代償が欲しいと言うのなら。
私が払ってあげましょう。
命を救うその代償、皆の命を救うその奇跡。
私は戦う事が出来ないけれど、誰かに任せることになってしまうけれど。
私は放っておいていい、傷つく誰かを救えるならば。
だから、だからお願いします。
皆を助ける、その為だけに。
皆を救える騎士達に。
どうか、どうか祝福を。
私の体は動かないけれど、確かに感じる温もりを。
癒して、救ってあげて欲しい。
お願いします女神様。
出来うる限りの祝福を。
魔力全てをつぎ込んで、誰かを救うその為に。
どうか、お願いしますアルタナ様。
貴女の―――――。
女神の、祝福を。
FAINAL FANTASY XI Save The Queen
始まりの海域 −7−
「こいつでどうだ!!」
背後に気を取られたアークエンジェル目掛けてイナミの空鳴拳が放たれる。
が、アークエンジェルはおよそ人では反応できないような速度で振り返り、力の乗った拳を漆黒の盾で受け止められた。
「無理かよ!!」
「えぇ、無理ね」
笑みを浮べるアークエンジェルの殺気が膨らみ、イナミは反射的に身構える。
ゆらりとアークエンジェルの腕が上がり、その独特の動きから放たれる技、ボーパルブレード。
それまでのゆっくりとした動きはどこへやら、イナミの全身に剣が奔らされ鮮血を舞わせる。
致命傷にはまだまだ至っていないものの、消耗戦もいい所。
後ろにも目があるかのように、不意を突こうとしたステラのナイフをかわし回し蹴りを浴びせる。
ナイフの刃でソレを受け止めるものの、大きく後ろに逸らされて方膝をついた。
受け止めた手が限界を訴えるように小刻みに痙攣し、ナイフを手に出来ているのが不思議なぐらいだと彼女は思う。
現状、自分の足で立って戦闘を行えるのはイナミとステラの二人のみ。
それはアークエンジェルの放ったハヴォックスパイラルに耐える事の出来た人数。
「そろそろ限界じゃないのかしら、ご両人。 大人しく首を刎ねられた方が楽になるってものよ?」
ステラの震える手を一瞥し、イナミへと向き直る。
当面の敵は彼一人でしかないと認識して。
「お生憎と、倒れられない状況なんでね。 お前を倒して皆で帰る、誰一人殺させるものか」
イナミが傷ついた体で、尚構える。
呼吸を整えるも、すぐに乱れてしまうものであると自分でも分かっている。
が、引けない。
まともに戦えるのは自分しかいないから。
こんな時、自分は敵を倒す事しか出来ないのが歯痒くも思い、そして敵を倒す事しか出来ないからこそどんな相手でも倒しきる。
敵を打ち倒す事で仲間を守る、そんな心構え。
現に今も粘っているからこそ他の誰にも注意を向けさせないのだから。
「強がりね。 アナタから殺す・・・か、それとも」
ニヤと笑ったアークエンジェルが思い切り地面を蹴り、床をえぐる。
彼女の向かった先は真正面のイナミではなく、真後ろのステラ。
疲労の為かステラの目がアークエンジェルの動きについていけていない。
イナミは舌打ちをして、全精力を足に溜めて跳ぶ。
一瞬、アークエンジェルの速度が緩まり、ステラの前に爪先をつけてそのままくるりと反転する。
爪先が床についていたのはほんの僅かな時で、再度跳んだ先はイナミの真正面。
はめられた事に気付き、横へと逃れようとするも、互いの速度がそれを許さない。
イナミの肩口目掛けて正確に振り下ろされた剣を彼はあろう事か素手で受け止める。
否、彼の手には淡い碧の光が宿っており、手が切断されるまではいってはいない。
「短頸、ねぇ。 無茶するけど、これで終わり!」
アークエンジェルは剣には力を込めず、大型の盾を彼の体にぶつける。
その盾に対して空いた片方の手でも短頸を放つが、イナミは派手に吹き飛ばされる。
完全に倒れるまでは行かないものの、片手は血に塗れ片手は骨に異常があるだろうと自身で理解する。
ここまで傷つけばチャクラを用いても回復は期待できず、夢想阿修羅拳を撃てるかどうかも怪しい。
しかし引くわけにはいかない、皆を守る為に。
(相討ちに持っていければ上々、かねぇ。 やるだけやってみるか)
深呼吸をし、幾度目かの構えを取るイナミにアークエンジェルはイラついた様子を隠ささず、ルビーのような赤い瞳をギラつかせた。
「しぶとい、しぶといったらありゃしない。 やっぱり心折るには一人殺しておかないと駄目みたいだね!」
声を荒げるアークエンジェルの剣に刀身と同色の気が集まる。
正確には彼女の内に眠る命の塊。
スピリッツウィズインの輝きの中、アークエンジェルはおよそ人では考えられない速度での詠唱を行う。
「バニシュガ、ホーリー」
神聖魔法の光がニ方へと広がる。
広範囲に及ぶ激しい光はステラの頭上へ、力強い光の柱はイナミ目掛けて。
瞬間的に発生した光をかろうじて避けたイナミの視界の端に、足を焼かれて倒れるステラの姿を映る。
広範囲に及ぶ魔法に、ステラの足が着いていききれなかった結果。
髪を縛っていた留め具が落ち、長い黒髪がぱさりと肩にかかり彼女の表情も見えなくなった。
「折れなよ、人間! スピリッツウィズイン!!」
心の底から楽しそうな声と共にアークエンジェルは刀身に溜まっていた黒い命の塊をステラ目掛けて『撃ち出した』。
本来なら剣に纏ったまま突き刺す事が定型となっている技を、距離を開けて飛ばす。
体勢を直すも、イナミの援護も、ステラの逃走も間に合わない。
彼女の瞳が眼前に迫る黒く絶望の塊を映す。
「残念・・・あたし、ここまでかな・・・」
「やらせない。 もう誰も、殺させない」
ステラの視界が黒から白へと・・・割り込んできた白銀を映し。
騎士盾を用いたバッシュが迫る黒い塊を完全に霧散させた。
少しばかり手が痺れるが、今の“彼女”には障害にも何にもならない。
命に満ち溢れた白騎士の姿に、護られたステラも、満身創痍のイナミも、立ちはだかるアークエンジェルも言葉を無くす。
「虫の息だったのに・・・元宿主、アナタ・・・っ!」
突如復調したソニアに気を取られ、アークエンジェルは背後に生まれた殺気に気付く事が一瞬遅れる。
死角から急に飛び出してきた刀を受け流すも、続いて視界に現れた“何か”がアークエンジェルの首筋を掠める。
「お前まで・・・何度邪魔すれば気が済む!!」
「簡単簡単。 私様が、アナタを、殺すまで」
身を屈め、懐に飛び込んだロッカは逆手に持った刀を振り上げ、アークエンジェルの脇腹を狙う。
刀と黒剣がぶつかり合い、互いの動きが止まった所で先ほど放ったものとは別の手裏剣を3枚、顔面目掛けて投擲する。
体を逸らすことで手裏剣を避けるも、競り合っていた剣から僅かながらに力が抜けて刀に押し負けると、アークエンジェルは盾を割り込ませて弾く。
尚も追撃にかかろうとするロッカから大きく飛び退くと、他の連中の様子をざっと見渡した。
先まで戦っていたヒューム二人、そしてその他の連中、全員が当たり前のように満身創痍。
このミスラ二人もそれは同じだった筈なのに。
アークエンジェルの視線は自然と、ソニアの遥か向こう・・・傷つき倒れている白魔導師へと向いた。
その両手に未だ残っていた淡い光が彼女の手を離れて虚空へと消えていく。
女神の、祝福。
只一人、この場所を訪れた中で中身を覗けなかったミスラの白魔導師。
「あたしにも満たないクリスタルの残りカスが・・・何故祝福を受ける・・・! 女神アルタナの祝福はあたしにこそあるべきなのに!!」
アークエンジェルの目がぎらつき、殺気が膨れ上がる様にソニアとロッカは身構える。
「二人とも下がってて。 ここから先は、私様達の仕事。 ここからは、私様が護ってあげる」
「もう、私は迷わない。 私の目に映る人達だけでも、絶対に護ってみせる」
アークエンジェルを挟むような形で、ソニアとロッカは“敵”の放つどす黒い悪意を見据える。
あの悪意は自分達の内にあるものと同じモノ。
ミスラの心の闇である『嫉妬』という悪意。
彼女らが潜在的に持っているものだからこそ、打ち払うべき義務がある。
先にロッカの姿が元いた地点から忽然と消えた。
アークエンジェルの右前へと跳んだロッカは隠し持っていた触媒を用いて業火を生み出し、地面に叩きつける。
火遁による火柱が立ったと思えば次いで左側へ。
「目くらましのつもりにしてはお粗末じゃないかしら!?」
火の影より飛び出てくるロッカに、容赦のない剣撃が浴びせられる・・・が、剣はロッカの体に見えたものを力なく切り裂くだけで、事実としては虚空を切るだけ。
ソレが空蝉によって生み出された分身で気付くのと、ロッカが炎の中を突っ切ってくるのはほぼ同時。
低い姿勢のままロッカの刀がアークエンジェルの鎧の合間を縫って太腿に突き刺さる。
「地味に嫌がらせしてくわよォ。 烈・・・!」
突き刺さった刀をそのままに力任せに上方へと斬り上げる。
漆黒の鎧を削る音、軋む音、アークエンジェルの血を舞わせ、深追いせずにすぐさま飛び退く。
その際に新たな触媒が二人の間を隔てるように風遁を発生させた。
追う事を踏みとどまったアークエンジェルの背後に白銀の剣が迫り、漆黒の剣と交差する。
「あの幽霊船も、あなたの仕業だね? 皆の命に応える為に、討たせてもらうよ」
「最初に見た時に比べて随分とまぁ、ご立派な顔つきね。 憎らしい、あたしと、同じものなのに」
「そうだよ。 それは否定しない、私とあなたは同じもの。 私が弱かったから、あなたが生まれた」
剣を弾き、また交差。
白い騎士と黒い騎士の剣舞は傷を負っている事を含めてもアークエンジェルに分があった。
少しずつアークエンジェルの放つ剣速に押されるも、ソニアの力は弱まらず気迫も劣らず黒い剣を押し返す。
目が違う、そんな想いにアークエンジェルは半ば気圧されしていた。
初めて海上で彼女を見つけたとき、ソニアの目はどこか甘えた風で、幼くて、簡単に壊れてしまいそうな程脆そうで。
でも、今はどれもなく、強くて。
そして、嫉妬する。
この“成長できた”ミスラに嫉妬する。
そして―――。
「多勢に無勢とは言うけど、勝ったもの勝ちだから覚悟しなさいよ?」
首元に突如として現れた刃に、アークエンジェルはソニアへ振り下ろそうとした剣を止めて踏みとどまり、すぐさま飛び退いた。
「ありがとう、助かった」
「あらあら、素直になったねェ。 大事な妹が面倒見てたんだからそれぐらい素直になってくれなきゃ私様も困るけど」
クスクスと笑うロッカに、ソニアも苦笑を返す。
決して楽な戦いではないにも関わらず、二人の気持ちは穏やかで。
そんな二人に、また嫉妬する。
自分には、誰も、いないのに。
膨れ上がる、心の闇が。
解き放たれた心の闇が。
制御、できなくなる。
ソニアの剣を弾き、ロッカの刀を避け、力を、嫉妬を溜める。
アークエンジェルの異変に気付いたのか、二人は警戒するも攻めの手は緩めない。
押し切れれば、勝てるのだから。
「一気に決めるとしましょうか! 食らいなさい、“迅”!!」
「倒れなさい、ボーパルブレードッ!!」
逆手に持った刀が振り上げられ、構えられた剣が水平に振り抜かれる。
渾身の力を込めた二つの連撃には如何なアークエンジェルと言えども捌き切れるものではなく、離脱を試みるもロッカの速度がそれをさせない。
二振りの刃が黒い鎧に傷をつけ、四肢を斬る。
自身の体が傷つけられる事にアークエンジェルの気持ちが昂ぶり、ロッカの刀が肩当を砕いた時、“ソレ”は起こった。
「調子に乗るなああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
咆哮とも思える怒号と共に漆黒が光り、足元に魔法陣が一瞬浮かび上がったかと思うと彼女の頭上に巨大な翼を持つ黒い悪魔が垣間見える。
夢の番人、ディアボロス。
アークエンジェルの咆哮で呼び寄せられたディアボロスには存分に魔力に満ちている。
ディアボロスの姿が掻き消え、それと同時に二人の体に多大な圧力が掛かった。
小動物ならば一瞬で圧殺されてしまうであろう重圧は二人の体を鉛のように重く、彼女らの足元の床にビシリと亀裂が走った。
ディアボロスの究極履行、ルイナスオーメンの力によって再度アークエンジェルは自身のペースを掴み、ロッカへと斬りかかる。
まさかアストラルフロウが発動するとは術者自身も意外だったが、敵を消せるならば何でもよかった。
そう、嫌なものが無くなるのならば。
頭を狙った剣を鈍い動きの中で紙一重で避けるも、返す刃がロッカの刀を弾き飛ばし彼女は重圧に負けて尻餅をつく。
「まず一匹ぃっ!!」
アークエンジェルの怒号に空気が揺れる。
だが、首を刎ねるべく水平に振られる剣は、赤い血を浴びる事もなく振りぬかれる事もなく。
ソニアの持つ盾ががっちりと、完全に防いでいた。
「誰も、やらせないって言っただろう? これぐらいで、私の盾は崩れない」
「大丈夫なのに。 でも、礼は告げるわ」
張り付く汗を拭いながら笑みを浮べるロッカの手には術の触媒である撒菱が光を反射していた。
アークエンジェルは二人の姿に更に激昂する。
ソニアの盾を弾き、右の肩当ごと斬り裂くも、ロッカの手裏剣による牽制により入り方が浅い。
少し下がれば更に投擲による牽制が入り、その隙に落とした刀を拾い上げる。
ソニアの剣を、ロッカの刀を弾く中、アークエンジェルはこの敵二人が見た目よりもダメージを負っていないのかと錯覚する。
盾で押し返せばソニアの足はぐらりとふらつくし、ロッカの速度も目に見えて落ちていて彼女の忍装束は黒色を更に黒く染めている。
倒れる、筈なのに、倒れない。
嫉妬の感情は憎悪へと発展し、アークエンジェルの想いが臨界を越える。
「かじりとれ・・・お前達の、内なる“嫉妬”!!」
赤い瞳がその輝きを増し、二人の心の内を射抜く。
幾ら誤魔化していても内に眠る嫉妬の感情だけは逃れられない。
ミスラとして存在する以上、何者も逃れ得ない想い。
「この・・・この期に及んで・・・」
「馬鹿にするな! この、程度。 私は、皆を護るんだっっ!!」
自身を奮い立たせるように雄叫びを上げるが、それでも彼女らの中から湧き上がってくる嫉妬の感情、記憶は否応にも頭に残り動きを鈍らせる。
「あたしはお前達、お前達の大元はあたしだ! 逆らわずにさっさと逝くんだよっ!!」
アークエンジェルの剣がロッカの左肩を貫き、黒い剣に血が伝う。
すぐにソニアが援護するべく内に残る幻想を打ち払うが、ロッカは首を横に振りアークエンジェルの腕をしっかりと掴む・・・絶対に逃がさないように。
「あんたが何言ってるのか私様には分からないけどね。 私様は嫉妬する、だけれどそれで醜くなるなんてまっぴらごめんよ。 さ・・・派手にいくわよ?」
そう言って懐から転がり出てくるのは自ら調合した特殊な発火薬。
逃げる為の術、遁術の遥かに上・・・忍者として当然修めるべきその技を。
何をするかを察知したアークエンジェルはすぐに剣を引こうとするが、ロッカがそれをさせない。
「死して屍拾うもの無し。 ――――微塵がくれ」
クスリと笑ったその横顔を掻き消すように二人を爆炎が包み込む。
吸い込めばたちまち昏倒してしまいそうな黒煙が立ち上り、真紅の炎が勢いを止めずに燃え盛る。
「なんて、ねぇ。 逝くなら一人で寂しく朽ち果てて欲しいもんよね」
声はソニアの背後から聞こえ、ビクリと肩を震わせて振り返る。
そこには肩から血を流しっぱなしで煤まみれのロッカが顔を拭いながら笑っていた。
忍者の奥義、微塵がくれ・・・未熟な者ならば自身の起こした爆発でそのまま死んでしまう事も少なからずあるその技。
ソレを彼女は完璧に修めていた・・・が、そんな彼女の奥義を用いても後一歩及んでいなかった。
黒煙の中から飛び出してきたアークエンジェルはソニア目掛けて剣を振るい、ソレを庇う様にロッカが刀を振るう。
結果、ロッカは左肩も血に塗れて力なく刀を取り落とす。
「うん、私様の仕事はここまで。 後は、自分で・・・ケリつけなさい」
言われるまでもなく、ロッカの刀とアークエンジェルの剣が交錯した次の瞬間にはソニアの剣が敵のソレと幾度も交わっていた。
足はルイナスオーメンの重圧が未だに残っている感じがするし、嫉妬の感情を促進させるアークエンジェルの眼光で頭だってぐらぐらする。
ついでに今でも一撃一撃はソニアよりも重く、守勢に回らざるを得ない。
それでも。
それでも彼女は引くわけにはいかない、引かない、絶対に。
これは、自分の悪い感情なんだから。
「私が、私自身の闇に、負けるわけにはいかない!」
「互いに一人な癖に偉そうに言うじゃないか! 仲間を失って! 仲間を持っている奴が、幸せそうな奴らに嫉妬している癖に!」
「あぁ、そうさ。 嫉妬した、あんなに優しい人に嫉妬したんだ! 突き放しても、突き放しても優しく笑ってくれる人に、嫉妬した! 心も体も癒してくれた優しい人を突き放したよ! でも、それは私が弱かったからだ!! もう、私は迷わない、皆は私の弱さのせいで死んだ、だからこそ私はもう誰も失いたくない、迷惑がられても! 私は、絶対に、護ってみせる!! それが―――」
渾身の剣撃がアークエンジェルの剣をぶつかり、互いが同じだけ腕が弾かれる。
そしてすぐさまもう一撃・・・二人は振るう剣に対しお互いが持つ護り・・・盾をぶつける。
「それが、ナイトである私がするべき事だっ!!」
あの時失った仲間達の顔が思い浮かぶ。
そして、今護るべき人の顔が思い浮かぶ。
何度も攻撃を防いできた互いの盾。
白銀の盾は変わらずそこにあり、漆黒の剣を変わらず弾き。
黒き盾は主を護るというその役目を果たす事が出来ずに、完全に割られていて。
ソニアの剣は盾の向こう側にあったアークエンジェルの鎧を切り裂いていた。
「そんな・・・あたしの、盾・・・が」
「・・・私は、ずっと・・・一人じゃなかった。 見えなかったけど、そう思ってくれてないかもしれないけれど・・・仲間が、いてくれたから」
ふらつくアークエンジェルに、ソニアは続けて剣撃を浴びせる。
それにより、アークエンジェルの持つ剣さえも限界が来た様に二つに折れた。
ソニアは一人で戦っていたわけじゃない。
ロッカと共に戦い、それより前はイナミ、ステラ達が戦い。
彼らの一撃一撃はアークエンジェルには取るに足らないものだったのかもしれないけれど。
確実に追い詰めていて。
最後の後押しをしてくれたのは女神の――――祝福で。
否、彼女の祝福かもしれない。
「う、ふふ・・・。 あぁー、所詮あたしは空から落ちた只の欠片って事。 残念、残念・・・あは、あはははははははははははははははは!!」
アークエンジェルは、笑いながら・・・その存在が始めからなかったかのように消滅し、後には小さなクリスタルの欠片が残る。
これで、終わった訳じゃないとソニアは思う。
彼女だけでなく、ミスラという種族が持っている心の闇が無くなったわけじゃない。
ずっと戦っていかなければならない葛藤があり、でも・・・もうそれに呑まれる様な事はしない。
彼女は誓う、この剣に。
全ての力を以って、誰かを守ると。
彼女は誓う―――――。
彼女の持つ、セイブ・ザ・クイーンに。
「勝ったよ、あの人達」
ジュノ大公宮、エルドナーシュは感心した様な声を上げ、どうするべきかと思案するように肩を竦めた。
何にしろ、どうするかは決めてある事だけど。
「その底力を評して、きちんと保護してあげないとね。 でも欠片とはいえ、よくやったよ」
どこか楽しそうに笑うエルドナーシュは、アークエンジェルを討ち取ったミスラのナイトの姿をじっくりと眺める。
その瞳には確立した強さが宿り、彼女を知っている者からすれば成長したと言わしめるのだろう。
「でもまぁ、この先・・・道が交わる事もないかもね」
そう呟き、エルドナーシュは海底神殿の映っていた水晶球から目を離し、興味を無くした様に部屋を出て行った。
始まりの海域 −7− 終
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