北の川から 2004 秋     
北の川から 「秋」は何故実現したのか?
それは、夏休みが終わって間もない頃、次のような妻との何気ない会話から始まった。
 
「9月の3連休、うちの母さんが来るから、釣りに行きたいなら行ってきてもいいよ」
妻は先日の北海道遠征が不発だったのを知ってか知らずか、珍しくそんな提案をしてきた。
私は少し考えて、半分冗談で、
「じゃあ、北海道まで行ってきていい?」
「・・・いいけど、そんなお金あるの?」
「これは金の問題じゃないんだ!」と、とっさに訳の分からない返答をしていた。
 
こうして、北海道リベンジ釣行は実現に向け動き出したわけだが、冷静に考えてみると、いくつもの難題が待ち構えていた。
 
費用の問題も勿論だが、本当にこんな思いつきで家族をほったらかしにして、釣りに行ってしまっていいのか?
折りしも、9月は会社のキャンペーン月でもあり、休日とはいえ何とも気乗りがしない。
決行したとして、いい釣りができるとも限らない。台風が来るかもしれないし、こういう時に限って何かトラブルが起きるかもしれない。
 
そんなことを考えながら、悶々と数日が過ぎてしまったある日曜日のこと。以前録画しておいた釣り番組を観ることにした。
新聞のTV欄に「ニジマス」というタイトルが載ってたので、本州のどこかの川で餌釣りだろうと勝手に推測し、軽い気持ちで予約しておいたのだ。
BS11のその番組を大して期待もせず観始めたが、何と阿寒川でのフライフィッシングではないか。昨年の再放送だったが、佐藤成史氏が講師役
で登場。女性タレントにFFを教えるという内容のもので、最後には、その女性タレントが50cmのニジマスをドライフライで釣り上げてしまったのだ。
 
 ・・・私の中の迷いは、完全に吹っ切れていた。
  
 
9月19日(日)早朝
前日は実家に泊まり朝4時半に出発。2時間半かけて、先月も訪れたその川のほとりに私は立っていた。
 
先日の台風18号の爪跡は凄まじい。先月は堂々と立っていた大木が、いとも簡単に倒されている。
このような光景をあちこちで見かけた。
  
あいにくの雨模様の中の釣りとなったが、レインボー達は健在だ。
 
ただ、今回の目的はあくまでもモンスターだ。20〜30cmの魚を数釣りすることにはもう飽き飽きしている。
情報によると、この川では地元のアングラーが82cmをキャッチしているそうだ。
折角ここまで来たのだ。せめて50cmオーバーでいい。今度こそは・・・。
 
降り続く雨のせいで、かなり増水している。ポイントも先月の川の状態と比べ、かなり変わってきている。水温も大分低い。ニンフの独断場だ。
「大物は大場所にいる」これは大原則だ。ここは必ずいる。そう確信して何度もフライを流す。
数回のキャストの後、インジケーターがふと水中に没した。今までの経験で、インジケーターが勢いよく水中に引き込まれる場合、大抵は20cm程度の
奴だ。大物ほどゆっくりと餌をくわえる傾向があるから、今回のように、インジケーターもゆっくり水中に消えることが多い。
私は反射的にロッドを立てると次の瞬間、魚が大きくジャンプした。50cmほどのレインボーが全身を躍らせている。国内河川で私が今までにヒットさせた
魚では間違いなく最大級だ。「デカイ・・・」。擬音語で表現するとしたら、「ザッパーン」といったところ。水面からは数十センチも離れているように見えた。
とにかくこの川の大物はよくジャンプする。
「大丈夫だ。ティペットは3Xなんだ。滅多なことで切れはしない」
だが、その予想はあっさりと裏切られる。
着水して全力で深みに突進していった直後、ふと手応えがなくなってしまった。ティペットの先を見るとフライが消えている。
「そんな、3Xだぞ。3Xが切られるなんて・・・」
私はその場にへたり込んでしまった。この間のやり取りは僅か5秒ほどだったと思う。結び目は問題なかったはずだ。これ以上どうしろと?
 
その後も50cmクラスを2尾ヒットさせたが、いずれもランディングはできなかった。残念!!!
 
翌日9月20日(月)
やっと尺上をランディング。このような流れの大きな川では、このクラスでも下流に一気に走られたら手に負えないこともある。
  
正直ほっとした。チビイワナがヒット。ニジマスにおされ、生息数は僅かであると思われる。
100年も前だったら彼等の楽園だったに違いないと思うと複雑な心境になる。
 
釣り場を変えるため、上流を目指して林道を走らせていると、何と対向車がやって来た。
釣りかな? だとしたらこの先は行っても仕方ないな、と思いながら、クルマを脇に寄せ、通り過ぎるのを待っていると、その対向車は停車した。
老夫婦が乗っており、男性がクルマから降りてきて、私のクルマのガラスをコンコンと叩く。
「何ですか?」
「ついさっき、この先でこれくらいの小熊が出てきた」
と言って両手を1mくらいに広げて見せた。
「近くに必ず親熊がいるから気をつけてよ」
私はそれには答えずに、
「釣りに来たんですか?」
と尋ねた。
「いや、キノコ狩りだけど、とにかく気をつけて」
「どうも」
 
釣りじゃなかった! 良かった。
ヒグマは確かに怖いが、ここまで来ていちいちビビッていられない。確かに付近には、「熊出没中 注意」の真新しい看板が掛かっている。
私は、幼少の頃から何度も北海道の山奥に足を運んでいるが、ヒグマには一度も遭遇したことはない。
一般の専業主婦のお袋は4度も遭遇しているというのに・・。
このように、ヒグマというのは、会いたいと思ってもなかなか会えなくて、会いたくないと思っている時に会ってしまうものだそうだ。
そう、私は野生のヒグマに会いたくて仕方ないのだ。
  
だがその直後、ヒグマよりももっと困った問題が発生した。
その老夫婦と別れ、林道の終点まで来た時、クルマの異変に気付いた。
ギアがリバースに入らないのだ。どうやらミッションが故障してしまったらしい。
狭いスペースで何とかクルマをUターンさせようと試みる。数十センチ前に出した後、ギアをニュートラルにしてハンドルを逆に切り、クルマから降りて前から思い
切り押し戻す。これを何度か繰返して、ようやくクルマは180度旋回した。もう全身汗だくだ。
軽だから何とかなったものの、普通車だと思ったらぞっとする。しかも5速にも入らないようだ。つまり1番右側のシフトは使い物にならなくなってしまったのだ。
帰りは100キロ以上の行程を4速で走らなければならない。しかも1度もバックする必要なく戻れるだろうか?今まで心配する必要のなかったことが頭をよぎる。
 
通常の感覚であれば、日の高いうちに帰路につくところだろうが、本来あと2〜3時間は釣りは出来る。
既に披露困憊だったが、迷うことなくロッドを握ると川に降り立った。
すると不思議なことにヒグマのことやクルマのことなど、すーっと頭から消えて行ったのだ。
  
モンスターこそ出会えなかったが、コンスタントに魚が出て来た。
ある意味、ヒグマに守られている川だと言えるだろう。
  
帰りには温泉に寄ってしまった。
クルマはぐるっとUターンして路上駐車して、事無きを得た。
 
温泉の食堂の券売機。
「天然」というところに店主のこだわりが見える。
すぐ近くに釣り場があるということだろう。
注)やまべとは北海道でのヤマメの呼び名です。
  
エゾシカ親子の毛皮も既に冬模様。白いお尻が余計際立って見える。  
 
・・・2泊3日の強行軍で、残念ながらモンスターを写真に収めること叶いませんでしたが、命の洗濯は十分できました。
 
北海道往復航空運賃 : 44700円(特割7+チケットレス割引)
滞在中の食事代+酒代 :約3000円
ガソリン代:約2000円
温泉入浴代:400円
宿泊費:0円
今回の釣行で得た何か:priceless
  
私の今シーズンはこれで終了です。 

北の川から  2004  秋