突然ですが、あたし、美綴綾子は魔眼持ちです。ノウブルカラー。
ああ、いや、ごめん、待って、引かないでってば。
突然過ぎた? だって、こんな風に最初から結論を言うのをやってみたかったんだもの。
結論から言おう、みたいな。格好良いよね。
アンタはアレ? 最初はいかにも物語り導入、みたいな小話から始めて、その中で伏線を張りながらだんだん本題に入っていく、っていう方が好みなのかな。
普通はそう? んー、でも私小説家じゃないし。そんなのは文章書く専門家に任せておけばいいじゃない。
まあなんでもいいや。とにかく、もう一度言います。
あたし、美綴綾子は魔眼持ちです。
しかも、直死ってやつ。
美綴さん直死
著:うにかた
んー、もう冬も終わりか。だって、サクラのつぼみも育ち始めているし。
でも、そんな乙女チックなこと思うまでも無く、登校している生徒の服とか観察したほうがそのへんはよく分かるよね。
真冬の間はコートを着ている生徒が多かったんだけど、今は冬服のみ、って人が増え始めてる。
春服って無いのかな。期間限定ーな感じで。でもそうなるとお金かかりそうだよね、制服代とか。
ああ、そう、今現在あたしは登校中。
生徒観察なんて言ってはいても、アスファルトの登校通路、春の息吹が若干芽生え始めたくらいで生徒なんか全然見当たらない。
まあそりゃあ、こんな早い時間なんだから、当然といえば返事するまでもなく当然だよね。
あたし弓道部の主将だし。一番早く朝練行って道場の鍵開けなくちゃいけないし。
そんな感じでただいま早起き登校中。
あー、それでそうそう。もうひとつ特別なことがあったんだっけか。
早寝早起き早朝登校。それはいい。
重要なのは、これが久しぶりの登校ってことかな。
んー、よく覚えてないけど一ヶ月ぐらい前? なんか変なやつに下校中闇夜で襲われて倒れちゃったらしいんだわ、あたし。
情けなー。何で一発や二発殴り返しておかなかったんだっての。弓道だけじゃなくて空手もやれってことか、これは。
まあ、そんなこんなで入院しちゃって、なんだか大分変な状態でした。でした。気持ち悪かった正直。
で、本当に重要なのはここからなんだよね。
襲われたじゃない?
病院に運ばれるよね?
ベッドに寝かされて治療を受けるわけだ。
それで久しぶりに目を覚ましました。もちろん病院のベッドで。
辺りを見回してみたら、それがもうびっくり。
病院中が、ばーーっと黒い線だらけなわけよ。いや、あの時はさすがのあたしもびびりにびびったね。
何だよこの病院、最先端技術取り入れすぎだろー! みたいな。
死ぬほどオーバーテクノロジー! みたいな。
だから検診に来たお医者さんに聞いてみました、次のように。
『なんですか? この黒い線は。白衣にまでつけてるってことは、新しいファッション? ああ、この病院はティーンエイジャーにもやさしく、って趣旨の病院? でもさ、そのヤングメンから言わせてもらうとかなりズレてますよ、その服、黒線白衣。ニューウェーブどころかニュージェネレーションギャップって感じ? オールドマンが進みすぎてて、あたしたち若い人はついていけないですよ』
そしたらお医者さん怒っちゃってさ。
『私の白衣はいつも完全に健全であって特注なうえに清潔だ!』とか意味わかんないこと叫びだして。
あんたのほうが入院しとけよって思いました。うん。
でさ、その後から、病院つまんないから病院裏の小高い丘でねっころがってた。
どうせ寝るなら眺めがよくて気持ちいいところで寝たかったからね。
それで、やっぱり空は大きいなあ、とか。風が気持ちいいなあ冬だから寒いけど、とか。
そんな感じで、青春バリバリ謳歌中の乙女よろしく感傷に浸って過ごしていたら、ある日、そのちっちゃな丘に人が来た。
まあ、なんかその人は自分は魔法使いだー、な感じのことを言ってたような気がする。
聞き間違えかもね、半分寝てたし。もしかしたら通りすがりの大道芸人だったかもしれないし、流浪中の俳人だったかもしれない。
それで彼女……女だね。髪の真っ赤な女性。それは覚えてる。彼女は言ったんだ。
『あなたにこのメガネをあげるわ。模造品だから効果は薄いかもしれないけれど』
なんか詳しく話を聞くと、そのメガネをかけたらあたしを近年最高ぐらいにびびらせてくれた、あの黒い線がキレイさっぱり消て無くなるそうじゃないか。
あたしは喜んだ。そりゃあ喜んださ。もちろん近年稀に見るぐらいに。
でもね、ちょっと待てよと思考が言うんだわ。よくよく考えてみたら、何だこの人。メガネくれるってのは、メガネ売ってくれるってことか。ああ、セールスマンなんだなこのイカしたお姉さん。
そう、魔法使いでもなく大道芸人でもなく俳人でもなく、セールスマンなんだ、きっと。
だからあたしは言った。
『メガネじゃなくて、コンタクトレンズの方が良いです。そうじゃなければスポーツグラス。こう見えてもあたし、スポーツウーマンなんですよ。メガネなんてすぐズリ落ちちゃうからちょっとね』
そしたら、そのお姉さん溜息ついてさ。その後に滅茶苦茶に笑いながらあたしの頭をなでてくれた。
『あはははは……あは、は。はぁ、ごめんね笑っちゃった。でも貴方ならきっと大丈夫よ。直死の魔眼を持っていても幸せに生きられるわ。私はそんな人知らないけれど、貴方はその魔眼を好きになれる人間よ、たぶん』
そう言ったと思ったら、あたしにメガネだけ渡してさっさと来た方向へ帰って行っちゃった。
うーん、なんだか対応間違えたっぽい。まあいいけど。
でも、風を纏いながら歩くあの人はすごく格好よかった。このごろのセールスマンは違うなあ。
あたしはその一週間後に退院した。
まあ、そんな感じで回想は終わり。
っていうか、このメガネどうするんだろう。
手のひらに置いたメガネを見つめてみる。ふちは黒の漫画に出てくるみたいにスタンダートなやつ。
直死、直死ねえ……直死って行ったら、直接死が見えるんだろうけど。
ってことは、この線がみんな死か。わー、あたしすげえかも。
ああ、そんなこと考えていたら、もう学園の校門だ。
かろうじて校門が開いてはいるが、朝晴れの空に照らし出される生徒はあたし一人。
うーん、直死。どう使ったもんかなあ。
これは一種の才能だろう。才能は使わなければもったいない。とりあえずはお試し期間といったところか。
うんうんと考える。
ああもう、なんだかな。あたしってこういうこと考える才能無いよね、昔っから。
……?
道路の向こう(坂の向こうといっても良い)の方に人影が見える。
二人組みで楽しくお話してますよ、仲良いなあ……?
――遠坂、おまえ歩くの速いよ
――うるさいわねえ。士郎が遅いんでしょう?
……。
……遠坂?
ミストーサカ?
思わず、ばばっと校門裏に隠れ、盗み見る。
――おまえ朝弱いんだからそんなに無理するなよな
――無理してないわよ!
うっわ……あたしのいない間に、男を作るとはなかなかに……。
すっごく楽しそうだし。これはノロケですか。ナチュラルでノロケられるってことはもうかなりのレベルだね、そのへん。
思わず力を入れた手に、持っていたメガネを強く握る。
……ん? メガネ?
……。
……ああ。
ああ、ああ、そうだ。そうでした。
いや、すっかり忘れてたよ。
結論から言おうか、私は魔眼持ちのノウブルカラーだ。
あの物売りのお姉さんが言っていたけれど、この目は概念としての死を見るらしい。
それが何かって?
決まってるじゃない。
校門裏から体を乗り出す。片足に体重をかけ、ノロケている二人に向かって軽やかに駆け出す。
「おーい、そこのお二人さー―ん」
叫んでみたら、どうやらあっちも気づいたようだ。
なんだか遠坂があせっている。
「大丈夫、わかってるって! 遠坂、賭け負けちゃったなあー」
叫ぶ。叫ぶ叫ぶ叫ぶ。
遠坂はこれ異常ないほどあせってしどろもどろ。そんなアンタは可愛いよ。
まあ、大丈夫さ。
「遠坂、任せといてーー! 二人の恋、私がきっと殺し……はぐくんであげるからーー!」
空に響き渡る遠坂の言い訳、衛宮の笑い声にあたしの罵声。
まあ、今はこんなものだろう。
お試し期間としては上々だ。
メガネ、タダでセールスマンのお姉さんからもらった商品。
タダってことはお試しだ。無料というのはまだ本番で無いからだろう。
こうやってずっと魔眼と付き合っていくのも悪くない。
そうだなあ……
お試し期間が終わって……
もう一度お姉さんが、今度は正規の商品を売りに来る頃ぐらいまではね。
〜続かない〜
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