6.素敵ゆきねぇ
「お三方とも、コーヒーが入りましたよー」
「おー」
「わー」
「?」
昼の資料室に木霊する三人分の声。若干一名は疑問詞のヤツがいるが。
「いや、もう、有紀寧ちゃんサイコー! 最高の上に最高なんてすごい最高だよね!」
一番最高なのは自分の脳内だということに気づかない春原が微笑ましい。
「一年生の女の子は、公子先生が連れていかれました。……それにしても皆さん、すごく楽しそうに走り回っていましたねー」
ほわほわとした笑みを絶やさず、これ異常ないほど楽しそうに話し掛けてくる宮沢。
こいつはこいつで、いつも幸せそうだなあ……。
「ところで、どうしてあんなに急いで走り回ってらしたんですか? よろしければ教えてください」
「実の所、かくがくでしかじかだったんだ」
「なるほどー」
言葉って便利。
「それはとても良いことですねー。私は応援しますよー、春原さん」
そう言って、胸の前で手のひらをぐっと握る。
「あぁぁぁー、有紀寧ちゃんは本当に良い子だなあ……」
なごむ春原。
「それでは、景気付けというわけでもないですが、春原さんが優等生になれるようなおまじないをしましょう」
そんな、この世の理を根底から覆すようなミラクルが存在するのだろうか。
それならまだ、ことみにわんこそば百杯早食いさせる方が難易度は低い。
「それでは、『リエナイア』と十回唱えてください」
「うんっ。じゃ、リエナイアリエナイアリエナイアリエナイありえない……って、何だよこの嫌な呪文はっ!!」
「おまじないですねー」
宮沢さん最高。
「お気に召しませんでしたか? では、違った形式のやつをしてみましょうか」
「違った形式? どんなの?」
宮沢は、本棚からいつものおまじない白書を手にとると、ぱらぱらとページをめくりながら歌うように読み上げる。
「まずこの紙に、平仮名で自分の名前を書いてください」
「ん」
さらさらと書き込む春原。
「よろしいですねー。では、その紙を口くわえてください」
「んー」
くわえる。
「その状態のまま、『ウトウセイユ』、と三回唱えてください。これは効きますよー」
春原がこちらを見る。
アイコンタクトで『しゃべれないんだけど』と、ビンビンメッセージが伝わってくる。
俺は春原の側に歩み寄り、そのまま人差し指と親指で彼の鼻をつまんで、最高の笑顔を輝かせながらヤツの視線に報いた。
「そのまま窒息死」
「――っ!! ――ぁ―――ん――!!??」
やべ、おもしろ。
「ぅトぜィゆとせいユとせいぅ!!!」
必死こいて唱えるすのぴーがこれ異常なく愛らしい。
もう、檻に閉じ込めて地下室に蹴り入れたいぐらいに。
「ぶはっ!! はぁはぁはぁはぁ……これで良い? 有紀寧ちゃん」
「はい、OKですねー」
何事も無かったかのように流す宮沢がまた赴き深い。
「それでは最後に、その紙に書いた自分の名前を読み上げてください」
「ああ……えーっと……
すのはる ようへい
……って誰だよコイツ!!!!!!!」
名前を書き間違えたらしい。
「ああ、失敗ですねー」
「マジかよっ!!」
春原の頭は予想以上に最高だった。
まあ、なんにしろ……
「ことみ、おまえの名前を書いてみろ」
「うん」
書く。
「読め」
「うん」
読み上げた。
「『一ノ瀬ことみちゃん』」
ことみの脳内パラダイスが郡を抜いて素敵。
2004/6/25
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