながらちょびちょび口に運ぶ。
「そーいやジグに五割勝って一人前って、今日会うアリスさんとの勝率どうなの?」
「真面目にやりあった事なんかそれこそ覚えねぇなー。 殺りあうになっちまうし…少なくともおめーら二人よりは強いんじゃねぇか」
ジグの言葉にルイはまたむっとしたように機嫌を悪くし、ソフィはへー、と相槌を打ってちらりと姉を見る。
59番と26番、同じ付番されたものでもやはり個体差があるということかとソフィは納得する。
そんな中、ジグが何かに気づいた様に箸を置く。
「来たか」
「お呼ばれされてこんにちは、っと」
ジグが立ち上がって戸を開けるよりも早く、金髪の少女が顔を出す。
相変わらず両目を黒い布地で覆い、真っ白な外套を羽織った少女はぐるりと"初対面"の者達を見回して。
各人の反応はやはりそれぞれ違い、その様子にアリスはクスと笑って室内に踏み込む。
「ね、共通の知り合いとして紹介はしてくんないのかな?」
「間に入った方がいいかい? んじゃ、失礼してこっちからな。 この稀代のイケメンはクレス・レインハート。 名前の通り、かのレインハートの血筋に連なるそれはそれは高貴なお方で今現在俺の雇い主でもある」
「凄く馬鹿にされているような紹介有難う」
「どういたしましてだぜ。 んでこっちが俺んとこの居候二人のルイとソフィだ」
「なるほどね。 はじめまして、お三方。 私はアリス、しがない中堅ハンターだよ。 もうコイツから聞いてるだろうけど、作品集26番。 ま、人とはちょっと違うけど仲良くしてくれると嬉しいかな」
そう言ってジグの隣に座ったアリスは、自分に注がれている中でも強い興味を持った視線の一つに目を向ける。
「アリスさん、アリスさん。 何でアリスさんは目隠ししてるのー?」
「あぁ、これ? 特注の布っきれでね、私の"作品集"の力を抑えてくれてるの。 制御出来なくはないんだけどこの方が楽でね。 本当はコンタクトにしてるものも持ってるんだけど、こっちのが何かと雰囲気出るでしょ?」
くすくすと笑うアリスにソフィは"作品集の力?"と首を傾げる。
対してアリスはそれは内緒と言い、"私の元になった動物に伝わる力だよ"と続ける。
「貴女の元は何なの? そんなに大層なものなのかしら」
不機嫌そうなままのルイが口を開き、アリスは自身に放たれている小さな敵意に息をつく。
緊張しているのかしらないがピリピリしている感じは受ける。
「それも秘密。 因みに私は複数の動物が混じってるから。 っと、そういえば貴方たち二人も番号持ってるんだっけ?」
「金毛白面焔狐の50番台、59番のルイよ。 そっちのソフィはクローンに過ぎないけどね」
ルイの言葉にアリスは"え?"と返す。
次いでソフィを見れば彼女は"正確に言うとあたし、59−2番だよ"と補足する。
「59…番ねぇ」
「何か文句でもあるの? 何ならやり合ったっていいわよ、アタシは」
「おいおい、初対面で血なまぐさいのはやめとけって。 わりぃね、アリス。 こいつ、思春期で」
苦笑するジグにルイは"誰が思春期だ"とまた不機嫌そうに返し、アリスは二度三度頷いて肩を竦める。
「まぁ、かまわないよ。 誰にだって色々と事情はあるものだし。 仕方ない事だってあるさねー」
言いながら既に用意されていた料理に手をつけ始めたアリスはルイとソフィの顔を見比べ、最後に"彼女"の顔を思い浮かべる。
フィフスナンバーの末席に位置する筈の彼女の顔を。
(ある意味、犠牲者でもある訳だけど…でもやっぱりちょっと気に入らないかな…ん、待てよ…?)
アリスは不意に思い直し、クスと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「どーしたよ、アリス。 何か楽しそうな事考えてんだろ、考えてるよな?」
「さて、それはどうでしょう。 っていうか一応楽しそうな事ではあるかな」
やはり楽しそうな笑みを浮かべ、もう一人…アリスが知るフィフスナンバーのあの子を思い浮かべる。
「私さ、君のお姉さん…フィフスナンバー58番の情報持ってるんだけど、幾らで買う?」





「こんな場所が…あったとはな。 発見には違いないが…」
言い終わるより早く、疲労と体の痛みで男は膝をつく。
周囲の熱気が疲労している体に追い討ちを掛け、全身からは絶えず汗が噴きだしていた。
スカイリー総督府、元総督…名はフロイドといった。
"あの日"までは全てがうまくいっていたと思えた、作品集が自身の手に収まったあの時までは。
彼が今まで築いてきたものはもう欠片も残らず、彼の研究成果も既に政府に露呈している事だろう。
死者を蘇らせる事も、永劫を生きる事も最早適わない。
地位という権力を手にしたとき、彼には家族はいなかった。
否、失って。
そこからだろう、意思が歪み出したのは。
そこからだろう、全てが憎く見えたのは。
元々叶わないであろう夢を見続けたのはどこかでフロイドが狂ってしまったからだろう。
全身が熱く、ここに来る以前に原生生物に襲われた傷がどうしようもない所まできている。
護衛のハンターはつい先ほど、最後の一人も息絶えた。
異能者で使い道はそれなりにあったが、やはり人は人だった。
面白いぐらいに凋落し、最後はこんな未知の空間で息絶える…こんな事が許されてもいいのか。
世界への憎しみを抱いたままに、家族の姿を今一度見ることも出来ないままに死ぬ事など彼にはとても許容できるものではなくて。
他の何をも犠牲にして生きたいという願望が。
底知れない欲望は…"ソレ"を呼ぶ。
ふと顔を上げれば、彼の眼前には生物と呼ぶ事が出来るのかも分からない"ソレ"がいた。
目も無く、口も無く、ソレはフロイドをただ見下している。
話すことすら出来ないと思われたその異形は彼の耳ではなく、心に直接語りかけてくる。
"ソレ"が何かを承諾したように刃状になっている右手を掲げる。
「捨てる神あらば…拾う神もまたある、か」
その言葉を最後に刃がフロイドの胸元に突き立てられる。
断末魔もなく、だがその表情に憂いはない。
彼が望むモノを手に入れる算段がついたのだから、後は"実行"するだけだ。


「捜索中止ですって? また何で」
「標的がまず生きてはいないっていう目算が一つね。 で、もう一つはその生きていないだろうって理由があったから一度撤収って所」
場所的にセントラルドームの地下だと思われるその場所で、フォックスはスゥの言葉に眉根を寄せる。
今までどれだけの原生生物に出会った事か、確かに一般人や並のハンターであれば逃げ続けること叶わず力尽きている事だろう。
だが、まだ標的の遺体は見つけておらず、この先にも血痕は続いていて。
「"只の肉片"にでもなっているって事かしら」
「その可能性もある、というかその可能性が高いって事よ」
言って、スゥは自身の端末に送られてきた"ソレ"をフォックスに見せる。
途端、彼女は顔を顰めて盛大にため息をついた。
「何よこれ。 この先に"コレ"がいるって?」
「今正に猛威を振るっているみたいよ。 先遣で向かわせた一隊がそりゃもうあっという間に壊滅、さしずめこの映像は遺品ね」
肩を竦め、フォックスは踵を返しスゥは苦笑して彼女の隣に並ぶ。
映像に映っていたのは"ドラゴン"と呼んで差し支えない巨大生物だった。
グランスコール号を撃墜したアレと同じ個体か、それともあの個体は一匹ではないのか。
どちらにしても現状の戦力でこの先に進むことは危険極まりないということだ。
「恐らくこの周辺が生息域なんでしょうね。 どんな事情にしろ、"コレ"を何とかしない事には安心して今後の探索もできやしないわ」
「ふぅ…じゃあ総動員するのかしら? というかパイオニア1の連中はよくこんなのがいる場所に建造物なんか置いたわね」
「今のところ"コレ"のデータはどこからも得られていないからブルーバーストの時までは"居なかった"のかもしれないわよ。 日を改めて…まぁ貴女は討伐隊に編成されるでしょうから頑張ってね」
「他人事みたいに言うわね」
呆れた様に言ったフォックスは後ろを振り返り、その先で散った命に黙祷を捧げる。
「もしあの総督が逮捕されてたら死刑だったかしら?」
「今はそんな裁判している時でもないでしょうね。 現場での処遇は私たちブラックペーパーに任されていた訳だし。 それにタイレル総督は甘いから…死刑にはならない気もするわ」
「そう。 今となっては考えるだけ無意味ね。 こんな所に逃げて自ら寿命を縮める必要なんてなかったのにね」
既に散らしてしまったであろう命を思い、フォックスは憂鬱そうに息をつくのだった。





「ご機嫌だねぇ、ソフィ。 そのご機嫌さに嬉しくって手が滑っちまいそうだぜ」
リビングで当たり前の様にナイフを手で回しながらジグは同居人の少女に笑みを向ける。
当の少女は昼にアリスから買った情報に何度も目を通しながら鼻歌まじり。
「だーってぇ、アリスさんから色々お話も聞けたしクレスと一緒にお仕事できるしまた新しい作品集の人の事も教えて貰えたしー」
「…でもソイツはあたしたちよりも弱いんでしょう。 馬鹿らしい…」
ソフィとは真逆の機嫌であるルイも自身の端末でその"彼女"の情報にずっと目を通している。
面白い置き土産だとジグは内心ほくそ笑みながら二人に発破を掛ける意味で口を開く。
「弱い弱い言ってると足元掬われるぜぇ? つーかこんなクソみてーな殺人鬼と一つ屋根の下に居るようなのが最近ハンターになったばっかの新米に負けるとかあったら只でさえ無い俺の威厳が消し飛ぶじゃんよ」
微妙に噛み合っていない様な言葉を続けてジグも二人が見ている情報を自身の端末で立ち上げる。
名はタマモ、古い神話の中に出てくる九尾の狐と同じ名前。
アリスの話によれば番号は58、フィフスナンバーの中で最高傑作と呼ばれるものだとか。
そんな大層なものがどうして今まで裏の世界に通じていなかったのか不思議といえば不思議ではある。
「どのみち殺るならラグオルにしとけよー。 上で殺られると俺が困っちゃうよ、ホント」
「分かっている。 やり方は勝手に考えるわ」
「あれ? ホントに殺る気満々なの、おねーちゃん? 別にそんな意味ないっていうか戦う意味もなくない?」
「黙りなさい。 あたしと同じフィフスナンバーであたしよりも優秀とされているのが"コレ"なのよ? どちらが優れているかきっちり白黒つけないと気がすまないわ」
素敵なぐらい戦闘狂で嬉しいねぇ、とジグが笑うのを無視してルイは一人自室へと戻っていく。
その背中を見送った二人は顔を見合わせ、ソフィは仕方ないというように息をつきジグは面白そうに苦笑する。
「そんなに作品集である事に執着するもんかねぇ。 何か今日はいつにもましてムキになってんなー。 ソフィはDoよ?」
「あたしは別にー? 作品集だとかそうでないとか張り合うのも馬鹿らしいっていうか元々紛い物だし。 でもまぁ…興味はあるけどねー。 今日もアリスさんと会ったとき思ったね、オーラが違うんだよ」
「アイツかなりやり手だかんなー。 それが作品集だからこそか、アイツが元々持った素質かは知らねーが。 ま、俺みたいな殺人臭はしねーだろ」
因みに殺人臭ってフローラルの香りなんだぜ?というジグの言葉を鼻で笑い飛ばし、直後飛んできたナイフを両手でキャッチする。
危ないなぁ、と投げ返されたナイフを別のソレで叩き落としたジグは欠伸をしながら立ち上がった。
「何にしろ、明日から暫くおめーらはクレスと一緒にラグオル調査だ。 朝早いだろーしとっとと寝た寝た。 俺はもう寝て六時間後にお前らをたたき起こす」
「六時間後ってまだ夜中だよ!! っていうか六時間後って確実にまだジグも寝てるよね!」
知らんなぁと返しつつジグも自室へと消えていき、残されたソフィは今一度タマモの写真を眺める。
この人は今日会ったアリスと同じような感覚を自分に与えてくれるのか。
強さだけではない、"作品集"という感覚を自分に与えてくれるのか。
所詮紛い物でしかない自分に、"違う所"を見せてくれるのか。
金毛白面焔狐の遺伝子を用いたフィフスナンバーならばもっと確実な感覚を与えてくれるのではないかという期待を抱きながら。
ソフィは落ちている二振りのナイフを蹴り上げて手に取るとその刀身を見てクスと笑った。
「茶番劇だとあたしは凄く嬉しいな。 だってそうなら心置きなく殺れるんだもの」





「さて、初めて皆が集まった形での夕飯となるのは実に喜ばしい事です」
上座に座っているフォーゲルはにこにこと手を合わせる。
長いテーブルには腕によりをかけて作られたと思われる料理が並び、この屋敷に厄介になっている者達が一堂に会する事となっていた。
暫く世話になっているタマモ、センカ、フィエナ、ミストの四人は勿論の事ながらレイラもこの席に呼ばれている。
センカがここに厄介になるにあたって体験してきた事がある為にいつもよりどこか二人のやり取りがこれまでに比べてぎこちない感はあるけども。
タマモやセンカらの護衛として付き添ってきたシルキー、グレイ、ハルバー、葛丸、シノビ、ヴェルに赤くて肩のデカイ物が2個。
「というかわざわざ皆を集めたのはお知らせがあるからでしょ、フォーゲル」
「そういう先回りな発言は時に死を招くことを知っておいた方がいいですよ、シルキー」
はふ、と息をつくフォーゲルにシルキーは身震いして目を逸らす。
見ている限り、どうもシルキーはフォーゲルにからかわれている事が多い。
タマモに対してシルキーがそうであるように、シルキーに対してはフォーゲルが…といった所なのだろうか。
「吉報を一つ。 タマモさんを狙っていたスカイリーエリアの元総督に関してですが、もう心配はいらないだろうとの事です。 そうですね? ハルバー」
「おう。 ラグオル地表に逃げてそのまま行方不明。 状況から考えてまず心配ねーっぽいぜ。 詳しいとこまではちょいと掴めなかったがな」
「と、いう事なのでタマモさんは自宅の方にお帰りになられても問題はなさそうです。 勿論、もうしばらくシルキー達にはタマモさんの事をお任せいたしますがね」
フォーゲルの言葉にタマモは目をぱちくりとさせた後、少し安心したように息をつく。
「センカさんの方ですが…スカイリー総督府と貴女を狙ったレインハートの分家筋の方についてはタマモさんと同じ様に問題はありませんが…どうされますか?」
現状で見れば確かにセンカらを狙う脅威は去ったように見える。
だが、センカの知る限りで分家筋の人間はもう一人…レイラの兄であるクレス・レインハート。
兄妹ながらもセンカを見る目はまるで違う。
パイオニア2で前に再会した時は共に笑いあう事ができた。
レイラと同じように彼は違う…センカはそう信じていたい。
信じていたいけれど、少なくとも自分の妹と親友はそう思っていない。
「…私達も帰ります。 いつまでもお世話になってる訳にもいかないし。 いい? 二人とも」
「センカがそう決めたなら私は全然構わないよ。 でも、自分の周りにはこれまで以上に注意してね」
「私も、お姉ちゃんが帰るなら一緒に行く。 やっぱり、私達の家はあそこだから」
顔を見合わせて頷き、センカがフォーゲルに向き直って伝える。
「でも…また相談ごとやテクニックの事でお伺いしてもいいですか?」
「いつでも歓迎いたしますよ。 他愛ない事でも遠慮せず訪ねて来てください」
にこりと笑顔を浮かべるフォーゲルに有難う御座いますと告げ、フィエナも嬉しそうに頭を下げる。
ここ数日、殆どつきっきりでテクニックの稽古をつけて貰っていたらしく、すっかり気を許しているようだ。
「それで、ですね。 本日はこのお知らせともう一つ…よろしければタマモさん、センカさん、フィエナさん、ミストさん、レイラさんにお願いしたい事がありましてこうして席を持ったのです」
「お願い…ですか?」
フォーゲルは手元にあった端末を操作し、部屋に備え付けてあるスクリーンに映像を表示する。
そこには、これまで遠方からしか見たことが無かったセントラルドームの全景が映っていた。
所々がボロボロで、しかし建造物としてはまだ使えるレベルに見える。
「不幸中の幸いといいますか…あの事件でスカイリー総督府から押収したデータのおかげでセントラルドーム周辺の調査が格段に捗る事となりました。 暫くは一般のハンター達の進入は許可されませんでしたが現在はその封も解かれています」
言いながら二度三度と画面を変え、周囲の情景を教えるように操作する。
本来ならばこの付近にパイオニア2は着陸し、第二のドームになる筈だった。
「周辺の調査もこの通り大半が終了し、ハンターズギルドにも情報が登録されつつある今…私達はセントラルドームの内部の調査に踏み出したいと考えております」
「セントラルドームの内部ね…。 かなり広い上に人手が足りないからか」
「ええ。 流石にあの内部は外観から見ても広すぎます。 ですから、皆さんのリハビリの意味も兼ねて調査に乗り出したいのですが如何でしょう?」
この屋敷に来てからパイオニア2内は何度か出歩いたものの、ラグオル地表には一度も降りてはいない。
あの大地とあの空気が丁度恋しく思えてきた所でもあった。
「私、行きたい! フィエナもミストもレイラちゃんも一緒に行くよね?」
余程鬱屈が溜まっていたのかセンカが普段どおりのトーンで妹達を見る。
特に向こうから距離を置かれていると感じたレイラには熱い視線を送り。
「私も…行きたいかな。 フォーゲルさん達も一緒なら心強いし…」
「異議無しだよ。 センカのやりたい様にやればいいんじゃないかな」
フィエナとミストがすぐに同意し、レイラは一度言葉を飲み込むもセンカの目を真っ直ぐに見つめて口を開く。
「私も大丈夫。 セントラルドームあたりは私にとっても未知の領域だから気心の知れた仲間と一緒なら安心だ」
決まり、といったように笑うセンカはこの屋敷に来た頃の暗さは見えなかった。
そうそう簡単に割り切れるものでもないが、今は元気に居ることが大切だと彼女の心が訴えていたから。
センカは次いで正面に座るタマモを見つめる。
視線があったと思えばタマモはそこから隣のシルキーに視線を移して首を傾げる。
「…凄く何か言いたそうよねー」
「んと…あのね。 今までのシルキーなら"危ないから駄目"ってフォーゲルさんの話に割り込んでたような気がするから…」
タマモの言葉が終わるより早くグレイとハルバーが吹き出し、その二人目掛けてシルキーのグーパンが飛ぶ。
これまでの過保護っぷりを考えれば確かにタマモの言うとおり口を出しかねないし、第一タマモ自身がそう思っていたのが愉快だった。
「っ…どうせ止めても行くって言って聞かないでしょー。 それに、もうタマモ自身が自分の事を知っちゃった訳だし…なんだか私が思ってたよりずっとずっとタマモ強いんだもん。 なら後は実戦慣れしていくしかないでしょーよー」
むぅ、と少し不機嫌そうにシルキーはそっぽを向く。
ここ数日の鍛錬でタマモの現在の能力とこの先の可能性を嫌というぐらい見ることが出来た。
確かに自分はタマモを甘やかしすぎて彼女自身の能力を信じきれていなかった。
でも、もうタマモの力も心も飛躍的に育とうとしている。
ならばシルキーは彼女を導いて、見守り、見届けるしかない。
「ではタマモさんも同行でよろしいですか?」
「はい、是非お願いします」
「言っとくけどチーム分けはタマモと同じにしてもらうからね、フォーゲル」
そのあたりはまだ子離れできませんね、とフォーゲルは苦笑しながらも了承する。
「調査は明後日。 時間その他はまた明日にお知らせ致します。 くれぐれも明日は無理な鍛錬をなさらないように…。 では、そろそろ今後のお話は切り上げて食事に致しましょう。皆さんも空腹でしょうしね。 今日は少しばかり贅沢に用意致しましたので…各種アルコールもありますのでお好きに楽しんでくださいね」
「未成年の割合が多いのにお酒勧めるのはどうかと思うわ、フォーゲル…」
周囲をぐるっと見回せば半数は未成年である。
皆さんぐらいの年に少しぐらい慣らしておくほうがいいんですよ、と返して皆に酒を促していく。
アンドロイドの面々も、飲みはしないが手元のグラスを満たして手に取った。
「それでは…皆さんが旅路の先が幸福に満ち溢れてる事を願いまして、乾杯」
『乾杯っ!』
フォーゲルの音頭から、ささやかな宴が行われるのだった。





新約 PHANTASY STAR ONLINE Episode1 -18- 終