10.負けるな春原
学年集会。
智代に体育館まで引っ張られてきて現在傍聴中。
文字通り学年全体が集まる体育館は、たとえてみればぎゅうぎゅう詰めの養豚場か。
「えー……」
踊場に立って話しているのは校長ではなく、幸村。
なんか知らんが校長の代わりに話してるらしい。
よぼよぼと、今にも倒れこんで臨終を告げるのかとも思えるその様相。
「なんじゃったかな……」
いつも通りだ……。
「ああ、そうそう……」
ようやく思い至ったらしい。
「今日、昼頃に、本校で、大きな事件があったらしいのう……」
あったらしい。
確信は無いのか。
「聞いた所によると、春原くんが禁為を犯したらしいのう……」
しゃべり方がのろのろとしていて、まったく話が進まない。
「数学の問題を教壇にたって解いたようじゃ。自ら進んで」
そして、そこで一度言葉を切り、幸村は言う。
「わしは感動した」
……あんだって?
「思い出すのう……三年前を。あのころのあいつは、はねっかえりでのう……」
なにやら一人昔を懐かしむ幸村。
なんか春原のやつ誉められてやがるし。
てっきり俺は幸村が、『てめーがそんなことできるわけ無いじゃろうがボケ!! 身の程を知るが良い!! フオォォォォォォ――ホワチャ!!!』、みたいな展開になるもんだと思っていたのだが。
「えー……以上。みなも春原を見習うように」
……。
…………。
…………春原を見習え?
じじい、ついにアルツハイマーか。
「幸村、良いヤツじゃん。僕、見直しちゃったよ」
隣で頬を緩ませながら、ニコニコと喜んでいる春原が非常にむかつく。
と、どこからともなく突っ込み……叫び声が聞こえてきた。
――春原なんか見習えるわけ無いじゃないのっ!!!!
紫の委員長のよく通る声が体育館内に響き渡る。
それにつられるようにして、他の突っ込み。
――じじいついにボケたんじゃねえのかよ!!??
それはさすがに失礼というものだろう。さっき俺もそう思ったけど。
――っていうか、春原がわりーんだろう!? カエレ春原!!!
連鎖的に複数の大声。
――カエレ春原!!
――ゴーホーム春原!!
――逆立ちして鼻でスパゲッティ食いながらみんなに謝れ春原!!
――カエレ! カエレ! カエレ!
もはや叫びは大合唱となり、体育館中を覆い尽くす。
「すげーな春原。大人気じゃん」
「いや、ちょっと待てよ!! 僕がなんか悪いことしましたか!!?? っていうか、『っていうか、春原がわりーんだろう!? カエレ春原!!!』って言った人の声が、岡崎にそっくりだったんスけどっ!!??」
「うむ」
「『うむ』、じゃねぇーーーーーー!!!!!」
そんな中、ぼうっと台に立っていた幸村が、再び口を開く。
「あー……静粛に。では、少し言い方を変えようかの」
とたんに、しんと静まり返る体育館。
「えー……」
「みな、春原を見習ってボウズにするように」
暴動は止まらない。
2004/7/11
|