北の川から 2002 夏 その4(爆釣の果てに・・・)  
            

どこにどんなフライを流しても、必ずヤマメかイワナが飛びついて来る。
 
通常の釣りでは、手前の「浅瀬」や「開き」からフライを丹念にプレゼントしていくものだが、この川の場合、そういったポイントには小物しか入っていない。そいつらを相手にしていては時間がもったいないだけなので、あくまでも、大物が居着きそうな1番餌の取りやすそうなポイントにいきなりキャストした方が良い。そんなことを釣り上がりながら体験した。
なんとも、贅沢な話ではないか。
 

ヤマメと交互に釣れてきたエゾイワナ。
ヤマメの美しさや釣りでの駆引きを比べると、イワナを軽視する釣り人が北海道には大勢いるのもうなずける気がする。ヤマメ釣り師の中には、イワナが釣れてきただけで、竿をたたんでしまう人もいるくらいだ。一般的にイワナはヤマメより上流域に生息するが、この川ではかなりの距離に渡り混生していた。
 
同じ1ヶ所のポイントで20センチ前後のヤマメが3匹も!!
 
こんな内陸部の川で、これだけ天然ヤマメの魚影が濃いのは珍しい。というのも、母川となる本流河口からこの支流の最上流部までのおよそ200キロもの間、サクラマスの遡上を阻む砂防ダムや堰堤等の障害物が存在しないからだ。海と川が直結しているということが、天然ヤマメが生息できる最低限の条件だが、この一見当然とも思える条件を満たしている川が日本に何本残されているだろう?少なくとも、200キロもの区間サクラマスが遡上できる川を私は他に知らない。
 
本日の大物賞。25センチのオス。私は感激と興奮で何枚も写真を撮った。尺には満たなかったが、この河川規模を考えると最大級の獲物だろう。既にサビ(婚姻色)が出始めており、間もなく訪れる秋の気配を感じさせる。北の大地だけが育む精悍な顔つきに、その妖艶とも言える魚体は全ての釣り人を魅了してしまうのだ。 
ヤマメもイワナも何十匹釣ったかもう分からない。助けて〜。写真は最後の1匹。もう釣り過ぎて完全に疲れきっていた。こんな経験は私の釣り人生でも初めてだ。
 
やっぱり、北海道は素晴らしいところだ、と結びたいところだが、そう単純ではない。
 
実はこの水域にはSダムが建設予定であり、既に工事は着工中である。総事業費530億円、湛水面積は450ヘクタールというから東京ドーム100個近くの面積が水没することになる。この財政難の折にそのような巨費を投じて、自然環境を破壊する必要があるのだろうか?言うまでもなく、ダムができれば、太古の昔から繰返されてきたサクラマスの遡上産卵が妨げられ、ヤマメは死滅してしまう。親父がこの川を案内してくれたのも、「ダムができて川が死ね前に・・」という心遣いだったのだ。
 
アメリカやドイツでは、ダムは自然環境に壊滅的な打撃を与えるとし、新規建設は中止、既存のダムを破壊するという動きまであるというのに、日本はなんて後進国なんだろう。しかも、このSダムの必要性はほとんどないことも、大抵の住民は知っている。にも関わらず、なぜダムは造られるのか?ここにも、公共事業に依存せざるを得ない北海道の実情が浮かび上がるのだ。
 
思えば、北海道はこの種の無用な公共事業に翻弄され続けている。千歳川放水路や士幌高原道路というナンセンスな事業は何とか食い止められた。特に士幌高原道路は氷河期の生き残りといわれるナキウサギの聖域を脅かすとしてマスコミにも大きく取り上げられたが、200キロもの区間を遡上してくるサクラマスもナキウサギと同様に貴重な存在であると言ってもいい。そして、ダムや堰堤により、日本中の殆どの川が死に追いやられた現状を考えれば、河口から200キロも障害物がない川はまさに国宝級と言っていいだろう。
 
私は思う存分釣りを楽しんだ帰路の途中、車窓からダム工事を知らせる標識や作業員用のプレハブ、重機が至るところにあるのを見て、怒りが込み上げると同時に何ともいえない哀しさを感じた。「ここまでやらなくてはならないのか・・。」少なくとも、堀道政が掲げた「時のアセス」は、この事業に関しては全く機能していない。例えば、知床にダムを造るとなれば大騒ぎになるだろうが、林業が衰退し過疎化が進んだこの地域では、道民の関心も薄い。まさに狙い撃ちされたと言ってもいい。さぞかし、用地買収もスムーズに進んだのだろう。後に調べて分かったが、広大なダムの湖底に水没するのは僅か13戸とのことである。
これは行政による犯罪行為である。こんな愚行を野放しにしておいていいはずはないのだが、この事業に反対しているのは、一部の自然保護活動家と釣り人くらいのものである。
私は田中 康夫氏が万一再選を果たせなかったら、北海道知事になってもらいたいと思っていたくらいだ。
 親父は口癖のように言う。「北海道は無法地帯だ。」時には1日に何回もこの言葉を溜息混じりに口にする。目の前の自然が無秩序に破壊されていくことに憤りを感じながらも、ダム建設という巨大事業を前にして無力感を覚えているのだろう。
  
・・・何となく後味が悪くなってしまいましたが、

「これが今年の北海道の釣りなわけで・・。あんなにヤマメが豊富な川にダムが造られるなんて信じられず・・。こんな思いをするくらいなら、いっそのこと、父さんにはあの川を案内して欲しくなったわけで・・。」
そんな心境です。
  
北の川から 2002夏    完