ぬくもり |
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「長い一日だったわね」 「ああ、しばらくはこんな毎日が続くだろうな」 今までに無いほど精神的に疲れた。 怒涛のように過ぎた一日がこれから当分続くかと思うと考えるだけで気力が奪われるような気がする。 だが、その生活を選んだのは自分の意思だ。 何かを得ようとすれば多少の犠牲は仕方がないことは今までの経験上わかっていた。 それでもある程度自分の思うようにいっていたものが縛られてしまうことには当分慣れないだろう。 憂鬱な気持ちでため息をついたリールだったがふと気がついたことにそのため息も途中で止まってしまった。 「?カイル?何笑ってるのよ」 リールをジッと見ていたカイルが薄く微笑んでいる。 怪訝そうに見るリールの手を取ると唇をそこに優しく当てた。 「ちょっ、カイルッ!!」 突然の予期せぬ不意打ちに慌てるリールをかわし、あくまで自分のペースを保ちながら言葉を紡ぎだす。 「きれいだ」 「……いきなりなにを!」 「思ったままを言っただけだ。悔しいがあの男の腕は確かだな」 旅をしている時の彼女の彼女らしい姿も美しいものだったが今までで最高に輝いている。 あまりにも綺麗過ぎて言葉がろくに出ない。 いくら美しいドレスだとしてもそれを着る者に似合っていなければその魅力は下がってしまう。 だが、ただ一人リールだけの為に作られたドレスは彼女の本質そのものを現していた。 そして今日この日の姿、白の婚礼衣装は彼の為に装ってくれたもの。 それはカイルにはうれしいことでもあり自分以外の者に見られることは悔しいことでもあった。 故に言葉も態度も素直になれなくてつい真剣な想いさえも違った口調で紡ぎだされてしまう。 「本当は俺がおまえのその姿を最初に見たかった」 「な……なに言ってんの。何人もの人達で着せてもらっているのよ。そんなこと無理に決まって……」 「俺だけが駄目でも俺が手伝うことならできるだろう? 俺達は婚礼の儀を挙げているのだから妃の服を自ら着せようと不思議は…」 「それ以上言ったらここから出て行くわよ」 実際扉に向かって歩き出そうとする大切なひとの手をカイルは逃さぬようそっと引き寄せた。 言葉で伝わらぬのなら言えないのなら直接心で伝えようと。 「暴れるな」 カイルの腕に包まれたリールはそこから逃れようと抗っていたがだんだんと力強い抱擁に力を弱めていった。 「……」 あたたかい。 心臓の刻む音が直接身体に響いてくる。 全てを包み込んでくれる、あたたかなもの。 誰といても孤独を脱ぎきれなかったリールを無条件で抱きしめてくれる。 長く旅をしてきてようやく手に入れることができた。ともに歩いていってくれる存在を。 「おまえは今日から俺のもので俺も今日からおまえのものだ」 全てを縛るのではなく全てを頼るのでもなくともにいることができる唯一の。 先のことなどわからない。それでも今はお互いがお互いの傍にいることができるのだから。 「リール」 呟く声に自分も彼を包みたいとカイルの背にそっと手を伸ばした。 |