月刊石果のページ



石果2009.10月


  彼岸花

         新谷 まこと


この道のはじめの一本曼珠沙華

鰯雲もう幾年か海を見ず

メールにて受けたる訃報いわし雲

介護車のけふも来てゐる木槿かな

あいさつは葉越し花越し木槿垣

小鳥来るおほきな窓の児童館

大食ののち芋虫の瞑想す

庭先を蝶去りがてに秋彼岸

彼岸花茎たくましき花の果



石果2009.9月


   葛原

         新谷 まこと


草の根は土に執せず今日の秋

つまべにや夕雲染まるひとところ

昨日より大人びし犬鳳仙花

秋扇たたみて不意の別れかな

葛原の風吹き残す人の道

坂登りきるとき風の法師蝉

処暑の窓ハーブが水に根を下ろす

豊年や蜂も草生に賑はしく

芙蓉初花よそよそしくも後ろ向き




石果2009.8月


  空蝉

       新谷 まこと


夕刻の晴間を賜ふ半夏生

梅雨満月垣に薫れる花かづら

蜘蛛の脚絵ガラスの緋を渡りけり

綻びもなく蜘蛛の囲のうらおもて

閑居なりその一隅を蜘蛛に貸し

昼顔や刻をさらさら消費して

特売の広告大いなり土用

越ゆるべき山見えてくる帰省かな

手に包む空蝉といふ小宇宙

皆人のひむかし仰ぐ虹立ちて



石果2009.7月


   水無月

         新谷 まこと


茱萸の実の完熟の赤梅雨兆す

この雨の止むをふれゆく梅雨の蝶

風立ちて梔子の香の密に疎に

荒梅雨を点して火災警報器

梅雨穂草夕べの風に素直なる

飼はれゐてあるじの貌をして鯰

水無月のすすき真つ直ぐ伸び盛り

枇杷たわわ屋根に上れば叱られて

蛍ぶくろ濃きむらさきが終の花



石果2009.6月


   小判草

          新谷 まこと


天水にきれいな空や愛鳥日

金泥の経文のごと羽蟻立つ

ほどほどに遠き隣人さや豌豆

町ぢゆうに木花開耶夏初め

川波の海へ夏へと光りけり

夏浅し片手でひらく文庫本

蝙蝠飛ぶ闇の欠片の翩翻と

わかち合ふひみつ幼し草苺

雨雲の端よりこぼれ棕櫚の花

小判草老成の金まとひたる

大いなる虹慶びて小市民



石果2009.5月


   桑の花

          新谷 まこと


一つ灯に桜むらがりゐたりけり

亡き人にまじりて歩く夕桜

灯の多き一画さくら祭かな

花踏んで犬の足裏の柔らかき

芥さへ光となりぬ春の波

八重桜一本にして花吹雪く

街なかの無為の荒地や桑の花

眠る蝌蚪騒ぐ蝌蚪みな育ちけり

黒虻のくまなく覗く茱萸の花

橋の名を残す緑道つばめ来る



石果2009.4月


  諸葛菜

         新谷 まこと


四つ角に待ち伏せてをり沈丁花

変りなき時を願ひつ雛納

啓蟄や出張鍵屋の大鞄

真つ白な初蝶に雲まぶしき日

初蝶の過りし後を雲の影

諸葛菜車窓に増えて駅近づく

公園の亀に名を付け春休み

店裏に菓子焼くにほひ春夕焼

地下鉄も止まつてをりぬ春疾風



石果2009.3月


   春来る

       新谷 まこと


日を包む雲ふかぶかと春来る

春立つと一人語りの鴉かな

雨粒の枝に燦々芽吹き前

春光や虹生まれたる壜の底

バレンタインデー甘味も愛も控へ目に

神在りて山揺るがせり杉の花

星おぼろ急行停まる隣町

日にぬくき石に寄り添ひ蕗の薹

春遅々と古紙古雑誌回収車

来る世を何に託さむ木の実植う



石果2009.2月


  冬萌ゆる

        新谷 まこと


佳き言は重ぬるが好し福寿草

七草粥母の厨に音のして

影の先づ土に降りくる寒鴉

枝々のけふ古びたり寒の雨

寒夕焼定座に星の光り初む

送電線下立入禁止冬萌ゆる

裏山に何ぞこゑ立つ牡丹鍋

一駅の電車の窓や日脚伸ぶ

瑞々と空の藍色寒の暮



石果2009.1月


   時雨雲

          新谷 まこと


六階の窓に山並寒波来る

冬木立忘れ木の実の火を灯し

短日や音唐突に終楽章

わが屋根を濡らして去りぬ時雨雲

こぼれ散る山茶花や人住み替り

冬の星一信持ちてポストまで

寒燈をひとつ消しては星増やす

風道に並ぶ師走の籤売場

枯芝に文殊の智恵の鴉どち



石果2008.12月


  散紅葉

         新谷 まこと


切り抜いておく立冬の空の青

枯菊の枯れきるまでを日の匂ひ

鵯雀目白一樹に冬日和

冬うらら天寿を記す喪のはがき

粛々と家毀たるる神無月

時雨忌の傘立に傘古りにけり

吹き寄せに遠き近きの散紅葉

ゐのこづち枯れて行き逢ふ人もなし

新築の間の古屋の石蕗日和



石果2008.11月


  零余子

        新谷 まこと


水神と石に文字あり秋の蝶

薄紙のさくらが闇に御命講

鳥渡る運河の水を青くして

川波も数珠玉もよく光る昼

笛復習ふ音の切れ切れ秋の河

草紅葉地球ただ今自転中

近道と言ひては零余子こぼし行く

賑やかに木の実ころがる女坂

さよならの声して風の木の実かな

血圧を百日測り秋の果




石果2008.10月


  碇星

         新谷 まこと


白露けふ玉のつぼみの実葛

旅の夜のコップに挿して野菊かな

もう窓を閉めませうかと訊く無月

碇星眠りの浅き街の上に

秋の蝶水の光に見失ふ

覗きみる空深々と水澄めり

すれ違ふ犬の挨拶夕化粧

蜻蛉来て石に居ずまひ正けり

棚の上の忘れ団扇や地震に落つ

秋霖や殯のやうに粗大ゴミ




石果2008.9月


  盆東風

          新谷 まこと


みんみんの樹に大粒の通り雨

初秋の一日を去らず草の蝶

涼新た箱にて届く天然水

盆東風や切れ切れの藻の流れゆく

みささぎと伝ふる丘や葛の花

子別れの烏ぞ今や風に発つ

地に拾ふ別烏の羽一枚

草の秀に花らしきもの処暑の雨



石果2008.8月


   夏落葉

         新谷 まこと


不確かな明日の約束梅雨の星

音遠く一人働く草刈機

自然薯の蔓八方に送り梅雨

時計草茶房のドアのひらかるる

雲の間にためらひてをり梅雨の雷

夏暁やけふを占ふ雲のいろ

水草の影濃くなりぬ金魚欲し

絵解きにて末世末法夏落葉



石果2008.7月


   桜の実

          新谷 まこと


枇杷の実に昇りて怖き庭梯子

青梅の素直に落ちて雲隠れ

船べりに水母増えきて接岸す

昼顔や雷の予報の出でし午後

万緑に買ふ宝くじ当りさう

裏路地はただの抜け道梅雨穂草

子のゐない児童公園花石榴

一の枝に昼を過ぐしぬ蝸牛

桜の実空の南の暗きかな




石果2008.6月


  山法師

        新谷 まこと


薔薇紅し記憶に誤差のある二人

五月来る葉ごとに虫の子の育ち

胸にある仔犬の重さ夕薄暑

山法師朝風に白究めたる

雨連れて雲の下りくる山法師

普段着の雀つどへり若楓

花楝降るや幼は空を見ず

虹抱いて噴水風に撓みけり



石果2008.5月


   母子草

          新谷 まこと


母子草上手に絮を増やしけり

川舟の波ひとしきり蘆の角

口中にミントキャンディー夜の桜

かの春を語れば白き花の雲

花曇さくら観て来し人と遇ふ

別れ路のもう一方の山桜

本棚にくらがりのあり春蚊出づ

行く春やねむれる珠のだんご虫

桜蘂降る日仔犬の名の決まる



石果2008.4月


   春夕日

        新谷 まこと


春雷や口ひらく地下駐車場

花苗を置いたる土の匂ひけり

水出でて小貝の歩く春の雨

春望や見知らぬビルのよく光り

愛犬の遺影に置きぬ雛あられ

プラタナス三月の実を黒く提げ

島守の畑の一叢花菜かな

柳絮とぶまでの幾日や沼の波

常陸とはたひらなる国蓬生ふ

この一日暮れて大きな春夕日

多摩川を越えてむらさき春夕日




石果2008.3月


    風光る

          新谷 まこと


上席に猫座りたる日向ぼこ

凡人の凡人誘ひ日向ぼこ

屋根歩く鴉建国記念の日

くれなゐを被て如月の木の芽たち

如月の地にきらきらと雀かな

こぼれ実をおほふでもなく春の雪

門出でて思はぬ風の春ショール

水鳥の分つさざなみ風光る

二月果つ踏まれて古き楝の実



石果2008.2月


    冬の雨

          新谷 まこと


初暦五月の旅に誘はるる

子の年のねずみ可愛ゆき初暦

初鳩のふくらむ胸の薄茜

人日や人語を解す鴉来て

触るる者なき寂しさに龍の玉

寒禽や皮一枚の残り柿

ポットより湯の滾る音雪催

千両万両朝餉済ませし鳥の影

火を止めて湯を宥めをり冬の雨

黒松の実生立ちたり春隣



石果2008.1月


   木守り

         新谷 まこと


川筋の細る日和や冬すすき

忘年会果てて最寄の駅二つ

夜の落葉おほひて朝の落葉かな

歳晩の紙むしやむしやとシュレッダー

空箱にしまふ空箱煤払

ひととせの重さの程の日記買ふ

星々の定位置にありクリスマス

木守りとなるべき風姿正しけり

大年の夕日華麗に街の果



石果2007.12月


   冬桜

        新谷 まこと


木枯のまだ来ぬ街の濁りかな

鴨の池人の数より鳥の数

立冬のまだ落ちたくはなき木の実

柿落葉どこかの猫が踏みに来る

庭を訪ふ猫のまるがほ神無月

湯豆腐や一人欠けたるには触れず

冬桜人の名のみな懐かしき

ひつそりと人住み替る神の留守

冬の虫無音の昼となりにけり




石果2007.11月


   星飛ぶ

       新谷 まこと


爽やかや烏と同じ雲を見て

山の湯場音まろやかに木の実落つ

朝の湯に沈みて青き小楢の実

花の名を連ぬれば詩となる花野

うかと来し花野に道を失へり

どの顔も毒ありさうな茸山

星飛ぶや最も黒き山の闇

鉛筆を森に失くして秋時雨

残る虫行くほどに道細りけり

見送りしもののあれこれ後の月



石果2007.10月


  榧の実

          新谷 まこと


水騒ぎ二百二十日の通り雨

秋の蝶花舗に長居をしてをりぬ

秋風や乾きしままの犬の皿

犬の亡き庭の穂草の長けにけり

草の葉を捨てて別るる秋の川

榧の実のまだ青き香を持ち帰る

釣船草嵐の痕のそこここに

竜胆の濃し雲の影過るとき

秋声や山に隠れて神の山



石果2007.9月


   夜の秋      

         新谷 まこと


炎天やポストの口の半びらき

四つ辻に居座つてゐる大西日

麦藁蜻蛉昨日の枝に今日も来て

往来の風に匂へり灸花

石を踏み水を踏みゆく裸足かな

夏水仙日めくりの如花終る

夜の秋の電子辞書より電子音

地蔵盆小さき生きもの贖はれ

秋暑し蝶よりも濃き蝶の影



石果2007.8月


    貝風鈴

          新谷 まこと


夕涼み魚のかたちの雲流れ

西空のみづいろ淡し梅雨の蝶

梅雨薄日葉かげに密と虫の恋

河童忌の人の世を風颯々と

花柘榴訳ありの人住むといふ

木々の根に水ゆき渡り大暑かな

貝風鈴なぎさ歩みし日々のこと

台風の消息を聞く夜涼かな

橋上に空ひらけたり大花火





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