帝 国 家 畜 団
犬組日誌
犬女優誕生(デビュー)編〜

プロローグ(中編-1)

石牢から連れ出されたさくらは、そのまま屋敷の庭に通された。

牢は、離れに立てられており、屋敷とは目と鼻の先だ。

しかし、もとはさぞかし立派であったと思われる屋敷であるが、庭は全く手入れもされておらず
あちらこちらに雑草が生い茂り、屋根の瓦も一部はげ落ちている。

さくらは、鋭い目で辺りを見回す。

牢から外に出されるのは今回が初めてである。

屋敷の周りはぐるりと高い塀によって囲われており、ここからでは外の様子は全くわからない。

(見張りも立てていないのね、なめられたものだわ。)

仲間を人質に取られている為あえて虜囚の屈辱に耐えているさくらだが、未だ脱出への希望を
捨てたわけではない。

刀一振り、いや手頃な棒切れ一本その手に持てば、北辰一刀流免許皆伝のこの女性剣士を押さえられ
る人物は、ざらにはいないだろう。

(きっとチャンスがくる!皆を助けて、自分も脱出するんだ!)

さくらは自分にそう言い聞かせると、自分を勇気づけるかのように一人頷いた。

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さくらは、三下共に腰繩をひかれつつ屋敷の中にあげられた。
 
昔は武家屋敷に使われていたのだろう、かなりの広さの屋敷だ。

あちらこちらに屯している三下どもの姿が目立つ。見るからに人相の悪い連中がうようよしている。

さくらは、高手小手に縛り上げられ腰繩を引かれつつも、胸を張りまっすぐ前を見つめて堂々と前に
進んでゆく。虜囚の身に甘んじている後ろ暗さなど微塵も感じられない。

「おい!見てみろよっ!帝劇の女優さまのお通りだぜっ!」

昼間から酒を呑み廊下に寝ころんでいるチンピラの一人が、さくらを指さし叫ぶ。

その声を合図に廊下に面した襖が次々と開き、どこにこんなに隠れていたのかと疑われるほどの人数
の三下共が、ぞろぞろと廊下に集まってきた。

彼らは、廊下の両端にずらりと並ぶと、人が一人やっと通れるほどの細い道をさくらの前に開けた。

どの顔もいやらしい笑みを満面に浮かべ、いたいけな美少女が縛り上げられ腰繩を引かれ歩いてくる
姿を、なめるようにみつめている。

さすがのさくらの顔にも、一瞬怯えの色が走る。

さくらの足が止まった。

「ほら、なにをしてるんでぇ!さっさと歩け!」

牢番がさくらの腰繩をぐいぐい引っ張る。

先程は、さくらの気迫に押されがたがた震えていた下衆共であったが、自分が有利な立場になると、
とたんに態度が変わる。全くどうしようもない連中だ。

「ミロク様の部屋はそこの一番奥の部屋だ。おらぁ!きりきり歩けっ!」

三下がどんとさくらの背中を押した。

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さくらは、数十人のギャラリーの中をゆっくりと行進させられている。

意外にも、さくらに触れようとするものはだれ一人いない。

にやついた顔でまるで品定めをするように、ただ、じっとさくらの体を見つめているのだ。

顔を、胸を、足を、尻を、まるで透視でもするように、ただじっと見つめている。

さくらは、全身を這い回る淫らな視線に身震いするような不快感を覚えつつも、きちっと背筋をのばし、
まっすぐ前を見て、凛とした気品を保ちつつ歩く。

三下共のひそひそ話が始まる。

「おい、ほんとにあの女を---にしちまうのかよ」

「本当らしいぜ、ミロク様が---の---は全部俺達にまかせるってよ」

「楽しみだぜ、あいつどんな---で---のかなぁ」

「けけっ、さぞお上品な---で---って----だぜ、---って」

「たまんねえな、おらぁあの---に---を食わせてやるのが楽しみでよぅ」

「----してやろうぜ」

「----させようぜ」

クスクス……、ひそひそひそ……
クスクス……、ひそひそひそ……

しかし、さくらには、男達の話など聞こえていない。

いくら強いとはいっても所詮は「かよわき乙女」である、たった一人で敵地の中、無防備な姿をさらしているのだ。

座り込んで泣き出してしまいたい衝動をやっとの思いで噛み殺し、健気にも平然と振る舞っているのである。

周りに気を配る余裕など今の彼女には無い。

さくらはやっとの思いで廊下の突き当たり、ミロクの部屋の前までたどりついた。

ほっと安堵の一息をつく。

するとその時!

「女優さんよお!早く戻ってきてくれよぉっ!」

「俺達はずっと、ここでまってるぜぇっ!」


さくらの背中に男共がいっせいに声を浴びせ始めた!

「たのしみだぜっ!お前がどんな顔で戻ってくるのかよぉっ!」

「けけけっ!とりすました顔も今のうちだけだぜぇっ!」

「さくらちゃ〜ん!がんばってぇっ!」


さくらは肩越しに振り返り、怯えた目で、大騒ぎしている男達を見つめる。

不安が彼女の胸を締めつける。

(何を言っているの?)

(私はこれからなにをされるの?)

喧騒の中、牢番が部屋の中に声をかける。

「ミロク様、仰せの通り、女囚を一名連行して参りました!」

「おや、はやかったわねぇ、さくらさん、どうぞお入りなさい」

艶っぽい女の声が部屋の中から答える。

牢番は襖を開けるとさくらに中に入るよう顎で促す。

部屋の中はかなりの広さのようだが、漆黒の闇に閉ざされ、中の様子は全くわからない。

それどころか、何やら生臭く暖かい風が部屋の中から吹き出てくる。

どうやら魔道により、部屋の中は異空間と繋がっているらしい。

「いってらっしゃあい!」

三下どもが声を合わせさくらを送りだす。

さくらは、全くこの状況が把握できない。

(な、なに、いったい何が始まるの……)

(怖い、だ……誰か助けて)


ひざががくがく震える。

黒目がちの瞳が潤み、おもわず泣き出しそうになる。

(頑張るのよ!さくら!)

(私は帝国歌劇団花組の隊員なのよ!しっかりしなくちゃ駄目!)


さくらは小柄な体に残された気力を振り絞り、暗黒にむかって一歩を踏み出した。

それが絶望への第一歩とも知らず。

犬組プロローグ中編ー1終了
犬組プロローグ中編ー2に続く(現在執筆中)


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