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「どうやら、首はつながったみたいだな」 「ただ今帰りました」 「それは、母親に言ってやれ」 「そうします」 「……」 城の中で側近にと与えられた部屋に、足を運ぶ。王とその娘の部屋には護衛を置いてある。問題はないだろう。どうせ、話をするだけだ。運ばせてあった酒を二つのグラスに注いで、飲み始めた。 「……仕事中では?」 「今日は、もう終わりでいいそうだ。久しぶりの息子と語らうほどの事もないだろうが、一応だそうだ」 「……」 国王の配慮を、はたして、喜ぶべきか? 「?」 注がれた酒に口をつける寸前、ふと、廊下を走る音が聞こえた。騒がしい。 「なんだ?」 「ファン軍師!」 ノックもなしに兵士の一人が入り込む。 「何事だ?」 「そ、それが! エダリディーガの商人が謁見室にっ」 「「お前達は何をやっていた!」」 こんな時だからか、親子の声は重なった。 「―――」 さっと、ミネファをかばうように背中の後ろに隠した。 「?」 「今、何かなさいました?」 「何用だ。今日は取引の日ではないはずだが」 「いえ、それがとてもよい品をご用意させていただきましたので」 「……もう、取引分は支払った」 「そのように冷たい事をおっしゃらずに、我が王からのお心使いです。時に、行方知れずだった御息女がいらっしゃるとか、何か、装飾品にお使いいただけましょう」 「………」 それが狙いか。 「どうですか、こちらの一級品は?」 ずらずらとどこからか他の商人が机を運びこんできたと思えば、加工前の原石が並ばれる。 「………」 しまった。ルギには休暇を出してしまった。もう帰ってしまっただろうか。だろうな、長居をすると仕事が増えるとよく知っているから。 「――それが一級品?」 「は?」 「ミネ……ミルファネーゼ?」 いつの間にか、ミネファは私の影を抜け出していた。 「どちら様でしょうか?」 「これが? ……確かに綺麗ではあるけど。大きすぎるわ。色も一定してない。光の加減と言えばそれまでかもしれないけど。――いくら?」 「……これほど」 睨み付けてくる国王の視線に、商人は焦って金額を書き出した。 「高い。逆に売ろうとした時に半額以下にしかならないじゃない。第一、何が一級品? まぁ、目利きの低い貴族に売りつけるならこれぐらいが妥当ね、無意味に外見を飾り立てるのが目的だもの。光強いほうがよく見えるでしょうけど。あ、これ混じり物ね」 いつの間にかしていた手袋につつまれた手。取った一つを端によけた。 「どれもこれも……もっとまともなものはないわけ? 仮にも一国の王に商売を持ちかける品? こんな物を嬉々として持ってくる商人なんて、始めてみたわ」 「な、なんなのですかこの小娘は?」 「娘だ――ミルファネーゼ?」 「……お初お目にかかります」 とっさの状況にどう対応するか、船長になんパターンも仕込まれた。そして、今や応用だ。アロマ仕込みの挨拶を返す。……曰く、堂々としていろ。 「………」 「何かほしいものはあるか?」 「この中から選べと? 冗談でしょう。いりません」 「だそうだ。お引取りを」 「でしたら、こちらの――」 「まさか、わたくしが、二流品しか持ってこないような方から買い物をするとでも?」 アロマみたいにアロマみたいに……こんな感じ? 上目使いに国王を見れば、少し引きつった顔で答えられた。 「そ……そうだな」 ちょっと! 噛まないでよ! 「な、なんななな……」 「と言うわけだ」 「国王陛下!? 約束を違える気ですか!」 「今回の取引分は支払った」 「な、何をっ」 「あら、まだいらしたの? ――三流商人」 笑顔で、言い切ったミルファネーゼ。 「………」 撃沈した商人は帰った。 周りは沈黙していた。さっきは姿もなかった兵士と侍女たちが部屋の中をうかがっている。 「………」 人の多さに困った。身体は強張り、握り締めていた手が震える。 「ミネファ」 そう、呼ばないでほしい。 「大丈夫か?」 「えっ!? ええっ!」 いきなりなんだかわけもわからないのに…… 「ずいぶんと詳しいのだな」 「え? 御爺様が、物を見る目を養うのと同じくらい、人を見る目を養いなさいって」 それに曲がりなりとも海賊よ。盗品の選別もできなくてどうするの? 「そうか」 ふと、納得したように国王。 「ただ、」 「はぃ?」 何かまずったの? 「いつも、ああなのか?」 “いつも”? 「……って、さっきのです、か?」 「ああ」 「あれはーーあれはアロマの受け売りです」 「アロマ?」 「アロマは、私のっ」 姉のような存在です。……思い出して、悲しくなってきた。 うつむいた私に、国王は黙った。だが、はっきりと言ってきた。 「お前は、私の娘だ」 人違いじゃ、ないですか? ただただしゃくりあげて泣いた。喜びが勝って泣いているのか、悲しみに暮れているのか、傍目にはわからない。 抱きしめて頭をなでてくれるその手は、とても暖かくて。 空白の十八年を、これから埋めよう―――そう、ささやかれた。 「何をしていらっしゃるので」 「木」 「木ですが?」 なんで、抱きついていらっしゃるのですか? 遠巻きに、侍女や兵士が眺めている。不思議そうに。いったい、何事かと。 「不思議」 それは、あなたです。 あのあと、少し長く泣いていた。収まった頃には、目が赤くなっているはずで、顔を上げられなくて。ここ数日間あきるように聞いていた声に似た声がしたと思えば、お部屋に案内しますと言われた。その、途中。くぐった扉の先。 おそらく城の中心といえる場所に、大樹が立っていた。そこには天井もなく光を通す場所。とても高い。緑濃い木の葉が、私をみてざわめいた。壁は白い。私の手の届く範囲に、枝はない。そこだけぽっかりと抜けたように作られた城。――そう、木の周りに城を建てたように。 風が吹きつけ、ゆれる。木の枝が伸びるのに支障のないほどに取られた空間。 ――。――。――。 耳を近づければ、一定の間隔で音が聞こえる。 「………」 おちつく――― 「ミルファネーゼ様!?」 そのまま、緊張が切れて気を失った。大樹が水をつたわせる音が、ひどく、心地よい波の音を思い出させた。 この国の象徴でもある大樹は、静かにミネファを見守っていた。 おかえり、本当に。待っていたんだよ、皆で。 「なんと言うか、陛下には似ていないようですね」 「どういう意味だ」 「凄い方ですね」 「………」 いきなり、商人にケチを付け出したときには焦った。会わせる気はなかったのに。 「どちらにせよ陛下では断りきれなかったでしょうから、問題はないですが」 「………ルギ」 「陛下、どう断る気だったんですか?」 「無理だ」 「そうでしょうね陛下は」 収まった戦火。その代償。 「だから、エダリディーガに借りを作ってしまったのは失敗」 「今更、何を言っても遅い」 「どうにかしないのか?」 「……あの子に」 何かあったら困る。 「………」 親ばかっぷりが見れそうだとルギは思う。 「宴の準備をするべきか?」 「本人に聞いてくださいよ」 “本人”は混沌と眠り続けていた。 目が覚めると、部屋が広すぎてびっくりした。ねぇ、ドコここ?と思えば、着替えと飲み物と食べ物と女性がいっぱい…… 「お前達」 シギが入ってくる。 「シギ様?」 「なんだ」 にっこりと、女性の一人が微笑んだ。 「お着替えがすむまで外に出ろ」 「……」 命令だ命令だ。アロマに使われているカンガスを思い出すなぁ。 「宴?」 出てきた食事を食べながら、聞き返した。 「ええ、陛下があなたの帰還を歓迎するために行なおうと計画しています」 「宴……飲み会……」 そういう思考ですか。 「……」 「お嫌ですか?」 「よくわかんない」 だって、宴って言うからには。 「誰か来るの?」 「それは、もちろん」 「私、そんなにたくさんの人には会いたくない」 会いたい、会いたい。ただ、あの船の上で。……皆に。 「と、仰いましたが」 「………」 「となると、中止ですね」 あっさりといった側近の言葉に。国王は追い討ちをかけられた。 「そうか、嫌なのか」 「歓迎されるのが嫌ではなく、おそらく人の視線が気になるのではないでしょうか?」 的確な指摘だった。 「………」 「大丈夫ですよ陛下、最初はそういうものですって」 たぶん。 「お前、人事だと思っているだろ」 「他に何考えるんだ?」 「………」 親父と国王の会話は、いつ聞いても聞いても頭を覆いたくなる。これが親友なら、俺は友達はいらないと思う。 実際いるのかどうか怪しいだろと、親父につっこまれた。 |
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