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「よいしょ」 考えても考えてもどうしょうもない。だからいっそ、考える事をやめるの。 乗り越えた窓の高さは、何を表していたのか。 だって、私の考えに答えなんてないんだもの。 だから、とりあえず―― 「どちらへ」 「ぅわっ!?」 中庭を突っ切って、角を曲がって、それから裏口に向かう途中。 走って逃げようかと思ったけど、捕まるし。 そろそろと振り返ると、なんとも言えず機嫌の悪そうなシギ。 「外、行くの」 「……そうですか」 止められるかと思った。けど、何も言ってこない。不思議に思って、一歩進ん だらシギも進んだ。もしかして。 「ついてくる気?」 「ほかに、何か?」 そういえば、それが仕事だったんだ。 「大変だよね」 それこそ人事だった。 「出かけた? 朝から?」 「はい」 「そうか。好都合か」 あれから届いた、一枚の書状。エダリディーガから。 「陛下」 「わかっている。あれくらいで騒ぎ立てる国だとも」 再び、炎が燃え上がっている。今度は、止めてみせる。 朝の空気が、とても澄んでいた。潮風に乗って、人の声といい香りが届く。 おなかすいた…… 「ネファ」 「何」 後ろからかかった呟きに答える。その呼び名が、ひどくなつかしい。 「朝食にしませんか?」 それには、賛成だった。 食欲はあると言うか、ありすぎてこちらを驚かせてくれた。 そういえば、まともに食事をするのは久しぶりと言う。 「味は、いかがですか?」 「おいしい」 あの城のほうが、いい食材を使っているはずなのに、こちらで食べるほうがおいしい。あの城の食堂で一人では、落ち着かない。 周りは騒がしく、人々の声が響き渡る。朝らしい活気が、通り抜けていく。 こっちが好き。このむしろ騒がしいくらいの喧騒が。人々の声が。そして何より、自分が“今”を楽しめる事が。 お父様は、好きだ。だけど、あの城で、王女でなければいけないことは、辛い。 だって、私はそうやって守ってもらえるような子じゃなかったのに。……だめだ、また…… 「ネファ?」 「!」 「止まっていますよ」 「い、はい」 驚いて、目を見開いた。再び、さめ始めた食事に手をつける。 気まずくなった、きがする。ぼんやりそんなことを考える。気まずくしたのは、私? 水面下の火種は、徐々に水を蒸発させる。水の底が見えるのは、時間の問題。 「断られたと、」 「はい」 「ずいぶんと、強気に出てきたな」 それも、終わりか。 「存在できるのは我が国のおかげと、思わせる必要があるな」 エダリディーガが内密に武器を集め始めたという報告を受けてからは、緊迫した日々が続いた。 しかし、相変わらず城下に出るミルファネーゼ様はそのことを知らなかった。王が、絶対に悟らせるなときつく言いつけているから。 「何も、知らされない。――いつも」そう、言った呟きを聴いた事がある。だからそれがミルファネーゼ様にとってよいことなのかどうか、私にはわからなかった。 「シギ様!」 「どうした」 もういつものように、ミルファネーゼ様が城下に降りていくところだ。手短にしてほしい。 「ファン軍師がお呼びです」 「何?」 軍師(父上)が? いったい何事だ? こうしている間にもミルファネーゼ様は行ってしまう。別の兵士達に護衛を言いつけて、足早に会議室に向かった。 「早かったな、もっと渋るかと思っていたが」 「そう思いになるなら、こんな時間に呼び出さないで下さい」 父親は息子の返答におやっと眉を上げた。少し前なら、絶対に反論してきそうなことを言ってやったのに。 「ルギ、程々にしておいてくれ」 「はいはい。陛下」 軍師は顔を上座に向けて、シギは席に着いた。 「エダリディーガが本格的に出陣をする――どのルートでくるか」 国王の言葉が低く響く。負けるわけには、いかない。 「ん〜」 城下に降りて、伸びる。それから店を見て回ったり、公園に行ったり。 この前はシギがいるかぎりと言うことで、劇場に入った。やっていたのは古代が舞台で、神に恋をした娘の話だった。途中で、寝たけど。 あの呆れた感じには何も言えなかった。 「……?」 よくわからないが、何かが違う。――ぁあそうだ。いつも迷惑そうな顔をしてやってくる男が、城下に入ったというのにまだ来ない。 「……」 ちらりと振り返ると、場内で見たことのある兵服があわててやってくるのが見えた。 そして笑って、角を曲がった。 知らない道を、走った。どこまで行ったのか自分でもわからなくなるが。それでよかった。 息切れを押さえるために、深呼吸した。ふりかえっても、誰も言ない。細い道。左右には、煉瓦作りの高い民家が立ち並んでいる。いずれも、裏口が見える。正面口は反対。 よく晴れた日のはずなのに、どこか薄暗く、人もいない。 今は、一人だ。――うれしかった。 誰もいない誰もいないと、うかれていた。だって、部屋にいても誰かの視線を感じる。部屋の外にも、窓の外にも誰かいる。 でも、今は誰もいない。一人だ。 裏道は薄暗くて誰もいなかったけど、一人でいることがうれしくて気にならなかった。 角を曲がって、歩き続ける。 ひとしきりうれしさを楽しんで、今度はこっそり歩く。しずかに、足音をたてずに。 また、角を曲がった。ふと、遠くから話し声が聞こえる。 (?) 「――」 聞こえる。 (なんだろ) さらに慎重に足を進める。 どうやら、次の角を曲がった先。 船長と副船長の話を盗み聞きしたときのことを思い出して、気配を消す。 角の端の壁に背中をつけて、進む。 「これで……ジュ国も……」 「――南が」 (二人?) そっと、のぞき込む。 「これで、この国を欺けます」 「口を慎め」 (なに?) “バイアジュ(この)国”が、何? ミルファネーゼの背中に、汗が流れた。動けない。 「おっとそうでした。それでは、また期待してますよ」 「嘘をつけ」 小柄で、茶色いローブに身を包んだ男がひひひと笑いながら去っていく。 (誰!?) 少しだけ、身を乗り出そうと身を屈める。――背後から伸びてきた手に気が付かずに。 「――!?」 口をふさがれて、そのまま身を崩した。 |
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