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これは昔の話。
今はもう、長となり二人の子供を持つ女とその相手となる男の出会いの話。 もしかしたら、いえ、もしかしなくても本人達は覚えていないお話。――知っているのは、あなた方だけ。 ――邪魔ですよ!! いったいなんなんですあなた!! なぜわたくしを差し置いてあらすじ紹介なの……はっ!! まさかわたくしの出番を奪う気ですか!? ぁあなるほどーそうなのですか〜 言っておきますが!!! ひどいです! これでもこれまで一所懸命に仕事一筋で生きてきたのに!! なのにっ! なぜにわたくしの出番が邪魔されるのですか!! なんですと!? 突っ込んできただけ!? 話の解説は何もしていない? いてもいなくても同じっむしろ出てくるな!? そっそれがわたくしの仕事への評価なのですかーー!? 静かな、時間が流れていた。例え、外で何が起ころうと、ここだけは何者にも邪魔されない時間が流れていた。 異変を自覚するのは、まだこれから。 風はまだ穏やかであると、火谷の術師たちは考えていた。 そんな中、火谷の中心。療養所も兼ねた長の住まいから、赤子の鳴き声が響いている。 そっと、音を立てないように廊下を歩く。先ほど生まれた赤子の声は、もう聞こえない。 ノックをする前に、内側から扉が開かれる。 「“長”!」 一組の夫婦が、室内に入った自分に頭を下げる。子供の父親となる男は自分のために扉を開いて後ろに、母親となる女は寝台に起き上がって、白い布で包まれた子供を抱いていた。 「“長”」 ついで、託されたぬくもり。ふと顔が曇ったのは、一瞬。穏やかに会話する両親に見えない所で眉をひそめた。 今年産まれた二人目の子供は女子で、内にとても強い力を感じた。燃え上がる炎と、赤。 おそらく、相応の修行と知識を与えれば、火術師として一人前になれるであろう力。引いて、この火谷で一か二を争えるほどの力を。 ――大丈夫だろうか。 両親はわかっているのか、いや、その力についてなんら理解がなかった。まるで考えてもいない。確かに、女の術師など例外に等しい――この火谷で、女児が生まれて喜ぶのは両親だけだ。 ただ生きて、産まれてきた事が喜び。健やかに穏やかにやさしく、心強く生きてくれと願われた娘は、絽火と名づけられた。 そして、数年。 「絽火? 絽火?」 白い前掛けが、女性が走るたびに揺れる。火谷の中心を外れた。あまり人のいない場所に家族の家があった。のだが…… 「絽火! どこに行ったの!!?」 焦りをあらわにして、母親が娘を探す。それは、頬に突き刺さる風が、嵐の訪問を告げていたから。 「ただいま! 火世羅(かせら)!」 「あなた! 絽火は!?」 「絽火?」 家に帰ってきた夫が首を傾げる。家に帰れば妻と娘が迎えてくれるはずだったのにと彼は項垂れた。 「絽火がいないの! きっと外よ!」 「外!?」 ひゅーーと風の音がして、半開きの扉が大きな音を立てて突然閉まる。ぽつり、ぽつりと雨が降り出して大地の色を変えていく。 ――嵐が来る。 「待って〜」 帽子が風にさらわれた子供が、必死に走っている。まだ雨が降る。少し前から。 つばの広い白い帽子が、空の上を漂っている。黒い雲から流れる風が、いたずらに揺れて帽子をさらっていく。そして、黒い雲を運んでくる。 冷たい風が、少女に吹き付ける。雨が、降り出した。叩きつける雨と共に、帽子も地面に叩きつけられる。 「まつの〜」 少女は、その地面に落ちた帽子を追った。 どこからか、雷が近づいてくる。それはだんだん大きくなり、黒い雲の中ではじけた。 「ひゃっ!?」 大きな音に、帽子を被った少女が頭を抑える。 「ふりゅ……」 驚いて、泣きそうになる。 激しい雨は、止まない。近づいてくる雷の音。少女は座り込んだまま、動けない。だけど、とにかく雨宿りをしようと走り出した。 霞む視界の中に、一本の木が見えた。それは、火谷でも珍しい大きな木。そこに向かう少女よりも早く、雷が光った。 大きな音に、目を瞑(つむ)り耳を押さえる。そして、鈍く、何かが折れる音。みしみしと言いながら近づいてくる。 「――ぇ?」 少女が顔を上げた時には、もう、大木は少女に向かって倒れてきていた。 「やぁぁぁぁああーーー!!」 ドカーンと、何かが爆発する音が聞こえた。はっと、夫婦が振り返る。それは、さっき落ちた雷よりも大きく、大きい力。 「絽火?」 「あっちだ!」 嵐と雨と雷の中、何かが炎上していた。 この激しい風と雨の中、燃え上がる炎。火の勢いが衰える気配がまるでない。 「絽火!! 絽火!?」 そして、かすかに聞こえる。泣き声。 「路火!」 開けた視界の先に見えたのは、燃え上がる大木と、何かにおびえるように泣く少女。 火は、少女を守らないのか。雨が、少女に降り続ける。 「ぅわぁぁぁあん!」 両親の姿を見つけた少女は走り、母親の腕の中に飛び込む。母親は少女をあやして、しばらくして少女は泣きつかれたのか眠った。 嵐の勢いは増し、炎の勢いは衰えていった。 数日後。 両親に手を引かれた少女がいた。左右を両親に囲まれて、とても嬉しそう。 「とうさん!」 「なんだ」 「かあさん!」 「どうしたの?」 「どこへ行くの?」 「“長”の所よ」 「おさ?」 少女は、首を傾けた。 少し前、強い力を秘めて産まれた少女は両親と共にいる。同じ時期に産まれた男児は術師となるための修行を始めている。だけど、比べてはいけない。少女は、術師ではなく、あの夫婦のもとで生きていくのだから。 そう思って、力のある術師を手放す寂しさを紛らわしていた。だから、数年後、赤い髪を長く伸ばしたあの娘が再び、目の前に現れた時は驚いた。 「久しぶりだね。絽火」 両親に引かれていた手を離された娘は、小さく首を傾げている。まだまだ子供だ。時折遠めに見つけることや、祭事の時に見かけたことはあるが、向こうにしてみればただの大人の人のひとりにしかすぎないだろう。 「さぁ絽火、ご挨拶は」 母親の声に、はっとしたように礼をとる娘。それからその手を術師に引かれ、絽火は部屋を出た。 「“長”」 「どうした」 「あの子は、」 「力が、あるのだろう」 残された両親は沈黙した。それから、心を決めたように頭を下げてくる。 「あの子を、こちらで面倒を見ていただけないでしょうか」 「……よいのか」 「あの子には力があります。それは、うすうすわかっておりました。けれどあの子の力の強さまでは考えられませんでした。使い方を謝るわけには行かない力です」 まさか、あんなに強い力だとは思わなかった。一瞬の事だとしても。 嵐の中、それに負けないくらい強い力で大木を燃やした。 将来火術師となる子供は、早いうちから集められ“長”のもとで修行する。唯一自然と共存しえない火の力の使い方を間違えないためにも。 「よいのか」 「将来を思えば、そうせざるを得ません」 父親は、そう言った。 「あの子が、その力で誰かを傷つける前に」 母親は、そう言って涙を浮かべた。 どうして、あの子にあんなに強い力があるのか。どうして? 平穏は、絽火を見限ったのか? 「絽火には、力が必要だからあるのだろう」 それは、いつ必要になるかわからない。だけど、意味ない力を、人に与える事はしない。ファイアは。 「わかっております」 ファイアの考えは。 「だけど、どうしてあの子だったのでしょう」 「なぜだろうな」 できることなら、平穏に生きてほしかった。 窓の外から、無邪気な声が聞こえる。楽しそうに遊ぶ、少女の声が。 夕暮れが空を赤く染め上げる。長い影が降り立って、大地も赤く染まる。 この日、“長”のもとを訪問した家族は、なかなか“長”の居住地を出てこなかった。 夜になって。ここに住む少年は夕食を終え、お風呂に入り、いつものように庭に出てきた。短く切りそろえられた臙脂色の髪。赤い瞳。大きな目で空を見上げていた。 そこで、聞いた。 えーん えーん 声が、聞こえる。 えーん えーん 聞こえる―― 少年は、肌寒い季節だというのに、半袖に半ズボン。見上げた空には、半月。 えーん えーん まだ、聞こえる。 少年は首を傾げて、走り出した。 ぅわ〜ん! “長”の住居の中庭。殺伐(さつばつ)とした荒野と化している所と、小さな畑がある。 その真ん中に、座り込む影。真新しい桃色の服の袖が濡れるのも構わず、涙を拭っている。 泣き声は止まない。時折しゃくりあげて、声をあげて。 ここまで走ってきたのか、座り込む少女の服の裾は汚れ、髪はからまっている。赤く長い髪が地面に付く事も気が付いていない。 ここまで走ってきても、会いたい両親はいなかった。それが少女の悲しむ理由。 あーん! うわ〜ん! 小さな手は、溢れた涙を拭うのに足りない。だから袖を使う。 閉じていた扉を開けて、外に出た。聞こえてくる声は、もう目の前。 それは少年の知らない子供だった。あんなに髪の長くて、自分と同じくらいの子供。 少年は、首を傾げた。 ――泣き声が、またひどくなった。時折しゃくりあげて、咳き込む。 そっとそっと、少年は少女に近づいた。少女はうずくまって泣いている。少年が近づいてくるのに気が付いていない。 「……?」 少年は、少女の真横に立って覗き込む。 「……ぁの」 声は、泣き声に消された。少女は、顔を上げる様子もない。 少年は手を伸ばして、戻した。何度かそれを繰り返し――少女の頭に触れた。 泣いても泣いてもないても――いつも名を呼んで覗き込んでくる母も、頭を撫でる父も―― 「!?」 突然の事に、がばっと少女が顔を上げる。暖かい手が頭に触れた。それは父――か? 「………」 目が合って、そして少女は逸らした。少年はびくっと身体を緊張させた。 うわーーーん!!! そして、泣き声がひどくなる。だって、知らない少年だったから。 少年はおろおろと首を振った。あたふたとあわて、手があっちへこっちへ行ったりきたりする。 「ぁぁぁぁの!?」 「ふぇ?」 突然の大きな声に、少女がきょとんと顔をあげた。 「………」 言葉を失った少年は、口を開けたまま固まった。なぜかは、誰も知らないまま。 「……ふ……」 じわじわと、少女の目に再び涙が溜まる。 「ぁ」 少年が手を伸ばしたが、それは、届かなかった。 「うわぁああーーー!!」 再び少女が泣き出して、少年は再びあわてた。 「絽火〜? まったく、どこに行ったのか」 昼間、両親に連れてこられ、両親と離れるのを嫌がってひどくぐずった少女。当分、相手をするのが大変だろうと思ってはいたが、すでにいない。 「……はぁ。まったく」 それでも子供が嫌いになれないのは、本人の気性のせいなのか。 そう大きいわけではないが“長”の居住地だ。人を一人探すには、大きい。まして子供。 と思ったら、一際大きな泣き声。 「……あっちか」 わかりやすくていいねと、“長”は呟いた。 「……」 そして、“長”はあんぐりと口を開けた。還火にこんな顔をさせる事が出来たのはあとにも先にもこの二人だけかもしれない。 少年はあわてていた。あたふたと円を描くようにとあるものの回りをうろついている。手は上に下に、顔は右に左に振っている。効果音をつけるなら、おろおろとか、おたおたとか。 その円を描いた中心に、座り込んだ影。の、泣き声がひどい。遠くからでもわかる鮮やかな赤い髪。彼女の髪の色は、とても鮮やかだ。 しばらく、還火は沈黙していた。最初は、あまりの光景に言葉を失ったと言っていい。それから、慣れてきたら傍観していた。 「………どうした、ものかね」 いや、止めろよ。 「まったく、元気だね」 そう言って、ゆっくりと、泣く絽火と周りを回る火緒李の傍に向かう。 「ぶっ!?」 近づいて、途端、前を見ていなかった火緒李が“長”の足にぶつかる。それをひょいと抱えあげる。 「おさー?」 「頑張ったね」 いろいろ。 そう言ってまた、地に下ろす。頭を撫でてやると落ち着いたようだ。“長”に撫でられた頭に自分の手を乗せて、火緒李は絽火に向かって歩き出した“長”の後ろからついて行く。こっそりひっそりと、“長”の影から覗き込む姿が見える。 少女は、いまだ泣いたまま。“長”が近づいても頭を上げようとしない。すっと手を伸ばして、絽火の頭に触れた。ぽんぽんと叩いて、抱き上げる。 「やぁ!」 絽火はばたばたと暴れるが、“長”は捕まえる。 「やぁ! かあさん! とうさん!!」 少女の声が、夜の空に響き渡る。 「絽火」 “長”は暴れる絽火を落とさないように必死だった。 「やだぁ! やだぁ!! 帰るーー!!」 必死に抜け出そうとするのを捕まえて、部屋に送り届ける頃に疲れきった少女は寝入っていた。 「元気だね……」 ぱたんと、少女に与えた部屋を出た“長”はうめいた。心なしか、いや実際に少女が暴れるので衣服は引っ張られ、髪もひっぱられ、ぼろぼろになっている。 「おさ〜?」 そこに、またも“長”の足にぼすっと激突してくる少年。 「ぁあ火緒李。君ももう寝なさい」 「うん」 結局なんだったのか、よくわかっていないはずなのに火緒李はこくりと頷いた。きっと眠かったんだ。 ふかふかのおふとんと、カーテンの隙間から差し込む日差し。ぱちりと目覚めた絽火は、しばらく寝台でごろごろしながらその大きさと広さと柔らかさを楽しんでいた。 のだが…… しばらく遊ぶだけ遊んだので、どうやら母親を呼ぼうと思ったらしい。のそのそと起き上がって、寝台を下りる。 「……かあさん?」 呼んでも、誰もいない。 「いい子にしてるのよ。絽火」「今度、迎えに来るから」――両親は、昨日帰った。絽火を、置いて。 「あなたには力があるから」「その力は、正しく使わなければならないよ」――そんなの、知らない。 かちゃりと、音がして少女ははっと顔を上げる。少しだけ開かれた扉の隙間から覗く気配と目が合う。昨日の、少年。 しばらく、沈黙した。 やっぱり、違う。 やってきたのは父と母じゃない。少女はぺたんと床に座り込んで、涙を浮かべた。大声こそ出さないものの、泣き出す。 くすんくすんと泣き出した少女にあわてて、少年はパタンと扉を閉じてしまった。 少女が、余計に寂しさを募らせたのは、ここだけの話。 少年が“長”のもとに走ろうとして、でも扉を振り返った。少年は、なんとなくだけど、ここに来る子供の意味を知っていた。 昨日、両親に手を引かれて来た子供の姿と、その両親だけが馬車に乗り込む姿を、遠めに見た。たぶん、この少女だったんだろう。 もう一度、扉を開けた。 そうして、少女に近づいた。いつも、“長”が自分をほめてくれる時、慰めてくれる時、さびしい時、そうしてくれるように、手を伸ばした。座り込んだ少女の頭に手を置いてゆっくりと、ぽんぽんと、撫でた―― 「“長”!!」 朝になって、いきなり術師が駆け込んでくる。 「なんだい、いったい」 「それがっ」 部屋に入ってきた男は、これまでの勢いと打って変わって静かになった。まるで、口があることを怨むかのように。 「なんなんだい。こんな朝から」 「――馬車が、落ちました」 さっと、顔色が変わった。 「どういうことだ」 「旅火(りょひ)と火世羅の乗った馬車が、谷に落ちました」 ぐずる絽火をあやしているうちに離れがたくなり、時間を取られた二人は、夜にここを出た―― 肩を落として、廊下を進んでいた。今朝聞いた報せを、誰が、あの少女に告げるのだろう? 答えは、自分。 昨日の今日だというのに、少女に事実を伝えなければならない。気が重い。 母親と、父親しかあの少女の世界にはいない。なのに、その二人を奪ってしまったのだ。ただの事故だ。それは変わらない。だが、少女は、誰を怨むのだろうか。 他に信じる物もいない。この場所で。 ため息をついて、少女の部屋に向かった。 扉は、開いていた。開いている。昨日、きちんと閉じなかっただろうか? ゆっくりと扉を開けて、寝台に顔を向ける。膨らんでいる。まだ眠っているのかと思って、足を進める。 と―― 「……また、ずいぶんと」 大人には小さい寝台の上で、二人の子供が寝ていた。赤い髪、臙脂色の髪。仰向けで、でも顔は向かいあうように眠る二人。 「んにぃ――」 「おやおや」 動き出した火緒李が絽火の毛布を奪う。相変わらず寝相が悪すぎる。追いかけるように絽火がもぞもぞと動く。 そして、ぴたりと動きが止まる。 す―― 寝息が重なって、二つ分。 「………」 穏やかに、還火は笑った。これなら―― 火緒李の頭を撫でて、少女の髪をすいた。今はただ、この時間を少しでも長く取っておきたかった。 現実は、変わらないから。 「とうさん! かあさん!?」 火谷では死者は火によって焼かれ、埋葬される。火の神ファイアの加護を受け、眠りに付くようにと。 物言わない死体を運ぶ男達が向かう先には、積み上げられた組木。火谷では薪は貴重なものだ。 向かう先はそこしかない。運ぶ歩みは止まらない。ただ一人、大人の手を振り切って後を追う少女の声が届いていても。 「まって!! まってぇ!」 うしろから追いついた“長”が絽火を捕まえる。 「まってぇ! どうするの!? 何するの! とうさんとかあさんに何するの!?」 少女は、まだ、死がわからない。 「やめて! やめてぇ!!」 暴れても、暴れても、手はふりほどけない。 静かな空に少女の叫び声が響く。それはやがて、燃え上がる炎にかき消された。 少女は、まだ、死がなんなのかわかりはしなかった。 昔、昔のお話。それは、これでおしまい。 また出ましたね!? わたくしの商売敵!! 邪魔はさせませんよ!? 長く赤い髪がゆれる。身を包むのは黒いローブ。その足は真っ直ぐ、とある部屋に向かう。 「お帰り、絽火」 「ただいま」 「ちゃんと、挨拶はすんだのかい?」 もともと、火谷の術師の着るローブは黒い。しかし、両親を失ってから好んで黒を着るこの娘。今日は、命日。 「そういえば、絽火がここに来てもう長くなるんだねぇ」 少女は、思いがけず、ここに住むことになった。ずっと。それは今も変わらない。あれから、十年と、少し。 「何か言いたいことでもあるの」 口をつぐんでいた絽火が言う。言いたい事があるなら、言えと。 「ぉい絽火!? 勝負だっ!?」 そんな険悪な雰囲気の中に、好んで乗り込んでくるこの男。 「燃えろ!」 言葉と共に、放たれた火の術。 「どわっと!? あぶねぇだろ!?」 「うるっさい! 言い出したのはそっちよ!」 「いきなりすぎるだろ!」 「そうだよね。ずいぶんと図々しくなったよね」 あっけらかんと、言い争う二人の会話に割り込む男。 「――はぁ。いつからこんなに凶暴な子になってしまったのかねぇ。ここに来た頃は可愛かったのに」 わざとらしく、ため息をつく。 「あんたのせいでしょ」 嘆く“長”に絽火はすかさず突っ込んだ。育てたのは自分だろうと。 「そうだけど、ねぇ」 頬に手を当てて、“長”は振り返る。 「そう思わないかい火緒李?」 「へっ!?」 突然、話をふられた男はあわてた。 「ここに来た頃の絽火は可愛かったよね。父と母がいないと泣いて騒いだ事は置いておいても」 「そう……でしたっけ?」 「……覚えてないのかい?」 「あんまり……」 “長”はため息をついた。これでは、あの夜と朝の出来事を覚えているのかどうか、怪しいものだ。 「いい加減にしてよね! 育てたのは“長”なのよ!?」 昔の事などすっかり忘れて、あの頃の面影がほとんどない娘が騒ぐ。 「そうなんだけどねぇ……」 なんだか、残念だね火緒李。 |