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たったひとつだけ、怖れている事があった。
ふぁ〜あ。よく寝た〜あ〜いい天気ですね〜……はぁ!? こんにちは皆様、お久しぶりです。ぃやぁ本当にお久しぶりです。わたくし、冬眠しておりました。 いや〜〜よく寝ておりましたよ〜皆様はいかがお過ごしでしたか。もうかれこれ……何年でしたかね? 一年は経ちましたかね? いやぁ〜さすが皆様! お目が高い! このわたくしを呼び戻してくださるなど…… ぇえ!? わたくしじゃない!? 呼んでない!!? 引っ込んでろ!? 皆様! わたくしと言えば火女、火女と言えばわたくし!! 間違いございません!! どうでもいいから永眠してろ!? ひどすぎます皆様〜〜 「絽〜火! 絽火! ぁあ君たち、いいところに、絽火を見なかっ」 絽火という単語に固まる子供たちに、口を閉じた。またあの子はどれだけ子供たちを脅したのだろうかと頭を抱える。 「また何かしたのかい?」 「なななにも!?」 「ちょっとのぞきに行ったりとか!」 「ちょっと後ろから石を投げてみたりとか!」 「してない!」 「したのかい」 ずごーんと、子供たちが沈んだ。 「だってー」 「鳥さんもいないしー」 もごもごと言い訳をする子供たちの頭をそれぞれ撫でた。するとほっとしたのか、ぼそっと、弱い声で言う。 「だって、遊んでくれないし……」 よしよしと頭を撫でながら、“長”は厳しい顔で遠くに視線を向けた。 「何をしているのかね。あの子は」 と、小さくよいしょと、掛け声が聞こえた。視線の先、持ち上げた荷物を抱えなおして、彼が歩き始める。その足元を行く黒猫が、足早に進む。 その彼が、通りかかった。 「ぁあ火緒李。ちょうどよかった」 「長?」 「火緒李だー!」 ぐしゃっと、音がした。青年が子供三人に潰された。あ〜あと、もう何かをあきらめたかのように黒猫が前足を折って顔に当てている。 「だー!」 「よかったね。遊んでもらいなさい」 「うん!」 「“長”〜〜!!?」 『主、あきらめろ』 「メタ〜〜!!」 「猫〜!?」 ぴょんっと、黒猫が飛び跳ねる。ひょいひょいと子供の合間をぬって、距離を取る。 「む〜」 子供は不満そうだ。 「メーターぁぁあ!!?」 火緒李の叫びが悲痛だった。 『散歩に行く』 しかし、彼の主獣は、さくっと主を置いてきぼりにした。 さくさくと道を歩く黒猫がふと、足を止める。 (あの娘……) メタはいまだ絽火を認めてはいなかった。そう、パラが主と敬う。絽火を。 遠くで、感じた炎の気配に違和感を覚える。もう日常だ。 『だから、嫌いなのだ』 苦々しい、言葉。 ファイアに愛されて、パラに認められた娘。だからこそ。だからこそ許せない。 またひとつ、炎の気配と、地響き。揺れ動く、大地。変わるもの。 変わらないもの。 『ここは、そういうものばかりか』 自分も、その一人だと。 燃え上がる炎が、渦をまいた。高く、強く、荒々しく、そして何かを、隠すように燃え上がる。 息荒く、頬を伝う汗をぬぐいもせず、彼女が肩で息をしながら腕を上げる。短い言葉、燃え上がる炎。 崩れる、岩場。轟く轟音。 彼女の動きが、止まった。がくりとひざを折って、短い息を何度も繰り替えし、よろりと立ち上がる。まるで疲れていることに頓着がない。 再び、伸ばした手の先に炎が浮かび、四散した。 所詮、人にも術師にも、自由になるものなど限られている。 ぐらりと傾くからだを、支えるはずの足が意味をなさない。どしゃと、音がして、彼女はあがいた。 仰向けに体を回して、青い空を見上げる。乾ききった空気。立ちはだかる岩。どこまでも、青い青い空。 「……パラ」 涙が、乾ききった大地をぬらした。 「だー!」 「つーかまえた!」 「た!」 「つぶすなーー!!」 やはり、火緒李は遊ばれていた。 ですよね〜彼が遊んでくれるよりも、彼で遊んだほうが楽しいと知っているんですねよね〜 うんうん。賢い子供たちですねぇ〜わたくしに似て。 最高です。世の中捨てたものじゃありません! そう、あれは昔、最初に拾った玩具の名前は…… 「おりゃ!」 潰されていた火緒李ががばりと起き上がる。上に乗っていた子供たちはころころと転がった。 「む!」 「だめだよー」 「なんでだ」 こきこきと体をならしながら、火緒李は自分の扱われ方の理不尽さを嘆いていた。 「おかしいだろうが!?」 「まったくー」 「ぜんぜんー」 返ってきた無邪気な答えに、がっくりと肩を落とす。こんな時に止めを刺す一言を言ってくれるメタがいない。 「だー! 大人で遊ぶな!」 「やだー」 この……と、火緒李の顔に亀裂が走った。 「ふざけんなー!」 「追いかけっこだー!」 三人の子供がちょこまかと逃げ出す。そのうしろを、腕を振り上げた火緒李が追っかける。 平和な光景ですね〜うんうん。 はっ! そうです皆様、先ほどの続きですが……ぅぎゃぁーーカットの対象にーー!! 「……ダイン?」 呼び出して右手で握っていた鎌が拒否するように形を崩す。揺らぐ炎が、答える。 「大丈夫よ」 その言葉は、ただの言葉と、知っているようだ。 「平気よ」 平気でなかろうと、大丈夫でなかろうと、いつでも、いえる言葉だと、知られている。 「ちょっとダイン」 だが、声は「いいえ」だ。 「ダイン、怒らせないで」 一瞬、炎がゆらいだ。だが―― 「ダイン!」 パンと、傍にあった小さな岩が砕ける。 「そう、それならこっちにも、考えがあるわ」 一瞬にして膨れ上がった気配が、かすかな大地の揺れと変動を伝えてくれる。 「な」 なんだと、なぜだと、思いながら、がばりと振り仰ぐ、その先。――いる。 ぐっと、服を強く引かれた。見下ろすと、今にも泣きそうな、三人の子供がしがみついていた。 問いかけるようにしゃがむと、かすれた声で教えてくれる。 「絽火、こわいよぉ」 「どうして、遊んでくれないの?」 三人に“長”のもとに戻るように伝えて、走り出した。 『やれやれ、ようやく動いたか』 建物の上から下を見ていた黒猫がため息をつく。そして、厳しい視線を向ける。その先に。 「メタ!?」 突然頭の上にふって地面に着地したその存在に、あわただしく走っていた火緒李が驚く。 驚いたのか、頭に手を当ててさすっている。 『遅い』 「ぇ」 聞き返す間もなく黒猫が先導する。 「メタ、絽火が苦手じゃなかったのか?」 その言葉に、黒猫は主と呼ぶ存在を振り返って、睨んだ。 空を覆う青は、動く。白い雲が流れる。どこか、不穏。不安定な天気は、望まれたものか、呼ばれたものか。 それとも、きまぐれか―― 炎の気配が強く、途絶える事のない場。彼女の訓練場であり、誰もが近づかない場所。 それでもそこにやってくるのは、恐れを知らぬ子供と、理由を知る“長”と、そして彼女と同じ境遇の彼だけ。 岩波は、すでに、彼女によって崩された。足元を阻む岩ですら、粉砕される。細かい砂が、降り積もる。足跡を隠す、砂。 まるで、何もなかったかのようにそこだけが、空く。その場は、広がっていく。 また炎が、上がった。 「はでだなー」 『主』 ほけーっと感想を述べる火緒李にしかし隣の黒猫は辛らつだった。棘が突き刺さる。 「メタ、やっぱり絽火がきにな」 『ならん』 うそだーと、言いかけた火緒李の言葉は、次の炎にかき消された。 「最近、ずっとだ」 途端静かな言葉に、メタも何も言わなかった。 まるで、炎が泣いているように。 くらくらと、休息どころか当分の暇を求める頭が回らない。ふらつく体を支える足の意味もわからない。 何をしているのか、わからない。 熱いのは炎なのか、自分なのか。火族に籍を置く自分が、火に焼かれる事など、あろうはずもないのに。 その時はもう、わからなくなっていた。 また生まれ、四散する炎。なんども、何度も、なんども。繰り返し。 暗雲が運んできた雨と混じって、蒸気が生まれる。 しかし、何度繰り返そうと、望むものは、現われはしない。 それが、わからないのか―― 岩場の谷間、山の上から、ピシリと不穏な音が響く。それに彼女は、気がついていない。しかし、次の瞬間。 崩れた岩が、重力に逆らわずに落ちてくる。 「――ほのっ」 大地の揺れに、体が傾く。伸ばした腕が、落ちる。 落ちるのは、岩。人の体など、もろいから。 死ね、ない。 「ファイヤー・バースト!」 大きな爆発が、私の身もろともすべてを吹き飛ばした。 雨が、降る。 立ち込める暗雲が、激しい夕立を運んできた。 「うわー」 『………』 雲行きが確実に怪しいのは、自覚していたが、地面に向かう雨の痛いこと。顔にぶつかり、目を開けていられない。 メタは心底嫌そうに体を震わしている。 「ふってきたなー」 『最悪だ』 彼らが雨に辟易していたその時、何かが崩れるような大きな音と共に、一段と強くはじけて四散する炎が、感じられた。 「――絽火?」 ふと不安にかられて、火緒李は走り出した。 ぱちぱちとかすかに燃える炎が、雨にかき消される。燃え上がっていた炎が力なく消えていく。地を潤す、水。流れる川。 崩れた岩に囲まれるように、絽火は座り込んでいた。かろうじて伸ばした左腕が、彼女の口にある。 笑っていた。 どうしょうもないと笑っていた。自分の力のなさを、自分の蒔いた種の重さを、笑っていた。 かなしくて、苦しくて、笑っていた。 低い声で、すべてをあざ笑うかのように。 本当に笑えるのは、自分自身―― 雨が目に入って視界がかすむ。悲痛な笑い声が、徐々に小さくなっていく。 ぁあ、雨が、泣いている―― だけど本当に泣いているのは―― 「絽火! 絽火!」 声が、雨の音に負けずと聞こえてきた。よく聞きなれた、いつも聞いている声。 重いまぶたを開けるのと、自分の顔に当たる雨の勢いが弱まった気がした。覗き込まれていた。 「火緒李?」 あきらめの混じった声だった。絶対に、くるのだから。 いつだって、一人でいたい時には、と、視線を動かして、探す。いない存在を。自分の中で、どれだけ、その存在が大きさを占めていたのか。どれだけ、支えにしていたのか。 だけど、いない。 あの日、落ちていく姿を見ていたではないか。力なく姿を変え、四散した姿を。 二度と、答えてくれなかったら、どうしよう。 「大丈夫」 と、力強い言葉が聞こえてきた。 器をいっぱいにするように溢れる雨に混じって、流れていたもの。 「大丈夫だ」 怖かった。あの地面に落ちていった姿。 怖れていた。二度と、呼び声に答えてくれなかったら、どうしよう。 「大丈夫、絽火?」 肩を揺さぶられる。はっきりと、言い聞かせるように。何が、大丈夫だというのか。 「パラ、が」 落ちたのだ、その身を、雷に焼かれて。助けられなかった。ただ、送り返すことしか出来なかった。 いくら力だけあっても、助けたいものは助けられなかった。 「パラが!」 覚えている、その身で、私ともう一人をかばって、落ちた。 「絽火」 ぐいと、引かれた。抱きしめられているのだと思うまで、時間がかかった。 「大丈夫だから」 「なにが」 気休めも、いらない。 会いたいと思う気持ちの強さと同じだけ、慈しまれていると火緒李は知っていた。あの、赤い鳥の瞳から。 だから、確信していた。 「呼ぼう」 「でき、ない」 かすれた声を、火緒李は聞いていなかった。こつんと、二人の額がぶつかった。 「おちついて、思い出せ」 焦点の合わない目で、絽火が火緒李を見ていた。 「パラは、友達だろう?」 「見捨ててしまった」 「だったら、謝ろう?」 なんてことないようにおどけた、言葉。 「リプライド!」 絽火が口を開くより先に、火緒李が詠唱した。驚いた絽火に続きを促すように、火緒李が笑う。静かに、絽火が引き継いだ。 「赤き炎よ舞い降りて、我に手をかせ永遠に。 日高く輝くこの時間。 炎よ我に従いて、呼び出し現れ燃え上がれ! 我の歩みを照らしだせ!! 現れよ火鳥(ファイアー・バード) パラ!!」 炎が、現れた。燃え上がり、浮かび上がる。そして収縮して、その姿が固まる。 赤い羽根、舞う火の粉。 その力強さに負けるかのように、雨が、止む。雲が遠のく。 空を赤く彩るのは、火鳥。 「パラ……?」 『主』 空を舞うパラと、いまだ火緒李に抱きしめられたままの絽火が目をあわせた。その瞬間、 「ぎゃぁ!?」 火緒李が、パラに弾き飛ばされた。 『主』 「パラ!」 何も拘束するもののいない絽火に、パラが向かう。絽火が手を伸ばす。 本来の姿であるパラの体に絽火が抱きついた。 「パラ……パラ!」 『主』 擦り寄ってくる頭に手を伸ばして、絽火がパラを撫でる。 「よかった、無事で」 『主も』 泣いていた絽火が笑う。パラも元の姿になってその肩に乗る頃には、火緒李の存在はすっかり忘れ去られていた。 舞い上がった炎に、雲が吹き飛ばされた。赤く染まった空、夕暮れ。静かに、夜が下りてくる。 振り切った雨と、洗い流す水と、そして照らす、炎。里子が、眠りにつく、静かな、夜。 『……ずいぶん迷惑をかけたな』 『本当だ』 暗闇の中、岩の上に座り込んでいた黒猫に赤い鳥が声をかける。羽ばたいた羽をしまって、その隣に降り立つ。 『もちろん、主であれば当然だ』 『……』 その、迷惑をかけたことに対してですらそうあるべくという言葉に、メタは静かに怒りを覚えた。 『それで、その主はいいのか』 メタは、知っていた。この鳥がどれだけ、あの主を大切にしているか。だからこそ出た言葉は、絶大な威力を発揮した。 『……』 押し黙った火鳥の視線の先。その部屋には、二つの影が、いるはずだった。 「あの〜」 「なに」 「……絽火、さん?」 「だから何」 いやこっちのセリフー 火緒李は、途方にくれていた。休もうと部屋にかえってくれば、中央の椅子に陣取るその人は―― 「どうしたんだよ、いったい」 ここ、俺の部屋なんですけど。 そんな意味をこめて言うと、ふっと、絽火が押し黙った。 「……?」 長い沈黙に、火緒李は頭の上にはてなマークを浮かべたまま…… 「昼間は、ありがとう」 そしてずざっと飛びのいた。 「なによ。その態度」 絽火がいらだった。 「ろろろ絽火さん?」 「なに」 何か悪いものでも食べたのではないか、いやそれより、これは本当に自分の知っている絽火なのかとかなり失礼な事を考えている火緒李のことを見越したのか、絽火はため息をつきながらも口を開いた。 「ありがとう」 もうやけくそなのか、ふいっと、それだけ言った絽火が顔をそらした。心なしか、耳が赤い。 火緒李は、何かを飲み込むように考え込み、そして動いた。 絽火の正面に立って、左手を伸ばす。そっと包んだほほを引き寄せて、そっぽを向く顔をこちらに向かせる。 赤い瞳と、赤い瞳が、視線を合わせた。 「絽火?」 声が、近い。いつもと違う、どこか切羽詰ったような――甘い声が耳に残る。 まるですべてを、知っていると。いう火緒李の瞳に、絽火は動けなかった。 火緒李は、この場に、パラもいなければメタもいないことに、たった一つを、感じ取っていた。 「絽火」 ただ名を呼ぶことが、こんなに愛しいと、誰が教えてくれたのだろう。 いつもの落ち着きが嘘のように、いらいらと火鳥が岩場をうろうろしていた。歩くたびにかつかつと、足音が響く。 時折、羽もたたみかえるのだから、羽音もする。 『落ち着いたらどうだ』 メタは心底呆れていた。 『うるさい今にも主が』 『ぁあいやだね。なまじ無駄にガキの頃からくっついている奴は、今になってまで保護者面か?』 『お主にはわかるまい!』 『俺は主がよければそれでいい』 ばちりと、猫と鳥の間に火花が散った。 どこか、すべてを奪われるような感覚だった。 「……り……火緒李!」 苦しさを緩和するような合間に、叫ぶように訴えていたはずなのに、今になってようやく成功した。 その名を、呼ぶことに。 やはり反応して、動きが止まった。 行為は止まったものの、その目は、まるで消える事を知らないかのように燃えていた。 「な……に」 すると何か重大な事を思い出したかのようにその口が開き、閉じられた。しばらく沈黙する。なにかと思い首をかしげた時、引き寄せられた。 「……好きだ」 「――っ」 突き飛ばそうとして、失敗した。放すまいと抱きしめられている。 「ぱっパラ! パラ! ――ん!?」 助けを求める声が出た瞬間、再び口を塞がれた。 苦しさとは違う何かに、頭がぼうっとしていく。身体中から力がぬけきった頃、塞いでいた唇を離して火緒李が口を開いた。 「また、邪魔させる気か?」 いつ、パラが何を邪魔したのだろう? 不機嫌さの目立つ火緒李の声に、しかし同意できなかった。 「なにを」 「絽火――好きだよ」 また、何かが走り抜けていった。背筋かもしれない。ぞわりと、耳に送り込まれた言葉に震える。 「そ」 「答えを聞いていない」 否定しようとして、口を挟まれた。先回りされて、優位に立たれて。 「こ」 絽火の言葉が、震えていた。 「こ?」 はいともいいえともいえない出だしに、火緒李は首を傾げた。 「このバカ!」 ありったけの力をこめて、というか言葉を途中で止めたので首を傾げたその瞬間に力が抜けたのを見逃さずに、絽火は火緒李を突き飛ばした。 「パラ! パラ!!」 『主!?』 あざ笑う黒猫を黙らそうとするパラと、必要以上に心配する火鳥をからかおうとしていたメタは、岩の上でかなり真剣に争っていた。 まぁはたから見ると猫と鳥がちょっと本気で遊んでいる風にしか見えないが。 「パラ! 行くわよ!」 『主』 不自然なほど力強い声、赤く上気したほほ、しかし、誰もつっこまない。 ずんずんと進む絽火の後ろを、火の粉を舞わしたパラが続く。メタは現状を飲み込めずにいた。 「――絽火! 絽火!! 答えを――」 あわてたように建物から出てきた火緒李が絽火を呼ぶ。走り出して、その姿を追う。メタのいる場所まで来て、腕を伸ばす。 もう少しで届きそうなところまで火緒李が来た時、絽火がふりかえる。 右手の人差し指を口元に当てて、誰にも教えるなというように。わかっているというように、笑う。 でも、まだ、おしえない。 それはとてもとても――魅力的な微笑みで、火緒李は動きを、止めてしまった。 『主』 「なぁに、パラ」 確かに気に喰わないが、しかしあれはあれでかわいそうだと、相反する思いを抱いてしまったパラが絽火に問いかける。 しかし、絽火は答えない。 その代わり、笑っていた。 主が幸せなら、それでいいと、パラも納得した。 あの小僧を認めるのは、当分先でいいと、新たな決意を胸に秘めたままパラは絽火の回りを舞う。 そのパラを見つめる絽火の赤い目が、穏やかに笑う。 「さぁ、帰ろう」 『主』 疲れたように呼ぶも、固まったまま動かない。確かに、あの笑顔は、危険だとメタは思う。 主の、正常な思考を奪うくらいには。 『主!』 どうあっても、あの娘の性格は変わりそうにない。だとすれば、この状況もかわらないのだろう。 何度呼びかけても動きそうにない、あの娘に魅入られたままの、主。 本当は追いかける必要のない追いかけっこは、しばらく続くのだろう。メタはため息をついた。 悪女がいますね〜ここにも。ぁあいやだ、こんな悪女に振り回されたくないですよ〜わたくし。 わたくしの理想? それはもちろん自愛に満ちた……聞いてない!? キャラ出せ!? 皆様〜そろそろ察して下さいヨ。わたくし=占めの一手でございます。 ぇえ? 勝手に決めるな!? これも世の中の摂理ともうしまし……ぁあ! なぜわたくしの口上の途中で退場されるのですか!? 確かにお出口はそちらですがぁーー!! 皆様、ぇえ皆様、よくわかりました。 わたくし永眠します! じゃそうしろ!? あの〜止めていただけないのですか? そ、そうですか、そうなんですか、さっさとしてほしいですか…… 皆様、嫌よ嫌よも好きのうちですよね? ねっ? だ、誰も首を立てにふってくれないのですか!!? わたくし永眠してしまいますよ!? しちゃいますよ!? しますからね!! ううう……全員でいいよーなんて……うう 本当に寝ちゃいますからね! |