八犬伝以外の馬琴作品 (草双紙)

 

・作品のタイトル、発行年(月日のないものは大体私の調査不足による、すみません)、画工名、簡単な紹介、収録している本の順に表記。調査が行き届かず空欄の箇所が多々あるが、調べがつき次第随時埋めてゆく予定(「不明」とあるのは、プロの研究レベルでも解明されていないもの)。

・発行の月日まで書いてあるものは、原本の奥付の表記に拠っている。これは実際の発行日より後にずれている場合が多い。「正月吉日発行」とあるものは、大抵前年の暮には出ていたりするそうだ(現代の雑誌みたいな感覚だろうか)。

・版元、筆耕などは割愛した。その他くわしいデータを知りたい方は、※2の『滝沢馬琴集』以外はだいたい収録作品についてくわしく説明しているので、お手数だがそちらをあたって頂きたい。もっと手軽に、という方には、棚橋正博『黄表紙総覧』の中篇がおすすめ(収録本だけではわからなかった、作品名の読み、画工名などかなり参考にさせて頂いた)。

・「参考」とあるのは、収録本のほかに紹介文を書く参考とした本(紹介文中に典拠を示している場合は除いた)。

・私が読んだのは収録本のトップにあげたもの。ただ他の収録本も解説などを参考にしている。

・ネタバレはなるべく少ないよう心がけたが、予備知識一切なしで読みたいという方は、「関連書籍(事務的羅列)」のほうをどうぞ。

・アイウエオ順。

  ※1 影印本(原本を写真にとり製版・印刷したもの)なので全文漢字+変体仮名。

  ※2 以前刊行(活字化)されたものをそのままコピーしたらしい。一部文字がかすれたり重なったり、あまり状態は良くない。挿絵もかなりカットされている。

  ※3 草双紙の複写を載せ、活字訳をつけてある。

  ※4 活字化されているもののところどころ変体仮名が混じる(明治期の本にはわりにあるパターンのようだ)。挿絵は新たに描き下ろしたものと思われる(とりあえずオリジナルではない)。

  ※5 たぶん原本。国会図書館蔵。

                                         


『蘆名辻蹇児仇討(あしなつぢゐざりのあだうち)』(文化十二年乙亥正月発行、画工 歌川国丸)  合巻※5

 嘉吉の変で将軍を害しお家断絶となった赤松満祐の家臣・大社小二兵衛と岩箕太郎は、それぞれ主君の孫息子を守り育ててのお家再興、主の仇・管領程川もちゆきへの復讐を志す。岩箕改め巣藤堂助はもちゆきの弟のりゆきの謀殺には成功したものの、程川の忠臣にして小二兵衛の兄にあたる飯沼兵衛のためにもちゆき暗殺に失敗、兵衛をあやめ逃走。兵衛の息子・補太郎、補二郎は堂助への仇討ちのため長い旅に出る・・・。かなり面白い。堂助はのっけから「大たんふてきのくせもの」よばわりされてるが、途中まではやり口はともかく忠臣には違いないのでちと気の毒。後半堂助が、足利持氏の旧臣の息子・谷川志田之介から系図と御教書を奪って志田之介を名乗り、持氏の息子・成氏に仕えるなんて展開があり、こういう奴がいたから信乃が疑われたのかとつい思ってしまった。ラストの〈合体技〉がすごい。

 

『膏油橋河原祭文(あぶらばしかはらさいもん)』(文政六年発行、画工 歌川豊国)  合巻

 零落した商家の元主人・吉水屋十五右衛門が、貧乏と戦乱に苦しめられつつ、人を助けたり助けられたりしながら生きる様を描く。後半はいきなりお染久松ものに。先の読める展開ながらなかなか面白い。

追記−佐藤至子『江戸の絵入小説』の「第二節 『敵討闇夜烏』をめぐって」という章に、『松染情史秋七草』と『膏油橋河原祭文』の比較研究あり。

『曲亭馬琴翁叢書 下巻』(銀花堂、1889年)※4

 

『安倍清兵衛一代八卦(あべのせいべいいちだいはっけ)』(寛政九年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 信太狐の子、晴明ならぬ安倍清兵衛は早合点から損ばかりするが、夢中の母の教えによって口が上手くなり、占いの師として成功するサクセスストーリー。でも実は母の教え以前も以後も清兵衛の言動は大して変わってないのがミソ。全体の起伏は少ないが個々のエピソードが面白い。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(四)』(『駒澤短期大学研究紀要 第六号』、駒沢短期大学、1978年)

 

『買飴帋凧野弄話(あめをかつたらたこやろばなし)』(享和元年発行、画工 北尾重政?)  黄表紙

 人間の一生を凧になぞらえ、例えば奴凧にからめて(武家)奉公人に、字凧にからめて手習いに通う子供たちに教訓を加える。ストーリーらしいものはなく、「〜尽くし」の言葉遊び。タイトルは飴売りの売り声「飴を買ったら凧やろう」から。

『新日本古典文学大系 草双紙集』(岩波書店、1997年)

 

『石堂丸刈萱物語(いしどうまるかるかやものがたり)』・・・『苅萱後傳玉櫛笥』参照。

 

『今戸土産女西行(いまどみやげおんなさいぎょう)』(文政十一年発行、画工 歌川国貞)  合巻

 肥後の武士・佐東清憲のかけおち・殺生の報いによる、彼の娘三人の貧乏・仇討ち苦労話。父親の名前以外は西行の面影はうすい。義と情にさかれる人々の心を細やかに描写。面白い。

『曲亭馬琴翁叢書 下巻』(銀花堂、1889年)※4

 

『討也敵野寺鼓草(うつやかたきのでらのたんぽぽ)』(文化七年庚午正月発行、 画工 勝川春扇) 合巻

 分福茶釜の伝説を下じきとする仇討ち物。上総の郷士・末野嘉膳の家庭における密通事件と身代わり殺人から、二つの仇討ち物語が交錯する。緊迫した場面を一瞬でぶち壊す分福茶釜の活躍に爆笑。

板坂則子「曲亭馬琴の短編合巻(四)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編 第39巻』、群馬大学教育学部、1989年)

 

『姥桜女清玄(うばざくらおんなせいげん)』(文化七年発行、画工 勝川春亭)  合巻

 清玄桜姫ものの世界を、男女を入れかえて、山城国の武士・桜江姫之介に懸想する清玄比丘尼と、姫之介の忠臣袖平の因縁を描く。清玄を女にしたことで、その邪恋の不気味さ、恐ろしさがより増している。

板坂則子「曲亭馬琴の短編合巻(七)」(『専修国文 第五二号』、専修大学国語国文学会、1993年)

      「曲亭馬琴の短編合巻(八)」(『専修国文 第五四号』、専修大学国語国文学会、1994年)     

 

『画本武王軍談(ゑほんぶわうぐんだん)』(享和元年(寛政十三年)発行、 画工 北尾紅翠斎(重政)) 黄表紙

 殷の紂王の悪政と周の武王による革命、のちの周王室代々の歴史、さらに春秋時代の晋の文公(重耳)などの事跡を、史実に沿いつつ伝説を交えて描く。タイトルに「武王」と入るものの半ばは武王死後の物語であったりする。『史記』などで有名なエピソードが多く馬琴の創作になる部分がほとんどないので新味には欠けるが、まあまあ面白い。

京都大学文学部国語学国文学研究室編『京都大学蔵 大惣本稀書集成 第十二巻』(臨川書店、1995年)※1

 

『押絵鳥癡漢高名(をしゑとりあほうのこうめう)』(寛政九年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 子供がないのを嘆く夫婦が阿房羅刹(←なんだそりゃ)の霊験によって阿呆な子をもうけ、とことん阿呆な育て方をする。アホも極めれば天に通ずるというストーリー。ハッピーエンド、なのか?

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(三)』(『駒澤短期大学研究紀要 第五号』、駒沢短期大学、1977年)

 

『御慰忠臣蔵之攷(おなぐさみちゅうしんぐらのかんがへ)』(寛政十年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 馬琴には珍しい判じ物で全ページ絵文字。タイトルと絵から忠臣蔵ものなのはわかるのだが、いかんせん絵文字がほとんど解読できないため内容がさっぱりつかめない(泣)。「(多忙のためさっぱりネタが思いつかないのに版元からくりかえし催促されたので)あまり切なさに、今年はやりの判じ物をこじつけ候」という言い訳めいたあとがきがこちらまで切ない。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(六)』(『駒澤短期大学研究紀要 第九号』、駒沢短期大学、1981年)

 

『大雑書抜萃縁組(おほざつしよかきぬきゑんぐみ)』(寛政十年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 歌舞伎などで名高い悲恋のカップル数組があの世で再び一緒になったさいに引き起こす騒動と、彼らが現世に生まれ変わったのちの物語。なかなか面白い。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(五)』(『駒澤短期大学研究紀要 第七号』、駒沢短期大学、1979年)

 

『開帳地口提灯』(享保三癸亥正月発行、画工 北尾重政)  黄表紙※5

 京阪旅行帰りの馬琴が、鬼娘以下三名の訪問を受け、自分らの見世物が大うけした善光寺の開帳のことを草双紙に書いてほしいと哀願され、ついで風神雷神ほかの神仏?から銭儲けの方法を相談され、さらに近所の提灯屋に開帳の際奉納するための提灯の図柄を相談され、そこへ書肆から原稿の依頼が来たために、先三つの依頼をひっつけて物語をでっちあげました・・・との長い前置きのもとに、提灯屋が依頼主の職業をもじった絵柄の提灯を次々作るさまとその絵柄を紹介するだけの本編がはじまる。前置きラストの「これだから今のくさそうしハおもしろくないはづなり」という開き直りが何とも言えない・・・(〈旅行直後でネタがない〉という出だしは〈かげとひなたちんもんずゑ〉と同パターン)。ところで鬼娘と一緒にやってきた「たま子おしやう」というのは『平妖伝』のあの人だろうか?

 

『阿讃茂平浮名色揚 襲褄辻花染(かさねつまつじがはなそめ)』(文政七年発行、画工 歌川豊国) 合巻

 甲斐国都留郡の領主萩井胤長を仇討ちのため家督のためつけ狙う一味と忠臣たちとの相克の物語。「阿讃茂平もの」なのはタイトルだけのような。面白さはそれなり。剛胆な女たちが格好良い。

『曲亭馬琴翁叢書 下巻』(銀花堂、1889年)※4

 

『於旬殿兵衛仇討物語 信田〓(女ヘンに夫)手白猿牽(しのだづまてじろのさるひき)』(文政三年発行、画工 歌川豊国)  合巻

 狩人与次郎が信田庄司の命によって、小夜中山の山中に住む手白の猿を殺したのを発端に、与次郎の娘おしゅんの苦労と信田の息子殿兵衛との恋を描く。一言で言えば猿の恩返し。

『曲亭馬琴翁叢書 下巻』(銀花堂、1889年)※4

 

『照子池浮名写絵(かゞみがいけうきなのうつしゑ)』(文政五年午春発行、 画工 渓斎英泉(表紙のみ歌川国貞))  合巻

 実在した僧侶と遊女の悲恋と、灰屋と吉野太夫の物語を巧みに組み合わせた作品。商人の世界を舞台に忠義と生き別れの、許婚の愛情物語。稿本あり。テンポよく展開する佳作。

高田衛・原道生責任編集、校訂板坂則子『馬琴草双紙集』(国書刊行会、1994年)※3

『滝沢馬琴集 第十一巻』(本邦書籍、1990年)※2

 

『赫〓媛竹節話説(かぐやひめたけのよものがたり)』(文化十二年乙亥正月発行、画工 柳川重信)  合巻※5

 一條天皇の時代、ささいな事で奥州へ左遷された藤中将実方は、彼に私怨を抱く二九山治部平の讒言によって非業の最期を遂げる。一方治部平らも悪事が露見して妻子ともに追放され、猟師を生業にするうちに、乳母と旅していた実方の遺児すず姫を誤射してしまう。怪我を負ったすず姫を救ったのは、竹取(たかとり)里に隠棲して正直爺と仇名されていた実方の元家臣猿君(さるき)宮六であった・・・。その後タイトルに似ず「舌切雀」の如きストーリー展開を見せるが、中盤からはしっかり『竹取物語』に。例によって善人サイドより二九山一家の悪っぷりが見どころ。

 

『〓(こざとヘンに月)兼〓(こざとヘンに日)珍紋図〓(説明しがたい字)(かげとひなたちんもんづゑ)』(享和三年発行、画工 歌川豊広?)  黄表紙

 「おいらん国にじよろねこといふ獣あり」など、でっちあげた事物についての洒落た?説明文を列挙したエセ節用集。『養得茹名鳥図会』と同趣向の作品。最初に〈京阪旅行帰りで時間がない、ネタもない〉と暴露しているだけあって、あまり面白くはない。ただこの言い訳部分は結構好きだったりする。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(十一)』(『駒澤短期大学研究紀要 第二十四号』、駒沢短期大学、1996年)

 

『加古川本蔵綱目(かこがわほんさうかうもく)』(寛政九年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 人の悪心を療治するお天道様と悪心を起こさせる黒星の、かわるがわるの活躍を通して『忠臣蔵』のストーリーを描く。星によって人の心が左右されるあたりは『四遍摺心学草紙』的。高師直の目に黒星がとびこむシーンはなんだかアンデルセン『雪の女王』を彷彿とさせる。個人的には「(塩谷判官が)もろ直が眉間をちよいと一トたちなぐりければ」という個所がツボ。「ちよいと」程度の話なのかい。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(四)』(『駒澤短期大学研究紀要 第六号』、駒沢短期大学、1978年)

 

『襲褄辻花染(かさねつまつじがはなそめ)』・・・・・・『阿讃茂平浮名色揚 襲褄辻花染』参照。

 

『風見草婦女節用(かざぐさをんなせつよう)』(寛政十一乙未孟春刊行、画工 北尾重政) 黄表紙

 女人国(女護の島)に吹く春風が島の一番娘・竹婦人と恋仲になるが、竹婦人に横恋慕する大嵐とその協力者に妨げられ、駆け落ちしようとするのだが・・・。二人?の恋の顛末をいちいち風がらみの用語に関連づけて語っているのが面白い。

中村正明編『草双紙研究資料叢書 第六号 翻刻・注釈集』(クレス出版、2006年)←『未刊江戸文学 第三冊 曲亭馬琴好色黄表紙集』の影印

 

『報讐獺狂夫(かたきうちおそのたはれを)』(寛政八年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 奥州の侍・本門与茂作は撃ち殺したかわうそのたたりで、娘しのぶに懸想した家中の若侍八人に切り殺される。若党藤太夫とともに仇討ちを志したしのぶは曽我神社の霊現によって七人に増殖、これで八人の敵に立ち向かえるとよろこぶ・・・。たたっているのがかわうそなのと、しのぶが七人に分かれる点を除けばオーソドックスな仇討ちドラマ。しのぶが七人いるために生じる騒動が面白い。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(十五・了)』(『駒澤短期大学研究紀要 第三十一号』、駒沢短期大学、2003年) 

 

『敵討勝乗掛(かたきうちかつにのりかけ)』(文化十年癸酉春正月発行、画工 勝川春扇)  合巻※5 

 京の管領仁木氏家中の若侍沢井亦五郎は放蕩の末の借金を購うため、亡父の朋輩だった加田行いへに沢井家重代の名刀正宗を買い取ってもらうが、直後鎌倉管領足利成氏に仕える従兄弟櫻江珎右衛門から、正宗を献上すれば成氏が召し抱えてくれるという話を持ち込まれ、正宗を取り戻すために行いへを殺して逐電する。行いへの息子志津馬は仇討ちのため許婚浮橋の父である成氏家臣・唐木政右衛門のもとにひとまず身を寄せるが・・・。亦五郎の悪人ぶりが実に徹底していていっそすがすがしい。そして正宗を欲しがる成氏に「村雨丸は?」と思わずツッコみたくなった。草双紙はもともと絵が主、文が従だが、この作品はとくにそれが顕著と見えて、見開きで一枚絵、文章はほとんどなしなんてページもたびたびあったりする。

 

『敵討鼎壮夫(かたきうちかなへのますらを)』(文化三年丙寅正月発行、画工 酔故逸人(北尾重政)) 黄表紙

 北畠家中の三勇士の友情と断絶、ついには敵同士となりその争いが彼らの弟妹へも波及してゆく。三人の友情がいつどうやって崩れるのか(最初から崩れることは暗示されてるだけに)にどきどきさせられ、仇同士でありながら端からは悲恋の恋人と誤認されるような三次郎・みさごのストイックゆえの美しい関係に胸を打たれる。名作かも。後編の頭に「こうへんのみを見てぜんへんを見ざれば、わからざること多し。」とあたり前のことが書いてあるのが笑える。黄表紙はそういう読み方をする人が多かったんだろうか。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(十五・了)』(『駒澤短期大学研究紀要 第三十一号』、駒沢短期大学、2003年) 

 

『敵討雑居寝物語(かたきうちざこねものがたり)』(文化三年丙寅発行、 画工 酔放逸人(北尾重政))  黄表紙

 「大原の雑魚寝」という風習を基底とした二家族間の因縁もの。私の読んだ本では稿本も一緒に載せていて、どんな場面でもいっこう緊迫感のないほんわかテイストの馬琴自筆画が楽しめる。稿本では同時期発行の自作三作品の名を記し、「いづれも馬琴〓(判読不能)おもしろきゑ入よみ本出板いたしました」などと書いてあるのに、「刊行時の事情で」一つを除き他人の本の宣伝に替えられてしまった。気の毒に。

高田衛・原道生責任編集、校訂板坂則子『馬琴草双紙集』(国書刊行会、1994年)※3

追記−清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(十五・了)』(『駒澤短期大学研究紀要 第三十一号』、駒沢短期大学、2003年)に稿本が載っている。 

 

『敵討鼓瀑布(かたきうちつゞみがたき)』(文化四年発行、画工 歌川豊広) 合巻 

 悪党夫婦(?)とその息子に苦しめられた美濃国の鼓名人・鼓音之進一家、播州の佐川治斎一家の仇討ち物語。『三国一夜物語』『諸時雨紅葉合傘』同様、伶人を扱う。仇討ち物である以上正義が勝って終わるとわかっていても、悪人たちのしぶとさと犠牲の多さにはらはらさせられる。幼い道節の土中再生を思わせるシーンあり。弘化二年宝田千町によって『稲葉山鼓ヶ滝』と改題・刊行されている。

板坂則子「曲亭馬琴の短編合巻(二)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編 第37巻』、群馬大学教育学部、1988年)

 

『敵討蚤取眼(かたきうちのみとりまなこ)』(享和元年発行、 画工 北尾重政)  黄表紙

 好評だった『花見話虱盛衰記』の続編。虱の後任(?)の蚤の物語。生真面目な武士蚤取眼五郎が自分を食った蚤への敵討のため、主君に暇をもらい旅立つというナンセンスなお話。各回のタイトルに蚤か虱を読みこんだ俳句を使っている。よく集めたもんだ。

『滝沢馬琴集 第八巻』(本邦書籍、1989年)※2

 

『敵討賽八丈(かたきうちまがひはちぢやう)』(文化六年巳己正月発行、画工 歌川国貞) 合巻

 浄瑠璃『恋娘昔八丈』を下じきにした仇討ち物。武蔵国平塚の武士豊嶋平左衛門之丞の宝塔建立をめぐり、普請役の佞臣赤目一角(気になる名前ではある)・忠臣姨長才三郎の確執と才三郎と組んだ材木屋・白木屋正次兵衛一家の苦難話。『南柯夢』などと同じく不義のカップルを忠臣貞女に置き換えてある。台詞の形でやたらに馬琴の本の宣伝が入ってるのがお茶目。

板坂則子「曲亭馬琴の短編合巻(三)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編 第38巻』、群馬大学教育学部、1989年)

 

『敵討岬幽〓(かたきうちみさきのほら)』(文化四丁卯年春正月発行、画工 勝川春亭)  合巻

 馮夢龍『醒世恒言』巻三「売油郎独占花魁」を下じきに、浪人一森宇太夫の横死のために生き別れとなった宇太夫の妻子の流転と武士の子岩井小吉の半生をクロスさせつつ、ヒロインびわの仇討ちと恋を描く。ときどき笑ってしまうほど急な展開を見せるが、それも含めてなかなか面白い。

板坂則子「曲亭馬琴の短編合巻(一)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編 第36巻』、群馬大学教育学部、1987年)

 

『養得茹名鳥図会(かひえたりにはこめいてうづゑ)』(享和二年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 京は烏丸の名鳥やづゑ蔵が所有の珍しい鳥たちを紹介するという形式で、「かけとり」や「昼とんび」などを鳥にかけて面白おかしく説明する落語調の物語。『銭鑒貨冩畫』などと同種のお話。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(九)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十七号』、駒沢短期大学、1989年) 

 

『歌舞伎傳介忠義話説(かぶきでんすけちゆうぎはなし)』(文化五年戊辰春発行、画工 勝川春亭)  合巻

 『近世江戸著聞集』などで紹介され、一般に広く知られていた忠義の小者・歌舞伎傳介(実在)をモデルとする。俳優家・玉村永閑の息子と娘の軽挙から引き起こされる悲劇と、小者傳介の徹底した忠義が呼び起こす奇跡の物語。けっこう御都合主義だがそこも含めて面白い。

板坂則子「曲亭馬琴の短編合巻(五)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編 第40巻』、群馬大学教育学部、1990年)

      「曲亭馬琴の短編合巻(六)」(『群馬大学教育学部紀要 人文・社会科学編 第41巻』、群馬大学教育学部、1992年)    

 

『再栄花川譚(かへりさきはなかわものかたり)』(文化十三年丙丁孟春発行、 画工 歌川豊国)   合巻※5

 三浦浪人の子・長吉とその妹八橋は両親亡き後漁師を営む伯母夫婦の下へ引き取られるが、武芸を志す長吉は里見義弘家臣狭隈富之進の家来となる。が、富之進の弟富次郎がかねて不仲の狭野太郎左衛門の庭に誤って鞠を蹴込んだ事から悶着が起こり、長吉は太郎左衛門を殺して逃亡することに。さらにその後、義弘の舎弟義廉が愛妾の死と不本意な縁談の故に富次郎を供に出奔。義弘の命により富之進は長吉を捕らえるべく旅立ち、太郎左衛門の弟次郎左衛門も仇長吉と義廉を見つけるべく旅立つ。一方自害の覚悟で家へ戻った長吉は伯母夫婦の死を知って八橋を後見せざるを得なくなり、「隠家の茂兵衛」を名乗って侠客人生を送っていた・・・。『敵討誰也行燈』の合巻版とも言うべき作品。やはり人間関係が入り組んでいるがなかなか面白い。

 

『堪忍五両金言語(かんにんごりゃうかねのいひぐさ)』(寛政八年発行、 画工 北尾重政)  黄表紙

 善次郎、お節の二人が親の教訓の堪忍をよく守り、奉公、諸芸修行をきわめる人生航路を寓話化した滑稽物。ちなみに『黄表紙総覧 中篇』では読みを「かんにんごりゃうこがねのことは」としている。

『滝沢馬琴集 第八巻』(本邦書籍、1989年)※2

 

『曲亭一風京伝張(きょくていいっぷうきやうでんばり)』(享和元年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 馬琴新人時代の作。師匠格の山東京伝(紙煙草入れの見世を営業)が商売物の烟管(きせる)と烟草入を作品のネタにと持ってくるところから説き起こし、恋仲の烟管(男)と烟草入(女)が別の人物に買い取られて生き別れとなるが、そのために持ち主である女郎と商家の道楽息子(らしい)を深く結びつけることに・・・。かの名作(笑)『花見話虱盛衰記』めいたストーリーが楽しいが、『黄表紙十種』の「緒言」は「曲亭の黄表紙としては、本書の如きは蓋し上乗のものなるべし」とあまり嬉しくないほめ方をしている。

『黄表紙十種 全』(有朋堂書店、1914年 非売品)

 

『曲亭増補万八伝(きょくていぞうほまんはちでん)』(寛政八年発行、画工 北尾重政)  黄表紙 

 狂言回しの万八を通して各地の変わった風習などを紹介する。部分的に本当らしく聞こえる話もあるが、万八は「うそつき弥次郎が子」なので、信じてはいけないのだろうなあ。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙』(『駒澤短期大学研究紀要 第四号』、駒沢短期大学、1976年)

 

『鯨魚尺品革羽織(くじらざししなかははをり)』(寛政十一年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 序盤は『本草綱目』に対抗して?さまざまな種類の鯨を黄表紙らしい地口オチで解説。その後唐突に、大きいことが大好きな鯨取りりやう四郎が江戸見物の費用を捻出すべく鯨を〈釣る〉ことに挑戦するという、ストーリーものに発展。けっこう面白いがあのオチは・・・。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(七)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十号』、駒沢短期大学、1982年)

 

『楠正成軍慮智輪(くすのきまさしげぐんりよのちゑのわ)』(寛政九年発行、画工 北尾重政?) 黄表紙

 貧乏所帯を抱えて南朝に味方した楠正成が、借財まみれの限りなくしみったれた戦を展開。六波羅軍より債権者の方が真の強敵だったりする(笑)。気軽に楽しめる佳作。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(四)』(『駒澤短期大学研究紀要 第六号』、駒沢短期大学、1978年)

長谷川端『『楠正成軍慮智輪』略解題・翻刻』(長谷川端『太平記の時代』、新典社、2004年)

 

『傾城水滸伝(けいせいすいこでん)』(初編文政八年、二編文政九年、三編文政十年、四・五編文政十一年、六編文政十二年、七編天保元年、八編天保二年、九編天保三年、十編天保四年、十一・十二編天保五年、十三編上編天保六年)  画工 初編 初代歌川豊国 二編〜 歌川国安  合巻

 『水滸伝』の百八星を女に置き換え(扈三娘や孫二娘など女性は男性になっている)日本を舞台とした冒険活劇。基本的にストーリーは原作に忠実なので(残酷シーンは改変されているが)、女とも思えない豪傑ぶりがすごい。お転婆娘を指して「傾城水滸伝」と呼ぶほどの流行だったというが未完に終わった。『女水滸伝』(笠亭仙果著)『傾城水滸伝拾遺物語』(猪波暁花著)などの続編が書かれている。

『滝沢馬琴集 第十三巻』『滝沢馬琴集 第十四巻』(本邦書籍、1990年)※2←十三編以下の〈大団円〉は「続帝国文庫」シリーズ(博文館)の一冊として明治三十三年に翻刻されたさい編集者がつけ加えたものだそうだ。

林美一校訂『江戸戯作文庫 傾城水滸伝』(初編)(河出書房新社、1984年)、(二編)(同、1986年)←続刊については、「曲亭馬琴研究文献目録」(『読本研究文献目録』収録)にも、「曲亭馬琴研究文献論文(1988〜1997)」にも記載がないので、おそらく二編までしか出版されなかったものと思われる。

参考:麻生磯次『江戸文学と中国文学』(三省堂、1972年)

 

『十三鐘孝子勲績(じうさんがねかうしのいさほし)』(文化六年発行、 画工 勝川春亭、 歌川美丸)  合巻

 別名『山中鹿介稚物語』とも。戦国武将尼子氏の忠臣山中鹿之助の少年期の物語。尼子晴宗の妾二人の不和から、立場を入れ替えられて育った二人の青年、鹿之助と牛之助を描く。ケレン味あるストーリー展開が楽しめる。

『滝沢馬琴集 第十一巻』(本邦書籍、1990年)※2

 

『初老了簡年題記(しじうからりやうけんねんだいき)』(享和二年発行、 画工 栄松斎長喜)  黄表紙

 月ごとに、年中行事や日常の出来事を短く記した歳時記。「女礼ころんでおこうばこかい帳」、「ばあさんいぢけて炬燵やぐらと首引」など、およそ風情のない内容。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(九)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十七号』、駒沢短期大学、1989年) 

 

『時代世話足利染(じだいせわあしかがぞめ)』(寛政十戊午春発行、画工 北尾重政)  黄表紙※5

 曲亭馬琴門人傀儡子名義。浄瑠璃『加賀見山旧錦絵』を下敷きとする。多賀豊後守高忠の家臣・茶道望月長源(源蔵)が忠義と見せての策謀を巡らし出世栄達を遂げるさまと、彼の謀略に翻弄される忠臣たちの苦労話を描く。『嶋村蟹湊仇討』にも劣らぬスピーディーすぎる展開は、時にあらすじを通り越してト書きのようでさえある。セリフで解説している部分も多く、詞書を見ないと、いつのまにか長源が改名してて「源蔵って誰?」ってことになったり。挿絵にいちいちキャラクター名が漢字で書き込んであったり、本文がページの上にまとまっていて絵組みにあまりかからないなど、絵も文も見やすいのが新鮮かつ有り難い。

 

『四遍摺心学草紙(しへんずりしんがくさうし)』(寛政八年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 浦嶋屋太郎介は狂言和尚にもらった善悪の玉を入れた玉手箱をふと開けてしまい、箱からぬけ出した悪玉の導きによってたちまち怠け者と化す。人間の善心悪心を玉にたとえるあたりは山東京伝の『大極上請合売 心学早染艸(たいこくしやううけあいうり しんがくはやそめくさ)』の流れを汲んでいる。玉手箱から玉がとびちるシーンは『八犬伝』というより『水滸伝』的。ラストの唐突な大団円がイカす。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(三)』(『駒澤短期大学研究紀要 第五号』、駒沢短期大学、1977年) 

参考:『山東京傳全集 第二巻』(ぺりかん社、1993年)

 

『嶋村蟹湊仇討(しまむらかにみなとのあだうち)』(文化四年丁卯正月発行、画工 歌川豊広)  合巻※5

 「猿蟹合戦」を下敷きにしつつ、妖猿と人間の女の間に生まれた凶悪無残の大悪党・摩斯陀丸の故にお家断絶の危地に立たされた源高國一家、とくに娘音姫の苦難と、その家臣嶋村貴則夫婦らの忠義を描く。あらすじのごときスピードで進むストーリーの説明不足部分を、本文とほぼ同量の詞書でフォローするジェットコースタードラマ。とにかく唐突なまでにばたばた人が死んでゆく。それでも伏線はしっかり回収して終わるのはさすが。そして準主役だろうに挿絵に登場しない(故に名前の漢字がわからない)「馬ミ介」(?)が気の毒だった。

 

『小〓雨見越松毬(しよぼ〓(しよぼ)あめみこしのまつかさ)』(寛政八年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 美しいがろくろっ首な娘を持ったからかさや六郎兵衛は、娘の先を案じて弟子の嘉三郎を婿にしようと画策、もともと臆病な嘉三郎は義理からことわりも出来ず困ってるところを朋輩たちに偽お化けでおどかされたため、何を見ても化け物に見える超怖がりになってしまう、というドタバタ劇。嘉三郎のおちぶれ方がなかなか楽しい。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙』(『駒澤短期大学研究紀要 第四号』、駒沢短期大学、1976年) 

 

『心学晦荘子(しんがくみそかさうじ)』・・・・・・『昔怪談諷教訓 心学晦荘子』参照。

 

『新研十六武蔵坊(しんはんかはりましたじうろくむさしぼう)』(享和上元甲子正月発行、画工 北尾重政)  黄表紙※5

 源義経の腹心・武蔵坊弁慶が、義経を憎むその兄頼朝公を諌めて怒りを解くべく、「十六武蔵」(碁に似たゲーム)になぞらえて親子兄弟の情けを説く手紙を送る。親が子を、子が親を、食い物にする例をいろいろと紹介しているのだが、「十六武蔵」のルールを知らなかったのもので、も一つストーリーが呑み込めなかった・・・。

 

『新編金瓶梅(しんぺんきんぺいばい)』(初集天保二年、二集上帙天保三年、二集下帙天保四年、三集上帙天保五年、三集下帙天保六年、四集天保七年、五集天保九年、六集天保十年、七集天保十一年、八集天保十二年、九集天保十三年、十集弘化四年)  合巻※5

 『水滸伝』の「武十回」から派生した中国四大奇書の一つ『金瓶梅』を室町時代の日本に翻案。大商人西門屋啓十郎とその妾の一人阿蓮の恋愛遍歴と悪行の数々、彼らを仇と狙う完全無欠の豪傑・大原武二郎の冒険を描く。『金瓶梅』と名乗りつつも四分の三はオリジナルストーリー。善人と思われたキャラクターが次々本性を露呈してゆく展開がスリリング。中盤までの啓十郎・阿蓮の非道ぶりは時に胸が悪くなるほどだが、終盤の〈懲悪〉展開にもある種の恐ろしさを感じてしまった。

→翻刻版こちら

 

『墨川柳禿筆(すみだかはやなぎのきれふで)』(寛政八年発行、画工 北尾重政?)  黄表紙

 よし田や少兵ヘの腹立ちまぎれのたわいない嘘に、強盗殺人事件が重なったために起こる悲劇の連鎖。話をふくらませて読本仕立てにしても名作たりえただろうと思われる良品。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(三)』(『駒澤短期大学研究紀要 第五号』、駒沢短期大学、1977年) 

 

『殺生石後日怪談(せつしゃうせきごじつのくわいだん)』(初編文政八年、二編文政十二年、三編天保元年、四編天保二年、五編上天保三年、五編下天保四年、 画工 歌川豊国(初編、二編)歌川国貞(初編、二編、五編下表紙)、渓斎英泉(三編、四編、五編上)、歌川国安(五編上表紙、五編下)

 玉藻前(九尾狐)の再来・紫は鎌倉二代将軍頼家の愛妾となって頼家を堕落に導きお家騒動を引き起こす。忠臣・上総太郎広嗣らは苦難の連続にもめげず、観世音の守りのもと頼家の遺児を立てようとするが・・・。紫が単なる悪役でなく、祖父の過ちによる父と自分の不遇を呪ったために祖父の仇というべき九尾狐にとりつかれてしまったという設定が切ない。玉藻前=九尾狐説や九尾狐の化身とされる妲己のエピソードのほかに、歌舞伎『菅原伝授手習鑑』や王昭君の伝承などもストーリーに織り込まれている。「○○実は△△」というキャラクターが多くて混乱するがなかなか面白い。

『曲亭馬琴翁叢書 上巻』(銀花堂、1889年)※4

参考:高田衛・原道生責任編集、校訂板坂則子『馬琴草双紙集』(国書刊行会、1994年)※3

 

『銭鑒貨冩畫(ぜにかゞみたからのうつしゑ)』(寛政十二年発行、画工 北尾重政)  黄表紙

 なまけもので欲張りの、のらくら屋よく右エ門という男が、夢の中で使い残しの銭の化身(?)・孔方先生の案内でからくりを覗き、「おいらんだ銭」「読書調宝」などのいろいろな銭の生態(?)を知るというナンセンスなお話。頭が銭の花魁やらかごかきやらが描かれた挿絵もシュール。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(九)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十七号』、駒沢短期大学、1989年) 

 

『増補〓猴蟹合戦序(ぞうほさるかにかつせんじよ)』(寛政十年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 「曲亭門人傀儡子」名義。昔話のさるかに合戦ほぼそのままの話だが、蟹のなかまとして蜂と臼のみならず杵や卵が出てくる(江戸期はそういう伝承になっていたのか?)。段落ごとに「評にいはく」として古代中国の伝承やら戦術やらが出てくるのが醍醐味。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(六)』(『駒澤短期大学研究紀要 第九号』、駒沢短期大学、1981年)

沢井耐三『滝沢馬琴 増補〓猴蟹合戦序 翻刻と注解(「猴蟹合戦」論その四)』(『文学論叢 第27輯』(愛知大学文学会、2003年)←雑誌名・出版元とも本当は旧字。

 

『相馬内裡後雛棚(そうまだいりののちのひなだな)』(文化八年発行、画工 勝川春扇) 合巻

 平将門の髑髏と、その後見を受け謀反をはかる廻国太郎忠門に、俵藤太の孫にあたる田原藤六郎秀道が立ち向かう。こりゃ面白い。意表をつく仕掛けの数々が小気味よい。読本の形でじっくり読みたかったものだ。『八犬伝』や『弓張月』を思わせる展開も。

板坂則子「曲亭馬琴の短編合巻(十一)」(『専修国文 第五九号』、専修大学国語国文学会、1996年)

      「曲亭馬琴の短編合巻(十二)」(『専修国文 第六十号』、専修大学国語国文学会、1997年) 

 

『大黒楹黄金柱礎(だいこくはしらこがねのいしずへ)』(寛政九年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 大黒屋の身上をついだ若旦那ぬけ太郎を破産させようとする貧乏神とそれを阻止しようとする大黒天の無言の攻防。なんだかんだで主人公はいい目ばかりを見ている。なかなか面白い。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(五)』(『駒澤短期大学研究紀要 第七号』、駒沢短期大学、1979年)

 

『龍宮苦界玉手箱(たつのみやくがいのたまてばこ)』(寛政九年発行、画工 北尾重政?) 黄表紙

 浦嶋こと三浦屋嶋太郎は、助けたわけでもないのに亀につれられ龍宮なる大色街へやってくる。そこでの花魁乙姫、猿の佐次兵ヘとの三角関係が話の中心となる。「浦嶋と一ツ長屋の佐次兵ヘは先年四国を巡って猿となりしが、どういふ事か蟹と近付にて」という唐突な展開が何度読んでも意味不明。「どういふ事か」ってこっちが聞きたい。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(五)』(『駒澤短期大学研究紀要 第七号』、駒沢短期大学、1979年)

 

『譬諭義理與〓褌(たとへのふしぎりとふんどし)』(寛政十二年春発行、画工 北尾重政)  黄表紙

 割褌肛門しめ安という公家が、股倉の宝蔵へ忍び込み唐織の褌を盗みとった犯人を捜すべく、家臣の閲州ふんどしの介紐有と下梨もつこう佐衛門に詮議を言いつけるのだが・・・。キャラの名前もアレだが、詮議の方法も相当アレ。このしようもなさが見どころっちゃあ見どころ。

中村正明編『草双紙研究資料叢書 第六号 翻刻・注釈集』(クレス出版、2006年)←『未刊江戸文学 第三冊 曲亭馬琴好色黄表紙集』の影印

 

『牽牛織女願糸竹(たなばたつめねがひのいとたけ)』(文政十年丁亥春発行、画工 歌川国貞(三代歌川豊国))  合巻

 遊女のために破産・狂死した豪商をモデルとした「椀久もの」の作品。商人の世界を舞台に忠義と生き別れの・・・前にも同じ事書いたぞ(笑)。悪役の改心(?)にちょっと無理があるか。そこそこ面白い。

高田衛・原道生責任編集、校訂板坂則子『馬琴草双紙集』(国書刊行会、1994年)※3

 

『種蒔三世相(たねまきさんぜさう)』・・・・・・『筆耕作稿栽着 種蒔三世相』参照。

 

『千葉館世継雑談(ちばやかたよつぎざうだん)』(文化九年壬申正月発行、画工 歌川国貞・勝川春亭) 合巻※5

 狐にとりつかれた愛妾を斬り殺してから女嫌いになった千葉実胤は美少年集めに精を出すように。かつて山内家に内通したかどで実胤に追放された幕割(まくわり)治部衛門は美貌の息子治部介を差し出すことで帰参をはかるが、くだらぬ口論から治部介が殺されてしまう。最初は息子の仇を討とうとした治部衛門だが、下手人与太郎が息子以上の美少年なのを見て彼を息子の身代わりに仕立てようと思いつく・・・。千葉だの幕割(馬加)だのといったキャスティングから、じゃあ与太郎は毛野のポジションか、息子の身代わりになると見せて実は親の仇だった治部衛門を討ったりするのかと期待したら、周囲の者を讒言し、冤罪をかぶせて自らの栄達の種にする山下定包的役どころだった。実胤の弟である千葉自胤がいい人キャラなのが新鮮。

 

『月都大内鏡(つきのみやこおおうちかがみ)』(文化十二年丙子正月発行、画工 彩霞楼(歌川)国丸) 合巻※5

 大内家第一の臣・陶晴宗は、息子太郎の乳母・高折の忠心を愛でて、その夫・寄生(やどりぎ)達平と息子長太郎を側近く召し使うように。主の信頼に驕った達平はお家の金を使い込んだのが元で晴宗に妻ともども手討ちにされるが、幼いながら賢しく忠義心厚い長太郎は主に愛される。やがて長太郎が寄生夫婦が赤子のうちにすりかえた実子であったと知った晴宗は偽の息子・太郎を殺して長太郎を息子として迎えるが、それは忠義の仮面の裏で両親の仇討ちと陶家の乗っ取りを企んだ長太郎の策略であった・・・。というわけで、やがて物語は『美少年録』でおなじみ、長太郎のちの陶晴賢の謀反と正義の人・大江音成との戦いへと発展してゆく。少年ながら稀に見る忠臣、と見せかけて実は―という展開は『時代世話足利染』を彷彿とさせる。

 

『胴人形肢体機関(どうにんぎやうからだのからくり)』(寛政十二年発行、画工 北尾重政)  黄表紙

 人相その他の体の部品の良し悪しで吉凶を占う教訓先生が、言葉遊びに引っかけて正しい生き方を説く。〈やかん頭〉の人はほんとに頭が薬缶だったりする絵がシュール。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(八)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十二号』、駒沢短期大学、1984年)

 

『浪花秤無女芬輪』(寛政十三年辛酉の梅見月発行、画工 子興)  黄表紙※5

 〈なにわの梅次郎という人物が、天は物の軽重を量る天秤のようなもので、さまざまの災いは天秤の狂いから生まれるものと悟り、馬琴を尋ねてそのアイデアを黄表紙にしてもらう〉という前ふりで、夫婦の重さ、恩愛の重さ、世渡りの重さなどが語られる。テーマごとに天秤に「夫」「婦」、「渡世」「身」などと書いた分銅を天秤の両端につるす男の絵+普通の挿絵が載る。「わが身の重さ」の例が〈軽いきすや鱧を釣ろうとして水に溺れては意味がない〉として「身」と小魚(文字でなく絵)を天秤に吊っている絵なのに笑った。ラストで不動明王ならぬ「ふんどんミやう王の御せうたい」が出てきて、「顔の分銅を唐なすの黒焼きかと思わねばよい」などと書いてあるのがシュール。脱力具合が一種心地好い作品。

 

『似字尽後編 麁相案文当字揃(にたじづくしこうへん そそうあんもんあてじぞろへ)』(寛政十年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 その名の通り『似字尽』の後編。いろいろな物の名前の由来を駄洒落にからめてでっちあげる。本当らしく聞こえるものも結構あるのだが、だまされているのだろうか・・・。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(六)』(『駒澤短期大学研究紀要 第九号』、駒沢短期大学、1981年)

 

『庭荘子珍物茶話(にはさうじちんぶつちやわ)』(寛政九年発行、画工 北尾重政)  黄表紙

 大ヒット作『和荘兵衛』にあやかった空想上の異国漂流物。和荘兵衛の息子和藤兵ヘは漂流先から連れ帰った手長嶋のむすめ、穿胸国の男の身体的特徴を利用してたちまち大金持ちに。それを隣家の麁忽(そそう)兵へが見習って金もうけしようとたくらむが、〈意地悪じいさん〉のパターンにのっとって無残に失敗する・・・。とても面白い。今なら規制が入りそうな内容ではあるが。とくに中盤あたり。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(四)』(『駒澤短期大学研究紀要 第六号』、駒沢短期大学、1978年)

 

『女護嶋恩愛俊寛(にょうごのしまおんなしゅんかん)』(文化十二年発行、画工 歌川国直(表紙のみ歌川豊国))  合巻

 『平家物語』の俊寛僧都島流しのエピソードをもとに、俊寛他を女に替えたお家騒動もの。仇討ちする側が悪でされる側が善(一時的に堕落してるが)なのは珍しい。キャラクターほとんどが嘘つきでもある。文化五年の『俊寛僧都嶋物語』(読本)は同テーマだが、そちらの方が面白い。

高田衛・原道生責任編集、校訂板坂則子『馬琴草双紙集』(国書刊行会、1994年)※3

 

『人間萬事塞翁馬(にんげんばんじさいおうがうま)』(寛政十二年発行、画工 北尾重政)  黄表紙

 馬頭観世音の霊験による馬太郎青年の超浮き沈み人生。ラストの教訓的オチがいかにも馬琴流?

『滝沢馬琴集 第八巻』(本邦書籍、1989年)※2

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(八)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十二号』、駒沢短期大学、1984年) 

 

『鼠子婚礼塵劫記(ねずみこんれいぢんかうき)』(寛政五年発行、画工 歌川豊国) 黄表紙

 『祇園祭礼信仰記』『伊達競阿国戯場』『鳴神』など歌舞伎の有名キャラクターを借りて、春永の養女雪姫と鶉の中将の結婚をめぐる恋のさやあてと仁木左ヱ門の謀反を、ねずみ尽くしで描く。オチのくだらなさが楽しい。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙』(『駒澤短期大学研究紀要 第三号』、駒沢短期大学、1975年)

参考:棚橋正博『日本書誌学大系48(2) 黄表紙総覧 中篇』(青裳堂書店、1989年)

 

『廿日余四捨両 盡用而二分狂言(はつかあまりにしじうりやう つかひはたしてにぶきやうげん)』(寛政三年発行、画工 一陽斎(歌川)豊国)  黄表紙

 「京伝門人大栄山人」名義による作家馬琴のデビュー作。深川八幡の拝殿の絵馬が実体化して引き起こす騒動を俳諧師(?)張果坊馬琴の視点から追う。絵馬たちの行動はさまざまな芝居をパロディ化してつなぎ合わせたもの。ラストに意外な、拍子抜けするオチが待っている。

 『ふみくら』

 

『鼻下長生薬(はなのしたながいきのくすり)』(寛政十年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 〈万病は五欲から出るもの〉という主張にそって、薬でも治せぬ気の病をいくつか紹介したのち、恋の病に倒れたお梅の物語となる。なかなか面白い。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(六)』(『駒澤短期大学研究紀要 第九号』、駒沢短期大学、1981年)

 

『花見話虱盛衰記(はなみはなししらみせいすいき)』(寛政十二年発行、 画工 歌川豊国)   黄表紙

 馬琴に命を救われた虱がお礼に(本のネタに)身の上を語る。寄生主の着物をまちがえたばかりに風呂屋で生き別れになった虱夫婦の愛情物語。やっとの再会シーンは涙なしには見られない?

『滝沢馬琴集 第八巻』(本邦書籍、1989年)※2

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(八)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十二号』、駒沢短期大学、1984年) 

参考:棚橋正博『日本書誌学大系48(2) 黄表紙総覧 中篇』(青裳堂書店、1989年)

 

『備前擂盆一代記(びぜんすりばちいちだいき)』(寛政十二庚申孟春発行、画工 北尾重政)  黄表紙 

 備前焼を商う擂鉢屋五郎右衛門の妻は、夢中に荒神から擂鉢を授かり懐妊、生まれた娘をしらぢと名付ける。やがて宮仕えに出たしらぢは殿の近習・尾廻連木之介と恋に落ちる。しかしそれが殿の知るところとなって追放処分、貧しい所帯を持つのだが・・・。恋人たちの浮き沈みと、新居に備えた擂鉢と擂り粉木の恋模様がリンクして語られるのがシュールで笑えるが、これが単なる語呂合わせを超えた深みを作品に与えていて、実はすごく斬新な表現法なんじゃないかと思ったり。しらぢと連木之介が〈デキる〉場面の、「恋は思案の垣ごしに思ひのたけを通わせけるぞヱヽ畜生め」という地の文にあるまじきエキサイトぶりがおかしい。

中村正明編『草双紙研究資料叢書 第六号 翻刻・注釈集』(クレス出版、2006年)←『未刊江戸文学 第三冊 曲亭馬琴好色黄表紙集』の影印

 

『彼岸桜勝花談義(ひがんさくらはなよりたんき)』(寛政十一年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 作者=馬琴が版元に次作のプロットを話すという形で「地獄極楽の世界を世の中の事に致して随分めでたく書」いたもの。「めでたく」といいつつ極楽の項は2つのみ、しかもめでたいといえるのはラスト1つだけである。オープニングの、馬琴が版元に対してやたら腰が低いのが笑える。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(七)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十号』、駒沢短期大学、1982年)

 

『風俗金魚伝(ふうぞくきんぎょでん)』(上編−文政十二年己丑正月吉日発行、二(下)編(一・二巻)−文政十三年庚寅春正月吉日発行、二(下)編(三・四巻)天保二年卯春発行、下編下−天保三年壬辰春正月吉日発行  画工 歌川国安)  合巻

 中国小説『金翹伝(きんぎょうでん)』(『標注そののゆき』のモデルと同じものだろう)の翻案。金魚売りの娘である賢女魚子が宿世の悪業のため男から男へ流れて悲劇をくり返す。ストーリー上、馬琴にしては案外惚れっぽいヒロインとなっている。あんまりな「悪業」の実体はラストで明かされる。

『滝沢馬琴集 第十四巻』(本邦書籍、1990年)※2

『曲亭馬琴翁叢書 上巻』(銀花堂、1889年)※4

参考:東京大学総合図書館内近世文学読書会『日本書誌学大系67(2) 東京大学所蔵 草雙紙目録 二編』(青裳堂書店、1995年)

 

『福寿海無量品玉(ふくじゆかいむりやうのしなだま)』(寛政六年発行、 画工 勝川春朗)  黄表紙

 浅草の商家の息子ふだらくや大信郎が廓通いで身を持ちくずしてゆくさまを描く。ポイントは挿絵。「金貸の目からは大信郎の顔が地蔵菩薩のよふにみゆる」というシーンでは本当に地蔵顔、〈茶屋の目には福神のように見える〉のシーンでは大黒様の顔、女房にかんしゃくを起こすシーンでは団十郎の顔に描いてあったりする。夫婦の危機だというのに、「むすこ大吉、おさな心に親父が団十郎のやうにみへるゆへ喜ぶ」という呑気さがナイス。ラストの強引さも実に笑える。この話、一応仏教説話なんだろうか?

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙』(『駒澤短期大学研究紀要 第四号』、駒沢短期大学、1976年) 

 

『富士浅間半七三勝 諸時雨紅葉相傘(ふじあさまはんしちさんかつもろしぐれもみぢのあひがさ)』(文政六癸未年春正月発行、画工 歌川豊国) 合巻

 商家の息子半七と舞姫三勝の不義の恋と、北畠家に仕える浅間の局・中老富士江の確執の物語。要はタイトルのとおり『三七全伝南柯夢』『三国一夜物語』を足して2で割ったような内容。『南柯夢』と比べると主人公二人(とくに半七)の情けなさが際立っている。そんな彼らが身内の面々に支えられて何とかハッピーエンドへこぎつける過程が面白い。

尾崎久弥編『草双紙選』(改造社、1932年)

 

『筆耕作稿栽着 種蒔三世相(ふでのこうさくしたゑのうへつけ たねまきさんぜさう)』(享和二年発行、画工 北尾重政)  黄表紙

 こうさくや畑右衛門とたねまきや権兵衛両者の子育ての成功と失敗を百姓仕事になぞらえつつ描く。ラストで都会っ子である江戸の子供たちにお百姓のありがたさを説いて終わるあたりが馬琴らしい。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(十)』(『駒澤短期大学研究紀要 第二十二号』、駒沢短期大学、1994年)

 

『北国順礼唄方便(ほつこくじゆんれいうたほうべん)』(寛政九年発行、画工 北尾重政?) 黄表紙

 女郎の一生涯を旅にたとえて描写する。『堪忍五両金言語』に似た形式の物語。可もなく不可もないという感じ。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(五)』(『駒澤短期大学研究紀要 第七号』、駒沢短期大学、1979年) 

 

『松株木三階奇談(まつのかぶきさんがいきだん)』(文化元年(=享和四年)発行、 画工 北尾重政)  黄表紙

 遊谷子の滑稽本『和荘兵衛』をふまえた遍歴小説。先に著した『戯子名所図会』を長く(それでも短編)したもの。和荘兵衛の弟、世間知らずの麁相兵衛の漂流物語だが、着いた先は歌舞伎が嶋=芝居小屋だったりする。小話風で気軽に楽しく読める。

高田衛・原道生責任編集、校訂板坂則子『馬琴草双紙集』(国書刊行会、1994年)※3

 

『松之月新刀明鑑(まつのつきしんとうめいかん)』(文化七年発行、 画工 勝川春亭)  合巻

 近松半二『京羽二重娘気質』(お花半七もの)と『捜神記』『史記』などで有名な干将莫邪の伝承をモチーフとする。管領足利成氏の命で名剣を研ぎに参内した刀鍛冶半七が、成氏の娘・濡衣姫に思いをかけられたのがめぐりめぐって、半七が妻お花とともに父の仇を探す仇討ちものへ。短い物語の中にお約束の展開が詰め込まれている。

板坂則子「曲亭馬琴の短編合巻(九)」(『専修国文 第五六号』、専修大学国語国文学会、1995年)

      「曲亭馬琴の短編合巻(十)」(『専修国文 第五七号』、専修大学国語国文学会、1995年)

 

『女夫織玉河晒布(みやうとおりたまがはさらし)』(文政六年発行、画工 歌川豊国)  合巻※5

 鎌倉の管領に仕える磯貝帙右衛門は四十一の年に息子実太郎を設け、「四十二の二ツ子は二親に祟る」との迷信にのっとり、形ばかり実太郎を玉川近くに捨てたさい、貧しさから双子の娘の一人を捨てようとしていた浪人うり田久津作と出会う。仁に厚い帙右衛門は彼の娘小つまを実太郎の妻に迎える約束のもと毎年援助を行うこととするが、数年後娶った後妻荒磯は、小つまを帙右衛門の隠し子と疑って甥の島川他兵衛をかたらい小つまを誘拐させる・・・。悪人もしぶといが善人もしぶとく、彼らの攻防のありさまが面白い。

 

『視薬霞報條(みるがくすりかすみのひきふだ)』(寛政十二年発行、画工 北尾重政)  黄表紙※5

 家の修理に用いれば雨漏りほか家屋のトラブルを防げる「あばら屋ふり出し薬」、飲むと力強く、顔は棗のように赤く、髭が生えてくる「八十二斤青龍湯」(『三国志』の関羽が持つ〈青龍刀〉に引っ掛けている)、ぼんくら息子に効く?「一子総領あんぽん丹」などの、でたらめな薬の効能を並べ立ててある。ただそれだけだがそこそこ面白い。

 

『昔怪談諷教訓 心学晦荘子(むかし〓(むかし)のくわいだんなぞ〓(なぞ)のけうくん しんがくみそかさうじ)』(寛政七年発行、 画工 北尾重政) 黄表紙

 力自慢の朝比奈三郎(『朝夷巡嶋記』参照)が、化け物と勝負がしたさに相州の化地蔵のお堂を訪れ、狐や狸の苦労話を見聞する前半部と、〈人の心の中にこそ鬼はいる〉という前半のオチを受けて、白木屋の番頭丈八がたぬき寝入りをしたら顔がたぬきになったり、廊下とんびと言われれば鳶になったりする『福寿海無量品玉』を思わせる後半部からなるシュールな教訓話。なかなか面白い。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙』(『駒澤短期大学研究紀要 第四号』、駒沢短期大学、1976年) 

 

『武者合天狗俳諧(むしやあはせてんぐはいかい)』(寛政九年発行、画工 北尾重政?) 黄表紙

 構図の似た武者絵二枚を組にして歌合せの形式で題と人に合わせた俳句と評を付す。もひとつ内容がのみこめない・・・。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(三)』(『駒澤短期大学研究紀要 第五号』、駒沢短期大学、1977年) 

 

『武者修行木斎伝(むしやしゆぎやうもくさいでん)』(文化三年丙寅春正月発行、画工 一柳斎豊広)  黄表紙

 木こりの木蔵が、たまたま出会った天狗に剣を学び、十年の武者修行を経て鎌倉に道場を開くが、養子が男に恋の恨みで殺害された仇を討つべく旅に出る。前半は武者修行中の武勇伝数種、後半が仇討ち行となる。ダイジェストのごとく淡々と話がすすむなりになかなか面白い。とくに後半。また、〈化け物に眠りをおびやかされる姫君を護衛〉〈狐に憑かれて往来で己の悪行を告白〉など、『八犬伝』を彷彿とさせる展開が数々あるのもみどころ。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(十五・了)』(『駒澤短期大学研究紀要 第三十一号』、駒沢短期大学、2003年) 

 

『無茶盡押兵(むちやづくしをしのつはもの)』(寛政十年発行、 画工 北尾重政)  黄表紙

 名高い(たぶん)武将たちの名前をもじった「宰領弁当実盛」だの「くらがへの女郎直実」だのといったキャラクターの、元ネタの人物の事跡をもじった行動を描くショートショート集。みな源平合戦の頃の武将なんだろうと思うが、タイトル通り名前のもじりが無理やりなので(「朝日将軍木曽義仲」→「朝湯将軍ちとお背中」とか)、モデルが誰なんだか特定できないキャラ多数・・・。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(八)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十二号』、駒沢短期大学、1984年) 

   

『无筆節用似字尽(むひつせつようにたじづくし)』(寛政九年発行、 画工 北尾重政(らしい))  黄表紙

 無筆者のための節用集(簡易辞書)といった体裁で、手紙・料理などテーマごとに関連語を七五調で解説。しかし、実際にこれで文字を覚えられる人はいないだろう(笑)。句につづく小話(?)は語呂合わせづくしのナンセンスなもので、ようするに全編言葉遊びである。挿絵に句を図案化した絵文字が入っている。大ヒットしたそうだ。タイトルは『小野篁歌字尽』のもじり。

小池正胤・宇田敏彦・中山右尚・棚橋正博編『江戸の戯作(パロディー)絵本(四)』(現代教養文庫(社会思想社)、1983年)

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(六)』(『駒澤短期大学研究紀要 第九号』、駒沢短期大学、1981年)

 

『野夫鶯歌曲訛言(やぶうぐひすうたのかたこと)』(享和二年発行、画工 子興)  黄表紙

 ひたすら浄瑠璃長歌を愛する国主ととにかく地口(駄洒落)を愛する奥方を取りまく人々が、自分の名前から連想される長歌であらゆる会話を行うシュールな光景がただただ続くだけ。エピソードの流れには脈絡がないわ、いきなり舞台が現実世界に転換するわ、〈収拾つかなくなりました〉と作者が告白するわで、あまりにも肩の力が抜けまくっている。もはや開き直ったらしいオチの御都合主義っぷりも最高。馬琴の暴走が楽しめる愛すべきB級作品。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(十)』(『駒澤短期大学研究紀要 第二十二号』、駒沢短期大学、1994年) 

 

『大和荘子蝶胥笄(やまとそうしちょうちょうのかんざし)』(文政九年発行、画工 歌川国貞) 合巻

 唐から渡来した耳垢取りの名人(笑)耳垢取長官が女郎の色香に迷い糟糠の妻を裏切り死に追いやったことに始まり、その娘の恋の顛末を蝶のかんざしと菜の花の割笄にからめて二世にわたって描写。なにげにすごい悪縁なんじゃないかという気もするんだが。

『曲亭馬琴翁叢書 下巻』(銀花堂、1889年)※4

 

『山中鹿介稚物語』・・・『十三鐘孝子勲績』参照。

 

『行平鍋須磨酒宴(ゆきひらなべすまのさかもり)』(文化九年発行、 画工 勝川春扇)  合巻

 謡曲『松風』に登場する在原行平(業平の兄)と、彼を慕う松岡・村雨の姉妹を、行平姫と相撲取り兄弟に置き換え、婿取りをめぐる行平の家の騒動を描く忠義もの。力士兄弟が主君の代理戦争をするくだりは『八犬伝』の行徳のエピソードによく似ている。話はシリアスなのに「お家のお為を思ふそれがし、ご打擲は愚かな事、お手討ちも厭ひませぬ。すりゃ、どうあってもお聞ゝ入れはないじゃまてホイ。」というラスト腰くだけの台詞は何なんだろう。挿絵中のキャラクターの顔は役者の似顔になっている。

高田衛・原道生責任編集、校訂板坂則子『馬琴草双紙集』(国書刊行会、1994年)※3

 

『料理茶話即席話(りやうりちやわそくせきはなし)』(寛政十一年発行、画工 北尾重政) 黄表紙

 戯作者稼業に空しさを感じ絶筆を決意した馬琴が飯粒に説教されて翻意する(笑)という秀逸な出だしから、飯粒との出会いにインスピレーションを得た、「献立を仕方話にする男」即席料理兵衛による地口だらけの料理解説が描かれる。本編は地口もこじつけがすぎて正直あまり楽しめないが、「新しい魚をりやうる」という一文に注目。「料る」なんて動詞形が存在していたのか?初めて聞いた。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(七)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十号』、駒沢短期大学、1982年)

 

『六冊懸徳用草紙(ろくさつがけとくやうさうし)』(享和二年発行、画工 北尾重政)  黄表紙

 草紙三冊を挿絵をはさんで二段組にし、上段と下段で別の物語を展開。普通の本の倍お得、というのがタイトルの由来。上段は鎌倉浪人勝間源五兵ヘが、父が寺に納めた刀を取り返したことに始まる不運と、源五兵ヘの妹八ツ橋の悲恋の物語。下段は楽しい小噺。序文にあるように上段下段を別々に読むことをお勧めする。一緒に読むと馬琴がお父さんに言いつけるそうな。

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(十)』(『駒澤短期大学研究紀要 第二十二号』、駒沢短期大学、1994年)

 

『六代目団十郎追善 東発名皐月落際(えどのはなさつきのちりぎは)』(寛政十一年発行、画工 歌川豊国) 黄表紙

 二十二歳の若さで夭折した六代目団十郎の地獄めぐりの冒険譚。当たり役の演技を利用して難儀をのり切る趣向が面白い。鬼を相手に為朝・朝夷ばりの強さをみせる団十郎には驚愕。 

清田啓子『翻刻 曲亭馬琴の黄表紙(七)』(『駒澤短期大学研究紀要 第十号』、駒沢短期大学、1982年)

 

『童蒙話赤本事始(わらべばなしあかほんじし)』(文政七年甲申孟春発行、画工 歌川国貞(三代歌川豊国))  合巻

 「カチカチ山」「猿蟹合戦」などのおとぎ話を大胆にアレンジ、善人一家と悪人一家(とくに息子たぬ吉)の対立と、「自然と潤ひ生じて水の滴る奇特」のある、村雨丸みたいな硯・柿実形をめぐる争い。絵の方が文に先行した結果、後の展開のネタばらし(というより意味不明)になっていて、「この絵の訳は次に見えたり」「まづ本文を読み終りて又絵を繰り返してその趣を味ひ給へかし」などと説明があるのが笑える。最後のページはついに文字だけ(もっとも絵が先行するパターンは中期以降の合巻にはざらにあったそうだ。見開き二ページ文字ばかりの本もある)。軽妙な会話が楽しい。

『新日本古典文学大系 草双紙集』(岩波書店、1997年)

 

 

 

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