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その日の夕食はコックの期待と不安と意気込みに反して、誰もテーブルに座っていない。潮風と晴れた空を見上げる甲板での夕食は、どうやら見送りだ。 「………」 見上げた空の星々は、一つずつ暗闇に飲まれていた。 夜は更けてゆく。進みゆく。波と霧と時間がすぎて、人の思いは廻り留まる。 どん どん どんどんドン 〜俺たちゃ海賊キリングル〜 〜狙った獲物は逃がさない〜 〜いつも言葉は同じさ〜 〜もくずになりたくなきゃ〜船止めろ〜 〜積荷の六割〜よこしやがれ!〜 〜でなけりゃ、船を沈めるぞ〜 〜俺たちゃ海賊キリングル〜 〜狙った獲物は逃がさない〜 〜…………〜 〜狙った獲物は逃がさない〜〜 「シギ様」 「どうした」 「それが、この暗さの中、どうやら霧が出てきたようでして」 「夜なのにか」 「はい、この辺海域はあまりよい話は聞きません。天候の変化も早すぎます」 「とにかく、格船にはぐれないように伝えろ。第一はまず港に着くことだ」 光を使って、命令を伝えるため、部下は司令室に移動した。ふと、窓のカーテンを開けると、暗闇であった。かろうじて、船に灯してあるランプの光が見えるくらいである。 「……何事も、なければいいが」 何が何でも御身を国に運ぶ必要があった。 ギィーーイイィィ ギィィィイイイイーーーー 波は穏やかなのだろう。一定のゆれを身体に感じながらネファはベッドに仰向けになっていた。天井につるされたランプが、左右に揺れる。 「おなかすいた」 何か、食べ物をもらおうかと思う、でも。 「………」 ただただ時間がすぎていく。時間だけがすぎて行く。 「あれは、」 「岩石です」 海の道を遮るように露出する岩々。大きな岩は、その本来の大きさも、その向こう側も、全てを闇の中に落としている。少し、早くなった波の流れ、尖った肌をこちらに向ける岩。 「避けろ」 「は!!」 避けるように岩石を超える。海路の幅は狭く、霧は深くなるばかりだ。 周りを取り囲むように進んでいた船は次第に、一列になって進むしかなかった。 だんだんと、隣の船の光が、届かなくなっていた…… シャッ―― 霧り深くなった外を眺めるのが億劫(おっくう)で、窓のカーテンを引っ張った。 海の先に浮かんだ、揺れる旗が現れるのは数秒後。 深い霧は月を隠す。晴れるまで、あと少し―― ドガーーーン!!! 「「!!?」」 「! なんだ!」 「――こ、後方から攻撃が!!」 「なんだと!」 船の隣に船が着くまで、あと少し。 「応戦するよりも、避けるのが先だ! 逃げ切れ!!」 「そ、それが!」 晴れ渡った霧の向こうには、左右を挟む岩石。 ドーーン!! 横から岩石に押し付けらて、逃げられなかった。 「――ちっ!」 舌打ちして、状況を図るべく甲板に向かって走り出した。 今、進路を遮られるのは許されない。 どん! どん! どん!! どんどんどどん♪ だんだんと、太鼓の音が聞こえていた。 〜俺たちゃ海賊キリングル〜 〜狙った獲物は逃がさない〜 〜今日も獲物を見つけてわ〜 〜霧にまぎれて近づいて〜 〜ついでに他の船足止めを〜 〜ほんでもって一番ごーかな〜 〜船に近づき言ってやる〜 〜さぁさ皆様お立会い〜 〜もくずになりたくなきゃ〜船止めろ〜 〜積荷の六割〜よこしやがれ!〜 〜でなけりゃ、船を沈めるぞ〜 〜俺たちゃ海賊キリングル〜 「なんだ、あいつらは」 「海賊らしいですが……」 甲板に上がって、攻撃してきた船を睨むシギ。ついてきた兵士は呆然としていた。 「積荷の六割をよこせと言っていますが……」 「そんな事をして、もし本国に着かなかったらどうしてくれる」 「しかし……」 どう頑張っても、逃げ切れそうに無かった。 イライラとしていた男と、兵士は、気がつかなかった。何にって?気配に。 「リングル船長〜〜!」 親しげに手を振りながら、ネファが甲板から甲板に飛び移った。 「「「「!!!??」」」」 どうやら、驚いたのはあっちも同じだったらしい。 ネファは甲板に仁王立ちしていた船長らしき男に、飛びついた。 「ね、ネファァ!!!?」 動揺の走った海賊船。 しかし、 「お久しぶりです!」 「おお〜〜お、元気か! おいディディド、酒だ酒!!!」 当人と船長は元気だった。 「かんぱーーいぃい」 数分後、隣の船の上では宴会が始まった。中心にはネファと、海賊キリングルの船長だ。 「聞け、今回は俺様のこの前の後の話をしてやる」 「わーーい!」 船長の航海話を、ネファは楽しく聞いていた。 一方、こちらはバイアジュ国の船の甲板。キリキリと、弓の準備が進んでいたが……… 「やめろ、ミルファネーゼ様に当たったらどうする」 シギの言葉にそれは止められた。 「しかし、どういたしますか?」 「………」 見れば、楽しそうに飲み食いを交わす隣の船。――海賊船。 (だが、あの船も……) ネファがいたのも、たぶん。 「様子を見る」 海賊と海賊は仲がいいのだろうか? もう霧が立ち込めていたなごりもなく、月が出ている。岩石は見えなくなり、隣の船の笑い声と光は、夜の空を照らしていた。 |
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