非中華圏作家の作品レビュー
日本・韓国・アメリカ等の作家が書いた中華関係の小説を収録。
「これが中華小説?」と思われる作品も入っているかもしれませんが、
そのへんは笑ってすませてください。

 

『鳥姫伝』バリー・ヒューガート 和爾桃子訳 ハヤカワ文庫FT

 時は唐代。主人公にして語り手の青年「ぼく」こと十牛(じゅうぎゅう、本名は陸羽!)の住む庫福(クーフー)村に、ある日子供たちが次々と倒れてしまう謎の病が流行した。助けを求めて北京に行った十牛は、通称「玉に瑕」の賢者李高と出会う。その病を治すのには幻の薬草「大力参(だいりきじん)」を手に入れなければならないと知った二人は大力参を求めて旅に出る。さまざまな人と出会い、危険を冒しながら大力参を求める二人の前に立ちはだかるは権力者の秦王。そして、大力参の謎に関わってくるのは牽牛に見初められた人間の少女“鳥姫(ちょうき)”の伝説…。

 原題は“BRIDGE OF BIRDS”。表紙の、鳥を従えた唐装の女性を見て「おお、これは中華ファンタジーでは?」と思い、作者名を見たらちょっといやな予感が頭をよぎった。だってこの人アメリカ人じゃん、きっとトンデモ本だぜ〜などと高をくくって読み始めた。…読み終わって、なめてかかったことを後悔した(笑)。意外にもマトモな中華ファンタジーだったのだ。日本人に親しまれている中華ファンタジーと言うとご存知の『西遊記』、他にはマンガ化されて注目を浴びた世界最古のSF小説と呼ばれる『封神演義』(ちなみに私は未読であるので、読了次第中華圏作品レビューに感想をアップするつもり)くらいだろうか。中華小説というとどうも金庸や古龍の作品しか思い浮かばなくなってしまったが、幻想小説も探せばどんどん出てくるかもしれない。今度探してみよう(ヒマないくせに…いつだ?>私)
 本草学(中国古来の植物・薬物学)や中国の七夕伝説、それに西王母なども登場するので、著者はきちんと中華の文献に当たっているようだが、なぜか韓国語が文中に登場したり(泣き叫ぶのがなぜか韓国語の「哀号(アイゴー)」とかいて「うおおお!」とルビが振られている)しているので、その辺はあやふやらしい。でも、この本を読んだたいていの日本人も古代中国についてはあやふやであるのは間違いないので重箱の隅をつつくのはやめにしよう。しかし、これを読んでいて私はつくづく、ああ、ちゃんと古代中国の伝承研究を学生時代にしっかりやっておけば、こういうネタを大いに楽しむことができたのに、などと今さらながらの役立たずな後悔をしてしまうのであった…(おいおい)。
 十牛と李老師が出会う人々は誰も彼もクセモノばかり。何かあるとすぐ気絶してしまう絶嬢、決して美女ではないけど、男たちがなぜかひきつけられてしまう(そこが物語の鍵を握る)蓮雲など、女性もかなりの剛毅(笑)揃い。
 香港で映画化するなら主人公の十牛を周星馳、李老師を羅家英、特殊メイクが必要かも知れないヒロインを鄭秀文、もちろん呉孟達も忘れちゃならない、という感じがいいかも。
 実はこの本、実際に読んでいただいた方が面白いと思ったので、あまり詳しい内容は書けないのだ。なんだか意味不明な感想になってしまったのはお許しを。このシリーズは3部作なのだけど、次巻も邦訳が予定されているというので、こちらも感想をここで書くつもり。というわけで、終わり。(2002.06.08)

『十三妹(シーサンメイ)』武田泰淳 中公文庫

 北海の洞窟で極限状態に追い詰められ、死んだ仲間の肉を食って生き延びた人間の生き様を描いたという衝撃の問題作(スマソ実は未読)『ひかりごけ』の著者は、もともと魯迅作品の翻訳者でもある竹内好と中国文学の研究会を結成したり、『史記』の著者・司馬遷についての評論で注目されたということから、中国関係にも縁の深い人物であったということを、この本にふれて初めて知った私。学生時代の主専攻が中国関係だったというのに全く知らなかった。どうか笑ってくれ。そんな作者のプロフィールから、題材こそ『児女英雄伝』の主人公にして中華文学史上最強のヒロイン、十三妹(シーサンメイ)だけど、もしかしたらへヴィな話なのかもしれないなどと思いつつ、読んでみた。
 …読み終わってまず一言。香港映画の脚本かこれは(笑)。思わずそう言いたくなるほどぶっ飛んでいた小説だったのだ。人間の尊厳に関する小説を発表し、戦後文学の一翼を担った人の作品にしては妙に軽くてある意味衝撃的。この衝撃は三島由紀夫が『仮面の告白』や『金閣寺』というやはり日本の戦後文学を代表する作品を書いておきながら、『三島由紀夫レター教室』や『愛の疾走』のような妙に軽くてどこか(いや、かなり)笑える作品群を発表していたというのと同じものだったりする。…よくわからない例ですみませぬ。前振りがくどいのでいいかげん本題へ。

 十三妹はかつては親の敵を討つために放浪し、自分と対決した男の首を次々と落としていった、江湖に名をとどろかせる女傑であり、現在はその旅の途中で命を救った安公子の第二夫人に納まっている。清朝の役人の息子である安公子は現在父親と同じく役人になるべく、国家試験である科挙合格を目指して受験勉強中。しかし、まだ若いせいかかなり頼りなく、賊に命を狙われたり、父親の失脚騒動に巻き込まれたりしている情けない男の子。でもただただおろおろしているばかりじゃなく、父親の名誉を回復すべく、科挙前にもかかわらず名裁判官の包公を訪ねて旅に出たりもする(途中で本来の旅の目的を忘れて一文無しになったりする)。その二人に絡み、一種の三角関係になるのが義賊の「錦毛鼠」こと白玉堂。十三妹を好敵手として、またはひとりの女として愛して付け狙う、じゃなくて付きまとう。ついでにその旦那である安公子にも興味を持ってしまい(笑)、義兄弟の契りを交わす。もちろん変な意味ではないので期待しないように(笑)。そんなこんなのドタバタがありつつも、無事に安公子は科挙に合格、父親の名誉も回復してめでたしめでたし。しかし、役人としても高い位になれそうな安公子がいつか愛する十三妹に自分の首を落とされるのではないか、という不安を残しつつ、続編の予感を残して物語は終わるのであった(実際、続編は書かれなかった)。

 この小説は新聞に連載された小説らしいが、翻訳でふれた中国武侠小説よりも軽妙な印象を受ける。執筆当時の流行語が登場するわ(太陽族とか斜陽族とか)、カタカナ言葉は出てくるわで堅苦しくないのである。もちろん、今の文体に比べれば堅苦しいところがあるが。ところで、この小説は清代の侠義小説『児女英雄伝』を下敷きにしながら、この原著と同時期に書かれた『三侠五義』から包公と白玉堂(登場シーンは少ないが白玉堂のライバルである展昭も)を登場させ、安公子が受験する科挙を巡るドタバタはやはり同時代の『儒林外史』と、なんと三作のエッセンスを盛り込んで書かれたパロディ(普通はパスティーシュという)小説だったのだ!なんて大胆!いいのかこんなんで?でも面白いからいいか!それならいっそ、この正編を受け継いだ続編を誰かに書いてほしいかもしれない。この小説の解説は中国小説も書いている田中芳樹氏だから、田中氏に書いてほしいかもしれないなー。

 

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