ノンフィクションのレヴュー

 

 

『漂泊のヒーロー―中国武侠小説への道 岡崎由美 大修館書店(あじあブックス)

 2000年、前年公開の『マトリックス』に衝撃を受けた映画ファンの前に登場した映画といえば、そう、件の『マトリックス』動作指導で全世界にその名を轟かせた袁和平(ユエン・ウーピン)が本家本元の中華圏で動作指導した台湾・アメリカ合作『グリーン・デスティニー(臥虎蔵龍)』(米国アカデミー賞外国語映画賞他4部門受賞)。中華電影迷にとってこの映画は「どーだ一般映画ファン!マトリックスぢゃなくてこっちがワイヤーワークの本家本元なのだ!キアヌのおそーいアクションなんか目じゃないぜ(すっげー暴言)!」と大威張りできる作品ではあった。…多分。その『グリーン…』にはちゃーんと原作があって、20世紀前半に書かれた王度盧(ワン・ドゥルー)の五部作小説『鶴鉄五部曲』の四作目を基にしたものという。そして、今まで名前が知られていなかったとはいえ、この小説もまた金庸や古龍の作品と同じ流れを汲む“武侠小説”の一つであるという。
 1996年、『楽園の瑕』の日本公開をきっかけに、これまで『スウォーズマン』や『カンフー・カルト・マスター』等の映画化作品が先行して紹介されてきた中華エンターテインメント小説界を代表する金庸の作品(
『秘曲 笑傲江湖』など)が邦訳されて刊行された。本書は、金庸や古龍を日本に紹介してきた日本における武侠小説の第一人者である著者による、武侠小説誕生以前からさかのぼる中華アクションヒーローものの歴史を集大成したものである。(そうそう、金庸単独の研究書っていうよりガイドブックとしては『武侠小説の巨人 金庸の世界』があるので、金庸作品についてはそちらをご参照に。再読したら感想をアップしておきます)
 日本で知られている中華ヒーロー小説といえば『三国志演義』や『水滸伝』くらい。しかし中国はさすが奥が深い。三国志に登場する英雄たちが別の話ではかなりとんでもないことをやらかしてたりしている(『三国志平話』がそれにあたる)。そんな『三国志』にも『水滸伝』にも後の武侠小説に通ずるものはちゃーんとあり、その一方で台湾ドラマ版『笑傲江湖』でアニタ・ユンが演じた邪教の姫君・任盈盈や『キラーウルフ』でブリジット・リンが演じた“白髪魔女”こと練虹裳のような「戦う美(少)女ヒロイン」も古代から中国小説で活躍してきた。そのような新たな事実も知りながら、「ああ、自分って何で昔の中国小説に手を出さなかったのかしら…(フツーあまり手を出さないってば)。あと10年若かったら、絶対こーゆーのを大学の卒論にしてたよ」と後悔しきり(大笑)。なぜ香港映画でワイヤーアクションという技法が誕生したのかと考えると、この中華ヒーロー小説の描写に由来するところが大きかったんじゃないかということにも気づく。
 いやぁ、ホントに読んでよかった。まだ金庸小説もほとんど読破していないけど、これから頑張って読もうって気になったよ。岡崎さん、多謝多謝!!

 

『秘伝 香港街歩き術』 藤木弘子 草思社(改訂版は新潮文庫)

『遊遊 香港道楽』 藤木弘子 草思社

 香港にハマったばかりの頃に誰もが必ず読んでいるであろう、香港旅行指南本。著者の藤木さんは某出版社兼映画配給会社が発行しているペーパーや個人旅行専門誌に寄稿していらっしゃるフリーライターさんなのですが、実はワタシ、香港にハマった頃に実に偶然というかなんというか、『街歩き術』の本文中に登場する藤木さんのご友人さんとネットを通じて知り合いになり、この本を紹介していただいたのです(文中には何名か登場しておりますが、あえてどなたかは申し上げません。結構楽しいエピソードで登場しておられます)。この本がきっかけとなって、1997年8月に初めて香港を旅してから2000年2月の旅行までの記録をまとめて、本(といっても同人誌)を3冊作りました。文章の面白さやデータなどの点においては藤木さんの足元に及びませんが、楽しく作りました。そんな意味でも藤木さんを勝手に師匠と呼んでいるもとはしでした。 この本では高級レストランばかりではなく、チープでリーズナブルなグルメも合わせて紹介されているのが嬉しかったです。なにせもとはしは基本的に金欠トラベラーですので、あまりお金をかけずに旅行したいのですね(まぁ、時には大枚はたいておいしいものを食べたり、チャイナドレスを作りたいと思っているが)。
 香港返還から今年で5年。最近観たニュース報道からでは不況等の問題があると報じられていますが、それをマイナスにとらず、以前の活気を取り戻していってほしいと思うばかり。今度香港へ行く時、また違った顔を見せてほしいと思うのでした。

 

『満里奈の旅ぶくれーたわわ台湾ー 渡辺満里奈 新潮文庫

 元おニャン子クラブ(この表記でいいっけか?)のメンバーにして現在はマルチタレントである著者(以下「満里奈」と呼び捨てさせていただく。同世代だからなー)。10年くらい前から満里奈が目をつけたものはブレイクする、絶対ハズレがないといわれるのは周知の事実であるが、そんな満里奈が台湾に目をつけ、現在ブレイクしまくってるのは、学生時代にガッコのプログラムで留学し、普段から「台湾は第二の故郷」と言っているワタシにとって複雑な気分である。まー本音を言うと「ふっふっふっ、甘いよ満里奈、台湾についてはキミよりボクの方が昔からディープに知ってるんだよ!」と言いたい感じだが、いくらワタシが日本の片隅で叫んでも所詮は一介のパンピーだしー、ゲーノー人には勝てましぇんわ。…しまった、暴言をお詫びいたします。ブレイクさせるなら香港映画に目をつけてほしかったよ…(いや、彼女はちゃんと目をつけてます。念のため)
 満里奈が台湾のとりこになったのは1998年だという。’98年といえばちょうどワタシもその時5年ぶりくらいで台湾を訪れていた。なにせワタシが台湾で暮らしていたのはまだ日本語も公用では禁止されていた頃。ついでに著作権法も施行されてなかった頃だから中国語に翻訳された日本の漫画の海賊版を読んで中国語を勉強してたもん(笑)。その頃は学生だったからビンボーだった。お茶はコンビニで買う天仁茗茶のパック、旅行はバスで台湾島一周、そんな感じだった。いろいろあったけど、いい思い出ばかりだったよ。…なぜそんなことをいきなり書いているのかというと、この本では台湾最大の都市・台北だけでなく、南部の台南や高雄、中部の台中などを訪れた印象も一緒に書かれていたからだ。うむ、やるのぉ満里奈。ワタシもかつて学生時代の台湾一周旅行で訪れた都市ばかりじゃ。その頃の思い出が突如として思い出されたのだ。…でも、さすがに彼女は取材旅行ということもあって東部のほう(台東・花蓮)までは旅行しなかったようだ。ちゃんと東部も行ったのでワタシの勝ち…こらこら(笑)。でも、ワタシの思い出も所詮は10年以上前の記憶。今はだいぶ開発されてしまったり、’99年の台湾大地震で被害を受けたりしてたところもあるしで、思い出の場所がそのまま残っていることもない。でも、この本を読んだら、また台湾一周旅行がしたくなったなぁ、ねぇ満里奈、そんなに台湾が好きならアタシと一緒に台湾一周旅行に行かない(爆)?…あ、行くわけないか、あちらゲーノー人こちらパンピーだし、旅の仲間にするのは趣味が合うかどうか…(^_^;)。よくわからないまま、終わる。感想になってないじょー。

 

The Others.

小説・ノンフィクションに入らないカテゴリー。マンガ、画集、写真集など。

『杜可風《春光乍洩》撮影手記』 杜可風(クリストファー・ドイル) 電影雙周刊出版

  1997年、映画《春光乍洩》(ブエノスアイレス)撮影時にクリストファー・ドイル(以下ドイルにーさん)が綴っていた撮影日記を彼自身が撮り、コラージュした写真と一緒に本にまとめたもので、日本では写真の大部分を差し替え、ドイルの日記部分を翻訳した『ブエノスアイレス飛行記』(プレノンアッシュ)として刊行された本の原書。初版はソフトカバー(製本が甘く、すぐページがはがれた)だったが、レスリー追悼の意もこめてハードカバーの新装版で再刊。ちなみにこの本の値段の20%は香港小児ガン基金に寄付されるとのこと。(画像は表紙カバー。…いーのか、いーのかドイルにーさん、この写真が表紙で。いーのかトニー、この写真が表紙で!)
 この映画についての逸話はいろんなところで語り倒されてきた。クランクアップ前のレスリーとトニー(withドイルにーさん)のクロストーク(@Cut No.55)で、カンヌ出品時に、日本公開時のトニーと王家衛のプロモーションで、もちろんレスリー自身の言葉でも…。香港の裏に連れて行かれ、脚本なし、即興演出で「今回オマエらは恋人同士だ。まずは脱いで寝ろ(ホントにそうは言ってないと思う。念のため)」から始まった撮影。撮影に入る前のトラブルでスケジュールが遅れ、レスリーは赤痢にかかって体調を崩し、香港でのコンサートを控えて撮影途中で帰国。彼の穴を埋めるために呼ばれたのが女性歌手シャーリー・クワンと台湾の若手俳優チャン・チェン。12月までかかった異例の長期撮影。カンヌ出品が決定し、急ピッチでの後期作業。こうして出来上がった映画の内容は…ああいうものであった。そしてカンヌでは最優秀監督賞を、金像奨ではトニーに二度目の最優秀主演男優賞をもたらした。
 先にこの写真集を見てから映画本編を観ると、撮影されたものの使われなかったシーンはいっぱいあったのだと改めて思う。その未公開シーンを新たに再編集(及び本編では全編カットされたシャーリーのシーンを復活させた)したものが《Buenos Aires Zero Degree(原題:ブエノスアイレス零度 )》としてDVD化されたそうだが、それにはこの写真集のショットが全編もりこまれているわけでもないだろう。ワタシにとってブエノスはあの映画が決定版と思っているので、シャーリーが登場したり、トニーがかの地で最期を遂げようともそれはまた別の話ではないかと思ってしまう。でも、人によってはあの映画が本当のブエノスじゃないと感じる人もいるのだろうから、ファンにはファンそれぞれのブエノスがあるのじゃないかって思う。そして、この写真集はワタシを含めたファンに対して自分なりのブエノスを作り上げることができるように出版された意味も案外あるんじゃないかな。…なんて、そーかな?
   

 

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