みちのく一人旅 
盆休み。前から計画していた東北への釣行である。
上信越・磐越・東北自動車道を乗り継ぎ、能代市経由で北上する。
目指すは青森県西海岸(通称:ウェストコースト)である。
この辺一帯は大小様々な河川が世界遺産として登録された白神山地から流れ出し、
日本海に注いでいる。
その昔、よく訪れたフィールドでもある。
たっぷり10時間かかって、ようやく昔見慣れた景色が目に入ってきた。約4年ぶり
の釣行となるが、
果たして・・・。
@2X川よ、おまえもか・・・
空が白みがかってきた頃、通りかかった2X川。秋田県境に近く、この辺りでは比較
的流程の長い川である。
また、FFの全国誌にも数回紹介されており、実績のある河川として知られている。
ただ、数年前のGWに挑んだ時は、白神山地から怒涛のごとく流れ
出す雪代を前に手も足も出せず、返り討ちにあった川でもある。
林道を進み、適当な橋の前でクルマを止め、仮眠をとる。一睡もせずクルマを走らせ
てきたにもかかわらず、川のせせらぎが聞こえていては、なかなか寝付けず、30分
ほどで目が覚める。いてもたってもいられずキャストを開始した。ところが、抜群の
渓相とは裏腹に魚の反応がほとんどないのだ。
2回ほどフライを追っただけで、魚影は極端に薄い。それとも、時間帯か天候か水温
か、入渓地点、あるいはフライの選択が悪いのか・・。全くの期待外れであった。
A名もない川での爆釣
早々に2X川を諦め、5万分の1地形図とにらめっこしながら更に北上する。その流
れは、クルマだと気づくこともなく一瞬で通りすぎるであろう川幅2mくらいの名も
ない(と言っても名前はちゃんとある)小河川であったが、私は何となく無視するこ
とができなかった。河口近くにクルマを止め、日本海をバックにキャストを再開した。
数回目のプレゼンテーションでパシッと小さなライズがあり、すかさずロッドを立て
ると宝石のようなヤマメが体を小刻みに震わせながらフライをくわえている。型は小
さかったが、紛れもなくネイティブである。
その後も、ここぞというポイントからは必ず反応があった。30分ほど釣り上がり、と
ある大きなカーブを過ぎると、イワナが顔を出し始めた。素晴らしい、このように海
と直結しており、堰堤や砂防ダムなどの人工物がなく、無論放流などされていない川で
は、中学の生物で習ったヤマメとイワナの「住みわけ」がきちんとできているのだ。
更に付け加えると、この川には川沿いの林道がない。これだけの条件を兼ね備えた渓
流は日本にあとどのくらい残されているだろう。
↑河口からわずかのところで釣れたヤマメ。サクラマスが遡上
している証拠である。
↑愛嬌者の東北イワナ。アメマスも遡上しているのだろう。
独特の水玉模様の他にヤマメのような斑紋があるようにも見える。
BM沢への想い、再び・・・
M沢。この名前を思い出すたび、ある種の郷愁にかられる。
この沢は、いつ、誰の仕業かは分からぬが、ニジマスが自然繁殖しているのである。
ヤマメやイワナは全くおらず、ニジマスオンリーの川である。
もし、ニジマスが日本の在来種で、何のプレッシャーもなく生息しているとすれば
きっとこういう状態なのだろう、そう思わせるのがこのM沢である。こんなフィール
ドは北海道にだってないだろう。
更に最上流部の砂防ダムには、巨大化した個体が数多く生息しており、私自身、60c
m近いモンスターをヒットさせながら、一瞬にしてラインをちぎられたという苦い経験
がある。
4年前の秋に訪れた時のイブニングライズでは、まるで夕立が突如襲ったかのように
湖面が炸裂し、狂喜乱舞しているかのようなエキサイティングな場面に遭遇したのだ。
そこには、もはやフライマンの能力といったものは一切関係なく、どこにキャストし
ても必ずヒットするという状況だったのだ。
今日再び、同じ湖面を目の前にするが、明らかに4年前とは状況が違っている。当時
から既に兆候はあったのだが、土砂の流入により湖面が1m以上も浅くなり、湖上流
の川もほとんど枯れかけている。何ということだ。これがあのM沢なのか、私は思わず絶句
してしまった。
原因ははっきりしている。湖上流に最近新たな堰堤が建設されたためである。こんな
人家も全くなく、存在さえ知られていないような、水害とは全く無縁と思われる山奥
の渓流にさえ、治山・治水の名目で開発の手は容赦なく押し寄せている。
土建国家と呼ばれて久しい日本の「先に工事ありき」の公共事業の姿勢には、ほとん
ど完治不能なほど深い病根があるのだろう。無能な役人による無用な道路・ダム・建
築物等の例をあげれば枚挙にいとまがない。また、人間の勝手で放流され、人間の勝
手で生存を脅かされている魚にとってはたまったものではない。
↑土砂が溜まり、すっかり浅くなってしまったM沢の山上湖
そんなことを考えながらキャンピングチエアに座って湖面を眺めていると、深い森に
包まれた湖畔の静寂を打ち破るかのように、時折、パシャ、パシャと小さなライズ
リングが水面に輪を描いているのに気づく。「まだ、いるんだ!」、私はほっと安堵の
息をついた。野生を取り戻したトラウト達の末裔は、激変する環境下でも必死で生き
延びていたのだ。
辺りは暗くなりかけていたが、フライロッドをセットする。数回キャストを繰返すと
無邪気な1尾が何の迷いもなくフライにアタックしてきた。4年前の再来には程遠
かったが、私は十分満足だった。1日のうちに、全て天然のヤマメ・イワナ・ニジマス
をキャッチできるなんて、そうはないだろう。
翌日、湖から流れ出す川でもチャレンジしてみたが、こちらの魚影は健在と言ってい
いレベルであった。
「頼む。これからも生き延びてくれ」私は心の中でそう叫び、M沢を後にしたのである。

↑イブニングでキャッチした21cm。時刻は19:36だった。
河川での魚影が健在だったことを考えると、スティール
ヘッドが大海から遡上していることも十分考えられる。 