八犬伝がモデルな作品
・作家、作品、出版社、発行年、ジャンル、紹介の順に記載。短編や、全集に拠ったものは、各紹介文末に収録元を載せた。
・ここでは『八犬伝』をモチーフとする作品を載せた(タイトルに『八犬伝』とついていても、原作と世界がかけはなれている話はここに載せた。もっとも基準はわれながら曖昧)。ここに載ってなくても「小説・コミック化作品」の方に載っていることもあるので、よかったらそちらもどうぞ。
・「連載中」「未完」の表記のないものは、完結した作品。
・ネタバレはなるべく少なくするようにしているが、予備知識一切なしで読みたいという方は「関連書籍(事務的羅列)」の方をご覧いただきたい。
・ジャンルごとに作品名でアイウエオ順。同じ作家が他にも八犬伝ものを書いている場合、各紹介文のあとに作品名を表記する。
島崎藤村『ある女の生涯』 小説
夫の放蕩、その結果としての自分と娘の病(梅毒)、息子の死など心身の苦痛と戦いながらの人生を送ってきた老女・おげんが精神病院で孤独な死を迎えるまでの日々の思いを、主としておげんの視点からつづる。藤村の長姉・高瀬園がモデルといわれる。入院中のおげんが廊下を歩く犬の足音から伏姫と八房のことを想起し、同じく患者の「奥様」との獣姦を妄想する場面がある。伏姫物語を神聖受胎でなく獣姦の例として取り上げているのが印象深い。
島崎藤村『嵐・ある女の生涯』(新潮文庫、1984年)
中上健次(なかがみけんじ)『異族』 小説
空手道場を介して出会った、胸に青あざをもつ無頼の若者たちが義兄弟の契りをかわし、あざの形に象徴される満州の地を夢見て戦う、といったストーリー。主人公たちの社会からの疎外感や鬱屈、それに基づく虚無的攻撃性が全編に漂う。『中上健次全集 12』月報のいとうせいこう氏の随筆「平面のサーガ」が『異族』と『八犬伝』、三島由紀夫『豊饒の海』などとの関係を深く論じている。
『中上健次全集 12』(創美社、1996年)
夢野久作『犬神博士』 小説
昭六〜七年にかけて『福岡日日新聞』に連載された久作初の長編小説。ルンペン風の謎の人物「犬神博士」が自身の幼少期を語る一人称形式。血のつながらぬ父母と遊芸を見せながら漂泊するチイ少年(犬神博士)の波瀾に満ちた日々と神童的活躍ぶりもさることながら、無邪気で率直なチイ(当時)と老獪な犬神博士(現在)二種の視点が(回想形式ならでは)入り混じって語られる、社会の底辺に生きる人々のいじましさと猥雑な生命力がなんとも魅力的。本来の連載予定よりも長くなったために無理やりまとめに入った結果、なんだか中途半端なラストになってしまったのが残念。美少年チイが女の格好をさせられていること、彼が踊りの天才であり博打などにも天稟を示す神童であること、〈犬〉というキーワードなど、久作が『八犬伝』を意識しているのは確実であろう。『夢野久作全集5』巻末の赤坂憲雄氏の解説中の、「犬は、あるいは犬とかかわる者はたぶん、差別されてあることの聖なる傷痕を色濃く刻まれている。むろんのこと、おぞましき負のスティグマ(=賤痕)を輝かしき正のスティグマに転化させる。あの物語の弁証法に、久作は十分すぎるほどに自覚的であったはずだ。犬ゆえに神/神ゆえに犬、乞食ゆえに神/神ゆえに乞食、そして賤なるゆえに聖/聖なるゆえに賤・・・・・・ということだ。」という文章もそのまま『八犬伝』にあてはまりそうである。久作には続編的性格の『超人鬚野博士』なる作品もあり。
『夢野久作全集5』(ちくま文庫(筑摩書房、1991年)
陣出達朗(じんでたつろう)『犬姫様』(春陽文庫(春陽堂書店、1977年) 小説
海賊・海の弥太郎が残した十万両のありかを記す名器の皿・満月丸をめぐる攻防。八つに割れた満月丸のかけらをすべてそろえるべく、二匹の大犬を使役する弥太郎の遺児・美弥姫は同士たちに支えられて父を裏切った竜巻権五右衛門一派に立ち向かう!善玉キャラの人格者っぷりといい、美弥姫をめぐるプラトニックで紳士的な三角関係といい、実に明朗かつさわやかで小気味よい。気軽に楽しめる冒険活劇。
京極夏彦(きょうごくなつひこ)『姑獲鳥(うぶめ)の夏』(講談社、1994年) 小説
妖怪シリーズ≠フ第一作にして京極氏衝撃のデビュー作。2005年に映画化もされた。二十か月もの間妊娠しつづける女とその懐妊に前後して密室から失跡したその夫、という奇怪な事件に、鬱病気質の雑文家関口とその友人である破天荒な探偵・榎木津、合理的知性と博覧強記の拝み屋兼古書店主・京極堂らが挑む。〈長すぎる妊娠〉が犬坂毛野の母・調布を思わせるほか、主として京極堂のセリフに現れるペダンティズムがのちのち伏線として物語に収斂されてゆくのも、「小説を構想する際手本にしてるのは馬琴」(「偉大なる我らのエンタテインメント」)と言う京極氏の言葉を思えば、『八犬伝』を模したものとみていいのではないか。
幸田露伴(こうだろはん)『運命』 小説
明の太祖が庶子に土地と権力を与えすぎたために、孫にあたる建文帝が叔父・永楽帝によって位を追われる顛末を描く。馬琴風の重厚な文体が特徴的だが、出だしのところで「我が古小説家の雄を曲亭主人馬琴と為す。」として、『八犬伝』や『弓張月』に言及していることからすれば、意図的にそうしているものだろう。この作品をわかりやすく小説化したものに『田中芳樹の運命 二人の皇帝』(講談社、2002年)がある。
幸田露伴『運命・幽情記』(講談社学芸文庫、1997年)
別作品『馬琴の小説とその当時の実社会』『其俤今様八犬伝』『天うつ浪』
宇江佐真理(うえざまり)『おぅねぇすてぃ』(祥伝社、2001年) 小説
明治初期の横浜と函館を舞台に、英語通詞(通訳)を目指す青年・雨竜千吉と、在日米国人の妻になったお順がすれちがいをくり返しながら愛情を深めてゆく様を綴る。不器用な二人の行く末を思わずはらはらしながら応援してしまう。英語の受容を中心に、文明開化頃の日本の世相を丁寧かつわかりやすく描きこんでいる。ラスト近く、少女期のお順が習い事もろくにせず、「馬琴の『八犬伝』などを読んでいただけである。」という記述があり、当時『八犬伝』がいかに人口に膾炙していたかをしのばせる。
↑この作品については、平次様より存在を教えていただきました。いつもありがとうございます!
津島佑子(つしまゆうこ)『逢魔物語』(講談社文庫、1989年) 小説
家族・恋人・友人等周囲との不和を抱えた主人公の心情を、昔話・伝承などの登場人物になぞらえつつ描く短編小説集。中に「伏姫」という作品あり。未婚のまま父の違う二人の子を育てるヒロイン葉子が初恋の人と再会し男女の仲となり・・・という内容。こう書くとどこが『八犬伝』かと思われそうだが、実際ストーリー的には全く別物である。葉子が多情な自分の生き方を犬のようだと感じているくらいか。葉子と男との現在の関係や過去のいきさつ、日常の閉塞感をねっとりと描写している。
夢野久作(ゆめのきゅうさく)『押絵の奇蹟』 小説
1929年に発表された短編小説。押絵に秘められた悲しい恋が、主人公にもたらす数奇な運命。問題の押絵の一つが阿古屋の琴責め、もう一つが芳流閣上の信乃と現八であり、とくに信乃の顔がキーとなっている。また「奇蹟」に伏姫物語が密接にからんでくる。ちなみに氏の代表作『ドクラ・マグラ』にも、「八犬伝や水滸伝に出て来る性的不能患者」(笑)という台詞がある。
『ちくま日本文学全集 夢野久作 1889−1936』(筑摩書房、1991年)
平岩弓枝(ひらいわゆみえ)『御宿かわせみ』(文藝春秋、@A1979BC1980D1982E1983FG1986H1987IJ1988KL1989MN1990O1991P1992Q1993R1994S1995、21巻22巻1996、23巻1997、24巻1998、25巻26巻1999、27巻2000、28巻29巻2001、30巻2002、31巻32巻2004、33巻2005、34巻35巻2006) 小説
八丁堀の与力の弟・神林東吾が、親友の同心・畝源三郎らとともに江戸の町で起こる大小のミステリアスな事件に関わり解決に導く捕物帳。大川端の小さな旅宿「かわせみ」の女主人・るいとの恋や周辺の人々との交情を暖かな目線で描きながら、彼らの幸せに常に一点の翳り(不安要素)が用意されているゆえに物語全体にどこか哀感が流れているのが得も言われぬ情緒となっている。第19巻『かくれんぼ』収録の「花世の冒険」以降のエピソードに準レギュラーとして「髭もじゃもじゃ」こと永代の元締・文吾兵衛とその息子・小文吾がしばしば登場。そのネーミングや彼らの義侠心、「文吾兵衛は若い時、相撲取りになろうと思っただけあって、上背もあり、がっしりした体格」(「佐助の牡丹」参照)なんて描写は明らかに『八犬伝』がモデルだろう。17巻『雨月』収録の「尾花茶屋の娘」にも「大川端の伏姫なんぞになられたら」なんて台詞がある。
↑この作品は平次様よりご教示いただきました。いつもありがとうございます!
2/11追記−2008年1月に『新・御宿かわせみ』第一巻が刊行(←平次様情報)。
森鴎外(もりおうがい)『カズイスチカ』 小説
鴎外自身がモデルらしい若き医師・花房の診療録。花房は『八犬伝』を愛読し、信乃を破傷風患者の引き合いに出したりするほか、『八犬伝綺想』は、彼のモラトリアム的性格を信乃と重ねて論じている。数ページの短編なのですぐ読めるが、ストーリーの起伏は少なく、巻末の解説は「文学的価値の低いもの」(原文旧字)と酷評。でもそれなりには面白い。ちなみに「カズイスチカ」とは、ラテン語で臨床記録のことだそうだ。
『森鴎外全集 2』(筑摩書房、1971年)
他作品『「南総里見八犬傳」序』『馬琴日記鈔の後に書く』『中村座新狂言仇名艸由縁八房之評』
福永武彦『風のかたみ』(新潮社、1968年) 小説
平安時代、立身を夢見て京に出てきた大伴の次郎信頼は、縁を求めて寄宿した中納言家の萩姫に崇拝に近い恋心を抱くようになる。しかし姫は一夜の契りを結んだ誰とも知れぬ貴公子をひたすら慕い続けていた。一方都を騒がす大盗・不動丸も姫に想いをかけて彼女の誘拐をたくらむ・・・。若者たちのあまりに純粋な片恋の連鎖とすれ違いが織り成す物語は、哀切であるゆえに限りなく美しい。終盤の山荘での生活描写は、心なしか富山の伏姫と八房の影響が見られる気がする。〈一心に読経する姫をうつけたように見守るばかり〉〈甘葛を入れた「金鋺」〉というあたりがとくに。
野村胡堂(のむらこどう)『奇談クラブ』 短編連作小説
奇談を愛好するディレッタントの集う会員制クラブ「奇談クラブ」でメンバーが持ち寄りの奇談を一人一人披露するという形式で、過去現代を問わず奇怪な事件(多くは人死にが出る)を紹介し種明かしを加えるミステリー小説。「左京の恋」という物語の中で、八犬士が八姫と〈くじ引き〉で結婚相手を決めるシーンに言及しストーリーにも取り込んでいる。また「暴君の死」の終盤は対牛楼の毛野を彷彿とさせる(収録元の巻末解説にも「犬塚信乃と犬阪毛野をヒントにしたようにも思える」とある)。そもそも好事家集団が各自持ち寄った奇談を語るという大枠自体が、『デカメロン』など古今東西よくあるスタイルとはいえ、著者の『八犬伝』びいき、馬琴びいきからすると、『兎園小説』に直接のインスピレーションを得たものではないかと思える。
『野村胡堂伝奇幻想小説集成』(作品社、2009年)
三田誠広『霧隠れ雲隠れ』(廣済堂出版、1993年) 小説
生来体が透明になる特殊能力を持つ伊賀忍者・(霧隠)才蔵は、思うところあって甲賀の戸沢白雲斎に弟子入り、やがて真田幸村に仕え世に言う「真田十勇士」の一員となるのだが・・・。「パフォーマンス」「ホワイトカラー」などカタカナ語を多用した現代調の文体で、軽く明るく関が原の合戦・大阪城夏の陣に至る豊臣家・真田家の落日をわかりやすく面白く、そして切なくつづる。才蔵を中心に据えた複数の純愛の描き方も独特の哀感が漂っている。各章のタイトルが仁義八行から取られており、途中までは章ごとのテーマも章タイトルに準じたものになっているが、「孝」の巻あたりからだんだんそれが薄らいでいるような・・・。
↑この作品は平次様より存在を教えていただきました。いつも有難うございます!
米村圭伍(よねむらけいご)『紅無威おとめ組 南総里見白珠伝』(幻冬舎、2008年) 小説
十一代将軍家斉の御世、老中松平定信を育ての親の仇と狙う軽業師の小蝶、男装の剣の達人で実はその正体は・・・の桔梗、女郎あがりの婀娜な年増ながら平賀源内も真っ青の発明の天才・萩乃の三人娘が活躍するシリーズの第二段。桔梗が友人の礼(あや)姫からもらった珠に突然「孝」の文字が浮かび上がる。揃いの「礼」の珠を持つ礼姫の身に何らかの危機が迫っていることを確信した桔梗は、小蝶・萩乃とともに礼姫捜索に乗り出す。やがて三人は、生まれてすぐ神隠しにあった里見家の末裔・智姫を捜す「丶大法師」とめぐり逢う・・・。狂言回しのような立場で若き日の馬琴(滝沢左七郎)が三人娘と行動を共にしたり、浜路や石亀屋地団太などおなじみの名前が登場(役どころは全然違う)したりするのも『八犬伝』ファンには嬉しい。小蝶の軽業披露から話が始まるあたりは『忍法八犬伝』を彷彿とさせる。人間関係などをより良く理解するためにも、第一作『紅無威おとめ組 かるわざ小蝶』を先に読んでおくのがおすすめ。
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今川徳三(いまがわとくぞう)編『紅蓮の翼 異彩時代小説撰』(叢文社、2007年) 小説
戦国〜江戸期を舞台とする短篇小説のアンソロジー。堀内万寿夫「曲亭馬琴」を収録。馬琴の幼少期から功成り名遂げるまでを描いた伝記風のストーリー。代表作として『八犬伝』にも言及あり。「下総里見家」とか細かい間違いはあれど、旧主家にからむ終盤のエピソードはなかなかに感動的。
矢野龍渓『齊武名士経国美談』 小説
明治10年代、自由民権運動の盛り上がりに連れて登場した政治小説の代表的存在。前4世紀ギリシャの小国セーベ(テーベ)を舞台に、「奸黨」らに奪われた国を取り戻すべく戦うペロピダスら英雄たちの冒険譚を正史に基づいて描く。章ごとに、依田学海、成島柳北らによる評が載っており、学海評がときどき『八犬伝』との比較を行っている。この作品自体『八犬伝』や『水滸伝』のスタイルを意識した部分が大きいようだ。
『経国美談』上下巻(岩波文庫、1969年)
参考:『前田愛著作集 第二巻 近代読者の成立』(「明治初期文人の中国小説趣味」)
荒俣宏『プロレタリア文学はものすごい』(第六章「おもしろすぎる罪(上)」)も、この作品の『八犬伝』性にちょこっと触れている。
井上ひさし『戯作者銘々伝』(中央公論社、1979年) 小説
江戸の戯作者十二人の半生を、主としてその人物に近しい人間が他人に語るという形式で綴る。人選が必ずしも有名どころばかりでないのがツボ。概して偉人ではない、むしろいじましい人間たちの愛憎やふとした触れあい・すれちがいを、時に皮肉をこめ時に暖かく描き出している。馬琴の項はないが、「式亭三馬」で馬琴が登場。『八犬伝』完成についてちょっと触れる。他の話にもちょろちょろ馬琴が名前だけは登場している。
他作品『珍訳聖書』
松浦理英子『犬身』(朝日新聞社、2007年) 小説
狗児市のタウン誌『犬の眼』の編集者・八束房恵は、人間にほとんど興味を持てない一方で犬を偏愛し、〈自分の魂の半分は犬なのだ〉と感じていた。そんなある日仕事を通じて陶芸家の玉石梓と出会い、梓の飼い犬を介して親しくなった房恵は、いつか「梓の犬になりたい」という強い情熱を抱くようになる・・・。恋愛とは似て非なる房恵の執心と彼女の目を通した梓の境涯を、独特の身体感覚をもって描き出している。ストーリー的には結構重い話なのだが、どんどん読み進んでしまう。「八束房恵」「玉石梓」という名前が明らかに八房と玉梓を意識しているほか、地名などの固有名詞や引用される音楽のタイトルも見事に犬づくし。さらに『八犬伝』に言及する場面が二箇所出てくる。
↑この作品については平次様よりお知らせいただきました。いつも有難うございます!
吉岡平(よしおかひとし)『源平魔境』(角川ノベルズ、@1991ABC1992) 小説
『降魔将見参』『妖州幻魔侠』『鎌倉燃ゆ』『邂逅魔王宮』の四部作。鎌倉時代中期、無双の弓の腕ゆえ幕府のおたずね者となった若武者・堀川頼景は、当てもない旅の途中、髭の武将・橘修理介と知り合う。陽気な彼のペースに乗せられ共に平泉に向かった頼景は、源義経の遺児だという幼女・源亮経に仕えることに・・・。亮経を守る八人の勇者はちょい八犬士的、亮経のキャラはちょい伏姫的(作者いわく「完璧すぎて可愛げのない子供」であるあたりは親兵衛的とも言えるか)。また武装した亮経が初登場した場面の「小さき躯(注・原文は旧字)に赤地錦の鎧直垂をば着込み・・・」で始まる外見描写に、『八犬伝』によくある「現八この日の打扮(いでたち)は〜」といった文章を連想してついニヤリとした。
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平岡正明(ひらおかまさあき)『皇帝円舞曲』(ビレッジセンター、@AB1996CD1997) 小説
評論家・神岡正明(名前からして作者自身を模している)が香港映画の試写会で同席した怪僧・上杉清踏や美人女優・松坂侘助らをなりゆきで横須賀の自宅に招待、そこから唐突にSMプレイがはじまり、スカトロ・屍姦・人肉食と変態行為があれよあれよとエスカレート。そして人肉食の秘密を知った男の口封じを画策していたはずが、なぜか(のちのち一応の状況は説明されるものの)いきなり―以下ネタバレのため反転―(逗子市市議会に乗り込んで三浦半島が日本から独立した旨を宣言)するという超展開へ。北原尚彦『SF奇書天外』で、第2部から登場する犬田八兄弟を〈「里見八犬伝」ですな〉と書いていたので読んでみたのだが、評にたがわず、エログロナンセンス&バイオレンスにどうでもいいようなペダンティズムをまぶした、まさに怪作。ちなみに犬田八兄弟は「人間の父が鶏である母を鶏姦して生まれた卵からかえった八卵性八生児」だそうで、もうなにがなにやら。ついでに第5部には「曲亭馬琴の八犬士というのは意味がある。八大童子です。」と高田衛氏説がさらっと出てくるが、この台詞を口にするのが松田修虫聖子(まつだおさむせいじ)なる明らかに松田修氏をモデルにした人物というのがまた凝っているというかなんというか。
他作品:『三七全伝南柯の夢』(翻訳)、『江戸前』
巌谷小波(いわやさざなみ)『こがね丸』 児童文学
明治二十四年に発表された日本における少年少女向け読み物のさきがけとなった作品。勇敢な犬・こがね丸が父を殺した虎と狐への仇討ちをめざし仲間とくり広げる冒険譚。こがね丸の生い立ちに八房の影響が見える。忠義や自己犠牲が強調された展開も『八犬伝』的というか時代色というか。
坪田譲治他著『少年少女世界文学全集49 日本編 第5巻』(講談社、1962年)
他作品『新八犬伝』
仮名垣魯文(かながきろぶん)『滑稽富士詣』(万延元年〜文久元年?刊行) 道中記
『東海道中膝栗毛』以来の「膝栗毛もの」のスタイルを意識して、富士登山に向かう人々の道中を面白おかしく綴ったもの。短篇連作形式で、一作ごとにキャラクターは代わってゆく。初編の下之巻に、「曲亭馬琴老人の御子息で食亭駄金先生とおつしやるおかた」が登場。『八犬伝』に倍増す『百犬伝』をいずれ執筆するだろう、などと紹介されている。
興津要校訂『古典文庫 第一六二冊 滑稽富士詣』上冊・下冊(古典文庫、1961年)
尾崎紅葉(おざきこうよう)『金色夜叉』(新潮文庫、1969年) 小説
映画などでおなじみの明治期の文学作品。最近原作(元ネタ)が、英国の女流作家、バーサ・M・クレーの『Weaker than a Woman』であると特定(以前からクレー作品のいずれかであることは定説だった)されたことで、新たに注目を集めているようだ。恋人・鴫沢宮にダイヤモンドに見かえられた(金持ちに求愛されて玉の輿を選んだ、ということ)青年・間貫一は非情の高利貸となるのだが、その彼の前に再び宮が現れ・・・というストーリー。地の文は古語、台詞は現代語。作者の死により未完。前編で貫一が、自分と宮を信乃と浜路にたとえる部分があるが、実際彼らの家庭環境は信乃らによく似ており、紅葉が二人の関係に大塚村の物語を読みこんでいるのは間違いない。信乃が〈立身出世のため〉浜路を捨てるのを裏返して、女が出世=玉の輿のために男を捨てる物語を、紅葉は描こうとしたのではないか。(小谷野敦『〈男の恋〉の文学史』の「『女物語』と『男物語』の系譜」もこの点に言及している)。ちなみに貫一が宮を蹴りとばす熱海での別れは1月17日の夜、「浜路くどき」は6月17日の夜である。
参考:2000年12月4日付朝日新聞朝刊(東京版)33pの記事 「「金色夜叉」の“原作”見つかる」
おわび−「浜路くどき」は明け方近くのエピソードなので、6月18日未明とすべきであった。詳しくはこちら。
くりこ姫『Cotton』(新書館ウイングス文庫、@1999A2000) 女性向け小説
大富豪の御曹司である小学生・大徳川親兵は、動物園で出会った謎の超美青年・里見伏に一目で惹かれ、木曜ごとに伏と動物園で逢瀬を繰り返すように。やがて特有の俺様な性格から一方的に〈伏と結婚する〉宣言をするものの、実は伏は15歳から30歳までの七人の〈恋人〉(全員男性)と同居生活を送っていたのだった・・・。正直苦手とするジャンル&世界観ではあるのだが、ボーイズラブ(男性同士の恋愛をテーマとする女性向け創作作品)に抵抗のない人なら(好きな人ならなおさら)十分に楽しめるんじゃないだろうか。伏・親兵のみならず、七人の恋人たちの名前も「信之(しの)」「荘」など『八犬伝』にちなんでいて、毛野がオカマだったり親兵が最年少だったりするあたり、設定も若干『八犬伝』を意識している(ひょっとして親兵の「大徳川」という名字は「江戸の二重王権」を参考にしたとか?)。一巻のあとがきでも少し『八犬伝』に触れている。
↑この作品については平次様より存在を教えて頂きました。いつも有難うございます!
佐藤菊亭(蔵太郎)『惨風悲雨世路日記(さんぷうひうせいろにっき)』(岡本偉業館、1911年) 小説
明治期(初出時)のメロドラマ系小説。名家の娘である松江タケ(子)(十五歳未満)は才気あふれる青年教師・久松菊雄(二十歳未満)に想いを寄せ意を決して告白、両思いとなったのもつかの間、タケ子に横恋慕する悪漢・安井策太の陰謀のため菊雄は左遷となり、それを知ったタケ子は夜彼のもとに忍び、自分も連れていってくれとかきくどく・・・。『『八犬伝』受容に関する一考察』は、菊雄は信乃、タケ子は浜路、中盤から登場し最終的に菊雄と結ばれる千代子は浜路姫の設定が反映していることを指摘する。うら若い女生徒とこちらもやたらと若い教師の悲恋という、少女向けノベル的展開が初々しくてよい。千代子の存在が宙吊りのまま終わっている初期バージョン、彼女とのハッピーエンド(?)までを描く訂正増補版の二種がある。
カニリカ『執事ホテル』(ノベライズ版)(ヴィレッジブックス、2007年) ノベライズ
2008年に上演された同名の舞台を作・演出のカニリカ氏自らノベライズ。といっても舞台のストーリーそのものではなく、「ホテル・ウィスタリア」で働く8人の若者のうち6人の、ここへ辿り着くまでの生い立ちとオーナー・ロック恵子との出会いを描いた前日譚。癖者揃いながらも他人を喜ばせたいという志を持つ点は共通の、青年たちのキャラクターが清清しい。
↑この作品については平次様より存在を教えていただきました。いつも有難うございます!
玄上八絹(げんじょうやきぬ)『しもべと犬』(幻冬舎ルチル文庫、2008年) 女性向け小説
警視庁の非公式組織「特殊犯捜査五課」に所属する〈犬〉と称される人型人工生命体である石凪信乃が、彼の〈主人〉である刑事・奥村智重(ともえ)とともに危険な任務に挑むシリーズの第一作。サイバーパンク風味のハードアクション(この傾向は第二作の『茨姫は犬の夢を見るか』(2009年刊)でより強く出ている)ものだが、むしろ信乃と智重(ともに男性)のラブストーリー要素が大半を占めており、結構過激な性描写(イラスト付き)も多い。信乃(フルネームは石凪信乃戍孝)の名前は信乃を生み出した科学者が『八犬伝』にちなんで名付けたものという設定が作中で触れられている。智重の名前も(著者が)毛野を意識して付けたものかも?
↑この作品については平次様より存在を教えていただきました。いつもありがとうございます!
久美沙織(くみさおり)『獣蟲記』(講談社、@1994 A1995) 小説
現代日本を舞台に、太古の昔から続く獣(犬)と蟲(蛇)の壮絶な戦いを描く。主人公たちは割に早い段階で、自分たちが伏姫や犬士の転生だと自覚。原作を語るシーンがところどころにあり、『八犬伝の世界』にもふれている。民俗学的オカルティズムが全編に流れる作品。続刊はあるのだろうか。
別作品:『コバルト風雲録』←『獣蟲記』中絶の事情に言及あり。
北村透谷『宿魂鏡』 小説
立身出世を志して東京へ出てきた青年・山名芳三が親の決めた許婚阿梅、下宿先の娘弓子の間で揺れたすえ夢を放擲して田舎へ引き上げる。しかし弓子が贈った古鏡に映る幻に魅入られ次第に精神を病んでゆく・・・。『島崎藤村の『春』における「懐剣」の象徴性について』は古鏡の幻の描写に『八犬伝』の「止水の面影」の影響を指摘しているが、芳三が許婚の父の援助を受けていることや許婚への冷淡さもどことなく『八犬伝』的、というか信乃っぽい。
『現代日本文學大系6 北村透谷・山路愛山集』(筑摩書房、1969年)
伊田あやか(原作 よしむらなつき)『小説里見☆八犬伝−流れ星の呪い』(エニックス、2000年) コミック・ノベライズ
人気のファンタジーコミックの小説版。傷をいやすため温泉にやってきた犬士たちだが、温泉の守護女神はなぜか武芸者を嫌うという・・・。小説のオリジナルストーリーにもかかわらず、原作のイメージそのままの完成度の高さに驚いた。あとがきにある「原作者さまの可愛い可愛いお嬢ちゃんやお坊ちゃんをお預りするようなものですもん。大切にしなくちゃ。可愛がってあげなくちゃ」という著者の姿勢が見事に活かされた結果だろう。原作コミックのファンには超おすすめ(原作知らなくてもわかるように書いてあるが)。おまけ短編として「ぶらり湯浴み旅」(「浜路編」と「忍びの掟編」)を収録。
小野裕康(おのひろやす)『少年八犬伝』上下(理論社、1988年) 児童書
無数の規則で支配されたある日本の都市を舞台に、不思議な玉を持つ三人の少年少女が、突然行方をくらました担任教師を救うために、同じ玉を持つ仲間や理解ある大人たちの協力で邪悪な権力に立ち向かう。勧善懲悪の爽快な冒険活劇。この年になって読むとちょっと気恥ずかしいような懐かしさをおぼえる。
6/26追記−2006年に理論社より、大幅に加筆・改稿のうえ一冊にまとめて再刊。←再刊情報については平次様より情報を頂きました。いつもありがとうございます!
吉川英治(よしかわえいじ)『神州天馬侠』 小説
織田・徳川家に滅ぼされた武田勝頼の遺児・伊那丸と、彼のまわりに集まった智勇に優れた猛者たちが、武田家再興をめざす波瀾万丈の冒険活劇。連載当時、多くの少年たちを熱狂させたと言う。山田風太郎『死言状』(「「神州天馬侠」はいうまでもなく馬琴の「南総里見八犬伝」にならったもの」とある)を読むまで、『八犬伝』がモデルとは気づかなかった。読み返してみると、伊那丸が傅役と落ちのびる冒頭や、味方の勇士たちのめぐり逢いのさまが似てる、かもしれない。
『吉川英治全集 49 神州天馬侠』(講談社、1981年)
栗本薫(くりもとかおる)『神州日月変』上下(講談社文庫、1985年) 小説
舞台は江戸後期、人気絵師のモデルになった小町娘が次々神隠しに。若き同心・古河雷四郎は事件を追ううちに、この世のものならぬ大陰謀に立ち向かうことになる。どこが『八犬伝』かはネタバレ度が高いので書かないが、作中にも「こいつはとんだ『八犬伝』だ」なんて台詞がある。スピード感のある文体やものすごい当て字(笑)など、伝奇もののエッセンスをふんだんに詰め込んで、さらにSF味をプラスした傑作娯楽小説。
他作品『里見八犬伝』、『あずさの元禄繁盛記』(中島梓名義)
佐江衆一(さえしゅういち)『神州魔風伝』(講談社文庫、1997年) 小説
1994年の作品の文庫版。源義経をはじめとする敗者たちの怨念に導かれて、「兇」「邪」「悪」「恨」「怨」「謀」「禍」「乱」の文字を刻んだ鏡の破片と、トカゲのあざを持つ者たちが、幕府に対する反乱を起こす。『八犬伝』を模した設定が随所に見られるが、主人公は『美少年録』の朱之介風。『月姫八賢伝』や山田風太郎『魔界転生』に近い雰囲気でなかなか面白い。
巌谷小波『新八犬伝』 小説(児童向け)
明治三十一年一月から十一月まで『少年世界』で連載された児童向け冒険小説。天地の気によって懐妊した犬張子(!)が旅の僧の助けを借りて命(?)と引き換えに八匹の犬張子を出産、その犬張子をそれぞれの形で手に入れた八人の少年たちが次第にめぐり会い、日本国のため狂犬の支配する狗児島(いぬころじま)を制圧する。全編を流れる愛国精神・富国強兵の思想に当時の世相(三年前に日清戦争があった)が反映されている。八犬士の少年探偵団的模範生ぶりが(近年の小説やドラマは内省的、露悪的なキャラクターが多い気がするだけに)ストレートで爽快。
尾崎秀樹他監修『少年小説大系 第1巻 明治少年小説集』(三一書房、1989年)
他作品『こがね丸』
富田常雄『姿三四郎』上下巻(東京文藝社、1986年) 小説
明治初期を舞台に、日本伝紘道柔道の達人である快男児・姿三四郎のストイックな求道生活と、万事控えめな大人しい乙美や驕慢な令嬢・高子など彼を慕う女性との恋の葛藤を描く。「明星の章」で、屋根の上で格闘→転落という芳流閣ぽい事件が起こり、プラス「八犬伝のように、犬に育てられようと」なんて台詞も出てくる(『八犬伝』の八房が狸に育てられた設定を勘違いしたものか?)。平易な中にも優雅さのある文体とさわやかなキャラ造型で楽しく読める。
幸田露伴(こうだろはん)『天(そら)うつ浪』 小説
明治36年9月21日から38年5月31日まで読売新聞で連載(途中日露戦争のために37年2月10日から11月25日まで中断)、未完に終わる。貧しいながらも志を持った七人の青年たちの一人・小学教師の水野の、病に倒れた後輩教師岩崎五十子(いそこ)への献身的かつ一方通行の愛情と、報われぬ恋に煩悶する彼を案ずる友人たち、好意を寄せる女性の思いを描く。『露伴〈天うつ浪〉考』はこの作品に対する『八犬伝』の影響を示唆しているが、五十子に嫌われ抜きながら彼女の強欲冷淡な継母の甘い口車に乗せられ金をしぼられる水野は、さながら善意の網乾左母二郎という感もある。一方で「容貌は悪かあ無いが、愛嬌の足りない、面白味の薄い、無粋の、世間を知らな過ぎる」という形容は信乃っぽいような気も。
幸田露伴『天うつ浪』(前後篇)(岩波書店、1951年)
他作品:『馬琴の小説とその当時の実社会』『運命』『其俤今様八犬伝』
松井今朝子(まついけさこ)『そろそろ旅に』(講談社、2008年) 小説
戯作者・十返舎一九の、侍時代から商家への婿入り、江戸へ出て戯作者になり・・・という一つところに居着けない漂流の人生航路を追う。キャラクター、とくに女性の心理・行動が、細やかに情感を込めて描き出されているのが魅力的。後半から馬琴が時々登場。ラストで『八犬伝』の執筆についてもちょっと触れる。
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江戸川乱歩(えどがわらんぽ)『大暗室』 小説
冒険家の紳士・有明男爵とその親友大曾根五郎、家扶の久留須左門の遭難から説き起こし、男爵と大曾根それぞれの血を分けた、正義の青年・友之助と生まれながらの悪の化身・竜次との長きにわたる死闘を描く冒険小説。『世紀末少年誌』はこの作品に『八犬伝』きっての名場面「芳流閣」の場が利用されていると指摘するが、小型飛行機二機の事故の顛末や、警察に追われた竜次が三階建ての屋根に逃れるあたりが確かに似ている。ポーの短篇『振り子と陥穽』の趣向をそのまま使っている場面もあり。書きながら気づいたが、『ジョジョの奇妙な冒険』第一部にも通じるものがあるな。
『江戸川乱歩全集K』(沖積舎、2008年)
島田一男(しまだかずお)『月姫八賢伝』(徳間文庫、1988年) 小説
1958年に東京文芸社から刊行された『競艶八犬伝』を改題。謀殺された大久保石見守長安にゆかりの女達八人が、同志の証である天地人木火土金水の八片の神鏡の導きによってめぐり逢い、主人公らしいのに正体不明の美青年「墨染の少将」とともに、宿敵本多佐渡守に立ち向かう。史実をふまえての伝奇もの。
吉岡平『提督の決断 吼える四戦艦』(光栄、1994年) 小説
光栄のパソコンゲーム大ヒット作「提督の決断」を下敷きにした架空シミュレーション戦記。太平洋戦争末期、敗色の濃い日本海軍が時代遅れのお荷物艦四隻を用いた起死回生の大作戦を決行。海軍提督犬田文璽のもとに海軍の外れ者らが結集し、それぞれの天賦の才を生かして命がけの戦いを挑む。犬田提督以下の主要キャラクターの名がみな八犬士の名字から取られている。犬坂要が怜悧な優男で参謀格であったり、犬飼衛が上官に逆らって営倉に入れられたり、犬江嘉尚が(学徒動員された)最年少の若者だったりと、設定も結構『八犬伝』を引き継いでいるような。あとがきによると「某K書店のシリーズ(引用者注−『妖世紀水滸伝』のこと)で八犬伝のパロを書いた直後だったので」洒落で名付けたそうだ。里見提督と八房参謀にはウケてしまった。
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庄司卓(しょうじたかし)『倒凶(TOKYO)十将伝』(朝日ソノラマ文庫、@AB1995CD1996EFG1997HI1998JK1999 以下続刊) ティーンズノベル
東京都K区風印町を舞台に、人間を糧とする魔物・凶魔と、凶魔を倒すべく数百年を経て現世に転生した十人の若者たちの戦いの物語。母を殺した凶魔を狙うちょい屈折してるが根は純な主人公、時代がかった言葉使いの巫女、悲惨な過去を持つ男装の美少女、隠者のように暮らす着流し姿の美青年、一人関西弁の三枚目金髪男などのキャラクター配置といい、転生戦士の覚醒、現世魔王の復活をめぐる既視感に満ちたストーリー展開といい至ってオーソドックスで、新味に欠ける一面安心して読める。主役チームの能力を一字に集約した名乗り(「光の幽将」「爆の幽将」など)、人間界の存亡をかけての巨大な魔の勢力との戦い、選ばれた戦士といったキーワードが『八犬伝』的、というより『八犬伝』二次作品(『新・里見八犬伝』『鎧伝サムライトルーパー』など)的。『八犬伝』を祖とする日本のファンタジーノベルの系譜に位置する作品、とでも表現すべきか。次が最終巻になる予定らしい・・・が、これだけ間が空くといつ刊行されるものやら。
坪内逍遥(つぼうちしょうよう)『当世書生気質』(岩波文庫、1937年) 小説
『小説神髄』で主張した〈小説は人情・世態・風俗を描き出すべき〉という理念の実践として著された作品。逍遥は『小説神髄』『十六人集』などで馬琴作品の勧懲主義や七五調の美文を批判しているが、もともとは馬琴の大ファンだっただけに、『当世〜』の文体やタイトルのつけ方にはかなり馬琴の影響が色濃い。またこの作品の原型が『遊学八少年』という題名だったというのも、瀧亭鯉丈の『八笑人』に模したのだそうだが、『八犬伝』をも意識するところがあったのではないか(ファンとしても批判者としても〈八人の若者〉というシチュエーションに『八犬伝』を想起しなかったとは思われない)。
夢野久作『二重心臓』 小説
昭和十年『オール讀物』に三回にわたって連載。何者かの手でパトロンを殺されたスター女優・天川呉羽は復讐を宣言、しかしその呉羽も結婚問題をめぐりパトロンを殺すに十分な動機を持っていた・・・。呉羽の人物設定にいかにも信乃っぽい要素が見受けられる。ここが作品のキモなので詳述はさけるが。もっとも『非在への架橋』の説明文でちょいばらしちゃってるが。
『夢野久作全集 10』(ちくま文庫、1992年)
清水義範(しみずよしのり)『日本文学全集』 (実業之日本社、1992年) 小説
『古事記』から『吾輩は猫である』まで超訳(?)あり、現代版ありの日本文学パロディ集。高校野球版『南総里見八犬伝』を収録。霊感少女・里見伏子の水晶玉を受けついだ八人の少年が、伏子の妹久美子の召集に応じ、里見高校に集う。信乃はややガラ悪、大角は長嶋監督が入ってる。しかしなぜ「八剣士」なんだろう。
橋本治(はしもとおさむ)『ハイスクール八犬伝』(徳間書店、@1987AB1988C1989DE1990FG1991) 小説
記紀神話や黙示録とからめつつ、近未来(いまや過去だが)の東京と千葉を舞台に、少年少女が黄泉の国の魔物と戦う伝奇SF。奇想天外のストーリーが魅力だが、独特の文体やしばしば筋を脱線して語られる哲学(?)などクセが強いので、読者によって評価は分かれるだろう。犬士が全員そろわないまま未完。
大野木寛(おおのぎひろし)『八剣伝』(大陸ネオファンタジー文庫(大陸書房)、@1990AB1991C1992) 小説
伝説の王エタナが鍛えた八本の剣の一つを父から受け継いだ少年エルダーが、戦乱の世を終わらせるべく同じ剣を持つ仲間(八剣士)を探して旅をする少年少女向けファンタジー。正義感の強い生真面目な主人公、愚直で友情に厚い相棒、気の強い女戦士、玲瓏玉のごとき姫君といった冒険ものの常套を手がたく踏まえていてわかりやすく楽しく読める。主人公が八剣士の一人と互いの素性を知らず物見櫓の屋根の上で戦うくだりなど『八犬伝』ファンならニヤリとする個所も。大陸書房倒産により小学館スーパークエスト文庫から再刊(@A1995B1996C1997)されたが、2巻以降は全面的に書き直しが行われており、別物といっていいほど内容が変わっている(性別の変わったキャラまでいる)ので注意。旧版2巻のあとがきに『八犬伝』に対するコメントがある。
野村胡堂『美男狩』(講談社、1995年) 小説
江戸後期、密輸貿易に従事したかどで捕えられ牢死した銭屋五兵衛の隠し財産をめぐっての、五兵衛の娘・お京や妖気漂う美剣士・篠原求馬ら五兵衛の残党と求馬の仇敵というべき横山新太郎らの対立と、怪しい女道士と女主の住まう奇怪なお化屋敷の謎を中心に、魅力的なキャラクターが生き生きと躍動する伝奇ロマン。軽業師の少女・小玉太夫と剣客・庵原山之丞が急勾配の屋根の上で闘うくだりがちょっと芳流閣ぽいなと思ってたら、「犬塚信乃を女姿に改めさせ、犬飼現八を敵役にして、正に高屋根の芳流閣という見立て」なる一文が出てきてびっくりした。やはり意識して書いてたのか。
藤原眞莉『姫神さまに願いを』(集英社コバルト文庫、1998年) ティーンズ向け小説
室町時代、童顔を苦にする旅の僧侶・カイは、安房国を通りがかった際に、侍たちに追われていた幼い巫女・テンを行きがかり上助ける。傍若無人なテンのペースに乗せられ、里見家の居城・稲村城へ連れていかれたカイは、テンが鶴ヶ岡八幡の使いとして城主義豊に尊崇されていることを知る。二人は里見家の先代実尭(義通の弟)と義豊(義通の息子)の確執に巻き込まれてゆくのだが・・・。カイとテンの軽やかな舌戦が楽しく、一気に読める。里見家のお家騒動などというマイナーな素材を少女小説で取り上げた心意気が嬉しい。あとがきでちょっと『八犬伝』についてふれるほか、妙見信仰や八幡神が登場するあたりもふと『八犬伝』を思わせる。ちなみに里見家が登場するのは表題(サブタイトルなし)のシリーズ第一作のみ。
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谷崎潤一郎『武州公秘話』 小説
二つの手記の記録を下敷に、戦国時代の猛将・武州公=武蔵守輝勝が、少年期の強烈な体験から〈死首に化粧する女〉に異常な関心を示すようになり、その変態性欲が周囲の状況を利用していかに噴き出してゆくかの道筋を描く。一種の偽史ものであること、漢文の序、巻タイトルのつけ方、そして少年期の武州公が単身敵陣に乗り込み敵将の首を取ろうとする描写に、『八犬伝』の影響が指摘されている。
『武州公秘話・聞書抄』(中公文庫(中央公論社)、1984年)
飯島健男(いいじまたけお)『Burai(ブライ)』(小学館スーパークエスト文庫、@A1992BCDEF1993GHI1994) ノベライズ
同名のゲームをシナリオライター自らが小説化。キプロス王家に伝わる秘宝「八玉」を奪った正義感の強い少年盗賊ハヤテと弟分のグズは、それを契機に六千年を経て甦った光神リスクと闇神ダールをめぐる「聖戦」に巻き込まれてゆく。八玉を持つ勇士を集めてダール(を復活させようとするビドー)を倒す物語であろうと思いきや、途中から天界十六神の動向に主軸が移り、善玉悪玉が二転三転する先の読めない展開へ。その点で異色のヒロイック・ファンタジー。イラストがアニメ『聖闘士星矢』などのキャラクターデザインで知られる荒木伸吾氏・姫野美智氏のコンビのせいか、〈地上に再臨した神々による再度の聖戦〉というモチーフや光の御子誕生のシチュエーションに『星矢』(ハーデス編)を連想してしまった。「もっとも神に近い男」なんて章タイトルもあったし。
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平岩弓枝『へんこつ』(文春文庫、1986年) 小説
『八犬伝』で著名な戯作者・滝沢馬琴は自作に登場する伏姫・八房を思わせる大犬を連れた美女を目撃したのをきっかけに、懇意の町同心・犬塚新吾らとともに、蔭間殺しに始まる大陰謀探索に加わることに。てっきり『馬琴の嫁』や杉本苑子氏の『滝沢馬琴』のような馬琴の家庭生活を主軸とした作品かと思っていたら大江戸捕物帳だったのに驚いた。おてつ(お路)が嫁に来る前後の滝沢家のごたごたなども描かれはするものの、後半はほぼ新吾メインの恋とサスペンスになってゆく。信乃のモデルという設定の新吾をはじめ、八房、道節、左母二郎など『八犬伝』ファンにはおなじみのネーミングのキャラが登場するのに注目。上巻のあとがきに続編の構想がほのめかされているのに期待しているのだが。
三島由紀夫(みしまゆきお)『豊饒の海』全四巻(新潮文庫、1977年) 小説
『春の雪』『奔馬』『暁の寺』『天人五衰』の四部から構成。ラストシーンを書き終えたその日に三島は劇的な自害を遂げたという、いわば彼の遺書とも言える問題作。転生のたび、恋に思想に盲目的に生を賭ける悲劇のヒーローとしての自己像を追い求めてきた主人公が、戦後ナルシシズムを投影すべき対象を見失って自己崩壊してゆく様を華麗な筆致で描き出す。作者自身が『浜松中納言物語』がモデルだと言明しているが、転生の証として主人公の脇腹に3つのホクロが現われるという設定は『八犬伝』が下敷きと言われている。
北村透谷(きたむらとうこく)『蓬莱曲』 戯曲
恋人露姫を亡くして世捨て人となった子爵・柳田素雄は、蓬莱山中で琵琶を弾くうち、露姫によく似た仙女にめぐり逢う。ストーリーは漠然としており、雰囲気が主体の詩的物語。富山の伏姫の影響が言われているが、たしかに幻想的な空気と仙女(露姫)のキャラクターは富山のエピソードを思わせる。
『現代日本文學大系6 北村透谷・山路愛山集』(筑摩書房、1969年)
『筑摩現代文学大系1 坪内逍遥 二葉亭四迷 北村透谷集』(筑摩書房、1977年)
他作品『処女の純潔を論ず』
矢代静一『北齊漫畫』 戯曲
全三章。鉄蔵(葛飾北斎)が、ミステリアスな美女お直を拾ったことから、養父・中島伊勢や知友の左七(馬琴)夫婦、娘のお栄も巻き込んで、生涯にわたって彼女への恋慕と自身の才能への過信と不信に七転八倒する様を描いた悲喜劇。偏屈な老人として描写されることの多い馬琴が、ここでは北斎との対照から(多少の疵はあれ)人格者として描かれているのが新鮮。妻のお百は30代で亡くなったとの大胆な設定のもと、宗伯やお路の存在をきれいさっぱり無視して○○(ネタバレになるので一応伏字)とのロマンスめいたエピソードが入ってくるのも。『八犬伝』については2度ほど言及あり。といっても名前が出てくるだけだけど。
三一書房編集部編『現代日本戯曲大系 第9巻 一九七二〜一九七四』(三一書房、1997年)
高橋克彦(たかはしかつひこ)『星封陣』(講談社ノベルズ、1993年) 小説
NHKの盛岡支局に勤務する闇路花織は、物部一族に連なる人間の連続死亡に疑問を持ち調査を開始、それを発端に物部一族の末裔たちと、彼らが祖先から受け継いだ神宝を狙う蘇我一族の末裔との一大決戦が幕を開けることに!「竹内文書」「ストーンサークル」「東日流外三郡誌」などオカルトの定番キーワードをふんだんに利用しての大スケールの伝奇作品だが、むしろ男たちの命がけの友情や忠節、筋の通った熱い生きざまこそがこの小説の最大の魅力(よって序盤のヒロインである花織は必然的に存在感を失っていく)。物部一族の頭領である幸丸が自分のまわりに次々と運命のごとく頼もしい仲間が集まってくる様子を「なんだか八犬伝みたいだなと思っていた」と評する場面がある。
大塚英志(おおつかえいじ)『Madara Millennium 転生編 1』(角川スニーカー文庫、@1999年) 小説(ティーンズ向け)
ゲーム、コミック、CDドラマなど複雑なメディアミックス展開がなされている『魍魎戦記 摩陀羅』シリーズの一作。強大すぎる潜在能力のゆえに赤子のうちにすべての「チャクラ」(力の源)を剥奪されヒルコとして流された少年マダラが本来の体を取り戻すべく、幼なじみの少女キリンや仲間たちとともに、マダラのチャクラを分け持つ八将軍と戦う、というのがシリーズの核となるコミック版(田島昭宇・画)の基本ストーリー。『Millennium』では転生を繰り返したのち世紀末日本に生まれ変わったマダラの仲間・聖神邪(犬彦)とキリン(伏姫麒麟)が、力もアイデンティティも失って前世の夢に振り回されながら放浪するさまが描かれる。作中に「伏姫家文書」なるものが登場、〈滝沢馬琴が「伏姫家文書」を盗み見て『八犬伝』を書いた〉なんて説明がある。犬彦&麒麟はその後の『摩陀羅 天使篇』(電撃文庫刊、@〜B)にも登場するが、転生編とはまた別の世界のようである(麒麟も「輝燐」と名乗っている)。コミックの『MADARA』はわりあいキャラクターも健康的なのだが、マダラ本人がほとんど登場しない現代編は実に退廃的な空気を漂わせる。各種神話や伝承・現実に起きた事件を自在に換骨奪胎して取り入れているところや、八将軍ほか設定のあちこちに『八犬伝』的要素が見え隠れしている。
三浦しをん『むかしのはなし』(幻冬社、2005年) 連作短編集
日本の昔話をモチーフとした短編の連作。名無しの一人称で、重大な事件をごく淡々と、それでいて(それゆえに)哀切に語る。ストーリーの中で浮かび上がる奇妙な友情と愛情が静かに胸にせまる珠玉の作品揃い。「ロケットの思い出」に、『八犬伝』好きの少年「犬山」が登場、『八犬伝』のあらすじを語る場面がある。しかし「妖刀村雨をめぐって反目したり協力したり、大活劇を繰り広げる話」という説明からだと、犬山が読んだのは児童書か何かのように思えるのに、そのわりには道節の妻「たけの姫」(なぜか平仮名)にも言及してるんだよなあ・・・。
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辻真先(つじまさき)『迷犬ルパンと里見八犬伝』(光文社文庫、1996年) 小説
ユーモア・ミステリー『迷犬ルパン』シリーズの一つ。千葉県富山近くに住む老女が事故死し、彼女と懇意だった無名の女優・滝沢さとみは身寄りのない老女の家ごと大勢の飼い犬飼い猫を任されることに。そんな彼女に不動産屋は家・土地を買い取りたいと執拗に持ちかけ、さらに老女の死に他殺の可能性が・・・。ストーリー自体は『八犬伝』的ではないが、さとみが出演予定の特番ドラマ『里見八犬伝』が軸の一つになっている。『八犬伝』にまつわる名所がいろいろ出てくるのが嬉しい。気軽に楽しく読める作品。
三上於兎吉(みかみおときち)『雪之丞変化』 小説
上方から江戸へ流れてきた女形・雪之丞は、その美貌と至芸でたちまち江戸でも大評判をとるが、実は彼は、両親を死に追いやり家を断絶させた仇数名を狙う身の上であった・・・。『モンテ・クリスト伯』がモデルらしいが、復讐者が女形に身をやつし、その道でも大成功しているあたりには犬坂毛野の面影を感じる。
『現代長編小説全集 40』(講談社、1959年)
前田朋子『妖怪探偵犬姫』(ぶんりき文庫(彩図社)、@2000A2001B2002C2003D2004) 小説
鎌倉時代、人魚の肉を食べたために人を襲っては人肉を食う不老不死の魔物となった八百比丘尼・犬姫(いぬき)は、旅の高僧・俊明法師を襲って逆に調伏され、八百年の期限つきで犬に姿を変えられてしまう。それからおよそ八百年を経た現代日本で、犬姫は俊明の転生である青年・安倍俊明と再会、人間に戻るための徳を積むべく、俊明やその名づけ親である明恵和尚とともにオカルティックな殺人事件の解明にいどむ。「八百比丘尼」や彼女を封じた俊明法師の「数珠」、「犬」といったキーワードは『八犬伝』を意識したものかと思われる。分類としてはライトノベルに属するのだろうが、ゲストキャラの年齢は高めで、人物や背景の描写にも生活感があって、大人が読んでも十分楽しめる良質の作品。
朝松健(あさまつけん)『妖臣蔵』(光文社文庫、1997年) 小説
魔神・巨旦将来の四十七の因子に取りつかれて主君の仇討ちさらには江戸を地獄と化すことを目論む大石内蔵助ら四十七士の野望に、高僧祐天とその協力者たちが立ち向かう伝奇時代劇。四十七の因子が玉の形をしているところや、大石らの左手にうかびあがる二十四節・十二支・五音・五行+「魔」の文字、巨旦将来の動きを封ずる鍵が「南」「無」「阿」「弥」「陀」「仏」の六字に当てはまる六人の女の救済にあるなど、明らかに『八犬伝』+『水滸伝』がモデルになっていると思われる(実際「『水滸伝』やらの稗史でもあるまいに。」なんて台詞があったりする)。飢饉や流行病などの時代背景を詳しく描き(さらに四谷怪談も盛り込んである)、当時の世相の暗さを鋭くえぐった点は忠臣蔵ものの中でも白眉なのではないか。しかし四十六士(寺坂はそうそうに離脱)がとことん邪悪なので、その意味で忠臣蔵ファンにおすすめできるかは微妙。この作品の前日談として『元禄百足盗』があるが、こちらは未読。
吉岡平『妖世紀水滸伝』(角川スニーカー文庫、第1部@AB1990CD1991、第2部@1992ABC1993、第3部@AB1994CD1995、外伝1992) 小説
『水滸伝』の豪傑108人が近未来の日本に転生し、仲間を集めながら新生梁山泊建設を目ざすアクションもの。第3部に梁山泊の敵として猫野、猫間らの「八猫士」が登場。玉の文字は「不仁」「不孝」など。もともと新百八星に前世を告げるのは旅の僧侶(とその弟子)なので第1部から『八犬伝』を取り入れてるのだが。キャラクターのボケ&ツッコミな会話が楽しい。第4部はあるのか?
鳴海丈『乱華八犬伝』天の巻・地の巻(徳間書店、2004年) 小説
『THE 八犬伝』第4話(「芳流閣」)の脚本家による、江戸初期を舞台とした『八犬伝』二次作品。改易された里見家再興をはかる遺臣たちは、里見家の隠し財産のありかを探していた。その手がかりとなる伏姫ゆかりの八つの玉は八人の生娘の子袋に隠されており、玉をとりだすには男根に八つの黒子を持つ選ばれた者が彼女たちとまぐわうよりほかにない!・・・このあらすじから察せられるとおり実質的には官能小説。挿絵もほとんどが全裸で悶える女の図だし(笑)。まあ過剰ぎみのエロ以外はいたって王道的な伝奇小説といえる。「ロマンティック」「パニック」などのカタカナ言葉が頻出したり、男女の性器をしばしばローマ字表記していたり(こちらは具体例をあげるのははばかられるな)するのが笑える。2005年から雑誌『問題小説』に続編『凶華八犬伝』連載予定だそうだ。
8/21追記−2007年4月に文庫版刊行。二冊分を一冊にまとめ、加筆もあり。
北村薫(きたむらかおる)『六の宮の姫君』(東京創元社、1992年) 推理小説
文学と落語を愛する女子大生の「私」と、観察眼と洞察力に優れた落語家・春桜亭円紫が、身の回りのちょっと不思議な事件をひもといてゆくシリーズの四冊目。卒論のテーマに芥川龍之介を選んだヒロインは、出版社のアルバイトを通じて知り合った作家の一言をきっかけに、芥川の小説『六の宮の姫君』にまつわる謎にいどむことに。作中に馬加大記と犬坂毛野が名のみ登場(ストーリーには全く関係なし、シリーズ三冊目の『秋の花』にも、『八犬伝の世界』にちょこっと言及する場面がある)。シリーズ全体を通してアクロバティックなトリックも死体も皆無といってよい異色のミステリー。つつましさとみずみずしい感性、才気を合わせ持つ主人公の目を通して描き出された作品世界はリアリティと優しさに満ちあふれている。文芸作品に関するくどくならない程度の上品なペダンティズムや、日常生活・風景の描写も、生き生きとしたキャラクター及び世界観を構築すると同時に、さりげない伏線になっていたりする。まさに上質な味わいの作品といえよう。
夏目漱石(なつめそうせき)『吾輩は猫である』 小説
明治の文豪・漱石の処女作にして出世作。一匹の猫の視点で、彼の飼い主である苦沙弥先生とその周辺のユニークな人々、近隣の猫と住人の様子など、市井の生活を生き生きと描写する。猫を主人公とすることで、やや斜に構えた世界の把握の仕方も嫌味にならず洒脱さを感じさせる。「正直でさえ払底な世にそれ(注・同情的態度)を予期するのは、馬琴の小説から志乃(ママ)や小文吾が抜けだして、向う三軒両隣へ『八犬伝』が引き越した時でなくては、あてにならない無理な注文である。」との一節あり。前半には「馬琴の胴へメジョオ・ペンデンスの首をつけて一、二年欧州の空気で包んで置くんですね。」なんて台詞もある。犬士たちが近所に住んでたら・・・嬉しいより鬱陶しいかも。大角あたりにゴミの出し方とか注意されそう。
『吾輩は猫である』(ワイド版岩波文庫、2002年)
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杜野亜希(もりのあき)『碧(あお)のミレニアム』(花とゆめコミックス(白泉社)、@A2000BC2001DE2002) コミック
西暦2000年に生きる女子高生千波が、担任教師峰岸と戦国期の瀬戸内海にタイムスリップし、村上水軍の内紛に巻き込まれる中で、同じ鈴を持つ仲間たちと巡りあってゆく。彼らに鈴を与えた悲劇の巫女・鶴姫は伏姫に重なるし、村上武吉は毛野に重なるが、『八犬伝』をモデルにしたというより、『八犬伝』が伝奇ものというジャンルに与えた影響力の証左というべきだろう。にもかかわらずこのページに載せたのは、ようするに好きな作品だからである(笑)。全六巻。
別作品:『リバース!』
参考:『白泉社DOKI2 PARADISE』(http://www.hakusensha.co.jp/frame.html)
遠崎史朗(とおさきしろう)・中島徳博『アストロ球団』全五巻(太田出版、1999年) コミック
70年代に少年ジャンプで連載された超熱血野球マンガ。太平洋戦争時レイテ島で玉砕した(史実では載っていた輸送船が魚雷を受け台湾沖に沈んだ)名投手、沢村栄治の遺志をついだ男・シュウロが、ボールのあざをもつ9人のアストロ超人を見いだし野球チームを結成、打倒大リーグを目指す、のだが・・・・・・。野球の試合中に死人や再起不能が続出、生きてるのが不思議なほど危険な特訓法、はては野球チームのくせに9人いない(9人目はラストまで出ない)など、すでに野球を超えている。必殺技もすさまじく、「ジャコビニ流星打法」や「人間ナイアガラ」はほとんど伝説の域に達している。矛盾だらけの無理無理な展開にはちがいないが、それがどうした!!と思わせるだけの迫力が絵にもストーリーにも横溢している。そのダイナミックさには気がつけばヤミつき。
参考:『朝日人物事典』(朝日新聞社、1990年)
松田一輝(まつだいっき)『愛星団徒(あせんだんと)』(プレイボーイコミックス(集英社)、@ABC1985DE1986) コミック
主人公・鷹王旭がその剛速球を見出されプロ野球球団南部ジャガースに入団したのに始まり、体のどこかに星型のアザを持つ9人の若者が謎の雲水の導きによってジャガースへと結集する。その前後でいきなり物語は異常にスケールアップ。具体的には―ネタバレ度が高いがこれを書かないとこの作品のトンデモなさ=魅力が伝わらないので、ネタバレても構わない方はカッコ内を反転させて読んでください―(宇宙の悪魔ネブラの侵略から地球を救うため、宇宙憲章にのっとってネブラとベースボール対決、アウトになった選手はその場で消滅するという恐怖の戦いが展開)。スポ根でSFでオカルトでプレイボーイだけにエロでもあるという奇妙な魅力にあふれた作品。
伊月慶子原作・市東亮子画『アマル〜黎明の出雲伝説』(秋田書店プリンセスコミックス、@2006年) コミック
古代出雲を舞台に、数百年を経て蘇った伝説の巫女姫・アマルと、出雲を守る若き神兵八人が、出雲に攻め込んできた大和王朝に立ち向かう伝奇ファンタジー。八人の戦士と強い霊力を持った姫という人物配置がやや『八犬伝』的。八戦士の名が星宿(「昴宿」「女宿」など)からとられているのは『ふしぎ遊戯』を思わせる。
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高橋留美子(たかはしるみこ)『犬夜叉』(小学館サンデーコミックス、@〜B1997C〜G1998H〜L1999M〜Q2000R〜23巻2001、24巻〜27巻2002年、28巻〜32巻2003、33巻〜37巻2004、38巻〜41巻2005、以下続刊) コミック
神社の娘・日暮かごめは、蜘蛛の妖怪によって家の古井戸に引き込まれ戦国時代へタイムスリップ。妖怪の狙いはかごめが生来持つ、妖力強化のアイテム「四魂の玉」だった。蜘蛛女が村を襲うのをくいとめるため、かごめはやむなく森に封印されていた半妖・犬夜叉を解放する・・・。以前から『八犬伝』がモデルじゃないかとは聞いていたが、実際読んでみたら単に『八犬伝』的伝奇アクションの流れをくむ、というだけでなく、〈粉々にくだけて四方に散った四魂の玉のかけらを探す旅をする〉〈主人公(準主人公?)が、妖怪の父と人間の母を持つハーフ〉〈ニセ水神退治〉など、結構ストレートに『八犬伝』が元になってるようである。全体としては、膨大な数のキャラクターを心情にほとんど踏みこまず記号的に動かすことでスラップスティックなコメディ・アクションを次々展開するタイプの作品(『うる星やつら』『らんま1/2』など)、嫉妬や執念を含めた情の部分をしっとりと描いた作品(『めぞん一刻』『人魚の森』シリーズなど)の双方の魅力を足して2で割った感じである。それにしても30年から第一線でヒット作を生み出しつづける高橋氏の才能には改めて驚嘆する。
横山まさみち『うるし八犬伝』 コミック
週刊漫画サンデー1982年1月5・12日合併号から84年1月3日号まで連載。著者・横山氏が木曾山中の奇祭「チンポ祭り」で知り合った偉丈夫「健さん」から彼の先祖にまつわる物語を聞かされる、という前フリのもと、八代将軍吉宗の治世下、大奥の女中だった絵島が流罪先で密かに産み落とした子供の身柄を政争に利用しようとする各勢力の思惑のなか、生まれてすぐに絵島の子の身代わりにされた少年・早太郎が果敢に戦い生き抜く様を描く。早太郎の前世と目される霊犬・早太郎と村娘・楓の物語を導入部にもってくる構成とその内容は、伏姫と八房の関係を下敷きにしている。本編に入ってからは『八犬伝』度合いは減るが、冒険活劇・歴史作品として面白く読める。お約束の?エロ要素も結構あり。正義側のキャラクターの自己犠牲を厭わぬ凛とした生き様が心地よい。コミック化されていないのが惜しい名作。
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一本木蛮(いっぽんぎばん)『SF妖怪八拳伝』(ノーラコミックス、1989年) コミック
文明崩壊後の世界で人間の魂を奪う邪悪な「精霊」と戦う少年たちの物語。アクションありお色気ありで楽しく読める。たびたび挿入される現代のカップルの逃避行がどう本編に関わってくるかがなかなか見どころ。
太田顕善(おおたあきよし)著・巳蔦汐生(みづたうしお)画『風の華 魔龍八剣伝』(電撃コミックス(メディアワークス)、@A2004年) コミック
はるか昔信州の地で、山の神・九頭龍は山の娘を襲った里の神・忌祀神を激闘のすえ「奈落」に落としたものの自らも力尽きる。やがて忌祀神が復活の兆しを見せたとき、九頭龍をまつる神社から発した八本の光が八本の剣へと変じ、剣に選ばれた八人の若者は忌祀神と戦う運命を子々孫々まで担うことになる。基本の物語は現代の女子高生かつ魔剣「鈴風」を伝える二海家の娘である桃花を中心に展開。事故で四年より前の記憶を失ったために剣の能力を使いこなせない彼女がいかに記憶と力を取り戻すのか、失われた記憶とはどんなものなのかがストーリーの鍵となってくる。非常に王道的な和風ファンタジー。あえていえばわりあいにラブコメ要素が多いのが特色か。
茶木(さき)ひろみ『かのこ』(マーガレットコミックス(集英社)、@A1984) コミック
小学生の少女みずきは母の入院のため叔母の家にあずけられ、そこで同い年の美少女加乃子に出会う。加乃子は早くに両親を亡くし、おじに引きとられた身の上だった。意地悪ばかりする加乃子にみずきは反発するが、中学の入学式の朝、学ラン姿の加乃子を見て仰天。加乃子は男の子三人を先立てた両親が、「むかしの武家のまじないにならって」女として育てた男の子だったのだ――というわけで、あとは加乃子(加乃)とみずきのラブストーリーに発展してゆく。古き良き時代の甘ーい少女マンガ。時々はっとするようないいシーンがある。押し入れのエピソードや「浜路くどき」の展開などは『新編八犬伝』をモデルにしたと思われる。
吾妻(あずま)ひでお『贋作ひでお八犬伝』(吾妻ひでお作品集A)(奇想天外コミックス、1980年) コミック
八犬士の名前、玉の文字、性別、人数まで原作と違う。エッチで不条理なギャグマンガ。後半の、作者や他作品のキャラが乱入したり、舞台がいきなり変わったりという展開は賛否両論だろうが、個人的には吾妻作品特有の行きあたりばったりなシュールさは結構好きである。
影日昇『キャバクラ八犬伝』(メディアファクトリー、@2009年) コミック
新人キャバ嬢・舞華は入店当日から〈この街を悪から守るために脱いでくれ〉という異様な客と遭遇。彼の正体は退魔士・犬崎公太といい、戦いのさいに魔物に奪われた自身の力を封印された(その証明として蝶のアザを持つ)八人のキャバ嬢を探していた・・・。ということで、物語は舞華と公太がキャバクラ、SMクラブなどをめぐりながら問題のキャバ嬢を探索する展開に。純情なお嬢様、おバカな巨乳娘、ツンデレ系女王様などタイプ別のキュートな美女と欲望に流されやすい公太のエロくも可愛らしい(ねっとりしたいやらしさがないので女性でも抵抗なく読める)珍道中?を描く。コメディタッチで楽しく読める良作。続きが待たれる。
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高橋よしひろ『銀牙−流れ星 銀』全十巻(集英社文庫、@A1997B〜I1998) コミック
1983年から87年まで週刊少年ジャンプで連載された、熊犬・銀と仲間の犬たちの激闘の物語。銀の出身地奥羽の山奥に棲む化け物熊赤カブトに対して全国からスカウトされた「男」な犬たちが戦いを挑む前半部、「八犬士」を中心とする狼軍団&新生八犬士と邪悪な「帝国」との戦いを描く後半部に分かれる。八犬士といっても〈とくに強い八匹〉くらいの意味で『八犬伝』との関係は皆無。新生八犬士にそれぞれを象徴する一字(「絶」「撃」など)がついてたりはするが。個人的には序盤の、熊や犬の生態を詳しくふまえた、狩猟犬をパートナーに赤カブトに立ち向かう人間たちの物語が抜きん出て好き。
本宮ひろ志(もとみやひろし)『群竜伝』全4巻(講談社コミックス、1973年) コミック
荒くれ者揃いの岩鉄高校野球部へ突如野球部のっとりを公言して乗り込んできた転入生・白井竜次。最初は冷笑&猛反発した野球部員たちは、その卓越した運動能力と人間的魅力に触れて野球への情熱を取り戻し甲子園を目指そうとするのだが・・・。前半の暴力野球部再生物語が途中から白井たち〈親の怨念を負った、背中に竜の入れ墨を持つ9人の若者〉のストーリー(当初から伏線はあったのだが)にシフトし、野球部は脇にやられたまま終わってしまったのが残念。破天荒な彼らのキャラが(〈あんな老けた高校生いるか〉とか〈なぜ今まで出場停止にならなかったんだ〉とかツッコミつつも)気に入っていただけに。まあほとんど読者置き去りのすっとんだ展開(とくにラストのいきなりさといったら)こそが見所というべきか。
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椎名高志『GS(ゴーストスイーパー)美神 極楽大作戦!!』全39巻(小学館少年サンデーコミックス、@〜C1992D〜H1993I〜M1994N〜R1995S〜24巻1996、25巻〜28巻1997、29巻〜33巻1998、34巻〜39巻1999) コミック
悪霊・妖怪退治のエキスパート・GSでナイスバディの超美人ながら、守銭奴・傲慢・自分勝手と三拍子そろった美神令子と、彼女の色香にひかれて時給250円(のちに255円)でこき使われる助手のスケベ少年横島、事務所に住みつき家事その他の雑用をこなす素直で心優しい巫女の幽霊・おキヌの3名を中心に、過激で楽しい仲間たちがくり広げるオカルティック・コメディ。18、19巻に犬神族の犬塚シロが登場、妖刀「八房」を持つ父の仇・犬飼ポチを追うというエピソードがある(シロはその後36巻で再登場し、以後準レギュラーとして活躍)。また後半の横島が武器とする「文珠」も、浮かんだ文字の特性を具現化するという点で八犬士の玉の影響がうかがえる気もする。週刊連載、しかも長編でありながらストーリーに目立った破綻がなく、一話限りの思いつきのような設定がのちのちまで忘れられずに使われていたり(たとえば横島が小学生時代ミニ四駆レースの王者だったとか)する。シリアス展開の中でのギャグの盛り込み方も秀逸。全体として完成度の高い作品。映画、漫画など先行作品のパロディネタが満載なのでそれを捜すのも楽しみの一つ。
よしむらなつき『里見☆八犬伝』(エニックス、@1998AB1999C2000D2001E2002) コミック
妖鬼王玉梓率いる妖怪たちの攻撃をうける南総の国を救うべく、守護聖女伏姫の命を受けた八人(まともに旅してるのは五人)の犬士たちが妖怪討伐の旅をする和風ファンタジー。敵も味方もボケボケなキャラクターと可愛らしい絵柄が魅力。『少年ガンガン』連載の第一部完結後、続編『新装里見八犬伝』が『コミックブレイドMASAMUNE』誌で連載されるがいつのまにか立ち消えに。小説版もあり。
参考:『ガンガンNET』http://www.enix.co.jp/gangan/
中島(なかしま)かずき作・小林拓己画『ジェノサイド』 コミック
双葉社『漫画アクション』にて2004年8月20日号〜4月5日発売号まで連載。大阪夏の陣の最中、徳川家康の孫娘・千姫の身柄をめぐって、豊臣方の忍者軍団・真田十勇士と魔性の力によって?百五十年を経て甦った里見八犬士が相まみえる!らしい。「劇団★新感線」の座付き作者中島氏の原作とあって、いかにも「新感線」的なケレンとダイナミズムあふれる伝奇作品。奇怪な忍術もしくは妖術の対決という意味では山田風太郎『甲賀忍法帖』『魔界転生』にも通じるテイストをもっている。絵柄もきわめて美麗にしてエロ。なにせ第3話現在美少女千姫は最初の一コマを除いて常に全裸である(笑)。今のところ八犬士で唯一登場している犬塚信乃の美貌も特筆すべきだろう。ともかくも今後の展開から目が離せない。ちなみに中島戯曲の一つ『阿修羅城の瞳』では名前のみだが馬琴や『八犬伝』への言及あり。
藤田まぐろ『シズカ八犬伝』(集英社りぼんマスカットコミックス、2006年) コミック
異常に犬に嫌われる少女・村上シズカは、その体質がかつて国中の犬を焼き殺したという「静姫」の伝説に関わるものか確認すべく、友人の催眠術で過去へと旅立つ。そこでシズカは静姫の恋人だという犬人間・力丸と出会うのだが・・・。絵柄も中身もほんわかテイストの短編。他の収録作品もすべて恋人たちの純粋で強い絆を描いた暖かい作品ばかりで、心がなごむことうけあい。
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関谷ひさし『少年八剣士』 コミック
秋田書店刊の雑誌『冒険王』に1958年8月号から59年10月号まで連載(うち58年9月号、11月号、59年2月号、4月号、7月号は別冊付録マンガの形になっている)。炭焼きの老人の孫として育った少年・一平は、たぐいまれな剣の才と正しい心の持ち主。祖父のため薬を買いに町へ降りた一平は、領主の息子の乱暴から子供を救ったのをきっかけに領主から追われるはめに。やがて自分が領主・魔虫一族に滅ぼされた先の領主・剣一角の忘れ形見と知った一平は、仇を討つため剣一族に連なる「八剣士」の仲間を捜しはじめる。明朗快活・勧善懲悪の時代劇で楽しく読める。〈敵と屋根の上でタイマン勝負→下の川へ転落〉という流れや刑場破りのシーンなどもろに原作を思わせる場面もあり。ちなみに私はこの作品を国会図書館で読んだのだが、別冊マンガと58年10月号は所蔵がなかったため全編には目を通せなかった旨お断りしておきます。
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6/4おわび追記−上で「58年10月号は所蔵がなかった」と書いたのですが、平次様よりご指摘を頂いて現物を再確認したところ、データ上なぜかないことになっていただけで所蔵ありました!号数を控えてくるのを忘れてweb−opacのデータで補ったためのミスです。すみません。
石田敦子(いしだあつこ)『新逆八犬伝 アウトカラーズ』 コミック
『ヤングキングアワーズ』2008年5月号より連載開始。猫だらけの神社の一人息子・里見伏彦は、幼少期にたびたび犬に囲まれた経験から大の犬嫌い。そんな彼が中学生のある日、巷を騒がす連続猟奇殺人の〈犯人〉が学校を襲い伏彦を喰おうとするが、そこへ半人半犬の少女が駆けつけ伏彦を救う。彼女は伏彦と同じクラスの〈男子生徒〉犬塚志乃の変化した姿であり、かつて「気味が悪い」と言われて以来封印していた伏彦の歌声に彼女「たち」を呼ぶ力があるというのだが・・・。現在3話だが、息もつかせぬ急展開の中で主要キャラのコンプレックスや苦しみをドライに(描写自体はウェットだが数コマで次の話に移るので)描き出してゆく。変身シーンの演出、というか伏彦命の志乃のキャラがかなり官能的。先がまるで読めないだけに今後の展開が楽しみである。
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酒井さゆり『神八剣伝』全二巻(エニックス、@1999A2000) コミック
アニメ『神八剣伝』のコミカライズ版。筋は基本的にアニメに忠実だが、かなり急ぎ足の展開のためアニメを見てないと意味不明かも。ジンライなんて名前さえ紹介されない。コウとカイが剣を交えたところで突然終わっているため未完も同然。絵柄はアニメによく似ていて違和感なし。
彩々木(ささき)もも作画・平野靖士原作『神八剣伝 発動前夜ノブル』(角川書店、1999年) コミック
アニメ『神八剣伝』の前日談。八宝珠の持ち主の一人であるノブルの少女時代の冒険を描く。なんか『三銃士』ぽい展開だなあと思ってたら本当に三銃士を名乗る三人(名前もそのままアトス、ポルトス、アラミス)が登場。全体のストーリーもかなり『三銃士』に拠っている。本編ではハードな女戦士であるノブルの陽気なお転婆ぶりがまぶしい。わかりやすい性格づけによってキャラの個性がしっかり立っており、肩ひじはらず楽しめる。しかし一つの作品のコミック作品が同時期に二つの出版社から出るというのも珍しい(酒井さゆり『神八剣伝』参照)。
大高忍『すもももももも〜地上最強のヨメ』(ヤングガンガンコミックス(スクエアエニックス)、@AB2005CDE2006FGH2007) コミック
代折羅不動心眼流の後継者でありながら暴力恐怖症の高校生・犬塚孝士のもとに、ある日親同士が決めた許婚・九頭竜もも子が押しかけ女房に現れる。波夷羅一伝無双流の後継者である彼女の目的は最強の男≠ナあるはずの孝士との「子作り」。常識はずれのもも子の過激にして純情なアプローチを武術家嫌いの孝士はつれなくかわしまくるが、両者の結びつきを防ごうとする武術家たち(十二支のいずれかの名を姓に持つ)が孝士の命を狙いはじめる・・・。腕も度胸もからきしなのに悪知恵と法律知識(検事志望)を武器に敵に立ち向かう孝士や彼にけなげな純愛を捧げるもも子たち女性陣、彼女たちにかなわぬ想いを寄せる男性陣も、キャラクターがみな魅力的。毎回のようにエロ系のネタを入れつつも(まともには)キスシーンの一つも出てこない純情路線で、笑って泣けるハートウォームなコメディ。2006年10月から2007年3月にかけてアニメも放映された。かなりおすすめ。
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池上遼一(いけがみりょういち)『星雲児 聖・少年戦士伝』(小学館少年サンデーコミックス、@A1983BCDE1984) コミック
地球軍と現地軍の戦いが長く続く惑星イーピゲネイア。地球側の少年兵士ヒマコト・イクルは戦場で出会った敵方の女兵士メイヤと不思議な魂の交感を体験するが、その後間もなくメイヤは宇宙を支配する雷帝によって拉致されてしまう。イクルもまた謎の女性マリアに召喚され、宇宙の全ての次元を支配できる力を秘めた5つの宝珠を雷帝が手に入れようとしていることを知らされ、宝珠を持つ戦士たちを探し出し雷帝を倒す使命を与えられる・・・。冒頭と物語の半ばに登場する「宇宙の初めに一者あり。その黙するところに真あり。その語れるところに善あり。〜」という宇宙創造にまつわる言葉も『八犬伝』的。画力もストーリーテリングもさすがの安定感でとても面白い。終盤えらく急ぎ足でまとめに入ってしまった感があるのが残念。
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桐山光侍(きりやまこうじ)『戦国甲子園−九犬士伝説−』(サンデーコミックス(小学館)、@1991ABCDE1992) コミック
かつて甲子園まで行きながら惜しくも優勝をのがした徳川高校野球部員の息子たち九人が、それぞれ「仁「義」「礼」「智」「忠」「信」「孝」「悌」「信信」の文字のボールを手に徳川高校に集結、甲子園を目指す。スポ根のようなコメディのような作品。マネージャーの名前が「静姫」なのは角川映画の影響だろう。顔も心なし薬師丸ひろ子似。連載終了後作者が少年ジャンプに移籍したためか7巻(最終巻になるはず)は出ず。この先もたぶん出ない・・・。
田島昭宇(たじましょうう)作画・大塚英志(おおつかえいじ)原作『多重人格探偵サイコ』(角川コミックスエース(角川書店)、@1997AB1998C1999DE2000F2001G2002H2003C2004、以下続刊) コミック
サイコパスの人格・西園伸二をはじめ複数の人格を内包する青年・雨宮一彦が、天才的プロファイリング能力をもって精神科医・伊園磨知らとともに、左目にバーコードを持つ猟奇殺人者たちを追う。やがて雨宮自身をふくめたバーコードを持つ者たちは、「学窓会」なる組織によって〈作られた〉こと、それが死後もカルト・カリスマでありつづけているミュージシャン+テロリストのルーシー・モノストーンを〈復活〉させるプロジェクトの一端であることが明かされてゆく。スプラッタに弱い人なら数ページで挫折必至の血みどろ描写の連続。自身を「ルーシーの子供」と呼ぶ7人の少年少女の存在や、彼らが左目のバーコードを〈聖痕〉とみなしているあたり、よくある設定には違いないが、『マダラ』シリーズの作者コンビの作品であることからして直接的に『八犬伝』を取り込んでいると見ていいだろう。何より『マダラ』の犬彦や麒麟も後半部(小説版ではもっと早くから)出てくることだし。
鳥山明『DRAGON BALL』全42巻(集英社ジャンプコミックス、1巻1985年、2〜4巻1986年、5〜10巻1987年、11〜15巻1988年、16〜19巻1989年、20〜23巻1990年、24〜28巻1991年、29〜33巻1992年、34〜36巻1993年、37〜39巻1994年、40〜42巻1995年) コミック
七つ集めると神龍が現れ何でも一つだけ願いを叶えてくれるという霊玉・ドラゴンボール。発明好きの少女ブルマは理想の恋人欲しさにドラゴンボール探しの旅に出発、玉の一つを所有するやたらと強い野生児・孫悟空と出会う。二人は共にドラゴンボールを捜す過程で、時に苛酷な時に愉快な冒険を繰り広げてゆく・・・。最初の旅が終了した後は、亀仙人の元で修業を積んだ悟空が修業仲間のクリリンとともに、最強の武芸者を選ぶトーナメント大会「天下一武道会」に出場する物語になり、以降〈ドラゴンボール探し〉編と〈天下一武道会〉編が交互に展開することに。コメディとシリアスを巧みに織り交ぜたストーリーと、抜群に上手かつ親しみやすい絵柄でロングランの大ヒットとなった。TVアニメも長期にわたって放映され、国外でも大人気を博した、まさに国民的漫画。〈七つの玉を集める〉という基本ストーリーから、『八犬伝』二次作品を語るときに必ずと言ってよいほど言及される作品だが、むしろ主人公の名前が示すように最初期のキャラクター配置は『西遊記』を下敷きにしている。
ひよひよ『TRIGRAM(トリグラム)8』(角川コミックス・エース、@2004A2005 以下続刊) コミック
国立安房国里見高校にいきなり転校させられた八房陽。里見高校は形成す悪意(「因果」)を浄化(「応報」または「Ne(ネメシス)」)するための特殊な地であり、生徒はみな「応報」の能力を持つ者たちであった。陽は転校早々に特例としてNe能力者のトップ8人「八卦」の美少女たちとともに戦うことになるのだが・・・。主人公は言うにおよばず、「八卦」の面々のネーミングももろ『八犬伝』。メインのヒロイン犬塚信乃以外は、主として犬士の名字と配偶者の姫の名前から命名(「犬江静」とか)されてるあたりの微妙なマニアックさに『八犬伝』ファンなら思わずニヤリ。〈転校初日、遅刻寸前で走る途中、角でヒロイン(たち)とぶつかったはずみに相手を押し倒す〉という、感涙もののお約束展開を冒頭からかまし、その後もつまずくたびに胸につっこんだりスカートを引きずりおろしたり、意味なくパンチラが続出したりのエッチシーンがてんこもり。ラブコメ展開が主でアクションはなかば忘れ去られているような(笑)。少年誌ぎりぎりの?ナイスなエロさがしょうもなさすぎてもう最高。
↑この作品については、沖峰ゆいき様より存在を教えていただきました。ありがとうございます!
やまと虹一『謎の村雨城』(徳間書店わんぱっくコミックス、1986年) コミック
同名のファミコンゲームのコミカライズ。幕府隠密の少年忍者・鷹丸が、わずか5日で青雨・赤雨・緑雨・桃雨4つの城を手に入れ全国侵略を目指す未知の生命体を倒すため、4つの城を落として青・赤・緑・桃の4つの玉を集め村雨城を目指す。コメディ場面が随所にあり楽しく読める(こんな重要任務を一人の忍者にまかせっきりなのはどーよ、とあえてツッコんでみる)。巻末にはみなづき由宇氏による「必勝テクニック 完ペキ版・謎の村雨城」も収録。こちらは三頭身キャラによる説明書マンガのおもむき。
↑この作品については平次様より存在を教えて頂きました。いつもありがとうございます!
岸本斉史『NARUTO』(集英社ジャンプコミックス、1〜5巻2000年、6〜10巻2001年、11〜15巻2002年、16〜20巻2003年、21〜25巻2004年、26〜31巻2005年、32〜34巻2006年) コミック
九尾の妖狐の力を潜在的に持つ少年忍者ナルトが、里の長にして英雄である「火影」を夢見て、仲間たちとの切磋や強大な敵との戦いの中で逞しく成長してゆく姿を描く。現在週刊少年ジャンプで連載中、アニメも放映中の大ヒット作。中忍試験のエピソードで、犬塚キバ・油女シノというキャラクターが登場。以降もナルトたちの仲間としてストーリーに絡んでくるあたりが微妙に『八犬伝』。ちなみにキバは赤丸という犬を連れている。
碧也(あおまた)ぴんく『ニューエイジ八犬伝 BLIND GAME』全十巻(ASUKA COMICS DX(角川書店)、@A1996BC1997DE1998F1999GH2000I2001) コミック
近未来の日本を舞台に、遺伝子操作によって超能力者「神女」の力の一端を受けついだ八人の少年たちが、戦いとめぐり逢いを通して自分自身を見つけてゆくサスペンスストーリー。キャラクターの外見や性格は基本的に『八犬伝』(碧也版)と同じだが、義人(=荘助)、悌正(=小文吾)、忠臣(=道節)などはかなり性格がちがう。これは主に育った環境の違いによるものとのこと。随所に『八犬伝』の設定がそれとなく散りばめられている。
他作品『八犬伝』
和田慎二『忍者飛翔』(白泉社ジェッツコミックス、@1986A1995) コミック
赤穂梅市の名家・伍堂家の勝気な令嬢真琴は、乳兄弟兼小間使いの愚鈍な青年・ね太郎を愛しながら、彼女が危機にさらされるたびにどこからか現われ守ってくれる謎の忍び・飛翔にも心を惹かれてゆく。しかし実は飛翔はね太郎のもう一つの顔なのであった・・・。直接『八犬伝』的展開はないが、第一話が伍堂家に伝わる妖刀「村雨丸」をめぐる攻防の物語で、「シノ」という女忍びも登場。また別のエピソードに「妙信尼」が出てきたりと、多分に『八犬伝』が意識されているようだ。王道少女漫画的キャラ設定と伝奇的な仕掛けのストーリーが抜群のハーモニーをかもし出している。ね太郎に対する真琴の非常な大胆さ(露出の多さ)が和田ヒロインのお約束(『超少女明日香』シリーズも露出度高し)と言う感じで、なんというか、微笑ましい。2002年以降メディアファクトリーから新作も加えて再刊行。現在『月刊コミックフラッパー』にて連載中。
参考:アマゾン(http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/browse/-/489986/ref=cs_tab_b_1_1/249-9450346-4917152)
コミック・フラッパー・コム(http://www.comic-flapper.com/)
長谷川裕一『忍闘炎伝』(学習研究社ノーラコミックス、全3巻(1998年)) コミック
戦国時代、鉄砲伝来とともに西洋から渡ってきた悪魔たちの跳梁に、飛騨山中に隠れ住む忍者の精鋭であるくの一集団「紅幻衆」が立ち上がる。紅幻九人衆の花火・千代美々・お紺の三人は悪魔の手に落ちた清洲城に入り込み、そこで出会った青年・日吉丸とともに悪魔たちに戦いを挑むのだが・・・。紅幻衆の頭領にして親代わりの女性の名が「伏姫」、その「夫」である大犬の名が「ヤツフサ」。二人は普通にラブラブぽい。軽くお色気シーンもありで楽しく読める。連載誌(コミックノーラ)の休刊により中絶したのが惜しい。
↑この作品は平次様より存在を教えていただきました。いつもありがとうございます!
CLAMP(クランプ)『破軍星戦記』 コミック
ふゅーじょんぷろだくと刊『KID’S』のVol.6〜8、Vol.10(Vol.6は1989年、Vol.7以降は1990年刊行)に掲載。CLAMP学園を舞台に里見八犬士(親兵衛が伏姫の兄だったりするので原作どおりというわけではない)の生まれ変わりである八人の若者が、玉梓の転生である少女の刺客たちと戦いをくりひろげる。主人公たちの能力も敵の目的もわかる前に休載、そのまま未完のため単行本化はされていない。CLAMPの別作品にも登場する鷹村蘇芳や麒飼遊人、梓夜凪砂(だと思う)が出てくるので、CLAMPファンにはおすすめか。
あべ美幸『八犬伝〜東方八犬異聞〜』(冬水社いち*ラキコミックス、@2005ABC2006DE2007 以下続刊) コミック
少女漫画雑誌『いち*ラキ』2005年8月号(6月20日発売)にて連載開始(7月23日現在で第二話まで)。村人から白眼視されている〈教会〉で神父二人と生活する荘介・信乃・浜路の三人。唯一彼らと親しい萩原一家の息子・健太は、良き兄貴分である荘介と、〈女のくせにやたら生意気な〉信乃に近づきすぎたがために、禁断の森で奇怪な〈出会い〉をすることになる・・・。信乃たちのキャラクター付け(特殊能力以上に性格の)がナイス。小生意気全開の信乃の可愛さ、冷静かつ穏やかにツッコミを入れまくる荘介(「介」の字の方を使うのも珍しい)のいい男っぷり、何とゴスロリ系な浜路の毒を含んだ愛らしさ、など魅力たっぷり。健太をはじめとするオリジナルキャラも実に生き生きと描かれている(もっとも第一話段階でオリジナルキャラだと思っていた神父の一人が、原作の〈彼〉にあたるらしいことが第二話でわかったので、萩原一家なども原作由来のキャラなのかも)。背景まで丁寧に描き込まれた美しい絵柄といい、伏線張りまくりのミステリー展開といい、続きが待ちどおしい。
↑この作品については、Pulam様より存在を教えていただきました。ありがとうございます!
6/21追記−F巻が2007年、GHI巻が2008年、J巻が2009年に刊行。
10/11追記−K巻が2009年7月に刊行。
犬木加奈子(いぬきかなこ)『八犬伝説妖怪里見中学』(リイドコミックス、@1999) コミック
現代日本に転生した犬士たちが玉梓支配下の里見中学に集う(と思われる)。原作を巧みに換骨奪胎し、記紀神話をからめたおどろおどろしい展開が楽しめる。妖怪などのグロテスクさはさすが犬木作品。少女ホラー誌『Woopee』に連載中・・・だが最近雑誌を見かけていない。ちゃんと刊行されているのだろうか。
後藤羽矢子(ごとうはやこ)『パブロフの犬』(白泉社ジェッツコミックス、@2002A2003B2004) コミック
犬大好き純情短大生の布施姫子と、一見クールだが中身はこれまた純情な大学生・多田八房のほのぼの恋愛生活を描くラブコメディ。毎回のようにベッドシーン等濡れ場が出てくるにもかかわらず、可愛らしい絵柄と主人公二人の純愛っぷりのせいか不思議なほどいやらしさを感じない。読んでて心なごむ佳作。キャラの名前以外はとくに『八犬伝』ではない。姫子が異様に犬に好かれるあたりは犬に懸想された伏姫の反映かもしれないが。
水野十子(みずのとおこ)『遥かなる時空(とき)の中で』(花とゆめコミックス、@2000AB2001CDE2002F2003GH2004I2005JK2006LM2007) コミック
コーエー発売の同名の恋愛シミュレーションゲームのコミカライズ作品。アニメ化もされ、ゲームもパート2、パート3がすでに発売されている人気シリーズ。現代の女子高生・元宮あかねは不思議な声に導かれて平安京へとタイムスリップ。そこで八つの光る珠=龍の宝珠を飲み込んだあかねは「龍神の神子(みこ)」として鬼から京を守る使命を課せられるが、彼女は敵であるはずの鬼の首領・アクラムに心惹かれてしまう。やがてあかねの周囲には同じくタイムスリップしてきた男友達の天真、詩紋をはじめとして、神子を守護すべく天に定められた「八葉」が集まってくる・・・。かくて物語は京を救うための鬼たちとの戦いと、八葉―タイプの異なる八人の美青年もしくは美少年たち―に次々惚れられるあかねの複雑な乙女心を中心に動いてゆく。八人の(美しい)若者、八つの宝珠の設定はいかにも『八犬伝』的だが、意図的にモデルにしたのか、単によくあるパターンなのかは微妙なところ。
田村良介『ファミコン八犬伝』 コミック
『週刊少年チャンピオン』に86年21号から29号まで連載。天才的ファミコンテクを持つ小学生・日向慎介は、担任の女教師・里見先生をファミコン勝負を通じて説得し、ファミコン部を設立。最初の対抗試合の相手・明央学園中等部で中学生を相手に慎介は圧勝するが、彼らのリーダー・芙龍健児とは大接戦にもつれこむ・・・。芙龍は中学校の窓からヘリコプターで登場するわ、新たな敵がファミコン部部室のドアを爆破して乱入してくるわ――アクション作品ならありがちな展開だが、ものがファミコンだけに(そしてメインキャラが小中学生だけに)笑えてならない。早い段階で慎介が先生から星のメダル?をもらい、芙龍がそれと揃いのメダルを持ってることは明かされていたが、最終話でいきなりあと2つのメダルの持ち主が登場し、メダルから仁義礼信の玉(主人公の慎介が「信」なのが面白い)が現われ、『八犬伝』との関わりが語られ、残り4人の仲間を捜しに学校を放り出して旅立つという衝撃の(あからさまに打ち切りな)結末を迎える。いろんな意味で見所満載。
↑この作品は平次様より存在を教えて&資料を提供していただきました。有難うございます!
渡瀬悠宇(わたせゆう)『ふしぎ遊戯』(小学館フラワーコミックス、@〜B1992C〜F1993G〜J1994K〜N1995O〜Q1996) コミック
高校受験生・夕城美朱は図書館で見つけた不思議な本「四神天地書」の中に吸い込まれてしまう。古代中国風の王国・紅南国へやって来た美朱は、国を救う伝説の「朱雀の巫女」として、「朱雀七星」と呼ばれる七人の勇士を捜し旅することになる・・・。アニメ化、CD化、ノベライズ化もされた大ヒット作。恋と友情、冒険の物語を魅力的な美形キャラてんこもりでテンポよく展開。一度読み始めたらついつい止まらなくなってしまう。ギリシャ神話と八十八星座をモチーフにした作品は少なくないが、「星宿」(古代中国版の星座)をとりあげた作品はこれが初めてなのでは。「七星」の面々が体のどこかに星宿を象徴する文字が浮き出すという設定、宿命によって結ばれた仲間を捜すというモチーフが『八犬伝』ぽい。現在続編にあたる『ふしぎ遊戯 玄武開伝』が連載中。
↑この作品についてはtamaki様よりご教示いただきました。いつもありがとうございます!
克・亜樹『符法師マンダラ伝カラス』(小学館少年サンデーコミックス、@1988AB1989) コミック
転入早々に関東を統括する「咒鬼王師連合」にケンカを売った烏蒼一郎。咒鬼の秘伝である「神宝千霊符」を使いこなすカラスは〈風の符形〉を持つ符法師だった。やがてカラスは生徒会長・鷹柳光たちとともに連合のトップ・白鬼に戦いを挑むのだが・・・。友情と言い切るには妙に艶っぽい絆で結ばれた(男二人で遊園地、しかも観覧車というチョイスは微妙な・・・)カラスと光、彼らに深い愛憎を抱く白鬼三人の心の葛藤が中盤以降の見所。「天風火地水」の五つの符形をあやつる五人の戦士たちという設定が(五大をテーマにしているのも)いくぶん『八犬伝』的。火の符法師・朱雀の下の名が「志乃」なのは偶然だろうか。
↑この作品については平次様より存在を教えて頂きました。いつもありがとうございます!
吉野朔実『ぼくだけが知っている』(集英社マーガレットコミックス、@A1995BC1996D1998、小学館文庫版全3巻は2003年) コミック
小学四年の内省的な少年・夏目礼智(らいち)の一種哲学的なモノローグと透明感ある絵柄を通して、個性的な級友たちとの時にバカバカしく時にシリアスな日常のあれこれを細やかに描き出す。後々思い返してみればくだらなく思える些細な出来事が人生の重大事だった時代の、子供らしい心の動きや人間関係が実にリアルに捉えられていて、読みながら自身の子供時代が自然と(痛い思い出を中心に)蘇ってきた。主人公「礼智」とクラスの美少女「犬伏珠美」のネーミングが『八犬伝』ぽい(というか他に『八犬伝』的要素はゼロ)。
灘麻太郎・北野英明『麻雀八犬伝』全三巻(グリーンアロー出版社、1984年) コミック
天才雀士犬塚修次郎の息子・八郎は生き別れた七人の兄を捜すべく雀荘から雀荘へと旅を重ねる。しかしそんな八郎や兄たちに、犬塚の先祖にまつわる埋蔵金をねらう者たちの魔の手がせまる。兄弟とのめぐり会いも敵との戦いもとにかく麻雀。指月院の中大(ママ)法師という人物がいたり、意外にディテールも『八犬伝』している。
石川賢(いしかわけん)『魔空八犬伝』(徳間書店、@1992A1993B1995CD1997) コミック
時は戦国時代、城主里見義実の邪法によって魔物の巣窟と化した黄金城(里見城)。義実の娘伏姫は霊力をもって城を異空間に封印、父の野心を砕くために気によって八人の子を地上に送り出す。やがて彼らは我欲から黄金城を求める者たちとの戦いの中でめぐりあい黄金城を目指す。オリジナル度が高く、時代設定も違えば道節と信乃以外の犬士の顔ぶれも違う。奇想と迫力のオカルトアクション。壮大な親子ゲンカという点では石川氏の代表作『魔獣戦線』と共通するものがあるかも。
橋本正枝(はしもとまさえ)『マハラジャ』(角川書店ニュータイプ100%コミックス、@1988A1989B1991C1994D1995) コミック
月刊『ニュータイプ』およびその付録雑誌『コミックGENKi』で連載。地上にばらまいてしまった龍神の宝を探すべく平安京へ降りてきた龍王の娘・まはら≠ニ、検非違使の少年・惟光の友情と冒険を描く。〈虎に騎乗する姫〉〈龍王の娘〉〈四散した七つの宝を探し出すまで故郷に帰れない〉といったモチーフは『八犬伝』的、というか『八犬伝』二次作品的(とくに〈龍〉と〈七つの宝探し〉は『ドラゴンボール』を彷彿とさせる)。平安時代を舞台にした作品というと宮廷社会に焦点を当てたものが多い中で、むしろ惟光に代表される庶民の生活の方を重点的に、生き生きと描き出しているのが出色。可愛らしい絵柄と個々のキャラクターの性格付けも魅力的。
立川恵『夢幻伝説タカマガハラ』(@1997ABC1998D1999) コミック
しっかり者の小学5年生・若狭結姫は、空から降ってきた勾玉を拾ったことから、人間界(中ツ国)と連結している夢の世界「高天原」へ意識を持ったまま飛ばされ、同じ勾玉を持つ仲間たちを捜して旅をすることに。冒頭の六つの勾玉が飛び散るシーン、天照神話をモチーフとしているところ、勾玉に記された一字の存在などが『八犬伝』的(実際4巻のあとがきに「八犬伝」もモデルの一つであると書かれている)。可愛らしい絵柄と、結姫をはじめとするキャラクターの真っ直ぐな心根に胸あたたまる作品。
星野之宣『宗像教授異考録』 (小学館ビッグコミックスペシャル、@2005AB2006CDE2007) コミック
『ビッグコミック』連載。鉄の研究をテーマとする異端の民俗学者・宗像伝奇(むなかたただくす)が、日本全国を飛び回ってさまざまな民俗学上の謎や伝奇的事件を調査する。2007年4月10日号〜5月25日号まで「砂鉄八犬伝」なるエピソードを掲載。千葉の里見大学に偶然集まった「犬」を姓に持つ八人の学生と共に、宗像は日本の製鉄のルーツ調べと大学統合をめぐる陰謀に立ち向かうことに・・・。「ハッケンジャー」には大笑い。2巻収録の「花咲爺の犬」にも『八犬伝』についての言及あり。
6/4追記−2008年2月に第七巻が刊行。「砂鉄八犬伝」収録。
杜野亜希『リバース!』(白泉社レディースコミックス、2005年) コミック
『別冊 花とゆめ』2004年7月号から2005年1月号まで連載。転入先の高校で愛する人をかばったために殺された少女・巡(めぐる)は、魂の管理人エイドの力によって甦り、転校の時点から人生をやりなおすことに。転校以降の記憶を失った彼女は、手帳のメモを手がかりに今度は〈死なずにすむ人生〉を送るべく行動しようとするのだが・・・。最終回にいたって明かされたある設定が微妙に『八犬伝』チック。『碧のミレニアム』のことを考えると、『八犬伝』に影響を受けた可能性もあるか。単行本化が待たれる。
他作品:『碧のミレニアム』
参考:『杜野亜希Official Web Site もりのこかげ』(http://www.morinoaki/com)
高田りえ『恋愛☆トリッパー 〜新説 里見八犬伝〜』(小学館少コミフラワーコミックス、2006年) コミック
恋人にフラレ落ち込む女子高生・犬江仁衣那(ニーナ)は、地震をきっかけに戦国時代へ召喚。突然八犬士の一人・犬江親兵衛の生まれ変わりだと言われて、八犬士を殺し里見の城を奪った妖女玉梓を倒すために里見の若君・豪壮(たけまさ)と城を目指して旅立つことになるのだが・・・。ラブコメ色の強い少女マンガらしいストーリーの中にさらっと含蓄のあるセリフやシーンが出てくる。「そんな小さな箱の中に人の大切なものが入るワケないだろ」とか。
↑この作品はtamaki様より存在を教えていただきました。いつもありがとうございます!
『ドラマCD 八犬伝〜東方八犬異聞〜』 CDドラマ
『八犬伝〜東方八犬異聞〜』の第1話から道節登場までの物語をCDドラマ化。展開は原作にきわめて忠実で、キャストの声もイメージ通り。原作ファンならまず間違いなく楽しめるであろう。ラストにドラマ収録の舞台裏(打ち上げ)の模様もあり。
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寿隊『寿十八番勝負』 音楽CD
アイドルグループ「制服向上委員会」(略称SKi)内のユニット「寿隊」のアルバム。「寿八犬伝」なる歌が収録されているが、「半沢さん みっともないよ〜」で始まる歌詞はどこが八犬伝なのかまったく不明。唐突に「八犬伝」という歌詞が出てくるのが唯一の八犬伝との繋がりのような。他の歌も曲調は結構ちゃんとアイドル系なのに歌詞はすっとびまくっていて、アイドルものとして大丈夫なのかなあ、という気がしないでもない。こう書くとけなしてるみたいだが、妙な歌詞と真っ当なポップスらしい曲・歌のコンビネーションは、聴きなれると次第に癖になってくる。廃盤なのが惜しい。
↑この作品は平次様より音源を提供していただきました。いつも有難うございます!
『里見節/館山音頭』(日本コロムビア株式会社、1982年) 音楽レコード(新民謡)
「里見節」は小高熹郎作詞、大谷慎作・編曲、藤堂輝明歌、コロムビア・オーケストラ演奏。全体に『八犬伝』ものというより『八犬伝』で有名な館山を歌ったという風情の曲(B面も「館山音頭」だし)。『八犬伝』はフィクションながらいかに安房、とくに館山と結びついているのかを改めて感じた。
↑この作品については平次さまより存在を教えていただきました。いつも有難うございます!
『コメディー お江戸でござる』(NHK、1995年3月〜現在) TV番組(バラエティー)
江戸を舞台とする人情コメディ時代劇+ゲストキャラを演じた女性演歌歌手の歌+江戸研究家の杉浦日向子氏による芝居の評と芝居の背景となった風俗の解説の三部から成る。2003年4月3日、10日の2回にわたり、『馬琴日記』の記述を下敷きに、馬琴をモデルとする戯作者・馬耳東風の物語を放映。結構細かいネタがあったりして(東風が相撲取りに間違われるとか)馬琴ファンなら思わずニヤリとする内容。なので『八犬伝』がモデル、というこのページの定義からはズレるがあえて載せてみた。再放送がないらしいのが惜しまれる。
参考:『ステラMOOK テレビ50年 あの日あの時、そして未来へ』(NHKサービスセンター、2003年)
『神八剣伝(しんはっけんでん)』 アニメーション
1999年4月〜9月放映。八つの星からなる天界は、御三家連合と奉行同盟の二派に分かれて戦争を続けていた。八つの星の一つ「氷天」の少年・コウは父の死をきっかけに、かつて天界を滅ぼそうとしたという女王フセゆかりの珠をはめこんだ名剣ムラサメを携え、同じ珠を持った七人の仲間とめぐり逢いながらまだ見ぬ母を探して八つの星々を旅する。萌え系キャラクターによるスペースオペラ風アクションファンタジー。なかなか面白い。
『神八剣伝』DVD版、全9巻((株)ビームエンタテインメント、1999年)。またコミカライズ作品に『神八剣伝』『神八剣伝 発動前夜ノブル』あり。
『天空戦記シュラト』 TVアニメーション
1989年から1990年にかけてテレビ東京で放映。日高秋亜人(シュラト)と黒木凱(ガイ)は、性格は正反対ながらも無二の親友。ある日二人は調和神ヴィシュヌの力によって人間界の上位世界である天空界に転生させられる。突然やってきた世界に戸惑うシュラトは程なくガイと再会するが、物静かで人一倍優しかったガイはシュラトへの殺意に取り憑かれた悪鬼のような性格に変わり果てていた・・・。アニメ『聖闘士星矢』の大ヒットを受けて製作された「プロテクトヒーロー」ものアニメの一つで、『星矢』『サムライトルーパー』につづくヒット作となった。仏教・ヒンズー教をモチーフにしているところや来たるべき大戦を前に起こる主人公サイドの内乱が物語の前半部を占めるあたりも『星矢』的。今回脚本のあかほりさとる氏によるノベライズ版(角川スニーカー文庫より現在6巻まで刊行。以前エニックス文庫から出たものの改訂版だが、シュラトの名前の表記が「修羅人」になっているほか、アニメでは出ないキャラが登場したりとオリジナル度高し)で読み返してみると、シュラトたち八部衆―慈愛の女神に見守られた八人の若い戦士―の存在は『八犬伝』的かも。
↑この作品については平次様よりご教示いただきました。いつも有難うございます!
『ムーの白鯨』 TVアニメーション
1980年4月〜9月、日本テレビ系列で放映。惑星直列の起こった年、世界はさまざまな天変地異に見舞われる。実はそれは3万年前異次元に飛ばされたアトランティス大陸が再び太陽系内に現れた影響によるものだった。地球への回帰を目指すアトランティスによる侵略をくいとめるため、3万年前にアトランティスと戦ったムーの指導者ラ・ムーに招聘されたムー戦士の生まれ変わりである5人の少年少女は、巨大戦闘艇ともいうべきサイボーグ白鯨を操り戦うのだが・・・。5人の少年少女がみな同じ形の痣を持っており、名字に「白」の字が入るあたりが『八犬伝』。実際、ノベライズの表紙見返しに著者からのメッセージとして「SF版「里見八犬伝」」との記述がある。
若桜木虔(わかさきけん)『ムーの白鯨 アトランティスの襲来』、『ムーの白鯨 悲劇の王女 ラ・メール』(文化出版局、ともに1980年)
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『鎧伝(よろいでん)サムライトルーパー』 アニメーション
1988〜89年放映。人間界への侵略をはかる妖邪帝王阿羅醐(アラゴ)を倒すため、「仁」「義」「礼」「智」「信」の珠を持つ五人の少年たちが、珠に由来する鎧擬亜(ヨロイギア)をつけて戦う。ほかに彼らに珠を授けた謎の雲水・迦雄須(カオス)、「忠」「孝」「悌」「忍」の珠を持つ四魔将(敵方)なども登場。OVA、CD、小説、コミックなど続々に発売、声優ブームを巻き起こし、同人誌界を席巻するメガヒットとなった。友人情報では数年前アメリカで『Ronin Warrior』というタイトルで放映していたとか。なぜ浪人・・・?
参考:『鎧伝サムライトルーパー・パロディ競作集 超弾動爆発!!』(ラポート株式会社、1989年)
『サンライズホームページ』(http://www.nifty.ne.jp/station/sunrise/)
『あ、安部礼司』 ラジオドラマ
日曜17:00〜18:00にJFN系列で現在第二期を放送中のコメディドラマ。その名の通りごく平均的なサラリーマン安部礼司の何ということもない日常を描く。ドラマの合間に流れる80〜90年代のJ−POPもいい味を出している。準レギュラーとして「ナンソウ サトミ」なる女性キャラが登場する。ある回では館山の公園も出てきた、そうだ(tamaki様情報による。私自身はその回聴き逃しました・・・)。肩の力を抜いて軽ーく聴ける。ドライブのお供に最適かも。
参考:『あ、安部礼司』公式サイト(http://www.tfm.co.jp/abe/)
↑この作品はtamaki様よりご教示いただきました。いつも有難うございます!
北村寿夫(きたむらひさお)『新諸国物語』 ラジオドラマ
昭和20年代後半にNHKで放送された時代冒険活劇。『白鳥の騎士』『笛吹童子』『紅孔雀』『オテナの塔』『七つの誓い』から成る五部作。クダラの白鳥王子・孔雀王子兄弟の争いに端を発する、正義の白鳥党と悪のされこうべ党との数百年にも及ぶ戦いを描く。一見勧善懲悪風だが、されこうべ党にもいやいやながら悪の宿命に順じている面々が少なからずいたり、人情の機微が細やかに描かれている。先日(2005年6月25日)NHKラジオ第一で放送された「ラジオ・アーカイブス」で、『オテナの塔』『七つの誓い』の演出を手がけた後藤義郎氏が語ったところによると、このシリーズは「『八犬伝』風のロマンにあふれた波瀾万丈の時代劇」を目指したのだそうだ。たしかに白鳥党・されこうべ党それぞれの頭領が受け継ぐ白鳥玉・されこうべ玉の存在など大いに『八犬伝』的である。もともと好きなシリーズだけに『八犬伝』を意識していたというのが無条件に嬉しい。一般に『笛吹童子』『紅孔雀』の知名度が高いが、個人的には第一作の『白鳥の騎士』がダントツで好きだったりする(といっても小説版しか知らないのだが)。
北村寿夫『スーパー文庫 笛吹童子・紅孔雀』(講談社、1990)←『白鳥の騎士』『笛吹童子』『紅孔雀』収録。
〃 『オテナの塔』上下(日本放送出版協会、1977年)
〃 『七つの誓い』上下(日本放送出版協会、1977年)
(いずれもラジオドラマそのままの内容ではないと思われる)
8/9追記−上で「五部作」と書いたが、佐々木守『戦後ヒーローの肖像』(岩波書店、2003年)によると、さらに第六部『天の鶯』、第7部『黄金孔雀城』があるのだそう。しかしこの二作はいったん『七つの誓い』をもってシリーズを終えたのち二年を経て作られた作品で、『新諸国物語』を名乗っていたかもやや微妙だとのことです。
川村毅(かわむらたけし)『新宿八犬伝』(未来社、@(一、二巻収録)1985A(三、四巻収録)1991) 戯曲
新宿「カブキ町」周辺を舞台にもろもろのキャラクターが入り乱れ、「影の馬琴」の存在を契機とする〈現実世界への物語の侵犯〉を描く、エログロ溢れる不条理ドラマ。馬琴が草葉の陰で驚倒しそうな内容である(笑)。川村氏主宰の劇団「第三エロチカ」によって上演。あんなシーンやこんなシーンをどう演じたのか大いに気になるところ。ちなみに第一巻『犬の誕生』は第30回岸田国士戯曲賞を受賞。
参考:http://homepage1.nifty.com/awards/kishida.html
幸田露伴『其俤今様八犬伝(そのおもかげいまようはっけんでん)』(読売新聞1906年3月〜4月7日号) 戯曲
『八犬伝』の舞台を明治時代に置き換え世話物に翻案。原作を知らずに読めばわりに普通の明治らしい作品だが、原作と比較すると笑いが止まらない。破産した錬(ママ)馬銀行重役の息子で社会主義者(ということは銀行を再建する気はないんだろう)の道節、ライオン歯磨を使う荘助、きわめつけは巴里へ行く信乃に手製のハート柄腹巻を贈る浜路!露伴も書いてて楽しかったろうなあ、と思わせる快作。ストーリーは神宮川〜円塚山あたりまで。
『露伴全集 第十二巻』(岩波書店、1978年)
井上(いのうえ)ひさし『珍訳聖書』(新潮社、1973年) 戯曲
『新約聖書』の井上流パロディかと思えばさにあらず。キャラクターはみな犬という設定。浅草のストリップ小屋で8人のストリッパーが登場、うちのスターであるマリア犬櫛がショーの最中に倒れるところから始まる。彼女の病が狂犬病であったことが発覚し、マリアの弟・犬塚遠吠や医師の犬丸博士らが感染ルートを確定すべくマリアの男関係を洗ってゆく。入れ子構造の複雑な構成を持ち、旧日本軍や天皇制への毒がたっぷりまぶされた問題作。1973年3月にテアトル・エコーによって上演。
他作品『戯作者銘々伝』
参考:井上ひさし『演劇ノート』(白水社、1997年)
『合い言葉は勇気』 ドラマ
2000年7月6日から9月14日まで、フジテレビ系で放映。産廃業者「フナムシ開発」による環境汚染から村を守るため立ち上がった富増村民たち。しかし弁護士が見つからず、村役場の青年・大山忠志は苦しまぎれに、売れない役者・暁仁太郎に弁護士のふりをしてほしいと依頼する・・・。逆転また逆転のスリリングさや軽妙な会話はさすが三谷幸喜脚本。派手なオープニング(主題曲はエルガーの「威風堂々」)、派手なタイトルバック、大げさな演出にも、ねらってるな、と思いつつねらわれてしまう。キャラクターや組織の名前(村長の娘は、まんま「犬塚信乃」という)のほかは直接『八犬伝』とつながりはないが、笑い転げたあとになんだか元気がわいてくるパワフルなコメディー。ちなみに脚本が単行本化されたさいのまえがきによると、「富増(TOMASI)」村は「里見(SATOMI)」のアナグラムなんだそうな。全然気づかなかった・・・。
参考:三谷幸喜『合い言葉は勇気』(角川書店、2000年)
『篤姫』 ドラマ
2008年のNHK大河ドラマ。徳川の第十三代将軍家定の御台所・篤姫(天璋院)の堂々たる生きざまを、少女時代から晩年まで通して描く。幕末ものは当たらないとのジンクスを覆し、近年の大河では稀に見る高視聴率の大ヒット作となった。12月14日放映の最終回で、天璋院が『里見八犬傳』を読んでいるシーンあり。当時『八犬伝』は女性読者も多かったし、現代の視聴者に知名度のある作品でもあり、天璋院の愛読書?として『八犬伝』をもってきたスタッフの発想に拍手したい。未見の方は今日(12月20日)お昼の再放送でぜひ。
↑最終回の『八犬伝』情報については、平次様よりご一報いただきました。いつも有難うございます!
『深く潜れ〜八犬伝2001〜』 ドラマ
NHK総合の『ドラマDモード』で2000.10.3〜12.12まで放映(BSで先行放映されていたらしい)。全10回。自分の前世を知るため、孤島での前世セラピーに参加した若者7名がセラピストの誘導により、前世での彼らの絆を思い出してゆく。〈前世〉と〈八人の仲間〉以外、『八犬伝』と直接関係はないと思うが(そういえば子犬が出てきた)、実は2回分見そこなったので、はっきりした事は言えないのだった・・・。
篠田正浩『梟の城』(東宝、1999年) 映画
司馬遼太郎氏の初期作品の二度目の映画化。織田信長によって滅ぼされた伊賀忍者の里の生き残り・葛籠重蔵はひっそりと山奥で隠遁生活を送っていたが、太閤秀吉暗殺を依頼され山を降りる。重蔵は謎の女・小萩のサポートのもと秀吉をつけ狙うが、かつての仲間・風間五平が彼の前に立ちふさがる。使い捨てにされる忍者の身分に嫌気がさし侍としての栄達を志した五平は、秀吉側の人間となっていたのだ・・・。終盤で重蔵と五平が大坂城の屋根の上で戦い、組みあったまま堀に転落するという映画独自の展開は芳流閣がモデルではないだろうか。思えば“忠臣”である五平が刺客とまちがわれて捕らわれる(これは原作どおり)というシチュエーションも滸我御所の信乃っぽい。
深作欣二(ふかさくきんじ)『宇宙からのメッセージ』(東映、1978年) 映画
ガバナス星人の侵略により彼らの支配下に置かれた惑星ジルーシアの長老キドは、ジルーシアを解放してくれる希望の勇士を求めて「リアベの実」を宇宙へ放つ。期せずしてその実を手に入れた宇宙暴走族の青年シローとアロン、彼らと旧知の金持ちの娘メイア、ギャングのジャックらは、ジルーシアの王女エメラリーダたちと出会ったことから壮大な冒険に巻き込まれてゆく・・・。かねて『八犬伝』をモチーフにした破天荒なSF映画との噂は聞いていたが、なるほど確かに破天荒。『スター・ウォーズ』ブームに乗っかって製作されたのは明らかながら、CGがない時代の特撮技術が今となっては却って新鮮で、とくに爆発シーンはかなりの迫力。コテコテのキャラクター造型やおどろおどろしい特殊メイク・美術には、後の『里見八犬伝』の片鱗を窺うことが出来る。さりげなく「カメササ」「ヒキロク」というキャラが出てくるのもツボ。後にTVドラマ版も作られたが、ほとんど別物らしい(未見)。
別作品:『里見八犬伝』
『サクラ大戦 スーパー歌謡ショウ 新編八犬伝』 ミュージカル
2002年8月15日〜25日上演。恋愛&戦闘シミュレーションゲーム「サクラ大戦」シリーズのスピンオフ作品。大正時代の東京を模した太正時代の帝都東京を舞台に、少女歌劇団「帝国歌劇団・花組」の面々は一旦事あれば帝都を揺るがす降魔に立ち向かう秘密部隊「帝国華撃団」となる・・・という基本設定をうけて、キャラの声をあてた声優さんたちが生身で舞台に立ち、前半は「歌劇団」の公演に向けての練習風景や日常のドタバタ、後半は劇中劇の形で「歌劇団」の公演内容を演じる「歌謡ショウ」の一つ。今作品では、8人いたメンバーの一人・神崎すみれの引退を乗り越えようとするメンバーの葛藤とその末に完成した『八犬伝』の舞台の様子が描かれる。名のみ知っていた「サクラ大戦」シリーズに触れたのは初めてだったため、美少女ゲームの企画ものと軽く見る気持ちが正直あったのだが、ごめんなさいとしか言いようがない完成度の高さに驚いた。劇中劇の筋は必ずしも原作『八犬伝』通りではないが、バックの三味線弾き語り(フォークロック調)や衣装の早替りなど歌舞伎を意識したケレン味ある演出が楽しい(前半ラストのフライングはスーパー歌舞伎的というよりピーターパンのようで、童心に返ってワクワクしてしまった)。特に前半で論議されていた〈七人しかいないのに、どうやって『八犬伝』を演じるのか〉という問題の処理の仕方には感心させられた。『八犬伝』好きとしてはついつい後半の劇中劇に目が行ってしまうが前半も秀逸。「サボテンダンス」とか(笑)。適切なタイミングで歌舞伎のように「○○!」の声援を飛ばす観客の質も素晴らしい。いやこれは拾い物でした。
参考:ウィキペディア「サクラ大戦」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AF%E3%83%A9%E5%A4%A7%E6%88%A6)、
「サクラ大戦シリーズ」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%AF%E3%83%A9%E5%A4%A7%E6%88%A6%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA)
「帝国華撃団」(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B8%9D%E5%9B%BD%E8%8F%AF%E6%92%83%E5%9B%A3)
カニリカ作・演出『執事ホテル』 舞台
2008年2月16日〜24日、豊島区舞台芸術交流センター(東京都)にて上演。ホテル界の生きた伝説・ロック恵子が究極のホスピタリティを目指して建設したオーベルジュ「ホテル・ウィスタリア」のスタッフ8人が、仮オープンを目前に起きる様々のトラブルに懸命に対応したり衝突を繰り返したりする中で、互いの絆とホテルマンとしての自覚を深めてゆく過程を描く。オールイケメンのキャストによる笑わせ泣かせるコメディ。心地好い余韻の残る佳作。キャラクターの名前が「満智留」「孝」「忠俊」など仁義八行を含んている。「加藤」「佐藤」など姓に「藤」の字が入るのも『八犬伝』的。しかし「悌藤和(テイ・トウワ)」というネーミングはすごいな(笑)。2008年4月30日にDVD発売。
参考:「執事ホテル」公式ページ(http://www.sionnet.tv/shitsuji/)
↑この作品については平次様より存在を教えて頂きました。いつも有難うございます!
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