一羽の紋白蝶が
横断歩道のうえを飛んでゆく

それを
街路樹の葉っぱのうえにくっついている
あまがえるが おいしそうに
みつめている

ホカ弁帰りの ぼくは
サケ弁当の大盛りをぶらさげて
横断歩道のうえ
紋白蝶とすれちがう

あまがえるの視線を
ちょっと意識しながら――


Fantasia

夜更け
北の大陸のほうから
巨大な生きものの気配がする
氷壁に閉ざされた太古の巨象
その つぶやきのようなもの
――さびしい
――そう……ぼくもだよ

声なき声で
ぼくらは語りあう
数百万年の孤独を
――きみはなぜ ぼくの孤独が分かる?
――数百万年ぶんの孤独を生きてきたからさ

氷のなかの巨象の
かすかに開かれた眼
ぼくの微熱をおびたため息
この夜が
永劫に続けばよい
――闇はいつ果てるのか?
――我々が真に目覚める そのときまで



小話

氷河に眠る白鯨が
おおくま座と交感する夜
わが家のダックスフントは
彼の夢のなかで
そら飛ぶ魚になり
みか月に腰かけてかすみ草を食べている
みどりいろのロバに出逢う
こんな夜
わたしはなすすべがなく
コーラを飲みながら本を読み
何だか げっぷばかりしている



七月

新しいレモンのような朝
その朝を
きゅっとしぼれば
ひかりの果汁が
まぶしい


sonatine


夕暮れ
少年は
コロを
砂浜に埋葬した

ビスケットが大好物だったコロは
今朝
犬小屋の毛布に小さくうずくまって
つめたくなっていた
一四歳と二ヶ月だった

夕暮れ
少年は
コロを
夏になると いちめんに
浜昼顔の咲きみだれる
白い砂浜に埋葬した

夏には まだとおい
三月はじめのことだった


無言歌

眠れなくて
ひと晩中
ギターを弾いて過ごした

明け方
深い海の底にも
かすかに陽のひかりが差しこむように
いま わたしのこの部屋にも
すきとおった陽のひかりが差しこむ
ギターは そしてその朝を
ひどくしずかなものにする

弾く曲が絶えたわけではない
ただ わたしはもう
眠りたくなっただけだ
最後のワン・フレーズを
弦を撫でるように弾き終えると
わたしは そのしずけさのなかに
ギターを抱いてうずくまる
感傷は もはや浄められ
うつろな疲れだけがのこり
わたしを深い眠りに導く


十二月


ガラスのテーブルのうえにうつる雲を
わたしは その日一日
見つめて過ごした
ガラスのテーブルのうえのいわし雲の流れは
窓のそとのすきとおった海に
いつまでも続いていた

わたしは籐の椅子に腰かけ
わたしの膝のうえには
古びたトーヴェ・ヤンソンの絵本が
いつまでもたたまれて 在った

窓のそとの海に夜が訪れると
わたしはガラスのテーブルのうえに
小さなランプをともして置いた
そして そこにうつる小さなあかりと星たちを
わたしはいつまでも見つめ続けていた