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11.不整脈 多くの方が動悸や脈拍の異常を訴えて循環器外来を受診されます。不整脈は循環器領域では最も日常的に見られるものです。多くの種類の不整脈があり、治療を必要としないものから、放置すれば死にいたるものまでさまざまです。 1) 不整脈とはなんだろう 通常、心臓は規則正しくリズミカルに動いています。規則正しいリズムを維持するために心臓には刺激伝導系があります(図2)。刺激伝導系は刺激を発生する洞結節と、その刺激を心筋に伝える伝導部分からなります。洞結節で発生した刺激は心房を経由して、房室結節さらにヒス束に伝わります。この後、伝導系は右脚と左脚に別れ、それぞれ右室、左室の心筋に刺激が伝わります。このように心臓が規則正しく拍動する場合を正常洞リズムといいます(図14)。 心臓の拍動は脈拍として捉えることができます。このため、不整脈は一般的には脈の乱れということになります。正常洞リズム以外はすべて不整脈に入ります。正常洞リズムは心拍数が毎分60−100ぐらいです。正常心拍数よりも著しく遅い(徐脈性不整脈)、逆に著しく速い(頻脈性不整脈)、さらに正常の心拍の間に入る間歇的収縮(期外収縮)が不整脈の基本になります。 不整脈の発生には多くの因子が複雑に関与しています。背景に虚血性心疾患、心筋症、弁膜症、高血圧、先天性心疾患などの基礎疾患がある場合と、全く基礎疾患が認められない場合があります。また、飲酒、喫煙、ストレスは不整脈発生の誘因になります。 不整脈による主な症状には、動悸、、息切れ、瞬間的な胸痛、めまいや失神などがあります。症状の感じ方には個人差があります。同じ程度の不整脈があっても、全く症状を訴えない人と、強く症状を感じる人がいます。しかも症状の重症度と不整脈の重症度は必ずしも一致しません。症状があっても良性の不整脈がある一方、症状がほとんどないか、全くないにもかかわらず非常に危険な不整脈もあります。また、同じ不整脈であっても基礎心疾患の性質および重症度よって不整脈の予後は非常に異なってきます。不整脈の背景に基礎心疾患がある場合、ことに心不全がある場合、不整脈の危険性は大きくなります。 2) 頻脈性不整脈 1.期外収縮 基本のリズムより早いタイミングで心収縮が起きる場合を期外収縮といいます。期外収縮の発生場所によって心房性期外収縮と心室性期外収縮があります(図15)。 期外収縮は最も発生頻度の高い不整脈で、健康な人にも非常に多く認められます。年齢とともに発生頻度が高くなります。学童検診を行いますと、小学生ですでにその発生が見られ、中学生、高校生と学年が上がるにつれて発生頻度が上昇します。70歳以上の高齢者で24時間心電図を記録しますと、80%以上の方に見つかります。 多くの場合、自覚症状が無く、健康診断や他疾患の診療の際に偶然発見されます。典型的な症状は、脈が抜ける、脈が飛ぶ、どきんとするなど脈拍異常として自覚されます。空咳やのどのつまり感、胸痛、胸部違和感として訴えられることもあります。一般的には症状の強さと期外収縮の危険度は一致しません。 期外収縮の大部分は治療を必要としない良性不整脈です。しかし、基礎心疾患を合併している場合,突然死や心機能悪化の原因となる重篤な不整脈発生の引き金になることがあります。通常、臨床的重要性は心房性期外収縮より心室性期外収縮において高いと考えられています。 過労、精神的ストレス、タバコ、アルコール、コーヒの過量摂取などがあると期外収縮が発生しやすくなります。これらの誘因を取り除く努力は薬物療法を考える前に必要です。期外収縮の治療方針は基礎心疾患の有無によって異なります。基礎疾患がある場合はその治療が優先されます。基礎疾患が無くても、自覚症状が強い場合は薬物治療の対象になります。基礎疾患がなく自覚症状もない場合、通常は治療の必要はありません。 2.心房細動 心房細動は中高年者にしばしば見られる、治療を必要とする不整脈です。 (1) 心房細動とは 正常洞リズムでは心房は秩序のある興奮をして、規則正しい刺激を心室へ伝えます。心房の興奮が一定の秩序を失い、不規則に興奮するする状態を心房細動といいます。心房の興奮は1分間に400−700になりますが、このうちの一部が不規則に心室へ伝わります。このためすべての脈拍の間隔が不規則になり、絶対性不整脈とも言われます(図16)。 心房細動はすべての心疾患に合併します。なかでもリュウマチ性弁膜症には非常に多く合併します。心疾患以外に甲状腺機能亢進症もしばしば心房細動の原因になります。さらに、全く基礎疾患を認めない健常者に起こることも少なくありません。 非常に多い不整脈で、一般成人の0.3−0.4%に発生します。年齢とともに罹患率は増加し、60歳代3%、70才代5―6%、80歳代8―10%となります。高齢者人口の増加とともにますます増えつつある不整脈といえます。 症状の強さは心拍数の乱れの程度、心拍数、心機能によって異なってきます。心機能の悪い場合や肥大型心筋症、WPW症候群に合併した場合には重篤になります。動悸、胸部不快感、呼吸困難、などが主な症状です。また、頻拍になると心臓より急激に利尿ホルモンが分泌されるため多尿を訴えることもあります。一方、慢性の場合には無症状のことも多く、住民検診や職場の検診で初めて心房細動を指摘されることがしばしばあります。 発作性に出現する発作性心房細動と、慢性に安定して持続する慢性心房細動に分類されます。発作性心房細動では心拍数は100−200/分になります。発作性心房細動の発作回数が徐々に増加して、その持続時間も長くなると慢性心房細動に移行します。 (2) 心房細動の治療 心房細動があればすべて治療する必要があります。心房の規則正しい収縮は心室へ血液を送り込む重要な働きをしています。心房細動ではこの働きがなくなり、さらに頻拍も重なって心拍出量の低下をきたし心不全の原因になります。また、心房細動が2日以上持続すると心臓内で血栓が形成されやすくなります。この血栓が心臓から送り出されると末梢の血管を閉塞してしまいます(血栓塞栓症)。血栓塞栓症は身体のどの部位にもおきますが、最も頻度が多くまた重篤になるのが脳梗塞です。 発作性心房細動と慢性心房細動では治療目標が異なってきます。発作性心房細動では正常洞リズムの回復と再発予防が、慢性心房細動の場合には心拍数の調節と血栓塞栓症の予防が治療の中心になります。 心房細動を正常洞リズムに戻すことを除細動といいます。除細動には電気的除細動と薬物によるものがあります。除細動ができるかどうかは、いろいろな因子が関係してきます。なかでも心房細動の持続時間が最も重要な因子になります。発作性心房細動の約半数は24時間以内に自然に除細動され、また薬による除細動の有効性も高くなります。一方、1月以上も持続している慢性心房細動では抗不整脈薬による除細動は無効のことが多くなってきます。 除細動後は正常洞リズムの維持が大切になってきます。心房細動を発症させやすくする因子、あるいは憎悪させる因子があります。この中でも特に、心疾患あるいは高血圧の存在が最も重要です。これらの疾患を適正に管理することが必要です。また、アルコール摂取、精神的ストレス、睡眠不足が不整脈発生の引き金になっていることがあります。日常生活を振り返り、これらの因子を取り除く努力が大切になってきます。 慢性心房細動では血栓塞栓症の予防が最優先されます。慢性心房細動があるとそうでない場合に比較して脳梗塞発症率は4〜5倍に増加します。現在、全脳梗塞の約15%が心房細動に起因しているといわれています。血栓塞栓症発症の危険性は、過去に脳梗塞や血栓塞栓症の既往がある場合、心疾患、高血圧、糖尿病を合併している場合、さらに65歳以上の高齢者において増加しています。これらのハイリスク例ではワーファリンによる抗凝固療法が唯一有効な治療法です。ワーファリン療法によって塞栓症の発生頻度は1/2から1/3に減少させることができます。 高齢化になるほど心房細動は多くなります。心房細動のみで致死的になることはめったにありませんが、生命予後に関する危険性は個人でそれぞれ異なります。たとえ症状が無くとも長期にわたって管理していかなくてはいけない不整脈であることは間違いありません。 3.心房粗動 心房細動と関係の深い不整脈として心房粗動があります。心房は心房細動では無秩序に収縮しますが、心房粗動では規則的に興奮します。心房粗動での心房の興奮は1分間に250−350で、この心房興奮が2:1あるいは4:1というように規則正しく心室に伝わります。このため、脈拍は規則正しく触れることができます。心房細動とはその発生機序が異なるとされていますが、互いに移行する場合があります。 40代以降に多く発生します。出現頻度は心房細動の約1/25ですが、基礎心疾患に合併するものがほとんどです。症状は心房細動の場合と全く同じです。 心房細動と同様に発作性心房粗動と慢性心房粗動があります。治療方法も心房細動とあまり変わりありません。発作性心房粗動では頻拍停止と再発予防が治療の中心になります。頻拍停止には薬物療法、高頻度心房ペーシング、直流通電によるものがあります。急激に心不全に陥ることがあるので、より積極的な治療を必要とします。頻拍の予防および根治には、薬物療法と、これに抵抗するもの、あるいは長期薬物療法のために日常生活が障害される場合はカテーテルアブレーションが適応になります。慢性心房粗動では慢性心房細動と同様、心拍数の調節と、血栓塞栓症の予防が治療目標となります。血栓塞栓症の危険性については心房細動と同じに考える必要があります。 4.発作性上室頻拍 突然発作的に脈拍が速くなり、また、突然正常に戻る状態を発作性頻拍症といいます。発作性頻拍症には発作性心房細動や心房粗動も含まれます。代表的なものは発作性上室頻拍です(図17)。 上室頻拍とは、頻拍の発生起源が洞結節、心房筋、房室結節に存在する頻拍の総称です。心室に発生起源があるものは心室頻拍といい上室頻拍と区別されます。 上室頻拍の発生機序もいろいろあります。最も多い機序は、正常の伝導系以外の異常伝導路が心臓内にあり、特定の状況下(期外収縮の存在、あるいは自律神経緊張状態のとき)でこれらの伝導路が活性化され、頻脈がおきるというものです。 心疾患の無い、比較的若い方に多く見られます。典型的な症状は、突然始まり突然停止する頻拍性の動悸です。心拍数は毎分150-200になります。血圧低下によりめまいを自覚することもあります。発作の持続時間は数秒間の非常に短いものから、数時間、あるいは治療によって停止するまで数日間も持続するようなものまでさまざまです。頻拍が長時間持続すると急性心不全を併発する場合もあります。しかし、一般的には基礎心疾患がなければ予後のよい不整脈です。初めての発作時には非常に強い不安感を伴いますが、致命的になることはまずありません。 頻拍発作時に自分でできるいくつかの処置があります。たとえば、眼球を圧迫する、吸気時の息ごらえ、潜水反射(冷水に顔面をつける)、氷水を飲み込む、あるいは自分の口の中に手を入れ嘔吐中枢を刺激して吐くといった物理的方法です。これらの方法で迷走神経を緊張させると頻拍が停止することがあります。頻拍発作がおきて病院にくる途中、気分が悪くなり嘔吐したとたんに頻拍が停止することをしばしば経験します。しかし、これらの方法の有効率は20%以下であるため、頻拍が持続する場合、すぐ再発する場合は受診する必要があります。病院に行く時も慌てる必要はありません。ただ、自分で車を運転することは絶対止めてください。血圧低下やめまいが起きることがあり、事故の心配があります。 物理的方法が無効であれば薬物療法により頻拍の停止を行います。薬物量法が無効で、血行動態が悪化するときには直流通電法を行います。 頻拍の再発予防には薬物療法と高周波カテーテルアブレーションがあります。頻回にあるいは長時間の頻拍発作が生じ、頻拍時の症状が強い場合は高周波カテーテルアブレーションが必要になります。最近の傾向としては、頻拍の根治を目的とした高周波カテーテルアブレーションが積極的に行われるようになってきています。ほぼ全ての上室性頻拍が適応になり、成功率も100%近くになっています。 (メモ) カテーテルアブレーション 心臓カテーテルを用いて不整脈の発生源を破壊して不整脈を根治してしまう治療法です。上室頻拍、心室頻拍、心房粗動と細動など、薬物抵抗性の頻脈性不整脈が対象になります。カテーテル電極先端を不整脈の発生源に接触させ、通電することにより発生源となる心筋組織を電気凝固します。開胸術を必要としないのが大きな利点です。高周波通電法が行われるようになり、全身麻酔の必要性がなくなったのみでなく、成功率および安全性が飛躍的に向上しています。 5.心室頻拍 心室性期外収縮が3つ以上連発する場合を心室頻拍(図18)といいます。30秒以内に自然停止する非持続性と、それ以上持続する持続性心室頻拍に分類されます。基礎心疾患を伴わないものもありますが、ほとんどの心室頻拍は基礎心疾患がある持続性心室頻拍です。 心室頻拍は危険な不整脈の代表的なものです。発作時に血行動態の破綻や突然死をきたすことが少なくないからです。速やかな発作の停止、十分な原因精査および再発予防が必要になります。予後はおおむね基礎心疾患に依存し、心機能の低下している場合は不良です。一方、基礎心疾患なければ予後は良好ですが、心拍数が速いと失神や突然死の原因になることがあります。 血行動態が安定していれば薬物による停止を試みますが、血行動態の不安定な持続性心室頻拍では電気的除細動などを含む緊急治療が必要になります。非持続性心室頻拍では緊急治療を必要とする事はあまりありません。 基礎心疾患を伴う持続性心室頻拍の場合、慢性期に薬物療法が無効あるいは困難であれば、突然死を予防するために植え込み型除細動器の適応となります。 6.心室細動 最も危険な不整脈です。 心室筋の興奮性が異常に高まり、心室筋のあちこちで勝手に電気的興奮がおきている状態です。調和の取れた心筋の収縮は無く、心臓から血液がほとんど送られなくなります。数分以内に洞調律に回復しないとそのまま死亡するか、たとえ救命しても脳、腎などに高度の障害が残ります。 ほとんどすべてに基礎心疾患があります。急性心筋梗塞の突然死のほとんどが心室細動によるものです。心室頻拍から心室細動に移行することもありますが、突然発症することもあります。 直流通電による緊急治療が必要です。再発が慢性期に認められる例では、植え込み型除細動器の植え込みが考慮されます。 (メモ) 植え込み型除細動器 植え込み型除細動器は体内植え込み型の装置です。経静脈的に心臓内に挿入された電極が不整脈を感知して本体にシグナルを送ると、除細動用電流が本体から放電される仕組みになっています。突然死の原因になりうる心室頻拍、心室細動に対し、自動的に不整脈発生を感知し、不整脈発生数秒から10数秒後に除細動を行います。1980年に最初の植え込みが行われています。性能の向上、小型化が進み一般のペースメーカーと同様に胸部植え込みが可能になりました。 7.WPW症候群 頻脈発作を起こしやすい疾患としてWPW症候群というのがあります。前述した発作性上室頻拍の約60%はWPW症候群が原因になっています。3人の研究者、ウオルフ(Wolff)、パーキンソン(Parkinson)、ホワイト(White)の頭文字をとってつけられた疾患です。 特徴的な心電図変化から診断は容易ですが、頻拍発作を起こさない場合は無症状に経過します。このため、検診ではじめて見つかる場合もあります。学童の心電図検診や成人の検診で日常的に認められます。 WPW症候群では正常の伝導路以外に心房―心室を結ぶ副伝導路が存在します。そのため先天的な疾患と考えられます。この副伝導路を介する刺激が正常伝導路より早期に心室に伝わるため特徴的な心電図変化が認められます(図19)。副伝導路があっても、心房から心室に興奮が伝導して、興奮伝導がそこで完結している限り頻拍発作を起こしません。しかし、ある特殊な条件下では、正常伝導路を介して心室に達した興奮が、副伝導路を逆行して心室から心房に伝導し、心房の興奮は再び心室を興奮させます。このようなサイクルが形成されると頻拍になります。 最初の頻拍発作は生後1年未満、10−20歳代、あるいは中年になってはじめて認められることもあります。10代から20代前半に最も多く発症します。発作は数秒間でおさまるものから、数時間(稀に12時間以上)持続するものもあります。若い人では運動で誘発された期外収縮が頻拍発作の引き金になります。 WPW症候群の予後は頻拍発作を起こしても一般的には良好です。ただし、心房細動を合併した場合は非常に危険になります。極端な頻拍から心室細動に移行し、突然死の原因になります。 通常の頻拍発作に対しては上室頻拍と同じように治療します。心房細動を合併している場合は電気的除細動が必要になります。頻拍発作の頻発する場合はカテーテルアブレーションが第一選択になりつつあります。心房細動を合併している場合も同様です。 発作の無い場合は特別な治療は必要ありません。日常生活での制限もありません。しかし、期外収縮が頻拍発作の誘因になることから、激しい運動は避けること、体調の悪いときは休息を十分に取ることが大切です。症状が無くとも定期的な経過観察は必要です。 8.脚ブロック 脚ブロックは非常に多い心電図変化です。心室内の刺激伝導系はHis束を出ると左心室へいく左脚と、右心室へいく右脚に分かれます。左脚の伝導障害は左脚ブロックに、右脚のそれは右脚ブロックになります。心疾患に伴うだけでなく、他のさまざまな疾患に伴って見られます。また、全く基礎疾患を認めないこともあります。 右脚ブロックは完全右脚ブロックと不完全右脚ブロックに分けられます。虚血性心疾患、高血圧、肺疾患などのさまざまな基礎疾患に伴って認められます。不完全右脚ブロックは先天性心疾患に伴うこともあります。一方、明らかな心疾患の無い場合もしばしばあります。右脚ブロックは学校検診でもよく見られますが、ほとんどが心疾患の無いものです。右脚ブロックがあっても心臓の機能には影響ありません。むしろ、基礎疾患が無いことを確認することが重要です。 左脚ブロックの発生頻度は右脚ブロックよりずっと少なくなります。虚血性心疾患、高血圧、心筋症、高度の大動脈弁膜症などに見られます。右脚ブロックに比べて心疾患の合併が多くなり、平均年齢も高くなります。学童検診で左脚ブロックが見つかることは非常に稀です。左脚ブロックは常に病的で予後不良と考えられてきましたが、全く無症状の高齢者がいることから、必ずしもそうでないことがわかってきています。 脚ブロックが進行すると、右脚ブロックと左脚ブロックが合併することがあります。極端な場合は完全房室ブロックへ移行し、ペースメーカー植え込みが必要になります。幸いなことにこうした例は以前考えられていたほど多くはありません。 一般的に、脚ブロックそのものは治療の対象になりません。脚ブロックがあっても血行動態が大きく損なわれることが無いからです。 4.徐脈性不整脈 脈拍は早くなったり遅くなったりしますが、安静時の脈拍数が毎分60以下を徐脈といいます。徐脈には治療が必要なものとそうでないものがあります。若い人、特にスポーツ選手では毎分50前後の洞性徐脈はしばしばみられます。基礎疾患のない洞性徐脈は、一般に無症状で特に治療を必要としません。毎分40以下の徐脈になりますと治療が必要になってきます。 1) 治療を必要とする徐脈 治療を必要とする病的な徐脈は刺激伝導系の障害によって起こります。刺激伝導障害は先天性のものもありますが、多くは原因不明で、高齢になるほど増加します。 代表的な疾患は洞機能不全症候群と房室ブロックです。刺激伝導系は電気的刺激を発生する部分と、電気的刺激を心臓全体に伝える伝導部分からなります。電気的刺激が規則正しく発生できない状態を洞機能不全症候群といい、伝導路の障害で刺激が心筋に伝わらない状態を房室ブロックといいます。 洞不全症候群には毎分50以下の著しい洞性徐脈、一時的に2秒以上の心停止をきたすもの、頻脈の直後に徐脈を呈するものなどがあります(図20)。 房室ブロックはその程度により1度から3度に分類されます。1度房室ブロックは治療の対象になりません。一方、3度房室ブロックは完全房室ブロックともいわれ、ペースメーカー治療の絶対的な適応になります(図21)。2度房室ブロックのうち、程度の軽いものは経過観察しますが、徐脈のひどいものはペースメーカー治療が必要になります。 徐脈には原因は異なっても共通の症状があります。毎分40以下の極端な徐脈になりますと、心臓から全身に送りだされる毎分の血液量(心拍出量)が少なくなるためにいろいろな症状がでてきます。重要なのは、脳に十分な血液が供給されないためにおきる脳虚血症状です。めまいや失神、ひどいときにはてんかん発作のような全身痙攣を起こします。めまいや失神は突然、何の前触れも無く起きることがあります。また、会話中に何の話しをしていたのか一瞬忘れてしまったり、急に耳が遠くなったり、視力が低下したり、といった症状が現われることもあります。 また、徐脈による心拍出量の少ない状態が長期間持続すると心不全を起こします。徐脈になると心臓は一回の収縮でできるだけたくさんの血液を送り出そうとします。これは生理的な反応ですが、心臓にとっては大変な重労働になります。また、心拍出量が減少すると心臓の筋肉にも十分な血液が供給されなくなり心筋の虚血を起こします。これらの条件が重なって心機能は低下し、心不全に陥ります。心不全があると労作時の呼吸困難、浮腫、疲れやすいといった症状が現われます。 1996.10 2) ペースメーカー治療 徐脈の治療には、薬による治療とペースメーカー治療があります。障害のある刺激伝導系を薬のみで治すことは非常に難しく、その効果も確実ではありません。そこで、より確実で安定した治療効果を得るために開発されたのがペースメーカーです。 (1) ペースメーカーの機能 ペースメーカーは電気刺激を発生する本体と、刺激を心筋に伝える電極からなります(図22)。ペースメーカー本体の重さは20?50グラムで、リチウム電池と電子回路を内蔵しています。リチウム電池の寿命は8?10年といわれていますが、電気刺激の強さ、頻度などによって異なってきます。 ペースメーカーにはいろいろな機種がありますが、安全で長く使用できるために、どれにも共通する2つの特徴があります。1つはデマンド機能といいます。これは心臓が一定以上の心拍数で動いているときにはペースメーカーは休んでいて、一定の心拍数以下になった時に始めてペースメーカーが作動するという機能です。この機能により、自己心拍とペースメーカーの競合が無くなり、安全にペースメーカー治療が行われます。もうひとつはペースメーカーから出る電気刺激の強さや刺激回数を体外から変更することができる機能です。この機能により最適なペーシング条件の設定が可能になり、また、電池寿命の延長にもつながります。 初期のペースメーカー治療は単に脈拍数を確保することを目的としていました。しかし、最近ではより正常に近い状態でペーシング(生理的ペーシング)をすることが可能になってきました。生理的ペーシングによってペーシング時の不快感は消失し、心拍出量はさらに増加します。心拍出量の増加により心不全は予防され、日常生活における身体活動の制限は必要なくなります。 1996.11. (2) ペースメーカー植え込み手術、術後管理 ペースメーカー植え込み手術は局所麻酔でおこないます。前述したように、ペースメーカーは電気刺激を発する本体と刺激を心筋に伝える電極からなります。まず、頚部や鎖骨下の静脈から電極を右心房もしくは右心室等の心腔内に挿入固定します。次に、本体を前胸部の皮下に植え込み、本体と電極の一端を接続します。手術は1時間前後で終了します(図23)。 手術早期はペースメーカーが正常に作動しているかどうかを厳重に監視します。心腔内に挿入した電極がずれると本体からの刺激は心筋に伝わりません。電極の移動は手術後2?3日以内に起きることが多く、1週間を過ぎますと電極は心筋にしっかりと固定されて移動することはなくなります。 最近の器具の改良や技術の進歩により、手術後のベッド上での安静は必要無くなりました。手術後数時間で普通に歩行できるようになります。本体を植え込んだ前胸部に感染の心配が無ければ、手術後7日で通常の生活に戻れます。 退院後は電池の早期消耗、断線、電気抵抗の異常な変動の有無を定期的に外来でチェックします。ペースメーカー植え込み後の日常生活は手術前と全く同じようにできます。ただ、ペースメーカーは体外から強い電気刺激を受けたり、磁気が発生したりするとあたかも自分の心臓が動いているかのように錯覚して作動しなくなります。家電製品のなかでは電子レンジが強力な磁気を発生しますが、30センチ以上離れていれば支障ありません。1996.12 (3) ペースメーカーと携帯電話 ペースメーカーはは精巧な電子回路をもっています。このため、体内に植え込まれているペースメーカーは電磁波により干渉されると誤作動を起こす可能性があります。電磁波の発生源として最近問題になるのは携帯電話です。携帯電話の影響はアンテナ周囲で発生する磁力線によるものと考えられています。 携帯電話がペースメーカーに影響をおよぼさないための安全距離は22cmとされています。ペースメーカーを装着していても携帯電話から22cm離れていれば、携帯電話は使用できます。この数字は、1997年に郵政省(当時)が国内で販売されていたペースメーカーを対象に調査して得られた結果です。携帯電話では通常、呼び出し音が鳴った際に最も強い電波が発生するといわれています。東京女子医大の横山教授は患者の同意をえて実験を行い、携帯電話受信時にもペースメーカーの誤作動は発生しないと述べています。さらに、最近のペースメーカーの多くは高周波をカットするフィルターを装着しています。これにより、携帯電話による高周波の雑音の影響をほとんど受けず、安全性がより高くなっています。 ペースメーカーの誤作動は生命に危険を及ぼす可能性があります。危険を避けることは大切ですが、無意味に神経過敏になることはありません。ペースメーカー植え込み後も安心して携帯電話は使用できます。 2000.6 |