小説・コミック化作品
・作者名、作品名、出版社、発行年、ジャンル、簡単な紹介文の順に記載。全集などに拠ったものは、各紹介文末に収録元を記した。
・原作ベースのものも異本も、里見家や八犬士を扱っているものはこのページに載せた。モチーフやキャラクターの名前が共通でも、作品世界が違っているものは「八犬伝がモデルな作品」のページに載せている(しかし区別のつきにくいものがずいぶんある。きっと「何であの作品がこっちにないんだ!」と思われる方も多いと思うが、こちらになければ向こうを見る、ということでご了承ください)。
・「連載中」「未完」の表記のないものは、完結した作品。
・ネタバレはなるべく少なくするようにしているが、予備知識一切なしで読みたいという方は「関連書籍(事務的羅列)」の方をご覧いただきたい。
・ジャンルごとに作品名でアイウエオ順。同じ作家が他にも八犬伝ものを書いている場合、文末に作品名を表記する。
※1 編集の都合上、前半の半ばはあらすじのみ。後半も一部あらすじの部分あり。
※2 巻ごとに絵をまとめて示し、そのあとに文をのせ「〔この次に挿絵二(十八〜十九頁)が入る〕などと示す方式。全文活字だが原本も図版として載せている。
星川清司(ほしかわせいじ)『入相の鐘』(文藝春秋、1998年) 小説
江戸後期を代表する文人、大田南畝、山東京伝、曲亭馬琴の家庭内の、主として色にからんだ騒ぎを連作短編形式で描く。馬琴にスポットがあたるのは後半の「神田同朋町坂下」「宗伯の嫁」の二編。当時執筆中の『八犬伝』、とくに庚申山のくだりが細かく語られている。〈舟蟲(ママ)が玉梓の化身〉と解されているのは、碧也ぴんく『八犬伝』を思わせる。馬琴も南畝もかなり人格的に欠陥があるような扱いなので、両者のファンにはおすすめできるか微妙、かも(伝聞でしか登場しない京伝はいい人でした)。
↑この作品は平次様より存在を教えていただきました。いつもありがとうございます!
森田誠吾(もりたせいご)『江戸の明け暮れ』(新潮社、1992年) 小説?
馬琴の嫁・お路の半生とその人柄を、馬琴の日記とそれに引き続く「滝沢路女日記」に基づいて、生き生きと描き出した「滝沢路女のこと」(伝記)、馬琴の日記から江戸の風物・事件などを考証する「馬琴日記から」から成る。『八犬伝』の「回外剰筆」の、お路代筆の苦労話には誇張があり、「すでに書簡の代筆などにより、相応の書写能力を身につけていた筈である」ことを指摘している。簡易な文章でわかりやすく楽しく読める。
他作品『曲亭馬琴 遺稿』「八犬伝 作者夜話」『新潮古典文学アルバム23 滝沢馬琴』(共著)
岡荘太郎『艶筆 里見八犬伝』(文芸評論社、1956年) 小説(異本)
エロ本が青少年に与える害毒を憂えて、「健全な真の意味の「愛情に於ける道徳」の文学をつかんで頂く」ことを目的として刊行された「艶筆文庫」の第2巻。いきなり伏姫と若侍のベッドシーンという馬琴がひっくりかえりそうな場面から始まり、ほぼ各章ごとに濡れ場あり。浜路くどきが実事ありなのはもちろん、久兵衛(蟇六)と亀女(亀篠)の同衾場面まであるのにはびっくり。実質的に信乃の女遍歴の話であり(以前関係した女から逃走するのがラストシーンだし(笑))、他の犬士はかなり影が薄い。エロ以外でもオリジナル展開が多く、信乃が豊島家に仕えてたり、親兵衛が村雨丸で辻斬りしてたり、もうなにがなんだか。ただ個人的にはこの作品かなり好きである。腹の座ったしょーもなさと、とにかく明るいところが良い。
岳亭定岡『義勇八犬伝』(初編・二編 文久三年発行、 画工 芳宗) 抄録本
『八犬伝』抄録本。したがってストーリーは原作にいたって忠実・・・と見せて玉梓がいなかったり、金碗八郎・大輔親子が一人にまとめられていたりする(「八郎孝則」の名で)。なぜかキャラクターの名前の漢字もかなり変えられていて、郷実義真(里見義実)、婦世姫(伏姫)、杉浦磯之丞(杉倉木曾介)、森口九郎(堀内蔵人)なんて名前が並んでいる。しかも婦世姫切腹の場ではいきなり「蔵人」になってるし・・・。三編が出たかどうかは不明だそうで、古那屋の三犬士会同手前で幕(それも「信乃が麻衣を」なんて文章の途中で切れている)。
森田誠吾『曲亭馬琴 遺稿』(新潮社、1981年) 小説
馬琴の半生を、回想の少年・青年期をまじえながら描く伝記。タイトルからは小説とは気づかなかった。とかく悪評されがちな馬琴の人物像を、多面的かつ好意的にとらえている。『八犬伝』の版元がやたらと変わった事情を詳しく述べている。
他作品『江戸の明け暮れ』「八犬伝 作者夜話」『新潮古典文学アルバム23 滝沢馬琴』(共著)
芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)『戯作三昧』 小説
世評や周囲の雑事にわずらわされながらも、芸術家の本能に生きる、作家馬琴の姿を描く短編。風呂屋の会話中に『八犬伝』評がちらほらと見える。市井の人々や季節の風物が美しい筆致で写しだされている。個人的にはラストにお百の視点が挿入されているのがツボ。
『戯作三昧・一塊の土』(新潮文庫、1968年)
曲取主人『恋のやつふぢ』(天保八年正月発行、 画工 不器用又平) 艶本(春画メインのエロ小説)
曲取主人こと花笠文京(鶴屋南北門人)の文と不器用又平こと歌川国貞(のちの三代歌川豊国)の絵による『八犬伝』艶本の最高作。「京都の妾群、鎌倉の売色おとろえて奸淫し。」で始まる原文パロディの文体が楽しい。後編は刊行されなかったので情漏閣(芳流閣)の場までで終わっている。絵も色鮮やかで美しい。最初見たときは(春画に免疫がなかったので)目がつぶれるかと思ったが。
林美一、リチャード・レイン共同監修『定本浮世絵春画名品集成6 國貞 恋のやつふぢ』※2
西尾魯山講演・井下士速記『講談里見八犬伝』(岡本偉業館、1903年〜1904年) 講談(を速記したもの)
伏姫+八犬士それぞれに一章ずつをさき、全十章の予定だったようだが、第六章(犬阪毛野)で切れている。次回(犬山道節)の予告はあるんだが、はたして出版されたのか?義実が結城を脱するまでで十数ページ使うゆったりした展開。けっこう原作に忠実かと思いきや、信乃が懐胎十三か月で生まれてきたり、与四郎犬が出なかったり、したがって番作は信乃十八歳のときに病死だったり、額蔵が番作の文武の弟子だったり、井太郎・加太郎がなぜか虎蔵・銀次だったりする。中でも十一歳ですでに「筋骨逞し」いと描写される信乃が十六歳まで女装していたというのが・・・まさに目の毒。現八の設定についても、投獄のいきさつが原作に書いてないからと(書いてあるけど)犬の所有権をめぐる口論から発展した、与四郎リンチ事件を彷彿とさせる争いに巻き込まれた、というエピソードが延々つづいたり、それ以前から頬の痣を気味悪いからと冷や飯食わされてた(失礼な)とか、講釈師見てきたような、を地で行く想像力に感服。
植松三十里『里見八犬伝』(小学館文庫、2005年) 小説(ノベライズ)
2006年正月オンエア予定のTBSドラマ『里見八犬伝』のノベライズ版。道節と船虫の関係、赤岩父子の設定、庚申山編に信乃が登場するなど、結構原作と異なる部分も多いが、ちゃんと納得のいくストーリー展開になっていて面白く読んだ。ドラマでは配役が発表されている網乾左母二郎や犬塚番作が出てこないあたり、まったくドラマの通りというわけではないようだが、個人的にはドラマへの期待を十分に高められた。
野中美弥(のなかみや)『里見八犬伝外伝 万木城(まんぎじょう)炎上』(文芸社、2002年) 小説(異本)
戦国期の房総の史実にのっとった、戦と悲恋に焦点をあてた中編二編収録。「上総万木城炎上」は戦の鬼といわれた正木時堯の土岐頼春の娘・福姫に対する淡い恋を、「「里見八犬伝外伝−青い蓮は燃えて」は安房里見家の六代目・義弘と許婚於結の、戦がもたらした別離と激しい恋を、それぞれ描く。
久生十蘭(ひさおじゅうらん)『信乃と浜路』 小説
「オール讀物」昭和26年2月号掲載の中編小説。滝野川での村雨丸すり替えから芳流閣・円塚山(この二つのエピソードは順番を入れ替えてある)まで、浜路の想いを軸にして描く。二人の出自の説明や台詞などかなり原作に忠実である一方(そういえば浜路の自害を止める左母二郎の「いっそ縊れて死のうという、左母二郎への心中だて」という台詞は原作の名台詞?「大かたはわれなるべし」を彷彿とさせる(笑))、荘助の存在を大胆に全カットしたり(中編の長さで、浜路周辺に物語の焦点をしぼる必要上だろう)、オリジナルエピソードを通してキャラクターの心情を繊細に描写したりの、原作を変改した部分も工夫が効いている。浜路が信乃との思い出の浜木綿が枯れるのに自分の恋の終焉を重ね合わせるシーンなどは特筆すべき美しさ。
久生十蘭『巴里の雨』(出帆社、1974年)
他作品:『新版八犬伝』
鎌田敏夫(かまたとしお)『新・里見八犬伝』上下巻(角川書店、1982年) 小説(異本)
角川映画『里見八犬伝』の原作。里見家の静姫が、彼女に従う八犬士とともに闇の勢力(『八犬伝』の主だった悪者の集合体)に立ち向かうアクション伝奇。静姫登場は下巻から。上巻は親兵衛をのぞく七犬士の苦闘。原作からかなりはなれ、相当エログロだが、実はとってもいい話。北斗信仰、八字文殊菩薩など、『八犬伝の世界』に材をとったと思われる。1984年に文庫化。
別作品『シナリオ 里見八犬伝』
荒川法勝(あらかわのりかつ)『真説南総里見八犬伝』(青樹社、1991年) 小説(異本)
里見家改易を狙う徳川方に立ち向かう里見の諜者八人(最後の藩主忠義の死にあたり殉死したとされる、実在の「八賢士」がモデル)の活躍を描く。タイトルは「真説」だがほとんどフィクション。巻末解説にもある通り〈歴史のイフ〉の世界である。読後感爽やか。
他作品『南総里見八犬伝考』
典厩五郎(てんきゅうごろう)『真相里見八犬伝』上下(新人物往来社、2000年) 小説(異本)
里見家滅亡の原因を里見氏と重臣正木氏の亀裂にあるとする謎解き小説。里見家を守るべく腐心する主人公と周囲の人々を生き生きと描いている。すごく面白い。緻密な資料調査には脱帽。〈架空の里見家の歴史を流通させた〉馬琴と『八犬伝』には批判的。
石山透(いしやまとおる)『新八犬伝』(日本放送出版協会、上・中巻1974年、下巻1975年) ノベライズ
人形劇『新八犬伝』を脚本担当の石山透氏がノベライズ化。基本的にTV版に忠実な作りであると思われる。原作と比べて全体にオリジナル色が強く、特に後半部は『弓張月』他の馬琴作品や歌舞伎ネタなど入りこんでいるのが楽しい。表紙と挿絵で辻村ジュサブロー(現・寿三郎)氏による人形たちも堪能できる。コミック版もあり。
6/26追記−2007年にブッキングより再刊(上巻2007年4月、中巻同6月、下巻じき刊行予定)←再刊情報については沖峰ゆいき様、平次様より情報を頂きました。いつもありがとうございます!
久生十蘭『新版八犬伝』 小説
『新青年』1938年4月特別増刊号に掲載。信乃の古我行きからはじまり、彼のバックグラウンドを説明する形で、番作の生涯や大塚家へ引き取られてからの生活が語られる。このようにエピソードの順番を入れ替えつつも(なので原作を知っている人ほどいきなり話が飛んで混乱するかも)、各シーンはディテールまで驚くほど原作に忠実。白井城下で信乃たちが道節に助太刀したあと、一気に八犬士が里見家の上太夫として城持ちになるところへストーリーが飛んで(でも縁談話はスルーして)完、というダイナミックさに驚いた。キャラクターの心理描写が細やかで、村雨丸を取り戻すべく左母二郎を誘惑する浜路は実に艶っぽく、信乃はどこかしら繊細ではかなげである(「自分よりたち勝った人間と向き合ふたびに、慌てて目を俯せる癖のあるのは、卑屈な心からではなく、このうるんだやうな、女々しい目を見られたくないからなのである」という設定がある)。この感じで毛野や大角のエピソードも描いてほしかったなあ。
『定本久生十蘭全集 2』(国書刊行会、2009年)
他作品:『信乃と浜路』
山手樹一郎(やまてきいちろう)『新編八犬伝』(山手樹一郎全集9)(講談社、1961年) 小説(原作ベース)
里見・安西の戦から庚申山までの物語を、山手流明朗快活な青春冒険小説に脚色。叙情的で流麗な地の文と、軽妙な会話文で綴られる物語は何度読んでも心が暖かくなる。「生きる必要があると自分ではっきり自覚している男が、どんな意味にもせよ、人生がつまらないと思うはずはないじゃないか」という荘助の台詞は私の座右の銘だったりする。ちなみに『さむらい根性』にも「伏姫屋敷」が登場する。このHPのタイトルに頂きました♪
春陽堂文庫からも1979年に『山手樹一郎長編時代小説全集12 新編八犬伝』が出ている。これは本屋で入手可能。
鳥海永行(とりうみひさゆき)『聖・八犬伝』(電撃文庫(メディアワークス)、@A1995BC1996D1997) 小説(原作ベース?)
関東公方・管領の争いに翻弄されつつ、たくましく生きる八犬士の姿を描く、ティーンズ向け冒険小説。『八犬伝の世界』の「八犬士=八大童子」説を取り入れ、風俗も室町時代に合わせるなどの工夫がなされている。犬士たちの個性を分かりやすい形で打ち出しており、歴史説明の部分もわかりやすく面白く描いているので、関東争乱史の入門書としてもおすすめ。
古川薫『空飛ぶ虚ろ舟』(文藝春秋、1996年) 小説
馬琴と山崎美成(好問堂)を中心に奇事異聞を持ち寄り語り合う「兎園会」がらみのエピソード、とりわけ馬琴の長男・宗伯が命を削るようにして取り組んだ「虚ろ舟」を主軸に、馬琴一家の生活を生き生きと描写する。正直宗伯をかっこいいと思ったのはこの小説が初めてである。テーマの斬新さ(「虚ろ舟」の正体?をさぐるあたりは歴史ミステリーのようでもSFのようでもある)もあって実に面白い。全編にわたって『八犬伝』執筆の過程が背景に描かれている。
↑この作品については平次様より存在を教えていただきました。いつもありがとうございます!
杉本苑子(すぎもとそのこ)『滝沢馬琴』上下(文藝春秋、1977年) 小説
馬琴とお路二人の視点を主軸に、滝沢家の苦難の日々と周囲の人々の生きざまを叙情的につづる。伝記的事実に基づきつつフィクションの要素も多い。後半四分の一ほどで、盲目となった馬琴が『八犬伝』の継続にかける情熱と試行錯誤の様子を描いている。
為永春水(ためながしゅんすい)『貞操婦女八賢誌(ていさうをんなはつけんし)』 読本?
『傾城水滸伝』の向こうを張って(?)、八犬士をはじめとする多くのキャラを女に置き換えて繰り広げられる正義と復讐と同志愛の物語。「パロディ作品」の冗談企画『傾城八犬伝』を地で行った感じである。作者が春水だけに文体は人情本風。オリジナルエピソードをはさんだり、原作中のエピソードの順番を入れ替えたりしながら上手くストーリーをつなげてある(たとえばお梅(信乃)の破傷風を癒したのは、お道(道節)が涙ながらに集めてきた、有女太郎(左母二郎)に斬られた妹お袖(浜路)の血だったりする)。『八犬伝』をはじめて読んだときのワクワク感を思い出させてくれた冒険活劇。かなりおすすめ。
『貞操婦女八賢誌』(翻刻)(才子組、1884年)
永井義男(ながいよしお)『戯作者滝沢馬琴 天保謎解き帳』(祥伝社、2001年) 小説
江戸の町で起こる奇怪な事件を、嫁のお路と下掃除人の斧吉を助手に、アームチェア・ディテクティブ馬琴が解決する連作推理もの。事件が全部犬がらみということもあり、当時執筆中の『八犬伝』が何かと引き合いに出される。日記や伝記に拠った馬琴やお路の性格描写が巧み。
二世為永春水(にせいためながしゅんすい)作、歌川国芳(?)画『南総里見八犬伝後日譚(なんそうさとみはっけんでんごにちものがたり)』 草双紙(異本)
八犬士の孫の代、三世犬士らの物語。前半は史実の里見家内乱を元に、定包と玉梓の再来のごとき男女をからませ、後半は伊豆を舞台に、薄幸の少女(?)逢染の苦難を描く。七編までで残りは未詳。かなり気になるんだが。ラストの挿絵は・・・なんじゃこの構図(笑)。
鶴岡節雄校注『新版絵草紙シリーズ[ 為永春水の南総里見八犬伝後日譚』(千秋社、1983年)収録※1
他作品『八犬伝銘々誌略』
山田風太郎(やまだふうたろう)『忍法八犬伝』(講談社ノベルス・スペシャル 山田風太郎傑作忍法帖、1996年) 小説(異本)
「伏姫の珠」を奪われたため、改易の危機に立たされた里見家を(実際には密かに慕っている奥方を)救うべく、不忠不孝の新八犬士が徳川方のくの一と忍法で戦う。初めて読んだ「忍法帖シリーズ」(というか山田風太郎作品)。〈世の中にはこんな小説もあるのか!〉と驚愕した。洒脱な文章と助平で奇想天外な忍術のかずかず、そして美しい余韻を残す哀切なラスト。傑作。全集・文庫などで何度も出版されている。
他作品『八犬伝』
群(むれ)ようこ『馬琴の嫁』(講談社、2006年) 小説
馬琴の息子・宗伯の妻おみちの結婚から臨終までの〈女の一生〉。『馬琴日記』ほかの随筆などで知られている滝沢家の生活がリアリティをもって描き出されている。おみちの視点で物語を進めつつも、彼女の苦労の種であった夫や姑も決して悪人にはせず、九の苦労の中の一の幸せを、愛情をもって丁寧に掬い上げている。〈お路が二分の金を無心し、その用途については頑として話さなかった〉史実をふくらませた売卜者のエピソードには、お路さんが『八犬伝』完結にいかに貢献したかを知る読者なら、誰もが胸を打たれるのではないか。一『八犬伝』ファンとして改めて彼女に心からの感謝を覚えました。
↑この作品については平次様ほかから存在を教えて頂きました。ありがとうございます!
山田風太郎『八犬伝』上下(朝日新聞社、1983年、(角川書店から1989年に文庫刊行)) 小説(原作ベース)
『八犬伝』物語世界(虚の世界)と、馬琴の日常(実の世界)を交互に描いた傑作。あの長い物語(後半部分はかなり端折るが)プラス馬琴伝を単行本2冊分にまとめ、なおかつダイジェストになってしまわないのが凄い。犬士たちもそれぞれ魅力的に描かれており、文章も簡易で初心者には最適。ただし「虚の世界」は〈馬琴が友人・北斎ほかに語った腹案〉で、オリジナルな展開も多いので、そのまま信じてはいけない。文庫や全集の形でたびたび出版されている。
他作品『忍法八犬伝』
佐橋富三郎『娘八犬史里遊艶(むすめはちけんしりゆうえん)』(保坂芳兵衛、1889年) 小説?
大殿・里見義実が安西に囚われたにもかかわらず洲崎海岸で船中の酒宴にうつつをぬかす里見の若殿・義成を、老臣・蜑崎十郎が義成の恋人?浜路姫とともに諌め、ために怒りを買った十郎は勘当される。勘当をといてもらうために、十郎は義実を取り戻しに旅立つ――というところで幕。人物名のほかは全く別物と言ってよい。もっとも「大序」となっているので、この続きが存在するかもしくは書かれる予定だったのだろうか?
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梓澤要(あずさわかなめ)『恋戦恋勝』(光文社、2006年) 小説
馬琴の嫁・路およびその周辺の女性たちの恋模様を綴る。多くは辛い過去・現在を背負った彼女たちが、心の拠り所を求めるように恋にのめりこんでゆく姿が切ない。お路以外はオリジナルキャラと思われるので、滝沢家だけ実在の人物を用いたのがちと不思議かも。馬琴とお路は2話以降は狂言回し的立場だが、二人の『八犬伝』口述筆記の様子がしばしば取り上げられている。
↑この作品については平次様から存在を教えて頂きました。ありがとうございます!
安西篤子(あんざいあつこ)『わたしの古典21 安西篤子の南総里見八犬伝』(創美社、1986年) 小説(原作ベース)
「玉梓の巻」「伏姫の巻」など、章ごとに女性の名を冠し、「男にくらべて、はるかに陰翳に富む」女性たちにスポットをあてて描く。つけくわえたエピソードはほんのわずか、原作の抄訳に近い。巻末に板坂則子氏による登場人物紹介と解説がある。
監修・平田喜信(ひらたよしのぶ) 構成、漫画・森有子『くもんのまんが古典文学館 南総里見八犬伝』(くもん出版、1993年) コミック(児童向け)
子供に古典文学に親しんでもらうことを目的とした「古典文学館」シリーズの一作。それだけにエピソードの大きな改変はないが、だいぶキャラクターが削られていたり、甲斐や穂北の物語がきれいに無視されていたりする。庚申塚は一コマ、対管領戦は3ページと1コマ(笑)。しかしツボはきっちりおさえつつ可愛くユーモラスな絵柄とちょっとした演出で楽しく読ませてくれる。最初と最後に原作『八犬伝』と馬琴についての解説がある。
監修・徳田武 画・宮添育男『図書館版 マンガ 南総里見八犬伝』上中下巻(河出書房新社、1994年) コミック
全ストーリーを14章に分け、章の頭に文章(イラスト付)でその章のストーリーの前ふりをのせる。本文中もナレーション多し。絵柄・内容とも児童向けだが、船虫の売春(「夜鷹」という語は説明なしで子供に通じるだろうか)やそれに続く処刑の場面など、お色気・残酷シーンもちゃんとあったりする。京物語がカットされてる(そのわりにいきなり管領戦中に親兵衛が「京から戻った」とかナレーションが入ってるが、いつ何のために京に行ったんだ(笑))以外はほぼラストまで原作通りというのも貴重。
岡村賢二『八犬士』(ニチブンコミックス(日本文芸社、@A2005) コミック
番作の結城脱出にはじまり、信乃少年期のエピソードへとストーリーが進んでゆく。タイトルの通り犬士列伝中心の展開になるものと思われる。番作死亡時の信乃が十六歳だったり、犬士とわかる前から荘助(最初からこの名前)と仲が良かったりとところどころ改変はあるものの基本的に原作に忠実。義実の山下討伐や伏姫の悲劇が過去の話として丶大の口から語られるところや、玉梓や伏姫の死に様などに見られるストーリー、シーンの組み立て方に、碧也ぴんく『八犬伝』と共通する作劇センスを感じる(絵柄が全然違うのでそれぞれに雰囲気は異なるのだが)。感情豊かな好青年信乃、言葉少なに信念を貫く不言実行の人・荘助、コミカルなほどに表情がいきいきと動く浜路などのキャラクター付けも魅力で、今後の展開が楽しみである。
『別冊漫画ゴラク』2006年3月22日号にて連載終了(←平次様から情報を頂きました。いつも有難うございます)。これまた『ジェノサイド』を思わせる、もろ打ち切り系の終わり方・・・。
碧也(あおまた)ぴんく『八犬伝』(ニュータイプ100%コミックス(角川書店)、@1991A1992BC1993D1994E1995F1996GH1997I1998J1999K2000L2001MN2002) コミック
当初OVA『THE 八犬伝』とのタイアップ企画として連載が始まったが(当時はコミックのタイトルも『THE 八犬伝』だった)、その後独自の路線をとった。基本的に原作のストーリーを忠実に追いながら、オリジナルエピソードをつけ加えたり、原作を巧みにアレンジしたりして現代人(とくに若い女性)に受け入れやすくしている。私が知る限りでもっとも登場人物のキャラクターを深く掘り下げた作品。このコミックに出会わなければこのHPは存在しなかっただろう。『コミックGENKI』『歴史ロマンDX』(いずれも休刊)を経て、『ミステリーDX』にて連載終了。全15巻。のちに文庫版(全8巻)がホーム社より刊行。8巻には番外編として書き下ろしの親兵衛京物語が収録されている。
追記−碧也版八犬伝については、『完結記念・碧也ぴんく『八犬伝』を語る』で詳しく書いている。
他作品『BLIND GAME』、『碧也ぴんくオリジナルアルバム 八犬伝』
『ひかりのくに古典名作マンガ 新八犬伝』(@〜C1973D〜G1974(初版1973)H1973) コミック(児童向け)
人形劇『新八犬伝』の児童向けマンガ版。文章は人形劇の脚本を担当した石山透氏、画は東映動画。ノベライズ版と比較すると後半部はかなり省略されているが、一方でノベライズ版にないエピソードもあったりする。「前巻までのあらすじ」で初耳の話が出てきたり、ストーリーがあらすじ化したりするのはご愛敬(笑)。
篠原烏童『八房恋抄』 コミック
八房が安西景連の首を挙げるところから伏姫入山、自害による八玉飛散までを、美麗な絵柄で綴る。大輔が登場しないこと以外は、きわめて原作に忠実なので、『八犬伝』ファンには漏れなくおすすめ。
『不法救世主(イリーガル・メサイア)W』(朝日ソノラマ、1997年)収録
↑この作品については平次様より存在を教えていただきました。ありがとうございます!
『評判講談全集 第六巻』(大日本雄弁会講談社、1931年) 講談集
一龍齋貞山(正確には旧字)による『里見八犬傳』、白雲齋樂山氏による『モンテ・クリスト伯』(脱獄篇)+短編数本を収録。〈『八犬伝』全部は紹介しきれないから一番面白い部分だけ〉と最初に断りがあるが、義実安房攻略も玉梓の呪いも、伏姫物語すら一切なし。大塚親子が結城を落ちのびる場面からはじまっている。まああとで古那屋で丶大が説明してくれるが。人形劇『新八犬伝』といい、『八犬伝』には存外講談調が似合うなあと改めて思う。基本的にはかなり細部まで原作のエピソードを忠実に再現しつつ軽妙な台詞まわしで物語をふくらませている。しかし対牛楼編は小文吾が石浜城に囚われたと思ったら旦開野が宴で舞い、その晩には馬加を討ち果たし小文吾と兄弟の名乗りをあげるスピーディーさ。つづく庚申山編で本来のテンポに戻ったと思いきや、いきなりラストで道節・小文吾(なぜこの組み合わせ?)がどかどかと登場。現八・角太郎とともに安房へ、ついで他犬士をさがしに旅立つところで大団円を迎える。しかも最後の最後で「八犬士打揃って里見家に仕へ、北條氏綱と戦を開く」などと驚くべきことが書いてあったりする。
堤治兵衛(つつみじへえ)『絵本里見八犬伝』(堤治兵衛、1885年) ?
『天一坊大岡政談』とカップリングで明治期に出版された草双紙風の本。自家出版らしいのと、キャラクターの画の背景にプロフィールが入る形式まで島村吉松『絵本八犬伝』によく似た感じ。説明文はこちらの方がもう少し詳しい。最後は丶大法師なのだが、名前が「一大」になっているうえルビまで「いちだい」とふられていたりする・・・。そして13、14ページ目の男性二人が誰なのかわからない。若き日の金碗大輔と里見義成あたりなのかなあ。
「近代デジタルライブラリー」(http://kindai.ndl.go.jp/index.html)でオンライン閲覧が可能。
町田滝司『絵本八犬伝』(金栄堂、1884年) ?
『八犬伝』のキャラクターを名シーンのイラストと文章で紹介。文章が簡潔すぎて、間違ってはいないが原作を知らずに読んだら誤解を招きやすい表現多々あり(道節が定正を討つのに成功したとしか思えないとか)。また石亀屋次団太がいて伏姫がいないという人選も謎。
山本常次郎『絵本八犬伝』(隆湊堂、1889年) ?
原作の名場面のイラストの余白に草双紙風にストーリーが書き込んである。が、絵とストーリーが一致してるのは一ページのみで、ストーリーに絵がどんどん置いていかれ、結果伏姫切腹の絵で芳流閣のストーリーが語られてたりするのがシュール。そのうち絵が過去へ逆行したり(対管領戦らしい鎧をつけた八犬士+義成の絵の次がなぜか小文吾VS房八)、信乃・荘助・小文吾・毛野の四名が敵に囲まれてるらしい原作にないシーンが出てきたりする(背後で走り去る人物はひょーーっとすると道節か?)。この大味さが魅力っちゃあ魅力。
島村吉松(しまむらよしまつ)編『絵本八犬伝』(島村吉松、1883年) ?
『頼光一代記』『白井権八一代記』と三冊セットで明治期に出版(出版者名が編者と同じなので自家出版ということだろう)された草双紙風の短編。1ページ目、義実の画の背景に「里見義実は竜の昇天するを見て里見の家を興し八犬士を臣下となし家富みにける」(原文変体仮名)とあるのを見て、「もう話終わっちゃったじゃん!」と思ったら、次ページからは八犬士一人一人の画とプロフィールが紹介されていたので、物語ではなくキャラクター解説の本ということらしい。といっても信乃の項には芳流閣の戦いのことしか書いてなかったり、道節の項は定正を討つために火定で軍資金を稼いでる話しか載ってなかったりするのだが。デッサンがアレな絵柄もとぼけた味わいがある。
「近代デジタルライブラリー」(http://kindai.ndl.go.jp/index.html)でオンライン閲覧が可能。
牧金之助(まききんのすけ)『里見八犬伝』(金寿堂、1891年) ?
明治期に刊行された草双紙風の『八犬伝』本。小文吾登場ののち荒芽山までのエピソードをすっとばして対牛楼・庚申山を描き、その後親兵衛VS妙椿(素藤いたっけ?)、八犬士昇仙という実にコンパクトな超ダイジェスト版。こんな調子なので最初は挿絵が文に先行していたのがさっさと追いつき追いこしていってしまう(笑)。
総生寛(ふさおかん)『精選艶曲集』(駸々堂、1882年) ?
「義太夫の部」「長唄の部」「清元の部」「常磐津の部」より成り、「常磐津の部」のラストに「八犬伝 富山の段」収録。タイトルのとおり、伏姫が暮らした富山の四季の状景と、八房の気によって懐妊したことを知った伏姫の嘆きを綴った内容。
「近代デジタルライブラリー」(http://kindai.ndl.go.jp/index.html)でオンライン閲覧が可能。
二世為永春水『八犬伝銘々誌略』(第一輯・嘉永五壬子歳季春発行、第二輯・嘉永六癸丑初春 画工 一猛齋芳虎) 草双紙?
伏姫と八房に始まり、『八犬伝』の主要な(一部主要じゃないものも)キャラクターを、ほぼ登場順に、美麗な絵と文章とでプロフィールやその活躍振りを紹介するもの。原作の挿絵を意識しつつ全面的な改変を行っており、たとえば原作では耳に数珠を引っ掛けたアバンギャルドなスタイルで手束を包丁でおどす悪僧蚊牛が、ここでは口に包丁をくわえて手束の帯を踏んまえていたりする。第三輯は刊行されたものか未詳だそうな。
他作品『南総里見八犬伝後日譚』
構成・辻真先 作画・居村真二『コミグラフィック 日本の古典17 南総里見八犬伝』(暁教育図書、1990年) コミグラフィック
「コミックス」と「写真・グラフ」を組み合わせた「コミグラフィック」形式による名作古典シリーズの一冊。マンガの合間に原作の該当部分の挿絵(なぜかわざわざ模写したものを載せてる個所も)や文章、写真、錦絵などがはさんである。親しみやすい絵柄や微妙な効果音などの演出がどことなくコミカル。
辻真先氏他作品『迷犬ルパンと里見八犬伝』
『宮田雅之の切り絵八犬伝』(『別冊太陽』、平凡社、1998年) 画集?
切り絵作家宮田雅之の追悼記念特集号。山田風太郎『八犬伝』が朝日新聞に連載された当時の挿絵を網羅。四色の画面と大胆な構図が、『八犬伝』のもつ妖しさ、闇の部分に見事にはまっている。伏姫にも浜路にもまして美しいのが、少年時代の信乃!荘助とあざを見せ合うシーンは、なんだかアレだな(笑)。他、著名人による追悼文と森田誠吾氏による「八犬伝 作者夜話」がある。
鎌田敏夫『シナリオ 里見八犬伝』(角川文庫、1983年) 脚本
角川映画『里見八犬伝』の脚本。決定稿ではないようで、セリフやエピソードが映画と微妙に違っていたりする。巻頭におさめられた映画の名場面の映像と、スタッフ・キャストの一覧表がおいしい。
別作品『新・里見八犬伝』
深作欣二(ふかさくきんじ)『里見八犬伝』(製作 角川春樹事務所、配給 東映、1983年) 映画
蟇田素藤の軍に滅ぼされた里見家の静姫が、玉に導かれて集まった八犬士に支えられて素藤軍に立ち向かうアクション伝奇。原作を大幅にアレンジし(とくにエロ部分)、後編を主に静姫と親兵衛の恋物語をより前面に押し出している。原作ほどの深みはないが、怪しげなセットや派手な特撮シーン、見ごたえのあるアクションなど盛りだくさんの傑作娯楽大作。『白龍亭』別館に原作(馬琴の)との比較がある。2001年にDVD化(前からビデオは出ていたが)。
参考:鎌田敏夫『シナリオ 里見八犬伝』(角川文庫、1983年)
別作品:『宇宙からのメッセージ』
『里見八犬傳』(東映、1959年) 映画
「里見八犬傳」「里見八犬傳 妖怪の乱舞」「里見八犬傳 八剣士の凱歌」の三部より構成。山中で化け蛇に遭遇した里見義実主従が子犬(八房)を救うため蛇を撃退するところから始まり、数年後、管領軍が里見を攻めた際、その手先として再び里見の城を襲った化け蛇(白比丘という妖女の変化)と八房が相撃ち(爆死)、八つの玉(出所不明)が八方に飛び散り、やがてそれらの玉を手にした八犬士が離合のすえ里見家に集う。以前より評判のみ聞きつつ長く未見だった作品。このたびやっと見ることが叶ったが、いやいや噂にたがわず。伏姫の存在を全く無視した豪快な展開といい、当時としては頑張った(のかな?)特撮といい、笑いどころ満載で楽しく見られる。特筆したい点は多々あれど、書き始めるとネタバレ度が高くなるので、改めて別項を設けて書くこととしたい。(←書いてみました。こちら参照)
『里見八犬伝』(電映、1964年) TVドラマ
全26話、白黒。長らく幻の作品だったが、8月18日よりCS(ホームドラマチャンネル)にて二話ずつ放映が開始された!(放映スケジュールなど詳しくはこちら)。安西の里見攻め→伏姫自害をナレーション中心にざっと見せたうえで、伏姫由来の玉を持つ犬塚信乃登場へ。信乃と浜路のさわやかカップルの仲を裂いて浜路を代官に差し出そうとする伯母夫婦の陰謀から本格的に物語が幕を開ける。TVシリーズだけに毎回引きを作る必要上か、トータルの流れは比較的(第二話現在)原作にそっているものの個々のエピソードはオリジナル度が高い。そういえば犬士の痣が牡丹でなく犬型だったのに驚いた。おどろおどろしさを含みつつも全体的には明朗時代劇な雰囲気が好み。この先どんなオリジナル展開が出てくるかが非常に楽しみ。
↑この作品は平次様、Pulam様より放映情報を教えて頂きました。有難うございます!!
『THE 八犬伝』(咳IONEER LDC、@AB1993 新章@1993A〜E1994F1995) OVA
原作のストーリーをふまえつつも大胆なアレンジをほどこし、数々のエピソードが断片的に挿入される演出や、時に狂気すれすれの危うさを露呈するキャラクターたちが、夢幻的かつオカルティックな世界をつくりあげている。それだけに原作を知らずに見ると、ストーリーがわかりにくいかも。不思議な感動の残る作品。初期シリーズ六話は双進映像から発売、その後「新章」が咳IONEER LDC から発売されるにあたり、二話一本(全三巻)シリーズとしてPIONEERから再発売された。「豆鹿軒」により詳しい情報およびお宝映像あり。
『新八犬伝』 人形劇
NHK総合で1973年から75年まで放映。NHKの人形劇シリーズのうちでも、高視聴率をほこった、今もファンの支持の高い作品。原作を巧みにアレンジした石山透氏の脚本、辻村ジュサブロー(現・寿三郎)氏による陰影をもつ美しい人形たち、坂本九氏の講談調の軽妙な語り等は、子供のみならず大人までも魅了したという。にもかかわらず、当時はビデオテープが高価だったために一話、二十話、最終話しか残っていない(泣)。石山氏による小説版やコミック版も刊行されている。『新八犬伝』については、『新八犬伝をもう一度見ようよ!』(人形劇の映画版や関連図書などの情報の宝庫)および『白龍亭』別館(原作との比較や登場人物のリストなど豊富にして緻密なデータ集)に詳しい。
追記−2003年1月24日にTV版のうち残っている三話分を収録したDVDが発売されました!辻村寿三郎氏や故・坂本九氏らのお話と『新八犬伝』の後番組である『真田十勇士』も併録!詳しくは上記『新八犬伝をもう一度見ようよ!』を参照。個人的には未見だった二十話がやっと見られたのに大満足。
4/19追記−NHK教育テレビの『知るを楽しむ』という番組の2009年3月18日放送分(「人形の命を宿す」)で、辻村寿三郎さんが『新八犬伝』の人形製作についても語ってらっしゃいました。この回を含む辻村さん担当分の内容は、その後NHKからテキストの形で出版されました。くわしくはこちら。(←この番組については平次さんより情報をいただきました。いつもありがとうございます!)
『新八犬伝 第一部 芳流閣の決斗』 (東宝、1975年) 人形劇(映画)
大人気のNHK人形劇『新八犬伝』の映画版。『新八犬伝』サイト『新八犬伝をもう一度見ようよ!』のCarinaさんをはじめとする多くのファンと東京・池袋の「新文芸坐」の関口さんの尽力によって、さる2001年10月6日に「新文芸坐」で、オールナイト上映作品の一つとして実に26年ぶりに復活。人形の製作・操作を担当された辻村寿三郎氏の舞台挨拶も行われた。ストーリーは里見・安西の戦(回想シーンで玉梓処刑の場もある)から古那屋での信乃・現八が丶大とめぐり逢って宿縁を知るところまで(この二人以外の犬士はオープニングで登場するのみ)。伏姫の美しさ、玉梓の恐ろしさ、とにかく人形たちの生き生きと躍動するさまを堪能できる。語りの坂本九氏のさわやかな笑顔がまぶしかった・・・。
追記−2001年11月4日にテレビ朝日系で放映された『グレートマザー物語』が、辻村寿三郎氏を取り上げるにあたり、オールナイトの映像を流すかも、ということだったのだが、結局流れなかった・・・。しかし『新八犬伝』(テレビ版だろう)が二回にわたり計30秒ほど流れた。嬉しい♪
追記2−2003年3月21日に劇場版のDVDが発売されました!あらためて感激。特典として、辻村寿三郎氏と大槻ケンヂ氏の対談および「新八犬伝・フォトギャラリー」も収録。
市川猿之助(いちかわえんのすけ)『スーパー歌舞伎 八犬伝』 (新橋演舞場、1994年4月、初演1993年4月) 歌舞伎
市川猿之助氏による「スーパー歌舞伎」の第四段。原作のエピソードに準拠しつつも、話が進むにつれオリジナル色が濃くなってゆく。「出会い」や「心の絆」が重要テーマで、とくに親兵衛を中心とする終盤の展開は、前世の宿縁にこだわる原作の八犬士の閉鎖性に対するアンチテーゼですらある(『スーパーパフォーマンスアドベンチャー 八犬伝』でも(それがメインテーマではないが)、浜路が犬士でないゆえに信乃とともにいられないことを嘆くシーンがある)。若々しい躍動感がみなぎるエンターテインメント。全体に流れる丶大と伏姫の愛の物語などは『八犬伝綺想』に材をとっているらしい。『白龍亭』別館に原作との詳しい比較あり。『市川猿之助の仕事』『夢みるちから』などにもこの作品への言及あり。
参考:『新編八犬伝綺想』
『市川猿之助の仕事』(『演劇界』増刊 第五十三巻第九号(演劇出版社、1995年)
市川猿之助・横内謙介『夢みるちから−スーパー歌舞伎という未来』(春秋社、2001年)
ショーGEKI大魔王(しょうげきだいまおう)『スーパーパフォーマンスアドベンチャー 八犬伝』 演劇
2001年10月13日〜21日に東京・新宿の「スペース・ゼロ」で公演。「芳流閣の決闘」での信乃・現八の出会いを皮切りに、運命に導かれてめぐり逢った犬士たちと関東管領扇谷定正、さらに玉梓率いる悪霊たちとの戦いを描く。ほとんどのキャラクターがそれぞれの哀しみを背負っており、八犬士はもとより、浜路、雛衣、沼藺、一見コメディーな伏姫や悪の首魁であるはずの玉梓さえも、時に痛々しいほどに哀切である。シリアスな展開の中にも笑いをもりこみ、迫力のある(あるいは可愛らしい)歌と、ダンスや殺陣を中心とする華麗なアクションを堪能させてくれる。私は最終日を見たのだが、歌い、踊り、駆け回る役者さんたちのエネルギーがじかに伝わってくるような熱い舞台で、本やテレビでは味わえないライブの醍醐味というものを再認識させられた。いやあ本当に面白かった。
参考:http://www.showgeki.com/
スーパー一座『花競(はなくらべ)里見八犬伝』 演劇(歌舞伎風)
1991年上演。名古屋を根拠地にする劇団「スーパー一座」(惜しくも去年解散)の「ロック歌舞伎」シリーズの1つ。西沢一鳳の原作(『花魁莟八總』とは別物)を大胆に脚色。衣装、台詞まわしなど基本的には歌舞伎調でありながら、音楽は時々ロック風。玉梓がビキニ姿に打掛?を引っ掛けた姿で踊りだしたり、左母二郎が亀篠?に体当たりされて吹っ飛んだり、芳流閣の戦い(全体にはなかなかの名勝負)の最中に信乃と現八が腕相撲を始めたりとギャグも冴えている。最近になってDVDが発売され、名場面の抜粋のみだが映像を見ることができるようになった(私もこれで観劇。完全版もあるとよいのに)。『八犬伝』ファン必見!
参考:http://www.infosite.ne.jp/super/
↑この作品については平次様より資料を提供していただきました。いつも有難うございます!
立川焉馬『八犬義士誉勇猛(はつけんぎしほまれのいさほし)』(嘉永四年発行、画工 三世歌川豊国) 浄瑠璃
富山の伏姫物語を浄瑠璃化。目録や挿絵には二段目(大塚の段)、三段目(行徳の段)が存在しているが、どうやら肝心の本文は書かれなかったようだ。最初八ツ房(ママ)が景連を倒すとなぜ「いたはしや伏姫は」八ツ房と富山に入るのか説明がないのに笑ったが、あとから木こりの会話という形でそのへんの事情が語られる形式になっていて、なかなか上手い演出だと感じた。内容はほぼ原作どおり。三色刷り?の豊国の挿絵が実に見事。
三条会『八犬伝』 舞台
2009年7月24日(金)から29日(水)まで千葉市の亥鼻公園で上演(上演時間は1時間半ほど)。安西滅亡〜伏姫自害と芳流閣・古那屋会同あたりのエピソードにスポットをあて、後はダイジェスト的な構成。野外のステージを利用し舞台装置も小道具もほとんどなし、役者さんも8人のみ(衣装は主としてTシャツとジーンズ)のいかにも低予算・小所帯のハンデを役者さんの技量(原作さながらの難解かつ古い言い回しの台詞を、明瞭な発声によってきちんと意味が取れるようにしているのはさすが)と斬新な演出で乗り切ってみせている。たとえば円塚山のシーンは主として道節(玉梓、沼藺と1人3役)の語り+荘助の代役?として八房(着ぐるみ)が道節と立ち会うことで表現したり、現八と大角の邂逅は丶大役の役者さんが(芳流閣〜古那屋では現八は他の人が演じていたのに)高所と低所を行き来しながら二人のかけあいを一人で演じたり(大角のときは上、現八のときは下)、一人数役かつ数人で一役を(衣装を替えることなく)演じているため、今は何の役なのかをわかりやすくするために要所要所で玉の文字が入った旗を振ったり。原作を知らないとさすがにキツいとは思うが、『八犬伝』ファンには一見の価値あり。
参考:三条会ホームページ(http://homepage2.nifty.com/sanjokai/02.html)
↑この作品は平次さまより存在を教えていただきました。いつも有難うございます!
西沢一鳳(にしざわいっぽう)他『花魁莟八總(はなのあにつぼみのやつぶさ)』 戯曲(歌舞伎)
天保七年正月二十四日初演。大芝居における『八犬伝』歌舞伎化作品の嚆矢。全八幕。とりあえずさわりの筋を説明すると――安房の領主里見季基に仕える悪家老・山下定包は、弟・麻呂信時や隣領(?)の安西景連らと謀って御曹司・侍従之助義成をそそのかし廓通いにふけらせる一方、里見の家宝村雨丸と名笛嵐山を密かに奪う。さらに定包は近く上洛する義成の供を決めるためと称して忠臣金鞠(ママ)大輔と大塚番作に試合をさせ仲違いを狙う。一方大輔の許婚曳手の妹単節は、貧しさから売られた廓で傾城玉梓として義成に愛され、密かに男子(又太郎義実)を出産。赤ん坊は単節の父の里見家浪人・那古七郎の手で育てられていた・・・。あはははは。何だかキャラクター・アイテム名のほかは別の話のようである(オリジナル部分の元ネタについては河合眞澄「『花魁莟八総』」に詳しい)。三段目からは比較的原作に忠実になるものの、八段目でまたも弾けてくれる。毛野の仇討ちまでで話が終わっているが、そもそも原作自体まだ完結してなかったのでやむをえないか。
渥美清太郎編『日本戯曲全集 第二十五巻 小説脚色狂言集(内表紙では「狂言篇」となっている)』(春陽堂、1929年、非売品)
2006年8月8日〜26日、東京の歌舞伎座で上演(私は8月16日に観劇)。発端(富山)、序幕(大塚屋敷)、二幕目(円塚山)、三幕目(芳流閣〜行徳〜庚申塚)、大詰(対牛楼)の構成。原作のエッセンスを大切にしつつ、随所に笑いをもりこんだ見所沢山の舞台。美術や衣装も実に美しかった(芳流閣の場などは最初と最後で客席から嘆声が漏れていた)。以下見所を一部紹介(結構ネタバレなので後半部は反転して読んでください)。
・円塚山のラストでいきなり(小文吾・毛野が登場)。
・文五兵衛が代官に呼び出された理由が、(額蔵処刑を知らせるため)
・対牛楼のラストで唐突に(八犬士が勢揃いする。しかも敵は山下定包)
「脚色 渥美清太郎」とあるので、『国立劇場上演台本集 5』収録の「八犬伝」が下敷きらしい。言われてみれば随所に面影が・・・。
参考:「歌舞伎座ホームページ・八月興業情報」(http://www.kabuki-za.co.jp/info/kougyou/0608/8kg_1.html)
中村JAPANドラマティックカンパニー『冒険大活劇ミュージカル マッスル八犬伝 −誕生−』 舞台
2009年8月5日〜11日まで新宿のスペース・ゼロ(全労済ホール)にて上演。江戸は元禄時代に転生した六代目八犬士が運命の導きにより集結、江戸を脅かす盗賊「闇の八犬士」の陰謀に立ち向かうところへ、さらに赤穂浪士の仇討ちがからんでくる・・・という、ストーリー的にはいくぶん『忍法八犬伝』を彷彿とさせる。「マッスル」のタイトル通りの華麗なアクロバットの連続に、序盤の見世物小屋のシーンで早くも心を奪われた。元アスリートから構成される劇団だけにその身体能力は圧巻の一言。全編通して頻出するバク転やリフトなどの技の多くはストーリー上の必要性はないものの、特撮技術に拠らない純粋に肉体の鍛錬から生み出されるアクションはそれ自体が感動的であり、作品全体に勢いと活力を漲らせる効果をあげている。また蛍光色を大胆に取り入れた衣装や小道具(マキビシ状の紙?で作られた雪がライトにキラキラと輝いてそれは美しかった)、ライトの使い方(一幕終盤の殺陣で、激しくライトを点滅させ明暗のコントラストをはっきり出すことによって、あたかもコマ送りのような効果を出していたのには驚いた)、いちいち格好いいBGM(なぜロビーの物販にCDがないのだ)、観客のあおり方など、何度でも繰り返し見たくなるような実に素晴らしいお芝居だった。1週間のみの上演なのがもったいない。ぜひDVD化して頂きたいものだ。
参考:http://www.enjoytokyo.jp/OD004Detail.html?EVENT_ID=251663
↑この作品については平次様より存在を教えていただきました。いつも有難うございます!
『碧也ぴんくオリジナルアルバム 八犬伝』(ポニーキャニオン、1993年) イメージアルバム
碧也ぴんく版『八犬伝』のイメージアルバム。インスト六曲、ボーカル四曲(うち二曲は碧也氏の作詞)から構成。時に壮大な時に繊細な雰囲気の音楽もさることながら、歌詞カードの後半に碧也氏自身による八犬士のキャラクター解説が入っているのが拾いもの。「キャラクターファイル」とだぶらない記述も多いのがおいしい。またコミックスに収録されていないカラーイラストも数点載っているなど碧也ファンには実におすすめ。もう手に入らないかとあきらめていたのが先日偶然見つけたときはそりゃあ嬉しかったもんだ。
『八犬士の超こわ〜い(?)はなし』 ドラマCD
OVA『THE 八犬伝』のボーカルCD購入者への全員プレゼントのCD。八犬士が百物語をするというだけの内容だが、(OVA版の)個々のキャラを生かした語り口とコメディ仕立てのストーリーで、OVAファン、各声優さんのファンなら大いに楽しめそう。声優さんが素で笑ったり噛んだり回りがそれにツッコんだりしてるのもそのまま収録するライブ感というかいい意味でのゆるさが魅力。しかしこんな企画誰が考えたんだ(笑)。
鷲見國仁『長寿千年/南総里見八犬伝〜その名八犬士〜』 歌謡吟詠
2007年5月23日にコロンビア・ミュージック・エンタテインメントよりリリース。B面に浪曲風『八犬伝』の歌(八犬士個々の活躍を褒め称える内容)とそのカラオケバージョンをおさめる。1番が信乃、2番が毛野、3番が現八で終了なのが残念。全員分のテーマがほしかったな・・・。
↑この作品については平次様から存在を教えて&音源を提供して頂きました。ありがとうございます!
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