今回の藤村流は、「HYPER REAL PHANTASM」






 列車に揺られ、案内役の蓮子が熟睡したがために目的の駅に降りたまま立ち往生した。蓮子の覚醒を待つのも腹立たしかったメリーが彼女の鼻腔と口腔を塞いで数分、チアノーゼの兆候を窺わせていた蓮子がバッタのように跳ね起きた。ベンチの上で頭突きを交わしあった両名の道中は、ここに再開することとなる。
「全く、メリーはどんだけ頭が硬いのよ……」
「二の腕を触りながら言われても反応に困る」
 共に額を擦りながら、大型建築物と言えば学校くらいしか見当たらないような閑静な住宅街を歩く。周囲を囲む雄大な自然からは一足早く秋を伝えるべくひときわ喧しい鳴き声が放たれ、減反冷めやらない中も懸命に成長する水稲がざわわざわわと揺れている。空き地が多く、人もまばらだ。子どもが軽快に自転車を飛ばし、その後ろを兄弟らしき子どもが走って追いかけている。可愛いなあと微笑むメリーを他所に、蓮子は彼らに足払いを仕掛けようと意気込んでいたものだから、メリーは躊躇いなく蓮子の靴を踏んだ。
「――さあ着いたわ! ようこそメリー、ここが私の実家よ!」
「靴を踏んだのは謝るから、元気に犬小屋を紹介しないで。辛いでしょ?」
 うん、と頷く蓮子の顔に反省の色はない。メリーは嘆息した。
 ともあれ竹垣に引っ掛けられた表札に『宇佐見』と記されていることから、この家屋が蓮子の実家であることは明白だった。犬小屋に引っ込んでいる日本犬らしき雑種は、『メリー』という名前だそうだ。舌を出し尻尾も振っているが、警戒はしているらしい。
「……え、何なのこのフラグ」





 蓮子の実家に帰った秘封倶楽部。






 犬の散歩がてら町内の探索を開始した二人だが、寂れた神社やお地蔵さん以外に見るべきものもなく、メリーは事あるごとに擦り寄ってくる犬の対処に懸命であり、蓮子は必死に犬の顎を押し上げるメリーを見てニヤニヤすることに懸命だった。
 最終的にメリーが両名の額を突き、双方共にくぅんと鳴いたことで事態は収束した。
 住宅街を抜けると、水田を線路が貫き、それらを取り囲むように広がっている一面の緑に出会う。列車の開かれた窓から一望できた景色も、畦道に立ち緑の匂いを嗅ぎながら眺めているのとでは趣が異なる。呆と佇んでいたメリーも、忙しなく跳ねていた犬が急に身を低く構えて唸り出したため、不意に相方と顔を見合わせた。
「ねえ、あれ」メリーが指した畦道には、鴉除けの案山子にも似た黒い物体がある。
「いえ、あれは」蓮子は帽子を脱ぎ、交差点に座っている物体の正体を見極める。
 犬が吠え、猫が鳴いた。黒猫だ。行儀よく鎮座している。
 黒猫は二本に生え揃った尻尾を振り乱しながら、森の方に駆け抜けていった。ひときわ大きく、犬が咆哮する。蓮子はそれを留め、メリーに目配せをする。蓮子の瞳は、爛々と輝いていた。メリーは肩を竦める。
「猫又、猫又ね。知ってる。知ってるわよ、蓮子に無理やり覚えさせられたから」
「余計なことまで覚えなくてよろしい。行くわよ!」
 メリーが頷き、犬が咆えた。太陽が南中を差す頃だった。




 猫と犬に注目です。



WORK
Index