巴里のとある安アパート。
ここの住人である日本人、焔我王は今回の仕事である小説を鬼の如き速さで書いていた。
と言っても、専属雑誌があるわけではない。ちんけな恋愛小説や怪奇小説を書いてその日暮らしの人生を送っていた。
「『FIN』っと・・・間に合った〜」
我王は原稿用紙を編集部まで持っていき、今回の原稿料をもらった。今回の収入は150フラン、彼の稼ぎの中では多い方だ。
「ただいま〜」
我王が家に帰ると、一人の女性(いや、女の子と言うべきか)が部屋を掃除しているところだった。
身長は150前後、黒髪を腰まで伸ばし、褐色の肌と翡翠色の目をしたかわいい女の子、と言えば分かっていただけるだろう。
「ガオー!物を出したらちゃんと片付けてよネ、さっきマデは足の踏み場も無かっただカラ!!」
「ほほぉ・・・そういうこと言うと、今日のディナーはおあずけだなぁ〜」
「フン、どうせ場末のレストランなんでショ?」
「甘いぜ、生クリームたっぷりのパフェより甘いぜ・・・見よ!!一流レストラン・・・」
「モシカシテ、一流レストランの超高級ディナー食べ放題!?」
「・・・・・・が使っているフランスパンの生地の残りをごみ箱からあさってきた物をくっつけて使っている場末のレストランだ」
壁を貫通し兼ねないほどの勢いで女の子はずっこけた。
「ん?何だ、壁壊したら大家さんに怒られるだろが」
「ガ〜〜〜〜〜〜〜オ〜〜〜〜ウ〜〜〜〜!!!!!!!!!!」
「ぎゃあぁぁぁ!!!!!!!!!!お、落ち着けアケミ!話せば分かる!!」
「分かるかぁぁ!!このカイショ無し!ボンクラ!!」
そう、今激怒している女の子はカルメン=アケミ。ある事情で我王と同居しているのだが、常に貧乏くじを引かされ続けているのだった。
ピンポーン!
「あ、アケミ!タイム、タイム!」
「タイムなし!」
「そうじゃないって、客だ客!」
「コンナ時間に客が来るワケあるか!」
ピンポーン!
「ほら、な?」
「・・・チッ」
「助かった・・・は〜い、どなたですか?」
『闇夜に浮かぶ、白き炎』
「・・・アケミ、今日の夕飯は抜きだ」
「え?」
「・・・・・・・・・・・・依頼人だ、裏のな」
「さて・・・こうなった事情、話してくださいますか?」
「はい・・・俺の名はドミニク、シャノワールって店で働いています・・・」
「それで?」
「はい・・・それで・・・同僚にメルっていう女性がいるんですが・・・」
『メルさん・・・あの・・・』
『あら、ドミニク。どうしたの?』
『今日・・・よかったら・・・食事でも・・・・・・』
『あら・・・嬉しいけど・・・今日は用事があるから・・・ごめんなさい』
『そうっすか・・・』
「・・・ここだけ聞くと、どこにでもある話のようですが?」
「まだ続きがあるんです・・・一週間後、またメルさんを誘ってみたんですが・・・」
『ごめんなさい・・・今日も、ちょっと・・・あさってだったら大丈夫だから・・・』
『分かりました、あさってですね?』
「・・・・・・で?」
「それで・・・」
『メ〜ルさ〜ん♪』
『ドミニク・・・』
『さ、約束ですよ。行きましょ行きましょ♪』
『それが・・・シーに無理やり誘われて・・・』
『えぇ〜!?そんなぁ・・・』
『メル〜、早く行こうよぉ〜』
『え、ええ・・・ごめんなさい・・・』
『ドミニクなんて気にすることないよぅ、早くいこ♪』
『お、おいシー!メルさんは俺が先に約束を・・・』
『だってぇ、メルは親友だもん。あんたなんかは相手にしないってさ』
『な・・・』
『さ、いこメル』
『え、ええ・・・』
「それで、俺は後をつけていったんです・・・だんだん、裏路地に向かっていって・・・あるボロ小屋の中に入っていったんです・・・中をのぞいてみたら・・・」
『おい、本当にこんな上玉をヤってもいいのか?』
『お金を払ったんだったらね♪』
『うっひょ〜、たまんねぇ!お前ら、やっちまえ!』
『おおっ!!』×4
『む、むぐっ!むぐぅっ!!』
『ほらほらぁ、後ろの穴がお留守だよぉ!』
『おぅっ!』
『あははっ!いい気味だねぇ、メル♪』
「・・・俺は一目散に自宅に戻って・・・あなたの噂を思い出したんです・・・・・・。」
「それで?」
「メルさんには、あれから会ってません・・・会って何をしてやれって言うんですか?何が出来るんですか!?」
「・・・そばにいて、彼女の力になってあげることです。彼女の心を救えるのは、あなたしかいないんです」
「・・・・・・・・・」
「報酬は3000フラン、現金でお願いします」
「そ、それじゃあ・・・」
「とりあえず、今日のところはお帰りください」
「は、はい!ありがとうございました!」
「・・・さて、やるか」
我王はコートとサングラスを着用し、町の酒場へと赴いた。
「よぉ、旦那・・・その格好、仕事の依頼かい?」
「ああ、裏のな・・・なぁ、シーって女知ってるか?」
「知ってるも何も、最近でかいツラしてて困ってるんだ。女をエサにそこら辺の野郎から金巻き上げて豪遊してやがるんだ」
「・・・・・・・・・ここには来るのか?」
「ああ、そろそろ来るんじゃないか」
次の瞬間、メイド服を着た少女が酒場に入ってきた。
「あれぇ〜?今日はお兄さん一人ぃ?」
(・・・こいつがシーか?)
我王は視線でマスターに聞いた。
(ああ、間違いない)
「一人じゃ悪いか?」
「あのねぇ・・・とぉってもかわいい女の子と、遊びたくない?」
「・・・別に」
「そんなこと言わないでぇ・・・今なら200フランだよぉ?」
「金が無い。ここの酒だってツケで飲んでるんだ」
「むぅ・・・貧乏人なんですねぇ」
「やかましい、とっとと帰れ」
「ふん、だ!」
「・・・・・・・・・・・・・あの女、始末して哀しむ奴はいるか?」
「さぁ?いるとは思えないがな」
「そうか・・・ツケといてくれ」
「へいへい・・・旦那、早めに払ってくれよ」
「ああ、いずれな・・・」
情報を集め終えた我王は自らのアパートへと戻ってきた。
「アケミ、俺の仕事着は?」
我王に答える代わりに、アケミは黒いマントと全身を包み込むゴムスーツ、そして黒い仮面を手渡した。
我王はそれに着替え、最後に手に真っ白な手袋をつけた。
「じゃ、行ってくる」
我王はマントを翻して屋根の上を走っていった・・・。
巴里の裏路地にあるボロ小屋。
「むぅ〜、今日は収穫無しかぁ〜・・・仕方ない、あたしが遊んであげるねぇ♪」
「いや・・・やめて・・・」
「そんなこと言える立場じゃないでしょ、メル?あたしに借金している身で・・・」
「そ、それは・・・」
「さ、覚悟してねぇ♪」
『待ちな』
「え!?」
シーが後ろを振り返ると、黒ずくめの男が二人を見つめていた。
「だ、誰ぇ!?」
男は無言で白い手袋をつけている手を見せた。
「ま、まさか・・・『ホワイト・ハンド』!?でも、どうして!?」
「ある人に依頼されてね・・・そっちの女性が暴行を受けてると通報が入ったんだ」
「ま、まさか・・・ドミニク!?」
「・・・・・・・さぁ、逃げなさい」
「・・・」
「さぁ」
「は、はい!」
メルは足早にその場を去っていった。
「ま、待てぇ!」
「おっと、そうはさせねぇよ」
「な、何するのぉ!?」
「まだお前の始末が終わってない」
「し、始末・・・?」
「さぁ、ショータイムだ」
この時、シーははっきりと見た。
男の仮面が、刻み付けた笑みを浮かべているのを。
「な、何するの・・・?」
「決まってるだろ・・・こうするんだよ!」
びりっ、びりっ!
「きゃうっ!」
「いい体じゃないか・・・どれ、早速・・・」
「いや・・・やめてぇ・・・」
「・・・そう言って、お前はメルさんを許したか?」
ずぶっ
「いやぁっ!!痛い、痛いぃっ!!」
「くっ、さすがにきついか・・・ん?血・・・お前、処女だったのか」
「は、はいぃ・・・だから、優しくぅ・・・」
「知るか!お前はメルさんを苦しめた!悲しませた!そればかりか彼女を愛する男を絶望させた!!お前はその報いを受けるんだ!」
「いやぁ!だめ、だめぇ!!壊れる、壊れちゃうよぉっ!!!!!」
「痛いか?だがこんなもんじゃすまないぞ!!たっぷりと中に出してやるからな!!」
「いやぁぁぁぁっ!!!!!!」
どくっ、どくっ・・・・・・
「うっ・・・うっ・・・」
「つらいか?苦しいか?だが、こんなもんじゃすまないぞ・・・」
ホワイト・ハンドは指を鳴らすと、それを合図に小屋に隠れていた男達が現れた。
「あ、あんた達・・・!?」
「旦那、本当に犯しても構わないんで?」
「ああ、いいとも・・・存分に犯せ」
「へっへっへ・・・さぁ、覚悟しな」
「いやぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」
ホワイト・ハンドは小屋を後にし、マントを翻して巴里の闇へと消えていった・・・・・・・。
翌朝、小屋の中に女性が裸で倒れているのが発見された。女性は多数の人間に強姦されたらしく、発見された時には精神が破綻していたという。
また、入り口にはこのようなメッセージカードが残されていた。
『この女、白き業火にその身を焼き尽くされし者なり。ゆえ、同情は無用なり―W・H』
それから数日後、我王はシャンゼリゼ通りをぶらついていた。
(ん?あれは・・・)
我王は、メルと一緒に歩いているドミニクを見つけた。
ドミニクは我王に気付いて振り返ったが、我王は静かに首を振った。
ドミニクはわずかに笑顔を見せ、何も無かったように前を向いた。
「どうしたの、ドミニク?」
「いえ、別に・・・」
ドミニクは、さりげなくメルさんの手を握った。
(うまくやりなよ・・・お二人さん)
我王は二人の背中をいつまでも見守っていた・・・。
「ガオウ!どうして3000フランもあった今回の報酬がたった200フランしか無いノ!?」
「い、いや、その・・・飲み屋のツケ払ったらそんだけになっちゃって・・・」
「フザケルナぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」
「あぎゃあああああああああああっ!!!!!!!」