平成18年も終わろうとしているこの師走。俺はとうとう子供の時からの夢を追うため、一大決心をした。





 転職した。








 漁師になった。









 漁師として生きることを決意した。













 魚を追って水揚げにかける。そんな漁師に30歳をとうに過ぎたこの歳で転職する事にした。

 きっかけは前回の釣り大会を含めての今年の不漁続き。釣りに行っても釣れない、やたら喉が渇く、手足が痺れる、目がしょぼしょぼする。ここに来て俺は自分の甘さを悟った。今までノホホンと趣味の範囲でやっていた釣りに限界を感じた。

 そして俺は漁師になることを誓った。大間のマグロ漁師のように一本の水揚げにかける。水揚げがなければ年越せねえ、みたいな。 
 ただ、漁師になったからといって簡単に喰っていけるほど、この世界は甘くないのも知っている。なので、とりあえずは副業をしながら、生活していく事にした。副業は今の会社で引き続きサラリーマンをする事にした。

 よって、これからの俺の職業は漁師。正確には兼業漁師ということになる。仕事を聞かれたら堂々と漁師。副業で会社員。コレ。

 平成18年12月17日(日)、そんな漁師としての俺の初めての仕事に行ってきた。漁場は岐阜県瑞浪市にあるマス類の管理釣り場、瑞浪フィッシングパーク。もう季節は12月の半ば過ぎ。スキー場もオープンし始め、周囲からはガンガン初滑りの話題が出る中、今年は未だに漁をしております。

 しかし、そんなことは関係ない。男はまず、仕事。仕事を一生懸命やった後に、余暇でスキー。それが正しい社会人。そして、初仕事の今日、瑞浪フィッシングパークで行なわれるのは、「第6回トラウトキング選手権大会ビキナーズ部門」。略してトラキン。前回参加した管釣り大会と同様のエリアフィッシングの大会。

 しかし、この大会、全国的に有名なトーナメントであり、参加者も130名近い大きな大会。ビキナーズ部門となっているが、エキスパート部門に進めるのはこの大会で7位入賞した選手のみという状況で、とても周囲の選手はビギナーとは思えない出で立ちをしている。まさに全国から専業兼業問わず漁師が集まる鬼大会。しかも主催は、スカパーで四六時中釣り番組を放送している、基地外御用達の「釣りビジョン」という番組で、この日もテレビカメラが入って、後日1時間番組で放送されるらしい。

 俺の華々しいデビューにうってつけダ。

 会場の瑞浪フィッシングパークは名古屋から下道使っても1時間半程度のところだが、受付が6:00〜7:00と早かったため、今回、贅を凝らして中央道などを利用してみた。中央道経由の場合、瑞浪ICから国道19号を北上し、約30分程度のところを、夜明け前の真っ暗な中、方向感覚を失い19号を名古屋方面に爆走してしまい、途中で気が付いて引き返すという無駄な事をしでかした。何とか受付に間に合うように到着。





 この日は大会の為、瑞浪フィッシングパークは終日貸切。さすがに130名も参加者がいると受付も凄まじいことになっている。受付を終えると早速開会式。開会式では挨拶と注意事項の説明の後、番組司会のMCがドラを鳴らして登場。お決まりらしい掛け声を参加者全員で。恥ずかしい腰の動きと共に

 「マスマス、マッスル!!」


 ってさすがに選手たちも、うつむき加減で、声小さめ。当たり前だ。

 今日のルールは参加者を抽選でAB二つのグループに分けて、同番号の選手とペアを組んで、実釣とジャッジを行なう、前回のサンクチュアリでの大会と同様のルール。ただ、今回は更に隣のペアとも組んで、4人一纏めで2人が釣り、残り二人が自分のペアともう一つのペアの選手をお互いにジャッジするダブルジャッジ制。不正防止を徹底させている。俺は、引いた番号がA50番だった為、たまたま端数でペア選手のジャッジのみとなった。

 大会は2つあるポンドをローテーションしながら行なう。今回、俺は先攻として第1ピリオドを第2ポンドから攻めることとなった。





 今回、前回の大会参戦での反省から、いくつかの対策を練ってきていた。一つは防寒対策。ネックウォーマーにグローブという完全装備。これで寒さ対策はバッチリ。次に、タックル。通常管釣りでは、ラインを2.5lb(ポンド)という強度を基準にラインシステムを組む。2.5lbのラインとは2.5lb前後の荷重(1lbは約454g)がかかった時、破断するという意味なのだが、瑞浪フィッシングパークには以前来た時に、25cm前後のアベレージサイズが多い事がわかっていたので、掟破りの1.5lb(日本の釣り糸の表示基準でいうところの0.4号くらい)という細いラインを組んできた。また、トラウトのエリアフィッシングでは、ラインに出る動きでバイト(当たり)を取るため、カラーラインがよく使われるのだが、トーナメントというハイプレッシャーのなかで少しでも有利な展開を期待し、視認性を多少犠牲にしてもバイトの確率を上げるため、クリアなラインを選択した。

 そして、前回大会での一番の反省点、「バラシ」を克服する為に、フッキング(合わせ)からランディング(取り込み)までロッドを立てないで行なう練習を部屋でロッドを握りながら繰り返した。タモリ倶楽部を見つつ。

 そんな満を持しての大会開始。まずはアベレージサイズが小さいことを見越して、下駄スプーンの1.5gのピンクをキャスト。暫く様子を見るが反応が無いため、カラーをブラックにチェンジして数投後、ラインに微妙なバイトが出た。すかさずフッキング。ここからは気をつけていた通りにロッドを立てすぎないように寄せ、ネットイン。アベレージサイズのレインボー。何とか最初の1尾をゲット。

 とりあえず1尾獲ったら、気持も落ち着く。その後反応が鈍くなったため、カラーをマイルドグリーンにチェンジし数投すると、再びバイトがあり、またまたアベレージサイズをゲット。しかし、瑞浪の魚はあまりにも元気が良すぎて跳ね回るため、ネットの中でフックを外すのに手間取る。この魚にはフックを折られてしまった。

 せっかくのヒットルアーのフックを折られ、フックチェンジしている時間も無いため、他のカラーをローテーションさせてみるが、反応が無い。ここまでで大体掴んだパターンは、岸ギリギリでのバイトが多いこと。足元ギリギリまで丁寧にスプーンを泳がせてこないと、そのチャンスを物に出来ない。よって岸から少し離れて、岸際までしっかり泳がせる作戦に出る。また、ここで困った時の必殺兵器、m.m.スプーンの紺にチェンジ。するとすかさずバイトがあり、3尾目をキャッチ。コイツはここ一番で頼りになるルアーだ。しかしコイツの弱点は後が続かないこと。この時もそれ1本のみで、その後は再び沈黙。今度はカラーをブラウンにチェンジして流すとやはり岸際のかけあがりではっきりとした、バイト。しかしフッキングと同時にラインブレイク。貴重な1尾を失ってしまった。

 ここまでで、1ピリオド20分の殆どが過ぎていた。ピリオド終了時にラインにルアーが付いていないとペナルティーを喰らってしまうので、慌てて、適当なルアーを直に結びなおす。このまま釣りをするとまたラインブレイクの可能性があるため、結び終わって残りの1分は釣りをしないで終了を待つ。第1ピリオドは3尾で終了。隣の選手がバカスカ釣っていたので、3尾じゃどうしようもない、と思っていたが、後々確認するとこの時点では結構いい滑り出しだった。がそれと気付かず意気消沈。

 第2ピリオドは同じ場所でペアの選手の番となる。ペアの選手はここで苦戦し、1尾のスコア。それよりも、この大会は女子選手も幾人か参加しており、すぐ隣のペアには若い女子選手も参加していた。ロッドの扱いといい、只者ではない雰囲気があったので注目していると、このピリオド、同じく3尾をゲット。こと釣りに関しては婦女子には絶対負けられねい。

 第3ピリオドは第1ポンドに場所を移して、俺の番。ルアーをローテーションさせながら釣るが、全く反応無し。打つ手無し。あっという間に20分の規定時間が終了。ノーフィッシュで交代。


 第4ピリオドでは、ペアの選手、隣の女子選手共に1尾追加して終了。ここで午前の競技が終了。昼には、エキスパート部門の猛者2人(メディアでも有名)のエキシビションマッチが開かれ、たった今俺が釣っていた場所でガンガン釣っていた。


番組収録中


 午後は再び場所を移動し、今度はペア選手が先攻となり、第5ピリオドがスタート。ペアの選手を見る限り、かなり渋いらしく、バイトすらない模様。何とか1尾ヒットしたが、スレ掛り(口以外にフッキングすること)。これは規定によりスコアとしてカウントされない。隣の女漁師は苦戦しながらも2尾ゲット。なんだかんだいってコンスタントに釣っている。かなりの手練れだ。

 今度は同じ場所で俺の番、第6ピリオドがスタート。ペアの選手には1尾差でリード、女漁師には3尾差をつけられている。ここが踏ん張りどころ。しかし、ペアの選手と同じく、この場所も全く反応が無い。隣の選手は相変わらずバカスカ釣っている。少し観察すると、どうもスプーンをボトム(底)でステイ(止め)させたり、バンプ(跳ね)させたりしてバイトに持ち込んでいる。まるでバスフィッシングでのワームやラバージグのような使い方だ。これには衝撃を受けた。いままでスプーンなど只巻きか、せいぜいリトリーブしながらのアクションだけと思っていたが、釣っている選手は例外なく、この動きを駆使しているようだ。俺は前回同様、現場でそんなことが判っても今更そんな釣りに対応できるわけも無く、リトリーブで釣っていくしかないのだが、それにしても管理釣り場での釣りの奥深さを痛感した。





 しばらく釣ってあまりにも反応が無いため、ここで再び困った時の神頼み、m.m.スプーンの紺にチェンジ。数投後、ヒット!やはり、コイツは頼りになる。しかしその後がやっぱり続かない。ここでこのピリオドも終了。

 次は最後のステージ。ペアの選手から攻める。このピリオド、ペアの選手、女漁師ともに1尾ゲットにて終了。俺の番の最終第8ピリオドを迎える。しかし最後の気力を振り絞ってあらゆる手を尽くすが、結局何の反応も無くノーフィッシュ。あえなく御用、いや終了となった。

 結局俺は4尾の水揚げで、134人中93位タイ。優勝は隣でバカスカ釣っていたA49番の選手で30尾ものスコア。女漁師にも3尾の差をつけられ完敗。それどころか、今回参加していた十数人の女子選手の殆ど全員に負けて、「釣りは男の世界。水揚げが全ての命のやり取りの現場に、女子供が首を突っ込むもんじゃねえ。」とか云っていた自分が恥ずかしい。恥ずかしすぎる。1.5lbのラインで首吊って死にたい。

 しかし、過ぎた結果に拘ってもしょうがない。この年の瀬、スッパリ忘れて、明日待たるるその宝船。来年はd単位の水揚げを目指し、出漁するぜ。

 



それじゃあ最後に、2006年も残りわずかな今日この時、恥ずかしいついでに皆さんご一緒に!

 せ〜の!




















「マスマス、マッスル!!」


 あ〜年越せねえよ。

第6回 トラウトキング選手権大会

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