9.頑張れ陽平
――チャキン
軽快な金属音。
放課後の資料室で淡い光を浴びながら、実に華麗にことみは舞った。
歌うように春原の前髪を切り、踊るかのごとく春原のもみあげを断ち、昼食の後のブレイクタイムにも似た軽快さで春原の眉毛を剃った。
そして事の終わりに彼女は告げる。
「完璧なの」
「……」
「……」
「……」
場に立つ誰もが無言。
無言をもって、ことみの評価を下したといってもいい。
「……なんか言ってくれよ」
初めに口を開いたのは春原くん。
いや、なんかって……。
「最高に格好良いぞ春原」
「顔をそむけながら言うなよ」
ああ、無常。
「さあ、行こうかことみ。今日は退屈しない日だったなあ」
「うん、楽しかったの」
「誰で楽しんだんですかねぇ!!??」
脱出ミッション失敗。
「もっと! もっとさ!! もっと詳しく僕の頭がどうなってるのか教えてくれよ!! 鏡もねえじゃんこの部屋!!」
マジで?
「あー……詳しくねえ……」
よせばいいものを。
しばし春原の素敵な頭蓋を見つめながら、どう諭してやれば良いのかと考える。
「つむじからデコにかけて、まるでマリア様のように優しげな曲線美が続いている。そこから眉毛を覗いてみると……何も無い。さて、後ろに視点を移してみれば、そのダイナミックにして壮大ともいえることみのセンスが――」
「それ以上言うなぁーーーーー!! って言うか、今、何も無いって言いませんでしたか!!?? 僕の顔は一体どうなってるんだよ!!!」
「あははははははー」
「ちくしょう……」
自分で確かめようとしているのか、しゃりしゃりと自らの頭をなでる春原。
「……すごく短いんですけど」
「ボウズだしな」
「……スースーするんですけど」
「ボウズだしな」
「……教室に入ったら絶対叫ばれそうなんですけど」
「ボウズだしな」
「……怒りで衝動的に殺人を起こしそうなんですけど」
「ボウズだしな」
「……」
「……」
「かっこいいの」
しばし間。
「ちくしょーーーーー!!!! 岡崎!!! オマエはたった今、世界中のボウズのブラックリストに載ったぞ!! 始終朝から晩まで後ろをボウズにストーキングされるからな!! 沢山のボウズに命を狙われるからなぁーーーー!!!??」
考え得る限り最悪の余生だった。
「月の無い夜はボウズにきをつけやがれ、コンチクショーーーーーー!!!!」
春原は、非常に理解に苦しむ捨て台詞を吐くと、資料室のドアに向かって走っていく。
あー、生徒会室の再現――
「何をやっているんだおまえらは」
にはならなかった。
「と、智代ちゃん!?」
廊下側から出てきたのは智代ちん。割と急ぎのご様子で、肩で息をしながら話している。
「どうした智代。もう帰ろうかと思ってたんだけど」
「ああ、それがな」
周囲を見回す智代。そこまで重大な話なのか。
「今しがた、かの問題を職員会議に直訴した所」
「今日の放課後の学年集会で、春原問題が取り上げられることになった」
「やりすぎだろテメエ!!!!」
「BIGになったな春原」
「負の方向にBIGは嫌ぁーーーーーーー!!!!!!」
窓の外には、既に夕日が漂っていた。
2004/7/6
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