1999夏 北海道ツーリング
7/24〜8/1
出発
出発恒例の夏の北海道詣でに今年もオフロードバイクで行く。
10年以上毎年欠かすことなく続いてる個人的なお祭りだ。
毎年のことでさすがに最近は少し飽きてきたが、それでも行っちまえばやっぱり良かったと思うんで続いてるわけ。
まあ他にすることないしな。
今年の出発は有明フェリーターミナル。24時発釧路行きの近海郵船フェリー。
夜中出発だから昼間仕事してから乗ることができる。
とても効率的で便利な航路なのだが、残念ながら今年10月で廃止ということだ。
立派なターミナル作っちまって首が回らなくなったのかね。
夜9時頃に自宅を出発し、レインボーブリッジを渡る。自宅からターミナルまではほんの20分程度だ。
今回の出発には見送りがいる。しかも女2人。ふふ、俺ってモテるなぁ。
といっても残念ながら愛人ってわけじゃなくて、バイク仲間のTsunaと彼女の友達(初対面)だ。
手早く受付を済ませて、3階の待合いロビーで久しぶりに話し込む。
Tsunaは相変わらずバイクどっぷりの生活を送っているようだ。
最近はレースづいちまって俺なんぞ全然かまってもらえない。
まったく、何回も混浴した仲なのにつれないぜ。
10時半に乗船開始。
指示された車両甲板にオートバイを止めると、作業員がタイダウンで愛車を手際よく固定する。
狭い階段を上り、二等寝台のベッドに荷物を放り投げると、すぐさまデッキに出て見送りの2人に手を振りつつ携帯をかける。
「お土産よろしくね」「何がいい?」「サケトバ!!」てなやりとり。
知らない人から見たら、「何アイツ、女に見送られやがって」なんて思われるだろうけど、実際は色気なんざ無しだ。
でもやっぱり見送りはうれしいもんだ。
独りになってデッキで缶ビール飲みながら、出航の雰囲気に酔う。
なぜか旅立ちの高揚した気持ちなんかは全然無くて、淡々とした気分だ。
そんな気分に浸っていると、向こうから見たことある顔が。あちゃー、会社の同期だぜ。
なんだか突然現実に引き戻された感じ。しかも新婚ホヤホヤで嫁さんまで連れやがって。
とりあえず軽く挨拶だけして、速攻でベッドに戻ってフテ寝だ。
30時間の船旅
8時頃、2等寝台の2段ベッドで目覚める。まったく狭苦しい穴ぐらだ。
でも海は穏やかで、揺れも少ないから心配していた船酔いも無し。
もそもそ起きだして、昨晩コンビニで仕入れた菓子パンをモシャモシャ食らう。あー貧乏くせぇ。
せっかく豪華フェリーに乗ってるんだから、レストランの朝食バイキングでも行きぁいいのにな。
ま、ホントに貧乏だからしょうがねぇか。行きのフェリー代、いきなりカード使ってるし。
とりあえず朝風呂に入る。が、湯船ではガキが水いっぱい出しながら、水しぶき上げて泳いでやがる。
ぶん殴って水止めさせたけど、ぬるくて入れたモンじゃなかった。
湯上がりに船内散歩した後は、とりあえず何もすること無いんで、持ってきた文庫本を読む。
「極大射程」っていうゴルゴ13みたいなスナイパーが主役の本。
それから今回はCDウォークマンも持ってきたんで、レッチリ聴きながら読書。
で、たまーに北海道の地図なんか広げて、どこ行こーかなんて想いを巡らせる。なんだかじんわりと旅気分。
昼食にカップラーメンとおにぎり食ってから、昼寝。
夕方、サンデッキのリクライニングにビールを持ち込み、傾く陽の中で再び読書&ミュージック。
何だかダラダラした一日だと思われるだろうけど、こう見えても俺は結構楽しんでいる。
最近仕事が忙しかったから、こういう怠惰な一日を過ごしたかったんだよ。
1週間くらいこういう生活続けてもいいなって思うほどだ。
夕食もレストランで食った覚えがないから、適当に済ませたのだろう。
この夜は何をしていたんだろうか。記憶がない。
上陸
朝7時に釧路港到着。天気はいい。
リアシートに荷物を満載したバイクが約100台、一斉にフェリーから出て思い思いの方向へ走り去って行く。
俺もその中に混じって上陸する。今年もまたここに帰ってきたんだな。性懲りもなく。
さっそく釧路駅近くの和商市場で腹ごしらえだ。ここはなかなか面白いところ。
まずはゴハンだけ売ってる店で丼に飯を好きなだけよそって貰って、その丼を持って市場をウロウロ。
そして適当なお店で気に入った具をトッピングして貰うのだ。
ここのお店でイクラ、向かいのお店でウニ、あちらのお店でサーモン…なんて。しめて1200円くらい。
で、市場の真ん中のベンチに腰掛けてワシワシ食う。
ホントは俺、ウニって嫌いなんだけど、ここで食うウニはなぜかうまい。
食事も終わって腹ごなしに市場を冷やかしてたら、ついおばちゃんの呼び込みに引っかかって、実家にカニを送るはめに。
しかも毛ガニ。金ねぇのに無理しちまった。
さて、メシも食ったしどこ行こうかな。
あは、あんな長い船旅だったのに行程決めてないわ。俺。
今日は天気がイイので海沿いを走りたい気分。
うん、とりあえず海岸線を東に向かおう。
それにしても、釧路の街って道が分かりずらいね。田舎のクセしてさ。
街中グルグルして、やっと東に向かう国道に入ることができた。
さあ、ホッカイドーの道だぜ! いえぃ!
途中で国道から道をそれて、海沿いの辺鄙な道へスイッチする。
クネクネした道。たまに森の間に太平洋が見え隠れする。他のクルマとはほとんど出会わない。
そうそう、これだよ。これが北海道走る醍醐味。
厚岸の道の駅で休憩。糞して煙草吸って土産物冷やかす。
厚岸からは海沿いの道道をチョイス。ちゃんと名前が付いてて、それも「北太平洋シーサイドライン」だってさ。
今日はここ走りながら岬巡りとしゃれ込もう。
岬巡り
まずは涙岬へ。駐車場にバイクを止めて岬まで歩いていく。
岬は風が強くて、人っ子一人いない。ここで芝の上に座ってしばらくボーッとする。
そう、俺は北海道でボーッとするために来たのだ。
聞こえるのは風と波と海鳥の声だけ。何も考えず、ただこの場に身を置く。
しばらくすると人の気配を感じたので、立ち上がった。自殺志願者と思われても困るからな。
少し走ってビワセ展望台で休憩。霧多布湿原を一眺め。
ここでもおばちゃんの呼び込みにつかまり、昼食がわりにカボチャ入りいもだんごを食す。
続いて、霧多布岬〜アゼチ岬へ。
霧多布岬はかなり久しぶり。7,8年振りくらい。昔と同じ場所で写真を撮る。
ここも人気が少なかったので、もちろんボーッ。
いいな、北海道は観光地でボーッとできて。関東じゃ山ん中入っても無理だモンな。
岬巡りも飽きてきたんで、アゼチ岬は一瞬見て終わり。駐車場は広かったけど、ここも誰もいなかった。
再びシーサイドラインへ。
浜中で「ムツゴロウ王国」の看板に引き寄せられて、ちょっと寄り道。
といっても玄関見ただけ。中には入れてくんないの。
門の横には小さいログの売店があって、子供とイヌが店番してる。
中にはムツゴロウさんのTシャツとかそんなモンが置いてある。
けど、なんかあんまりフレンドリーな感じじゃなかったな。
釧路から霧多布までは夏って感じだったのに、ここにきてなんだか肌寒くなってきた。
着る物も一枚ずつ増えてきて、結局持ってきた服、フル装備だ。
ちなみに下から新素材Tシャツに新素材長袖シャツ、新素材フリースに夏用ジャケット。
一つ一つのアイテムがいいモノだから、これだけで耐えられるが、ダイクマなんかで揃えてたら寒くて走れないよ。
落石岬にも寄ろうかと思ってたけど、寒いし、めんどくさいんでヤメ。
途中に北の国からロケ地の看板も目に入ったが、無視。とにかく根室に直行。
駅前でカニ買ってキャンプだ、と一人盛り上がって根室駅めざして一気に走る。
が、着いた駅前は閑散としてカニの賑わいなぞ微塵も感じられない。思いっきりハズされた感じ。
でもとりあえずカニ屋のおばちゃんに「1000円分売ってくれ」と言うと、奥の方からデカイやつを出してきてくれた。
OKOK。トゲトゲ甲羅の立派な花咲カニだ。
5時過ぎに今宵の宿、根室市営キャンプ場到着。
ところが受付のジジイは何言ってるか全然わからん。
ちょうど居合わせた綺麗なおねーさんに聞くと、どーやらタダらしい。
つーことで、夕日の見えるナイスポイントにさっさとテント張って、ビール飲みつつカニの宴だ。
もちろん丸ごと。味噌付き、しかも子持ち。
調子こいてカニ好きの夢である「甲羅で一杯」までやっちまった。焼酎でね。
ただ、ここ蚊が多いんだわ。それも半端じゃなく。正直、あんまり落ち着いて食えなかった。
蚊さえいなけりゃ最高のキャンプ場だったのに。
つーわけでカニ食ったらさっさとテントの中もぐり込んじまった。
厚い雲の下、淡々と走る
上陸2日目の朝は厚い雲の下。
昨晩はテントの中に入り込んだ蚊に何カ所も刺されて、手足がかゆくて仕方ない。
寝ていても耳元でプーンって音がするたびに飛び起きていたので、ちょい寝不足ぎみだ。
とりあえずトーストとコーヒーの朝食をとり、ゆっくり撤収。9時頃出発。
曇り空の下、モノクロームの景色の中を淡々と走る。
こんな天気の日はロクなコトを考えない。
すれ違う車もほとんどなく、世界に自分独りだけが置き去りにされた感覚。
殺伐とした景色の中、無意味に目的もなくただ走るだけ。
俺は一生こうやって独りで走っていくのだろうか。たぶんな。
気分は沈み、昨日のハイなライディングとはまったく反対の精神状態だ。
ツーリングライダーの気分は天気に大きく影響される。特にソロの場合、なおさらだ。
暗い海を眺めながら、野付国道を北上。
途中の展望台で休憩。備え付けの双眼鏡で、国後を眺める。ますます気分が暗くなる。
気分転換のつもりで内陸に入り、中標津でラーメンを食うことにする。
去年おちゃらけトリオでワイワイと回っていた時、偶然見つけた九州ラーメンの店だ。
ちょっと遠回りして向かったのだが、目的の店は定休日で閉まっていた。
こんな日は何をしても、とことん裏目に出る。
仕方なく近くの店でラーメン、餃子にライスも付けて元気をつける。
ついでに中標津温泉で一風呂浴びていくことにする。500円。
広い湯船にゆっくり浸かり、休憩室で軽く昼寝。で、気力復活。
国後国道で知床を目指す。右手に国後島。今あそこはロシアだ。異国だ。
羅臼まで30kmの標識。走るごとに厚い雲は切れて、青空まで見えてくる。
さっきまでの鬱な気分が嘘のように晴れてくる。ふん、現金なヤツめ。
羅臼の町は何年ぶりだろうか。いつのまにか商店の数が減り、コンビニが出来ていた。
とはいえ、まだまだ現役の漁師町のたたずまいだ。俺の好きな町の雰囲気。
買い出しをして、国設キャンプ場へ。
ここもトイレが新しくなってる他は何も変わっていない。もちろん無料。
昆布干しバイト募集の張り紙も昔のままだ。
人気のキャンプ場ということで混み具合はそこそこだが、満員で張れないという程でもない。
空いているスペースにテントを張り、さっそく近くの露天風呂「熊ノ湯」へ歩いていく。
ここも無料。まさに貧乏な旅人にとってはパラダイスである。
相変わらず地元漁師のオッチャンが観光客にニラミをきかせてる。やたら熱い湯も懐かしい。
って、なんか懐古気分に浸ってるな。俺。
夜は星空の下、シートを敷いた地べたに寝転がって遅くまで酒を飲んだ。
ゆっくりマイペースでキャンプの夜を楽しめるようになった自分が、あの頃から変わったトコかもしれない。
知床にて
晴れた朝。すでに夏の陽が当たってテントの中に居られない。
ラジオの天気予報によれば石狩地方には大雨警報が出ているはずなのだが、ここ羅臼は快晴だ。
今日は移動しないでのんびりする予定。
コーヒーを飲みながら、本を読んだり、日記を書いたり、他のキャンパーの撤収風景を眺めたり。
小汚い貧乏野宿ライダーに似つかわしくないような、充実した朝のひととき。
釣りに出かけるお隣さんを見送って、俺も行動開始。
といっても、お散歩気分でちょっと一走りするくらいだけど。
まずは軽いウォーミングアップのつもりで、バイクで知床峠まで駆け登る。
天気が良くって眺め最高。国後も羅臼岳もバッチリ。ガラにもなく記念写真まで撮ってしまう。
羅臼の町に下って、コンビニでちょっと買い出ししてから相泊を目指す。
相泊はバイク・車で行ける知床半島のドン詰まり。
ちなみにライダーはドン突きを目指す習性がある。例外はほとんど無い。
羅臼から25km。途中、幾つかの小さい集落を通り過ぎる。さいはて感が募る。
真冬のこの地を想像してみるが、実際は俺の想像など及ばないくらい厳しいものだろう。
でもこの季節、昆布干し場には働く若者で明るい活気が満ちている。
中には住み込みで一夏働いている旅人もいるかもしれない。などと、つらつら思いつつの25km。
相泊温泉で一風呂浴びさせてもらう。ここも無料露天風呂。一応男女別。
地元の人が海岸に作った掘ったて小屋。ブルーシートで囲われた、いい感じの佇まい。
先客はなぜかみんな旅人。家族連れやら一人旅やら。
和気あいあいとした雰囲気の中、波の音を聞きながらのんびり湯に浸かる。
時間の流れ方がだんだんゆったりとしてくる感覚。
たっぷり1時間くらいかけて湯からあがり、一服。
小腹が空いたので最果てのラーメン屋「熊の穴」へ。道のドン詰まりにある有名な店だ。
っていうか、このあたりじゃ店はココしかないんだけど。
馬鹿ラーメンという、海馬(トド)肉と鹿肉がチョビっと入ったラーメンを食い、再び来た道を羅臼に戻る。
まだ昼過ぎ。
持ってきたモバイルでメールチェックしたり海見ながらボーッとしたり。
もう何もすることがない。何もする必要もないのだが。
渓流の釣り竿を持ってきたのを思い出し、午後は近くの川で釣りに興じた。
オショロコマを10匹ぐらい上げて、狩猟本能を満たす。釣り上げた魚は全部逃がした。
時間つぶしに魚の命を弄ぶワルな俺である。
夕方、キャンプ場近くの旅館の風呂を借りてサッパリする。プール並に広い湯船を独り占め。
風呂から上がると、すでに食堂には泊まり客の夕飯が用意されている。
誰もいないし腹が空いていたので少し失敬しようかとも思ったが、理性が止めた。
町に下って夕食の買い出しをしてから我が家にご帰還。隣の釣り師はアメマスを釣り上げたと大喜びだ。
夕食はジンギスカンでメシをたらふく食った。いかにもの北海道メニュー。
ま、すべては形からだ。
夜半から雨が降り出したので、楽しみにしていたBar☆スターダストは休業。
仕方ないのでテントにもぐり込んで本を読みながら酒を飲んだ。まあコレはコレで悪くない。
またまた曇り空の下
昨晩は朝までかなり強い雨が降り続いた。おかげで眠りも浅い。
しかし起きる頃にはその雨もすっかり上がり、青空まで出てきている。
上出来な天気だ。
簡単な朝食を取って撤収。夏の暑い日差しに汗だくになる。
バイクに家財道具一式を縛りつけ、出発。
昨日同様、知床峠に駆け登る。が、しかし…
峠は霧の中にすっぽり覆われていた。駐車場にもほとんど人影無し。
風も強く吹いていて、全身が細かい水滴でみるみる濡れていく。それにひどく寒い。
仕方なく今回初のカッパ装備にて峠を下る。霧が深く、峠道を走るのがかなり怖い。
宇登呂の町へ下るとやっと霧が晴れた。が、曇り空。
知床ビジターセンターで休憩。ついでに愛しいあの娘へのお土産を物色。
そういえば、上陸初日は晴れ、2日目曇り、3日目晴れ、そして今日は曇りと、
予測のつけやすい天気バイオリズムであるなぁ。
などと下らないことを考えつつの淡々とした移動走行。右手にはオホーツク海。
せめて女性ライダーとすれ違う時には投げキスでもしたろうかいと自分を奮い立たせるも、すれ違うのは野郎ばかり。
で、今さらながら気が付いた。
上陸してから今まで女性ライダーを見ていない!
もしかしたら、トキのように絶滅してしまったのだろうか?
それとも俺の女運は落ちるトコまで落ちたのだろうか。
曇り空の天気は、あくまでもライダーを憂鬱にさせるのである。
斜里の駅前食堂でラーメン&いくら丼の昼食タイム。
ついでに食後のコーヒーを頼んで、一服。
隣のテーブルの30女と50親父カップルの話に聞き耳を立てるが、女のデカイ声しか聞こえない。
それにしても北海道のオンナはパワフルだ。男の影がメチャメチャ薄い。
日本一離婚率が高いという事実にも納得できる。
ここでバイクにも給油。GSは「ホクレン」を指定だ。
ちなみにツーリングライダーはホクレンしか使わない。
嘘だと思ったらライダーの彼氏に聞いてみな。
ホクレンでもらった黄色い旗をはためかせながら北の大地を走る。
一般人は知らないだろうが、これが正しいツーリングライダーの姿なのだ。
ディープな世界だろ?
根北峠を越え、川北温泉に寄っていく。
国道から離れ未舗装路を5kmぐらい走ると、川のそばにいい温泉があるのだ。
なんでも昔あった温泉宿を取り壊した際、浴槽部分だけを残して露天風呂にしちまったという面白い温泉だ。
地元の人がちゃんと脱衣場まで作り、無料で開放してくれている。残念ながら男女別。
こんなトコまで来るのは地元の人間と俺たちのような物好きなライダーくらいのモンだ。
少しゆっくり浸かろうと思ったが、雨が強くなってきたので短い時間で上がった。
湯は少し熱めだが、ナイスだった。
ちなみに男湯と女湯では泉質が違うようなので、カップルで行った時には他に人がいなければ
一緒に2つの湯を楽しむのもいいだろう。まあ勝手にやってくれ。
居合わせたライダーさんたちと一服しながら、しばし雨宿り。
雨が小降りになるのを待って、それぞれ思い思いの方向へ走り出す。
開陽台をかすめ、弟子屈までは雨の中。一気に走った。
町のコンビニで買い出しを済ませ、和琴半島の湖畔キャンプ場へ。
ここも北海道を旅するライダーには有名なキャンプ場。
さぞかし賑わっているだろうと思いきや…
例年ならテントで一杯の湖畔に一張りのテントも無い。一瞬、閉鎖したか?と思ったほど。
奥までバイクを乗り入れていくと、やっと3張りのテント発見。
なんでも昨晩強風が吹き荒れ、湖畔のテントが全部飛ばされたらしい。
さすがに今晩は大丈夫だろうとテントを設営した。何だか広い湖畔のサイトを一人占めだ。
売店でビール買って、コインランドリーで洗濯。
昨晩と打って変わって穏やかな夜。
しかし突然バンガローの家族のガキが打ち上げ花火を始め、隣のテントが穴を開けられてしまった。
もちろん、その非常識なガキをみんなで袋叩きにして湖に沈めてやった。
ツーリングライダーにとっては家に放火されたのと同じだから、これは当然の報復である。
まあホントのところ、怒鳴っただけで許してやったのだが。まったく優しすぎるぜ。
11時就寝。
ワンデイ・ツーリング
早朝5時起きして湖畔の露天風呂に浸かりに行く。やはり朝風呂は気持ちいい。
見上げれば晴れてこそないが、なんとか一日もちそうな空模様。
それにしても楽しい時というのは過ぎるのも早い。もう明日のフェリーで東京に帰るのだ。
今日が自由に使える最後の日ということだ。
テントは張りっぱなしでワンデイ・ツーリングとしゃれこもう。
9時出発。
屈斜路湖を半周して、川湯の温泉街のグレ電でメールを出し、硫黄山温泉へ。
ここは知る人ぞ知る秘密の温泉。
硫黄が吹き出す山の中腹に、突然何の脈絡もなくポリ製のひょうたん池がポツンと置いてあり、そこにパイプで源泉を引いているのだ。
誰が作ったかは良く分からない。昔、近くのユースホステルの人間が置いたという話を聞いたことがある。
当然、市販のガイドブックには載っていない。ちょうど2年前、旅人同士の口コミで知った。
温泉に着くと、先客がいた。どこかで見たことある顔だと思ったが、湖畔キャンプ場でのお隣さんカップルだった。
なぜか女の子の方だけ湯船に浸かっていて、男の方はサッサと上がってしまったようだ。
「ぬるすぎて、出れないんですよー」
確かに湯加減を見てみると、風邪をひきそうなくらいぬるい。
でもここで引き下がっては、いけない。旅人は常にアグレッシブなのである。
俺はおもむろに服を脱ぎ、カップルの片割れの女の子と混浴させてもらった。
見渡すと摩周岳を望む原生林が広がる。ロケーションは最高だ。
カップルの方も同じくオフロードバイクで回っているとのことで、しばし話に花が咲く。
いくら長湯しても暖まりそうにないので、お先に失礼する。あんまり邪魔しても悪いからな。
そういえば、この温泉来るのは3回目なんだけど、混浴確率100%じゃないか。印象良いわけだ。
湯上がりに、近くの「くりーむ童話」というアイスクリーム屋でアイスを嘗めてクールダウン。
ちょうど12時。川湯温泉街の食堂で昼食の豚丼をかき込んで一服。午後の予定を考える。
今年はまだ、林道を走っていない事に気付き、午後は山の中に入っていくことにする。
せっかくオフロードバイクで来ているのだから。
清里町から林道へ、山奥にある男鹿の滝を目指す。
ダートの感覚にはすぐ慣れた。フラットで走りやすい。
ただし当然のごとく北海道の山奥。人気は全くなく、独特の緊張感がある。
ここはヒグマの生息域。ばったり出会う可能性が無いわけじゃない。
ダートを12km走り、目的の男鹿の滝近くに到着。ここから滝まで少し山道を歩く。
滑ったら谷底に落ちそうな狭い取り付け道を慎重に歩いて、ようやく滝にたどり着く。
水量のある滝のしぶきに当たりながら、獣臭まで感じる程に野趣あふれる山のニオイを胸一杯に吸い込む。
再びバイクに跨り、付近の山を散策。
地図にはエトンピ山スカイラインと出ているが、乗用車じゃ立ち往生するようなダートだ。
峠に小さい展望台があった。訪れる者も少ないのだろう、背の高い草をかき分けて登ってみた。
清里の町が眼下に広がる。それにしても時が止まったように静かだ。
町に下りて、ホクレンで給油。係の女の子がいい笑顔で話しかけてくる。
神の子池でエメラルドブルーの湧き水を見物し、多和台へ。
展望台へ登り、小雨に煙った遠くの景色を眺め、さらに下の傾斜地に広がるキャンプ場に目をやる。
雨空のキャンプ場にはテントが3張りのみ。どこも主の姿は見えない。
階段を下り、ペットボトルに水道から摩周湖の伏流水をつめる。
国道243号沿い。
昨年、ここで俺たちは一人の仲間を事故で失った。
先ほどのペットボトルに山から摘んできた花を生け、日本酒とともにガードレールの下に供える。
二本の煙草に火を付け、一本を線香代わりに酒のそばに置く。
もう一本の煙草を吸いながら、雨の中しばらく彼女と話をした。
北海道最後の夜は小雨が降って、もう再び星は見られなかった。
テントの中で、酒を飲みながら荷物をまとめる。
他のキャンパーもテントに入ったまま思い思いの夜を過ごしているようで、静かなもんだ。
明日は早立ちなので、10時には眠りについた。
離道…そして再会
R391を淡々と走る。いつのまにか空は青空に変わっている。
今朝、出発の時に着た雨具はどうやら必要なかったようだ。
体が旅慣れして、やっとバイクとの一体感を感じるようになってきたのに、旅も残り30km足らず。
少々の物足りなさを感じながら、その距離を味わうように緩めがちにアクセルを開け続けた。
釧路、和商市場。上陸の時も寄ったここで、最後の朝食。もちろん海鮮トッピング丼だ。
来年からフェリーの釧路便が無くなるということは、この朝食もまたいつ味わえるか分からなくなるわけだ。
夏の市場の活気にも影響があるだろう。
コンビニで買い出しをし、正午発の東京行きフェリーに乗り込む。
船は定時を少しだけ過ぎて出航した。
甲板に出て、ビール片手に離れていく陸地を、少しだけ感傷的になりながら眺めていた。
そのままビールの缶が空になるまで長い時間を過ごした。
ビールも切れたので船内散歩していると、ソファで一人煙草を吸うイイ女が目に付いた。
…!?
良く見れば見覚えのある顔。なんと驚いたことに、友人のYukie嬢であった。
向こうも驚きつつ、お互いの再会を喜ぶ。
それにしても久しぶりの再会だ。しかも旅先で出会うとは、さすがお互い旅狂いの者たちだけのことはある。
考えてみたら、彼女とは昨年の八丈島年越しキャンプで初めて会って、GWの九州行きのフェリーでも偶然乗り合わせたこともあったっけ。そもそも旅先でしか会ったことがないという話もある。
彼女は俺より1週間ほど早く北海道入りして、やはりオートバイであちこち回っていたらしい。
向こうのキャンプ場で友人の結婚式に出たり、タンデムでスーパー林道を走ったり、民宿で何日か沈没したり…相変わらず彼女らしい旅をしている。
話し疲れたので、ちょっと休むことにして二等寝台へ。そのまま夜まで寝入ってしまった。
船内二日目。旅から日常へのリハビリテーションとばかり、ひたすら惰眠を決め込む。
夕方、活動再開。すでに船は東京湾に入りつつあった。
このまま何事もなく旅は終わると思っていたのだが、最後の最後にうれしいハプニングがあった。
ロビーのソファで一服していると、再び目の前に見たことのある顔が…。
トラベルライターの広瀬達也氏であった。オートバイ雑誌の世界では有名人である。
「あの…広瀬さんですか?」 「はい」
「いつも記事の方読んでます」 「ありがとうございます」
そんなやりとりをしながら、広瀬氏はサングラスをはずしてキチンと挨拶してくれた。
一見怖そうだったが、礼儀正しい態度に好感を持った。
広瀬氏はOUTRIDERという雑誌の企画で北海道に渡り、その後家族と合流してプライベートの時間を楽しんでいたようで、可愛い娘さんも一緒だった。しばらく話をし、その後Yukie嬢も含めて甲板に出て記念写真を撮った。ちょうど遠くに横浜の花火大会が見えていた。
どうやら今回は旅の最後にいい時間が持てたようだ。
20:30有明到着。Yukie嬢と別れ、夜のお台場を抜けレインボーブリッジを渡る。
俺もオートバイも長旅のせいで薄汚れ、都会のイルミネーションには似つかわしくない。
そして絡みついてくるような、蒸し暑さ。あぁ、やはりまた帰ってきてしまったのか。
とにかく、早く部屋に帰ってシャワーを浴びよう。
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