6月30日 『償いの椅子』 沢木 冬吾

5年前、脊髄に銃弾を受けて能見は足の自由を失い、
そして同時に、親代わりと慕っていた秋葉をも失った。
車椅子に頼る身になった能見は、
復讐のため、かつての仲間達の前に姿を現した。

刑事、公安、協力者たち。
複雑に絡み合う組織の中で、
能見たちを陥れたのは誰なのか?
そしてその能見の5年間を調べる桜田もまた、
公安不適格者として、いつしか陰の組織に組込まれていた。
彼らの壮絶な戦いの結末は・・・?

5年前の事件とはどんなものだったのか、
能見と他の登場人物との関係、等、
出だしから何の説明もなく話が進むので、
最初は話がよく見えなくて、手探り状態でした。
(実際、公安関係の裏組織関係は、
最後までわかったような、わからないような・・・)

けれども、わからないながらも、
執念深く復讐の準備を進めてきた能見が、
ついに動き出す、その内に秘めた激しさ、凄さに圧倒され、
一気に読み進んでしまいました。
また、それとは対照的に、
父親に暴力を振るわれている甥、姪に対する、
能見の不器用な優しさも印象的です。
なんとか自分の力で立ち上がろうと、
もがきつつ成長してゆく彼らが、けなげで、泣けます。

6月26日 『殺し屋シュウ』 野沢 尚

修(シュウ)の父は警官だった。
「マル暴」に所属して目ざましい働きをする一方で、
暴力団から金をせびり、
子どもの目の前で人を殺してみせる狂犬のような男。
虐げられ続けてきた母親の代わりに、
シュウは父親を殺してしまうが、
母親が罪をかぶって、服役することになる。

その後、アメリカで殺し屋となったシュウは、
大学の文学部で助手として働く傍ら、
依頼があれば殺し屋としての仕事もこなす。
シュウが殺し屋になるまで、
そして彼の依頼された殺しの顛末を、
連作短編形式で綴った作品。

扱っているのが“殺し”にもかかわらず、
読感は、それほど重くはありません。
シュウは“仕事”を淡々と務めてゆきます。
なぜ彼は殺し屋にならなければならなかったのか、
そこのところが、ナゾといえばナゾですが・・・
父親殺しの場面は、『青の炎』を髣髴とさせ、
殺し屋なのに、シュウは非常に好青年に思えます。
現実味がないからこそ、楽しめる物語、でしょうか。

シュウがようやく自分の“家族”を得るラストには、
涙、涙でした。

6月14日 『聖の青春』 大崎 善生

聖は“さとし”と読みます。
将棋界の“怪童”と呼ばれた村山聖の生涯を、
将棋雑誌編集者として間近で見てきた作者が描いた物語。

重い腎臓病を抱え、入退院を繰り返す聖。
その聖が将棋と出会い、
幾度もの挫折を味わいながらも
驚くばかりの集中力と執念で、
そして何よりも将棋が好きだというそのことに支えられて、
将棋を続け、プロの道に進む。

数多くの人たちに愛され、助けられながら、
あくまでも自分流を貫き通した聖。
29歳で夢を目前にして亡くなった彼の、
文字通り命がけの、壮絶な将棋人生が綴られています。

将棋に関しては、ほとんど何もわからないのですが、
この聖に関しては、恐らく彼が亡くなった後、
テレビのドキュメント番組か何かで見た覚えがあります。
(その時は確か、ワンワン泣きながら見ていました)

けれども、今回は少々、複雑な思いで読み終えました。
病気である事は確かにハンデではあるけれども、
決して言い訳にはしない聖。
これほどまでに打ち込めるものに出会えた彼は、
そういう意味では幸せなのかもしれません。
けれども、無茶とも思える彼の行動を
だまって見守るしかなかった両親の気持ちを思うと、
ものすごく、複雑な気持ちになりました。

6月12日 『人間動物園』  連城 三紀彦

大雪の中、誘拐事件が起きた。
誘拐されたのは、汚職疑惑の渦中にある政治家の孫娘。
離婚により、母親と少女は二人暮しだった。

県警は隣家の主婦の通報により事件を知るが、
被害者宅には盗聴器が仕掛けられているため、
隣家から、母親とコンタクトを取りつつ、犯人に迫ろうとする。

事件前から附近で起こっていた動物の失踪や死は、
何を意味するのか。
祖父は1億円の身代金を支払ってくれるのか。
複雑な人間関係、心を開かない母親、
姿の見えない犯人に、捜査陣は翻弄される。
果たして事件の真の姿は・・・?


また、あやうく挫折本になりかけました。
なんとも観念的な部分、重い部分がところどころにあり、
パタリと読み進められなくなるんですよね・・・

犯人に盗聴されているのか、いないのか、
その状態で、隣家から情報を得ようという試み。
誰もが何かを隠しているようで、誰も彼もが疑わしくて。。。
中盤の展開は、息つまるもので、
確かにおもしろかったです。
なので、ラストの持っていき方は少し残念な気がしました。
文学的にきれいにまとまっている・・・のでしょうかね。

6月9日 『暗闇でささやく声』 ジョイ・フィールディング

40歳のテリーの“借家人募集”にやってきたのは、
無邪気でかわいい、28歳のアリソンという女性だった。
彼女はすんなりテリーの生活に入り込み、
いつしか家族同然の存在になっていった。
けれども、アリソンが越してきてからというもの、
イタズラ電話や、人の気配など、
テリーの周囲で奇妙な事件が続く。

アリソンに対する好意と疑惑との狭間で、
テリーは次第に追い詰められていくのだが・・・

彼女のほかの作品、例えば、
『優しすぎて、怖い』や『秘密なら、言わないで』等に比べて、
スピード感やスリル感などが少ない、
どちらかというと、淡々と進むストーリー。
けれどもそれが逆に、それまでの景色が一変する、
終盤の衝撃の展開を効果的に見せています。
不器用ではあるが人がよく、堅実で・・・と思えていたテリーが、
実はこんなにも大きな傷を抱えた、哀れな女性だなんて。
ラストは残酷で、あまりにも悲しい。

それにしても、読者に錯覚させる為、とはいえ、
アリソンの行動はあまりにも非常識で不可解じゃない?

6月8日 『桜姫』 近藤 史恵

十五年前、大物歌舞伎役者の跡取り・音也が幼くして病死した。
音也が亡くなってから引き取られた義理の妹・笙子は、
会ったこともないはずの兄を、
自らの手で絞め殺す生々しい夢に苦しめられていた。

自分が兄を殺してしまったのかもしれないと、
密かに悩み続けた笙子の前に、
兄の親友であった、若手歌舞伎役者・市川銀京が現れる。
二人で音也の死の真相を探るうち、
笙子は銀京を愛するようになるのだが、
なぜか笙子の恋は、父親の猛反対に合う。

一方、歌舞伎座では、子役の変死事件が起きる。
大部屋の女形・小菊と私立探偵の今泉のコンビが、
これらの謎に取り組むのだが・・・

歌舞伎ミステリのシリーズものなのだそうです。
(これが三作目?)
やはり、シリーズものは、頭から読みたいものだな〜と、
改めて思ったりしたのですが。
常連さんの小菊や今泉の扱い方が、
唐突な感じですものね。。。

それはともかく。
物語の中心は、笙子の恋と音也の死の謎でしょうか。
銀京は非常に魅力的で、
またミステリアスな描かれ方をしています。
もっともっと彼について、読みたかったですね。
シリーズが続くとすれば、今後も登場の機会があるかしら。
音也の死に関しては、
予想もしなかった真相でした。
こんなのアリ?という気がしなくもなかったですが。

梨園を舞台にしたミステリ、ということで、
登場人物も魅力的だし、華やかな雰囲気で、
とても好感の持てる作品でした。
シリーズの他の作品も、ぜひ読みたいです。

6月4日 『水辺の通り魔』 本岡 類

ボウガンで狙われた暴走族の元リーダー。
新聞配達中に出刃包丁で襲われた大学生。
朝帰りで帰宅途中、刺し殺されたOL。
ウォーターフロントで起きる早朝の通り魔事件。
24日周期の犯行が持つ意味とは?
そして犯人は・・・?

この作品にあるような、
多少ルーズで、人の命の重みを感じさせない犯罪は、
その分、逆に現実的でもあり、“ありそう”な気がしてしまいます。
けれども、前半の展開からすると、
後半ちょっと、拍子抜けした感じでした。

捜査に携わる刑事・武田は、
ボディビルダーで、筋肉を育てることに執着している。
武田の同居人は、元アルコール中毒のカウンセラー。
異常とまでは言えないけれど、
少しばかり歪んだ部分を持つ人間が多く登場する、というのも、
現代的、ということなのでしょうか。
けれども武田と彼女の、この事件における役割も、
今ひとつ、焦点がぼけているような気がします。

6月2日 『街の灯』 北村 薫

士族の出である花村家.。
英子の祖父は師団長を歴任した陸軍の名物男。
父は財閥の系列の商事会社の社長である。

正運転手が引退し、
英子の学校への送り迎え等を任されたのは、
別宮みつ子という若い女性だった。
運転はもちろん剣術の腕も射撃も達者な彼女を、
英子はベッキーさんと呼ぶことにした。

昭和初期の上流階級を舞台に、
女子学習院に通うお嬢様・英子と
女性運転手“ベッキーさん”のコンビが、
身近な謎を解き明かしてゆきます。

「虚栄の市」「銀座八丁」「街の灯」の三編を収録。


英子はお嬢様にしては、まっとうな考え方の持主。
一見彼女が謎解きをしているように見えるのですが、
実はベッキーさんの方が先に見通していて、
英子が真相に辿り着けるように、上手に導いているのです。

ベッキーさんは、一体何者なのか気になるところですが、
今回収録の3編の中では、それは明かされていません。
このシリーズはまだ続編があるそうなので、
ベッキーさんの正体はもちろん、
このコンビがどんな活躍をみせてくれるのか、非常に楽しみです。